商売をやってきて今だから思えること

年齢を重ねると運動不足を指摘される。暇を見て歩いているのだが、その時間がいろいろ考える時間にはなっている。そういう時、過去自分で立ち上げた小売りの会社で、引っかかっていることを考えることが多い。

小売業では、まず売上を上げていくことだが、それは数店舗やってみて、立ち上げた時の考え方は間違ってなかったと思った。順調に推移した。そこから店舗を拡大していくのだが、20店舗くらいまでは勢いで何とかなったように思う。その次のステップで考えていった1つが、利益率アップへの体質改善についてだった。つまり自主商品を作っていき、利益率を上げていくということだった。今考えると時期尚早だったのかもしれないと思ってきている。

成功している小売業の大手は、自社で商品を作って販売している。そのスタート段階では、当然生産工場とのパイプ等もあるので、まずは取引先と相乗りしたりして取引先を通すことになる。その時の商品原価は個別商品によって違うが、以前の商売だと上代の40%台くらいだったと思う。ロットによっては40%後半になる。企業が大きくなると直接工場との商談になるので諸経費込みで30%前後になるかもしれない。以前やっていた業界では、取引開始時の卸原価は50%台が多く、取引先によっては60%を超えることもあった。商売が大きくなると原価は下げていけるが、それでも利益率を改善するには取引先との商品開発は必須事項だった。

個店仕入れから商売はスタートした。店長は昔から一緒にやってきたメンバーが多く、取引先を設定すれば、数値計画を考えて仕入をしていた。店舗数が増えても商品部は作らず、リーダー的なマネージャーや店長が取引先を開発し、窓口として全店に広げていった。ただあくまでも店長の責任のもと仕入をしていた。店長は、会社の指標に基づいて、売上、利益、在庫の予算を作成し、月度の仕入れ額をもそこから算出していた。「商売は在庫」が常に根底にあり、在庫管理は徹底していた。ピーク期は年間7回転前後の回転率だったと思う。

店舗数が増え、売上が上がってきて、利益率に目を向けるようになった。その流れの中、取引先から、相乗り商品や別注商品の話が増えていった。営業との兼任ではあるが商品部を作り、あくまでも店主導の仕入れではあるが商品部の別注開発商品も品揃えするようになっていった。

結果としては、5年後くらいに利益率はその当時から5%位上昇する。ただ売上はほぼ変わらなかった。店舗数は増えていたので、店舗当たりの売上は落ちた。それが商品のせいなのか、環境のせいなのか検証はできていない。そこからコロナ禍に入った。

昔在籍したビブレも、店仕入れ主導から本部仕入れ商品の増加でMDが崩れていった。そこまでひどくはないが「私作る人」「あなた売る人」の意識がなかったかとも考えてしまう。商品部との力関係が出てきて、ビブレも20店舗くらいからおかしくなっていった。

商品部の開発商品を管理する分類コードを作って、データ化しきちんと検証すべきだったと思う。商品検討会議や売場作りや販売方法を考えるミーティングも増やすべきだったかもしれない。そして、「店の声」をもっと聴くべきだった。問題点や対策を急ぐことなく検証を続け、仕入れ形態はどうあるべきか、組織をどうするべきかをもっと時間をかけて話し合うべきだったと思う。

「人の力」から「組織の力」への転換期だったのかもしれない。

■今日のBGM

地方都市の駅前はどんどん元気がなくなる

高崎で飲み会があったので、久しぶりに高崎の駅前を歩いてみた。約30年位前に高崎で約7年仕事をしていた。その当時の面影は全くない。ずいぶん元気がなくなった印象を受けた。当時はブランドの路面店が軒を並べ、若い客層でにぎわっていた。

当時、サティ、ビブレで店長をしていたので、記憶をたどると、地元のスズラン百貨店、高島屋が約200億強、ビブレが100億、ダイエーや駅ビルを含めると中心部の大型物件だけで600億以上の売上があった。現状は、スズラン百貨店が2022年の数字だと106億(高崎、前橋計)と発表されており、場所を移動して4層に大幅縮小された今の数字は50~60億くらいまで落ちているように見える。お客様はほとんどいなかった。高島屋は2024年度売上が167億と発表されており、固定客をつかんで堅調な数字のようだ。駅とオーパを経てデッキでつながれた効果は大きかったと思う。ビブレはオーパに変わり、食品併設になり食品は堅調そうだが60億くらいの売上のように見えた。ダイエーはなくなっており、駅ビルを含めると駅前西口の売上は半分以下になったのではないだろうか?東口が開発されてヤマダ電機が駅と直結している。それでも路面店のパワーを考えると、30年で駅前の商業としての魅力は半減してそうだ。ただその間に300億超売り上げのイオンモール高崎、太田、200億前後のスマーク伊勢崎というRSCができた。車社会の群馬なので、30代~50代の中心層はそこに大きく流出した結果とも考えられる。その図式で言えば、駅前はヤング層と高齢者層が中心層になり、売り上げ規模が激減している。

ヤング層で言うと、当時のファッションビルと呼ばれた商業施設で地方都市に残っているのは少ない。パルコは地方都市すべて撤退しており政令都市だけ、ファッションビルとは呼べないがマルイも大都市圏のみになっている。最近では柏マルイが撤退との報道もあった。ファッショントレンドを追いかける層は大都市志向が強くなる。そういう意味で地方駅前はティーンズ層が中心になる。ただ、高校生の人口を見ると、2000年に全国で400万人強いたのに対して、2024年には290万人になっている。ということは特に地方の高校生は減ってきているということになる。もうすでに、地方都市ではそのターゲットでは商売にならないのかもしれない。

高齢者層は、高島屋の数字の落ち込みが小さいこともあり、駅前の利便性と安心感でそのまま利用を続けている。駅から離れたスズラン百貨店の売上も吸収して数字に歯止めをかけている。とはいえ、地方の百貨店はどんどん百貨店らしさがなくなり、廃業や閉鎖が相次いでいる。

地方都市の活性化の文献も調べてみたが、さすがにありきたりのことしか書いてない。商業で起爆剤になるようなことはもう考えつかない。群馬県のような車社会では、今後もRSC中心の商業になっていく。今後は、昔駅前に買い物に来てくれた層の満足度を充足させるべく、RSCのグレード感が問われるようになってくる。

高崎など交通の要所は、単純に駅近辺の人口を増やし、新幹線の通勤補助を民間と共同して行うなどしか思い浮かばない。つまり土地整理をして高層マンションを乱立させ、新幹線通勤を補助するようにすれば駅前居住者は増えていき、活性化するとは思う。古い街だからそんなことはできないと思うが・・・

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ちゃんとした会社

この時期は、決算や中間決算の数字や経営計画の資料がでてくる時期で、暇に任せてみている。本当に大きな会社は大変だなとは感じる。当然上場している責任はあるので、きちんとした分析と対策は発表する必要はある。

先日、無印良品の中間決算数値が決算説明会資料等と発表された。全体の数字は大幅な増収増益、各段階の利益も大幅な増収増益で過去最高の数字だったようだ。

今年の1月にこのブログで無印良品のことを書いた。無印良品の企業の意思は感じたが、「在庫」に若干危惧している旨を記した。今回の資料でも国内の棚卸資産は1716億と前同時期より320億増となっている。決算説明資料にも160億過剰と報告されており、今期末の営業利益に関しては「発注抑制と不動向商品の在庫消化」のため、第一四半期予測を据え置かれている。売上は第一四半期より大きく伸びたが、営業利益率の予測は第一四半期予測より-0.3%となっている。通期の見通しは「国内は営業収益を引き上げも、在庫適正化に向けた対応強化により営業利益は据え置き」と第一四半期の予測から若干利益面で修正されている。企業として無印良品は好調に数字を伸ばしているが、「棚卸資産の増加とその適正化」が会社として改善するポイントということと発表されている。

在庫をどのように適正化するかには、いろんな方法はあるが、売上上昇に対して営業利益を据え置くということは、利益を落としても処分することだと想定する。詳細はわからないが、「在庫過多」が企業の問題ということを理解して発表している。好調企業だからこれができるのかもしれないが、資料に記すことによっての覚悟は感じる。ちゃんとした会社だと思う。

イオンも決算発表されている。売上は前年106.1%も営業利益は前年94.8となっている。金融とデベロッパー事業で営業利益の約半分を占めていて、小売業と呼べるのかどうかわからない。課題のGMS事業は売上前年比102.6%も営業利益は前年-115億となっている。ライン別には細かく発表はされていないが、食品とHBCが伸長しており、衣料は前年割れのようだ。これだけ大きいと詳細は全く伝わらない。

気になる会社のビレッジバンガードが、第3四半期決算発表と同時に278百万の減損損失を計上する業績予想修正についての発表があった。そのため今期の営業利益も赤字となり、これで3期連続の赤字になる。おそらく期末はさらに赤字幅が増大すると予想する。商品回転率が年1回転前後では、腐らない商品も腐ってしまう。前回指摘した在庫について簡単に計算してみた。第3四半期まで原価で13億弱在庫を削減させている。利益率のダウンと期末在庫から計算して、商品の値入率を43%(2期前の利益率が41%だったので)と想定すると、売価で約23億円の商品価格を下げている計算になった。全体の在庫の9%に過ぎず、これではまだまだ回転率は改善できてないので、今後も細かく実施していくと思われる。商品は資産なので、商品評価を下げると会計上さらに厳しい数字になっていく。

具体的に「在庫過多」を問題点と発表する無印良品は、つくづく「ちゃんとした会社」だと思う。

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高齢層のノンポリメンズをどう取り込むか?

自分で商売を立ち上げる時、「ノンポリの男性」をターゲットにしようと思った。詳細はいつか書こうと思うが、現状の小売業を見ていると、さらにそこが狙い目になっていると思う。

30年前の話になるが、DCブランド時代にビブレで店長をしていた。ビブレはブランド集積のように見えるが、オリジナルの自主MDの売場を多く展開していて、その直営売り場の収益が館全体の収益を底上げしていた。そこがマルイやパルコなどのデベロッパー的なSCと大きく違うところだった。その中での儲け頭はメンズだった。特にブランドには手が出ないが何か買いたい男性客に人気があった。それは衣料品だけでなく服飾まで広範囲に及んだ。当然DCブランドのパワーによるところは大きいが高層階でも収益は大きかった。その当時はノンポリのティーンズヤングメンズ層で稼いでいた。

30年前の20代はもう60才の手前まで来ている。人口統計を見ると2024年の人口推計では60才以上の男性は19457千人で1993年の10381千人の187.4%と大幅に増えている。ちなみに女性は24346千人で1993年は13747千人で177.1%増となっている。人口合計は98.1%となっているので、30年で60才以上人口がいかに増えたかがわかる。このブログでも何度も書いているが、高齢者(ここでは60才以上)を狙わなければ商売は成功しない。

ここ数年、メンズ目線にあった会社の数字が厳しくなってきている。スーツ、ジーンズ系の企業が顕著な例となっており、メンズ目線だったカジュアルショップもユニセックスからレディスの見え方にうまく変わってきている。広義で言うとアダストリアやパルもその流れになる。

この層を取り組むにはやはり「奥さんが夫に買える」がキーワードになる。「無印良品」や「ユニクロ」は買いやすい。SCに行くと「ユニクロ」には夫婦客も非常に多い。ちなみに「ユニクロ」も始まりはメンズ目線の会社だった。大きな特徴は「アイテム集積」の売場だということ。ファッション型店舗は着装感をとかく打ち出しているが、高齢者は「足らなくなったもの」、「必要なもの」を買いに来る。ある程度の素材感と値頃感があればすぐジャッジできる。売場に関しては、マネキンも顔の表情がなくノンエイジだし、決して年齢を意識させていない。さらに売場の照度は高く、照明も天井埋め込みで清潔感を感じる。

例えば、アダストリアは「グローバルワーク」を幹になるブランドにしていくと発表しているが、やはり今の売場はある程度ファッション感度を持った客層をターゲットにしているように見える。高齢者層を取り組むという観点で見れば、イメージキャラクターのポスターや着装提案を前面に打ち出す売場から変わる必要がある。そして、もう少し売場の照度を上げ、値頃感を感じさせる単品集積をメインに変更したほうが望ましいと感じる。トレンドを打ち出した着装提案は当然必要なことだが、わかりやすく売りたい単品を打ち出していく見え方の比重を上げたほうがいいと思う。

昔、丸井やパルコ、ビブレに買い物に行っていたノンポリの人たちが、高齢者層になっている。その大きな割合を占める客層をもっと理解することが、まちがいなく成功要因になる。

■今日のBGM

ファッション事業の方向性

4月5日の日経新聞に「アダストリア売上高3割増へ」の記事が掲載された。主力のファッション事業に加えて、海外事業の強化、その他異業種への取り組みで事業の多角化を図り、M&Aを加速させマルチカンパニー化を進めるとのことだ。前身の会社「ポイント」から見てきた会社の考え方を振り返ると、少し違和感を覚えた。新しい方向性に変わったような気がした。

「その方向は正解なのかな?」と考えていて、ネットを見ていたら「ファッションスナップ」のサイトに「今を見つめるか 先を見通すか 二分化するアパレル企業の経営スタイル」という記事があった。要約すると、本業で蓄積したシステムや人材を新事業に活用し、事業の多角化を進める「アダストリア」とアパレルと服飾に集中して小売業を完成させようとする「パル」の取り組みについての内容だった。当然どちらが正解とは記されてない。

以前もこのブログで書いたことがあるが、いろんなブランドや会社を持つことは必要だが、やはり幹になる店やブランドを持つことが最も大事なことだと思っている。ワールドやオンワード、イトキンなど過去の大手アパレルには規模の大きなブランドはたくさんあったが、収益の大きな幹となるブランドがなかった。ユニクロや無印良品はその大きな幹を太くすることで企業力が大きくなったと思っている。そして今でもショップの精度を上げる努力をしている。アダストリアは当然他業務と並行して進めるだろうが、「グローバルワーク」を大きな幹にすることが必要ではないかと感じていた。アダストリアからもそのように発表はされている。そして、片やパルの「3コインズ」は完全に大きな柱になっている。

話は逸れるが、ファッションスナップの記事にパルの各ブランドは4週間毎の在庫の評価損を粗利益に反映させる」とあり、「店長はいかに在庫を抑えられたかが人事考課に加味される」とあった。その事実は全く知らなかった。ちなみに2024年のパルの年間在庫回転率は手計算だが5.9回転でアダストリアの4.3回転と比べると高い数値になっている。ずっと「小売業は在庫がポイント」といい続けていたのだが、もっと早くこの手法を細かく知るべきだったと後悔した。

今後のファッション業界は、総需要がどんどん減っていく中、競争激化が予測されている。先行するブランドやショップに追い付くのは、大変な労力が必要になってくる。かといって、得意種目外で戦うには、きらいな種目も勉強しなければならない。そして共通言語で話したほうが、意思も伝わりやすい。

どちらに行くにしても、すでにハードルは高くなっている。どちらに向かっていくのが正解か、ジャッジさえできない。今回のアダストリアの記事で一番強く思ったのは、私が思っていたアダストリアでなくなってしまったということだけかもしれない。

■今日のショット

ニッチマーケットで生き抜くには

この数年、めっきり服を買わなくなった。行動範囲が狭まったこともあるし、出かける頻度も減ってきた。調べると60代以上の人の洋服平均月購入額は約4000円となっている。そして、3~4か月に一度程度の購入頻度が一番多くなっている。さらに高齢者世帯(65才以上)の年平均所得は318.3万円(令和3年)というデータもある。以前も書いたが65才以上の構成比は2024年度で29.1%となっており、過去最高を更新している。ちなみに65才以上構成比は1985年に10%を2005年に20%を超えており、どんどん上昇している。

つまり、少子化と高齢化で完全に中心となる消費人口は大幅に減っているし、今後はさらに減少していく。当然小売業もマーケットはどんどん小さくなっていく。そして、流れ通りに好調企業はデイリーマーケット中心になり、どんどん規模を拡大している。類似企業は整理され、癖がある企業は、淘汰されるか大企業の傘下になってきている。

先日、都内に所要があり、その帰路、池袋東武百貨店立ち寄って「御座候」を買って帰った。今までも出かけた際は、都内では新宿高島屋、立川高島屋、大宮では大宮そごうでよく買って帰っていた。「御座候」は関東でいう大判焼きか、今川焼のことで関西では回転焼きか「御座候」と呼ばれている。赤と白(餡)を5個ずつ買って10個で1100円。それでもいつも数人並んでいる。女房は関東人だが、この類では一番おいしいと言っている。10個で1100円は値上げした価格だが、この値段でも「御座候」の販路はほぼ百貨店となっている。調べてみると北海道から広島、徳島まで(九州は売っていない)で79店舗あり、近畿地方以外では30店舖で、駅ビル百貨店以外では3店舗しかない。関西でも駅ビル百貨店以外は49店舗中7店舗しかない。1個110円の今川焼(回転焼)のほとんどの販路が実演販売での百貨店への出店になっている。そして企業としては、創業75年で2024年売上高は67億円となっている。

今後小さくなっていくマーケットで狙っていくには、ニッチマーケットしかないかなと思っている。「御座候」はそこでうまく生き残っている。

ニッチマーケットで残っていくのは、わかりやすい切り口とコンセプトを変えず背伸びをしないことだと思う。ファッションでもいろんな切り口で過去登場してきた。Tシャツを切り口にしたり、帽子だけのショップだったり、パンツの専門店だったり・・・そこでもいろんな試行錯誤を繰り返している。例えばTシャツ中心の「グラニフ」は一挙に広がったが、取扱商品の幅を広げたり、売場を大型化したりして少し迷走しているように見える。レディスのパンツショップの「ビースリー」は当初、郊外モールにも多く出店していたが、客層を見定めて百貨店志向に変えて安定した立ち位置を確立している。

私自身立ち上げた店も、隙間を狙ったMDだったが、なかなかわかりやすく標準化を整理できなかった。市場を分析し、理論上の売上も充分あったのだが、現実として売場の大きさや立地、区画の形状でイレギュラーが出てきた。多店舗になっていくにつれ、会社の考え方がぼやけてきたようにも感じる。もう少し徹底するべきことを明確にして、守るべきだったと反省している。

小売業の現状の流れに当分変化はないように感じる。ただ、ニッチマーケットは必ずある。そのマーケットの特性を細かく把握して、ビジネスモデルを真剣に考えれば、新しいことは必ずスタートできると思う。

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小売業に優秀な人材は集まるのか?

「人が集まらない」ことを書こうとしたのだが、まず小売業にはどんな人材が必要なのかを考えてみた。自分自身も小売業しかやってこなかったので、個人的には「小売業の優秀な人材」についてしか語れない。

やはり、視野が広い人だと思う。全体を見ている人というのかもしれない。

小売業の基本は現場、つまり店での仕事になる。店の仕事は、接客を中心とした販売が主な仕事と思っているかもしれないが、それは違う。高単価な商品を接客で売る店は当然のことながら最も重要視されるが、そういう類の店は非常に少ない。そういう意味で「ミステリーショッパー」などの評価は全く意味がない。店の仕事は非常に多い。接客とレジ作業はルーチンな業務だし、商品入荷時の検品や登録、品出し、商品の演出、POP作業もある。品出しも簡単な単品フォロー品と、新規商品群で違ってくる。レイアウト変更も伴う。そして、それぞれに守るべきマニュアルがある。例えば演出にはカラーコントロールもあるし、陳列にも最大陳列量などのストアメイキングマニュアルがある。

作業中、やるべきことだけに目を向けている人と、全体を見渡しながら動いている人に分けることができる。全体を見て動いている人は、指示を出せている。例えば演出を真剣にやっていて、レジのお客様に気が付かなかったりすることがよくある。それを指摘して、教育してもなかなか改善できないスタッフもいる。ただ、接客や演出で群を抜くレベルのスタッフもいる。でもそういうレベルのスタッフは当然全体も見えている。

本部での仕事も同じだ。店での仕事を経験して本部勤務になるケースが多いが、店や他セグメントとの協調ができるかがポイントになる。どうしても自分の数字を中心に考えてしまいがちになるが、本部の担当者の数値責任の範囲と、店の数値責任は必ずしも同じではない。本部はあくまでも店の数字を手助けする立場ということを忘れがちになる。あくまでもスタッフ(本部)はライン(店)を助ける位置づけということを理解しているかが大事な要素になる。そういう視野で小売りの本部の仕事はすべきだと思う。

ただ、そういう意識を持つ人材は、だんだん少なくなっている。以前の会社でも、「視野の広い」スタッフに支えられてきた。ただそういう人材も高年齢化して、若手からは数人くらいしか視野が広い人材は出てこなかったように感じる。新卒採用に関しても、定期採用は3年目くらいから始めたが、会社の規模は順調に大きくなっていったにもかかわらず、年々応募者は減り、コロナ前には東京、大阪、九州の説明会には数人しか応募がなかった。

話は逸れるが、新卒者の求人倍率を調べてみると、従業員5000人以上の会社の求人倍率は0.34倍、1000~4999人は1.14倍,300~999人は1.6倍、300人未満は6.5倍だそうだ。求人倍率は1人に何社から求人が来るかということなので、規模が大きくなればなるほどハードルが高くなっている。裏を返せば、大企業の人気は高い。さらに現状の給与、待遇面から大企業志向は強くなっている。これだけパブリシティで給与待遇のことが言われると、そこに目がいってしまう。中小小売業はどうしても構造的に待遇拡大志向には、ついていきにくい。

小売業はなかなか活性化しづらい環境に来ているようだ。特に中小小売業に若く視野が広いスタッフが増えなければ、新しく元気な企業が出てこない。だんだん面白くない業種になってしまう。実は、一番スタートアップしやすい業種なのだが・・・

■今日のBGM

標準化されると成長は止まる

小売専門店を経営していると、SCに店舗を出していこうとする。わざわざ感を持つ店でない限り、それは当然のことになる。施設数の多さから、RSCではやはりイオンモールへの出店が、企業としての拡大策としては不可欠になる。ただ、それが企業の成長を止めているようにも感じる。

以前経営していた会社は多い時には27店舗あったが、売上ベスト5店舗にイオンモール内の店舗は1店もなかった。その5店舗のうち3店舗はもうない。SCがなくなった店が2店舗、あと1店舗は交渉決裂して退店した。そこには、癖があり粗削りだけれど魅力のあるSCが消えていき、イオンモールやららぽーとなど標準化されたSCばかりになってきたという背景があると思う。売上上位だったSCは、「やれるのならどうぞ」的なリーシングで、比較的賃料も高かったが坪数も大きく、売場をいろんな角度から見せることができたように感じる。

特に、国内ではRSCとして最も施設数が多いイオンモールが標準化され魅力がなくなってきている。これだけモールの出店数が増え、当然収益面でのシミュレーションも現実的になってくるとあまり冒険を冒しづらくなってくる。つまり標準化は進む。大体どこでも同じラインナップで店の規模も変わってこない。SCの個性が出なくなってくる。3層あれば、ほぼフロアのテナント構成は大きくぶれない。出店の際も、商談でだいたいどのフロアでどれくらいの大きさを提案されるかわかってくる。想定外の時は他テナントのキャンセルがあった時くらいだった。(そういう時はいい場所が来る。)つまり大崩れはしないが大化けもしない区画の提案が多かった。

従来のRSCとしての広商圏での出店はそれでよかったが、近年は商圏内に複数のRSCがあることも多い。モールとしての差別化がわからない。結局GMSがなくなっていったのと同じ道を歩んでいるように見える。そして、当然テナントリーシングも標準化されてくる。モールの収益は各テナントの数字の合算なので固い数値が必要になる。より効率を上げるため、リスクあるリーシングもしにくくなる。

一方、出店側もデベロッパーの要請に合わせて店が標準化されていく。それによって店が小さくまとまっていく。出店側からの意見や提案が通りにくくなっている背景もある。

後に、出店側として冷静に考えれば、それは正解でなかったように思う。前述したようにイオンモールでの出店で標準化の流れに乗ってしまった感はある。ただ、店も成長していくし、チャレンジしていきたい方向もある。小さく標準化していけば、小さな安定感しかなくなる。店としての次のステップが見えてこない。規模が大きかった店は、賃料もかさむが、そのプラス分の面積で違う主張もできていた。そこがスタッフのモチベーションアップにつながり、売上も上がっていったようにも感じる。

近年、RSCに多く出店していた会社の規模が小さくなっていくケースも多い。特にイオンモールには新鮮なテナントは現れていない。標準型のRSCが増えるだけの状況化の中、無印良品のRSCへの出店が減って、独自路線の出店になってきているのはそういう背景があるからかもしれない。

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くどいようだが「在庫」と「利益」

このブログの2023年9月に「回転率からみる在庫の信憑性」という標題でライトオン、マックハウスの在庫について書いている。2023年11月に「再び在庫と利益」という題名でライトオンのことを記している。さらに2024年2月に「厳しい会社ほど在庫回転率は低い」とタカキューのことを書いている。ライトオン、マックハウスは、指摘した通りその後経営が悪化し、経営母体が変わっている。

小売業は在庫が一番のポイントで、その在庫額で収益は大きく変動する。それが自分自身の信条であり、在庫に一番注意を払っていた。それは在庫金額であり、在庫評価でもある。そのせいか小売業の数字を見る時は在庫にかかわる数字を注視する。

在庫の評価は誰が決めるのか?究極はお客様が決めることになる。その商品を設定価格で満足して買っていただけるなら、その値段が適正価格になる。売れなければ、売れる値段(適正価格)にする必要がある。そしてその商品がどれくらいの期間で売れるのかもポイントになる。生鮮品なら2日くらいでなくす必要がある。そのために賞味期限が近付くと値段を下げて売り切る。衣料品も長くても春夏秋冬の季節はあるので、季節感でいうと3か月くらいでなくすことが望ましい。ただ、支払いのサイトもあるので、弱小企業はその支払いまでに売れないと商品代金を支払えないということになる。衣料品なら、おおよそその期間は2~3か月になる。

今回はビレバンの在庫数値について驚いたので、また机上にあげた。まず前期(2024年度)の期首在庫(原価)は14675(百万)で期末在庫は15890となっている。平均すると15282となる。年度売上(原価)は15118となっているので。年間在庫回転率は売上÷在庫で0.99となる。業種は違うがしまむらの前期の平均在庫は55706で年度売上は416529であり在庫回転率は7.48。アダストリアは平均在庫が25759で年度売上は123242となり年度回転率は4.78となっている。回転率が1回転以下ということは1年間で売れない商品も多くあるということになる。書籍の回転率は低いだろうが、衣料品は最低、春夏物、秋冬物で入れ替わるはずだし、菓子スナック類はもっと早くなくなっていくはずだ。そして何よりも商品が売れて、金に変わらなければ、支払いもできない。

ビレバンの前期決算は934(百万)の赤字になっており、コロナ期2020年5月期以来の赤字決算になっている。ちなみに今期中間期も577(百万)と赤字が継続している。さらに現金に比べて借入金が非常に大きい状況が続いている。

ここで、前期決算期末在庫での回転率計算で仮に1.1回転にしたとして計算してみる。これでも低すぎる回転率ではあるが・・・ 計算すると期末商品を12813(百万)にする必要があり、原価在庫を2147(百万)減らさなければならない。現状の原価率から売価在庫は3525(百万)になり、その金額分をなくす必要がある。つまり35億分の商品を廃棄するのと同様の状況ということになる。それでもやっと年間1.1回転にすぎない。そしてそれを実行すると手計算ではあるが売上総利益率は39%から29.6%になり、総利益額が2331(百万)減る。そしてその金額分の赤字が上乗せされることになる。

商品の値段は第3者が口をはさめないが、これだけ売れない商品が多い状況で今後会社が続くわけがない。ビレバンはこの危機的状況をどう乗り越えるか?思い切った店舗の削減は必要だが、店を閉めるにも大きな金が必要になる。もうそんなに時間はなさそうだが・・・

つくづく「在庫」で「利益」は調整できると感じる。

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仕入れるだけなら誰でもできる

ビレッジバンガード(ビレバン)の数字を見ていて、浮かんだのが標題の言葉になる。「仕入れる人」と「売る人」の気持ちが1つでないと商売はうまくいかない。できれば「仕入れる人」と「売る人」は同じが望ましい。小売業が大きくなると「商品部」と「店」との間に、多かれ少なかれ温度差は必ず出てくる。

ビレバンはマニアックな商品を仕入れて、さらに雑多な売場で、「宝探し感」ある店だ。そして、衣料品や雑貨(食品も)まで広範囲な品ぞろえになっている。商品の幅が広がれば広がるほど、マニアが欲しがる商品が見えてこなくなる。さらに店舗数が増えると、そういう商品の好きなスタッフも減ってきて、店の対応も店舗間の格差が出てくる。

35年以上も前のことになるが、インポートの品揃えショップを立ち上げようと動き回ったことがあった。そういうゾーンには一種のマニアのようなお客様がいる。そのお客様を見て、満足させる品揃えをすると大変なことになる。今はわからないが、その時代は単品では発注はできなかった。ミニマムの発注量が設定された。さらにアイテムのみの拾い買いなら原価は当然高かった。つまりトータルで提案しているブランドで、例えばカットソーだけ仕入れることは難しく、仕入れできても原価は高く発注量も設定される。当然返品はできない。そういう商品は評判が良くても売りづらい。つまり「見せる」だけの商品になることが多い。ただ、その商品があることによって店格が上がり、そういう商品の好きな人たちが集まる。ただ、「見る」だけのお客様は増えても、売上や利益は上がらない。そういう商品を仕入れるのは楽しいし、もてはやされるが、売れなければ商売は続かない。売れる商品の開発が必要になる。

さらに商品にも寿命はある。寿命がなさそうな商品群でもそれはある。食品に賞味期間があるように、衣料、雑貨にもある。商品を入れるだけでは、商売はできない。商品の寿命を考えてなくしていかねばならない。売場に手を加えて売る努力をする。ただ、それだけではよほど人気の商品以外はなくならない。売れ残った商品をどう処理をしていくかも非常に大きなポイントになる。値段を下げて売りつくしていくのが普通だが、値段を下げると当然利益は下がる。

「面白い商品があるから仕入れる」だけなら誰でもできる。商品を販売して現金にして、やっとその金で新しい商品を仕入れることができる。その理屈がわからないと商売はできない。立ち上げたインポートの品揃えショップの評価は高かったが、商売にはならなかった。

ビレバンには、昔やっていた会社で取り扱っていた商品も入っていた。ただシーズンが終わり、なくすべくタイミングでもそのままで、残品的にずっと残っていた。そのまま次のシーズンまであっても、もう売れない。売れ残り品はすぐわかる。

商売は「仕入れること」が一番楽しい。だが、売り切って初めて仕事は終わる。生鮮食品では、なくならなければ、廃棄するしかない。衣料品も雑貨も理屈としては同じで、売り切らないと、次の商品は仕入できない。その理屈を誰かが明確にマネジメントしないと、事業は成り立たない。

■今日のBGM

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