小売業に優秀な人材は集まるのか?

「人が集まらない」ことを書こうとしたのだが、まず小売業にはどんな人材が必要なのかを考えてみた。自分自身も小売業しかやってこなかったので、個人的には「小売業の優秀な人材」についてしか語れない。

やはり、視野が広い人だと思う。全体を見ている人というのかもしれない。

小売業の基本は現場、つまり店での仕事になる。店の仕事は、接客を中心とした販売が主な仕事と思っているかもしれないが、それは違う。高単価な商品を接客で売る店は当然のことながら最も重要視されるが、そういう類の店は非常に少ない。そういう意味で「ミステリーショッパー」などの評価は全く意味がない。店の仕事は非常に多い。接客とレジ作業はルーチンな業務だし、商品入荷時の検品や登録、品出し、商品の演出、POP作業もある。品出しも簡単な単品フォロー品と、新規商品群で違ってくる。レイアウト変更も伴う。そして、それぞれに守るべきマニュアルがある。例えば演出にはカラーコントロールもあるし、陳列にも最大陳列量などのストアメイキングマニュアルがある。

作業中、やるべきことだけに目を向けている人と、全体を見渡しながら動いている人に分けることができる。全体を見て動いている人は、指示を出せている。例えば演出を真剣にやっていて、レジのお客様に気が付かなかったりすることがよくある。それを指摘して、教育してもなかなか改善できないスタッフもいる。ただ、接客や演出で群を抜くレベルのスタッフもいる。でもそういうレベルのスタッフは当然全体も見えている。

本部での仕事も同じだ。店での仕事を経験して本部勤務になるケースが多いが、店や他セグメントとの協調ができるかがポイントになる。どうしても自分の数字を中心に考えてしまいがちになるが、本部の担当者の数値責任の範囲と、店の数値責任は必ずしも同じではない。本部はあくまでも店の数字を手助けする立場ということを忘れがちになる。あくまでもスタッフ(本部)はライン(店)を助ける位置づけということを理解しているかが大事な要素になる。そういう視野で小売りの本部の仕事はすべきだと思う。

ただ、そういう意識を持つ人材は、だんだん少なくなっている。以前の会社でも、「視野の広い」スタッフに支えられてきた。ただそういう人材も高年齢化して、若手からは数人くらいしか視野が広い人材は出てこなかったように感じる。新卒採用に関しても、定期採用は3年目くらいから始めたが、会社の規模は順調に大きくなっていったにもかかわらず、年々応募者は減り、コロナ前には東京、大阪、九州の説明会には数人しか応募がなかった。

話は逸れるが、新卒者の求人倍率を調べてみると、従業員5000人以上の会社の求人倍率は0.34倍、1000~4999人は1.14倍,300~999人は1.6倍、300人未満は6.5倍だそうだ。求人倍率は1人に何社から求人が来るかということなので、規模が大きくなればなるほどハードルが高くなっている。裏を返せば、大企業の人気は高い。さらに現状の給与、待遇面から大企業志向は強くなっている。これだけパブリシティで給与待遇のことが言われると、そこに目がいってしまう。中小小売業はどうしても構造的に待遇拡大志向には、ついていきにくい。

小売業はなかなか活性化しづらい環境に来ているようだ。特に中小小売業に若く視野が広いスタッフが増えなければ、新しく元気な企業が出てこない。だんだん面白くない業種になってしまう。実は、一番スタートアップしやすい業種なのだが・・・

■今日のBGM

標準化されると成長は止まる

小売専門店を経営していると、SCに店舗を出していこうとする。わざわざ感を持つ店でない限り、それは当然のことになる。施設数の多さから、RSCではやはりイオンモールへの出店が、企業としての拡大策としては不可欠になる。ただ、それが企業の成長を止めているようにも感じる。

以前経営していた会社は多い時には27店舗あったが、売上ベスト5店舗にイオンモール内の店舗は1店もなかった。その5店舗のうち3店舗はもうない。SCがなくなった店が2店舗、あと1店舗は交渉決裂して退店した。そこには、癖があり粗削りだけれど魅力のあるSCが消えていき、イオンモールやららぽーとなど標準化されたSCばかりになってきたという背景があると思う。売上上位だったSCは、「やれるのならどうぞ」的なリーシングで、比較的賃料も高かったが坪数も大きく、売場をいろんな角度から見せることができたように感じる。

特に、国内ではRSCとして最も施設数が多いイオンモールが標準化され魅力がなくなってきている。これだけモールの出店数が増え、当然収益面でのシミュレーションも現実的になってくるとあまり冒険を冒しづらくなってくる。つまり標準化は進む。大体どこでも同じラインナップで店の規模も変わってこない。SCの個性が出なくなってくる。3層あれば、ほぼフロアのテナント構成は大きくぶれない。出店の際も、商談でだいたいどのフロアでどれくらいの大きさを提案されるかわかってくる。想定外の時は他テナントのキャンセルがあった時くらいだった。(そういう時はいい場所が来る。)つまり大崩れはしないが大化けもしない区画の提案が多かった。

従来のRSCとしての広商圏での出店はそれでよかったが、近年は商圏内に複数のRSCがあることも多い。モールとしての差別化がわからない。結局GMSがなくなっていったのと同じ道を歩んでいるように見える。そして、当然テナントリーシングも標準化されてくる。モールの収益は各テナントの数字の合算なので固い数値が必要になる。より効率を上げるため、リスクあるリーシングもしにくくなる。

一方、出店側もデベロッパーの要請に合わせて店が標準化されていく。それによって店が小さくまとまっていく。出店側からの意見や提案が通りにくくなっている背景もある。

後に、出店側として冷静に考えれば、それは正解でなかったように思う。前述したようにイオンモールでの出店で標準化の流れに乗ってしまった感はある。ただ、店も成長していくし、チャレンジしていきたい方向もある。小さく標準化していけば、小さな安定感しかなくなる。店としての次のステップが見えてこない。規模が大きかった店は、賃料もかさむが、そのプラス分の面積で違う主張もできていた。そこがスタッフのモチベーションアップにつながり、売上も上がっていったようにも感じる。

近年、RSCに多く出店していた会社の規模が小さくなっていくケースも多い。特にイオンモールには新鮮なテナントは現れていない。標準型のRSCが増えるだけの状況化の中、無印良品のRSCへの出店が減って、独自路線の出店になってきているのはそういう背景があるからかもしれない。

■今日のBGM

くどいようだが「在庫」と「利益」

このブログの2023年9月に「回転率からみる在庫の信憑性」という標題でライトオン、マックハウスの在庫について書いている。2023年11月に「再び在庫と利益」という題名でライトオンのことを記している。さらに2024年2月に「厳しい会社ほど在庫回転率は低い」とタカキューのことを書いている。ライトオン、マックハウスは、指摘した通りその後経営が悪化し、経営母体が変わっている。

小売業は在庫が一番のポイントで、その在庫額で収益は大きく変動する。それが自分自身の信条であり、在庫に一番注意を払っていた。それは在庫金額であり、在庫評価でもある。そのせいか小売業の数字を見る時は在庫にかかわる数字を注視する。

在庫の評価は誰が決めるのか?究極はお客様が決めることになる。その商品を設定価格で満足して買っていただけるなら、その値段が適正価格になる。売れなければ、売れる値段(適正価格)にする必要がある。そしてその商品がどれくらいの期間で売れるのかもポイントになる。生鮮品なら2日くらいでなくす必要がある。そのために賞味期限が近付くと値段を下げて売り切る。衣料品も長くても春夏秋冬の季節はあるので、季節感でいうと3か月くらいでなくすことが望ましい。ただ、支払いのサイトもあるので、弱小企業はその支払いまでに売れないと商品代金を支払えないということになる。衣料品なら、おおよそその期間は2~3か月になる。

今回はビレバンの在庫数値について驚いたので、また机上にあげた。まず前期(2024年度)の期首在庫(原価)は14675(百万)で期末在庫は15890となっている。平均すると15282となる。年度売上(原価)は15118となっているので。年間在庫回転率は売上÷在庫で0.99となる。業種は違うがしまむらの前期の平均在庫は55706で年度売上は416529であり在庫回転率は7.48。アダストリアは平均在庫が25759で年度売上は123242となり年度回転率は4.78となっている。回転率が1回転以下ということは1年間で売れない商品も多くあるということになる。書籍の回転率は低いだろうが、衣料品は最低、春夏物、秋冬物で入れ替わるはずだし、菓子スナック類はもっと早くなくなっていくはずだ。そして何よりも商品が売れて、金に変わらなければ、支払いもできない。

ビレバンの前期決算は934(百万)の赤字になっており、コロナ期2020年5月期以来の赤字決算になっている。ちなみに今期中間期も577(百万)と赤字が継続している。さらに現金に比べて借入金が非常に大きい状況が続いている。

ここで、前期決算期末在庫での回転率計算で仮に1.1回転にしたとして計算してみる。これでも低すぎる回転率ではあるが・・・ 計算すると期末商品を12813(百万)にする必要があり、原価在庫を2147(百万)減らさなければならない。現状の原価率から売価在庫は3525(百万)になり、その金額分をなくす必要がある。つまり35億分の商品を廃棄するのと同様の状況ということになる。それでもやっと年間1.1回転にすぎない。そしてそれを実行すると手計算ではあるが売上総利益率は39%から29.6%になり、総利益額が2331(百万)減る。そしてその金額分の赤字が上乗せされることになる。

商品の値段は第3者が口をはさめないが、これだけ売れない商品が多い状況で今後会社が続くわけがない。ビレバンはこの危機的状況をどう乗り越えるか?思い切った店舗の削減は必要だが、店を閉めるにも大きな金が必要になる。もうそんなに時間はなさそうだが・・・

つくづく「在庫」で「利益」は調整できると感じる。

■今日のBGM

仕入れるだけなら誰でもできる

ビレッジバンガード(ビレバン)の数字を見ていて、浮かんだのが標題の言葉になる。「仕入れる人」と「売る人」の気持ちが1つでないと商売はうまくいかない。できれば「仕入れる人」と「売る人」は同じが望ましい。小売業が大きくなると「商品部」と「店」との間に、多かれ少なかれ温度差は必ず出てくる。

ビレバンはマニアックな商品を仕入れて、さらに雑多な売場で、「宝探し感」ある店だ。そして、衣料品や雑貨(食品も)まで広範囲な品ぞろえになっている。商品の幅が広がれば広がるほど、マニアが欲しがる商品が見えてこなくなる。さらに店舗数が増えると、そういう商品の好きなスタッフも減ってきて、店の対応も店舗間の格差が出てくる。

35年以上も前のことになるが、インポートの品揃えショップを立ち上げようと動き回ったことがあった。そういうゾーンには一種のマニアのようなお客様がいる。そのお客様を見て、満足させる品揃えをすると大変なことになる。今はわからないが、その時代は単品では発注はできなかった。ミニマムの発注量が設定された。さらにアイテムのみの拾い買いなら原価は当然高かった。つまりトータルで提案しているブランドで、例えばカットソーだけ仕入れることは難しく、仕入れできても原価は高く発注量も設定される。当然返品はできない。そういう商品は評判が良くても売りづらい。つまり「見せる」だけの商品になることが多い。ただ、その商品があることによって店格が上がり、そういう商品の好きな人たちが集まる。ただ、「見る」だけのお客様は増えても、売上や利益は上がらない。そういう商品を仕入れるのは楽しいし、もてはやされるが、売れなければ商売は続かない。売れる商品の開発が必要になる。

さらに商品にも寿命はある。寿命がなさそうな商品群でもそれはある。食品に賞味期間があるように、衣料、雑貨にもある。商品を入れるだけでは、商売はできない。商品の寿命を考えてなくしていかねばならない。売場に手を加えて売る努力をする。ただ、それだけではよほど人気の商品以外はなくならない。売れ残った商品をどう処理をしていくかも非常に大きなポイントになる。値段を下げて売りつくしていくのが普通だが、値段を下げると当然利益は下がる。

「面白い商品があるから仕入れる」だけなら誰でもできる。商品を販売して現金にして、やっとその金で新しい商品を仕入れることができる。その理屈がわからないと商売はできない。立ち上げたインポートの品揃えショップの評価は高かったが、商売にはならなかった。

ビレバンには、昔やっていた会社で取り扱っていた商品も入っていた。ただシーズンが終わり、なくすべくタイミングでもそのままで、残品的にずっと残っていた。そのまま次のシーズンまであっても、もう売れない。売れ残り品はすぐわかる。

商売は「仕入れること」が一番楽しい。だが、売り切って初めて仕事は終わる。生鮮食品では、なくならなければ、廃棄するしかない。衣料品も雑貨も理屈としては同じで、売り切らないと、次の商品は仕入できない。その理屈を誰かが明確にマネジメントしないと、事業は成り立たない。

■今日のBGM

ちょっと心配な会社

コロナ前と前期の数字を簡単にチェックしていて、いくつか心配な会社がある。当然、あくまでも個人的な数字からの見方であって、細かく売場に行って確認したわけではない。

このブログでは頻繁に上げているが、小売業は在庫をコントロールできているかが商売の根幹だと思っている。商売が回り始めると、金を集める手法はたくさんできるが、もともとは「仕入れて売る」が基本になる。「キャッシュオンデリバリー」の取引先もまれにはあるが、一般的には「末締め翌末払い」が多い。つまり月初に入れて、翌月中に売れてしまえばキャッシュインし支払いができるということになる。その仕入原価と売上の差が利益になる。商品がうまく回転しないと商売は厳しくなる。そこを一番注目する。

在庫も含めて、厳しいと思うのは「ビレッジバンガード(ビレバン)」。専門分野ではないので、店はよく見ていたが営業数値にはさほど興味はなかった。コロナ前比で売上は73.2%、店舗数も89.0%と減少しており、そうなれば店舗当たりの売上は82.3%まで落ち込んでいる。サブカルっぽい商品群でザワザワ感が人気だったのだが、まずターゲット客層自体が減っている。マニアックな客層に加えて、2000年に4400万人以上いた30才までの人口が3200万人まで減っている現実がある。ファッションゾーンでいえば、カットソーや雑貨なども、わざわざビレバンで買わなくてもいい商品品揃えになってしまっている。客層を上げた「ニュースタイル」も売り方と客層があっていないと思っていた。そして何より在庫回転率は2024年期末数字で計算すると年0.95回転しかしていない。コロナ前も1.32回転と低いが、年間1回転しない会社は絶対存続できない。つまり1年間でやっと売れる商品がほとんどということになる。当然売場は変わらないし、売場を変えたら、売れない商品はさらに売れない場所に置かれる。商売の理屈からいうと、金が回ると思えない。現金商売の小売業だが、それでも当座比率も50.8%と低い。2024年の決算では経常損失が934百万となっている。間違いなく、商品の整理が必要で、それを実施するとさらに損失は拡大する。商品に目が行き過ぎて商売をしていない。つまり商品を売って金に換え、その金で仕入れるという基本ができてない。再度計算してみたが、売上は平均1店舗月670万になり、在庫は平均して8470万持っていることになる。この数字を改善させるのは至難の業かもしれない。

イオングループの「ジーフット」も厳しい状況は続いている。債務超過に陥っていたが、昨年末にイオンから第3者割当増資を65億受け債務超過は解消されそうだ。ただ靴業界はサイズが多く、自力再生ができなかったライトオンやマックハウスのジーンズ業界と同様の在庫課題を持っている。ジーフットも売上はコロナ前比68.0%ですでに赤字に転落している。期末回転率は前期年間1.5回転となっている。靴業界は在庫が課題にはなるが、カジュアルの流れが強い現状、「ABCマート」1強の流れをかえるのも至難の業になる。イオンG  としては、上場企業「タカキュー」を切り離したのと同様の流れになるかもしれない。ただイオンスタイルというGMSの売場の一角を担う会社だけに、手放すことはGMS解体につながってしまうという見方もある。ここ数年の実績で結論を出すかもしれない。

決算数字の動きで見ると、他にも厳しい会社はある。ファッショントレンドの変化で厳しくなっていくだろう会社もある。ただ、商品回転率の面で上記2社は特に厳しさを感じる。現状の在庫を減らす努力をすればするほど、利益率は悪化していくだろうし、在庫内容を修正しながら改善していくには先が長すぎる。ここにトレンドの変化が加わると、すぐ動ける状況ではないので、立ち行かなくなるかもしれない。

■今日のショット(近くの公園の河津桜)

コロナ以降どうすれば企業は伸びたのか?

前回、12月、1月の既存前年比をコロナ前から掛け合わすことで、小売各企業の動向と取り巻く環境を簡単に書いた。小売各企業のコロナ以降の数字はこれだけで書けないと思い、簡単にコロナ前と近年の決算数値を拾ってみた。(コロナ期は2020年3月以降からと設定)尚、簡単に計算したので計算ミスはご容赦願いたい。

まず売上がコロナ前を上回っている企業は、調査した企業25社中12企業と約半数。(尚、対象企業は小売販売をしている企業のみで、卸商売もある大手アパレル、FC中心の企業は除いている)大きく伸びているのが、無印良品(コロナ前比151.1%)ニトリ(147.3)パルG(145.7)ユニクロ(135.5)ABCマート(135.4)が上位5社。まず店舗数の拡大が目立つ。

店舗数コロナ前比は無印良品127.2%、ニトリ144.6、ABCマート123.6でユニクロは海外店舗が増えている。パルGは102.5%だがおそらく「スリーコインズ」は大幅に増えている。逆に店舗数を減らした企業は当然のように売上を落としている。タカキューは店舗数39.7%で売上は40.1%、マックハウス、ライトオンなど再生に向けた企業はすべて大きく店舗数を減らしている。さらにジーフット店舗数(72.0)コックス店舗数(77.8)とイオンGの企業も縮小傾向は続いている。当然のことながら、店舗を減らすことで売上の増加は見られない。やはり、コロナで弱った企業の店舗撤退をチャンスと捉えて、店舗を拡大、増加させた企業が大きく伸長している。

売上に関して、その他の企業では西松屋(128.2)アダストリア(123.9)しまむら(116.3)ハニーズ(113.8)などの企業の数字が伸長している。ただ店舗数のコロナ前比で西松屋(110.5)、しまむら(101.7)、ハニーズ(101.3)と大きくは増加しておらず、比較的買いやすい値頃感ある店は店舗売上が上がっているのがわかる。逆にある程度のプライスレンジで戦う企業は厳しい数字でユナイテッドアローズ(84.5)バロック(84.9)TSI(94.2)と回復途上の段階にある。「値段への取り組み」は大きなポイントになっている。

営業利益に関しては、西松屋(331.1)、しまむら(217.3)、パル(205.2)、ユニクロ(194.4)、無印(154.3)と売り上げ好調各社が上位を占める。逆に上述したベターゾーンに向かう各社の回復が遅く、バロック(41.3)UA(60.9)、TSI(76.9)となっている。UAは近年回復が著しいが、まだまだコロナの壁を乗り越えられていない。

数字を見る限り、前回書いたように、客層の年齢が上がったことで「値頃」「必需」を切り口にしている企業が伸長していることがよくわかった。

コロナをはさんで会社の状況が変わった会社も多く、簡単に売上、利益を中心に決算数字を拾っただけなのだが、疑問を感じる企業もあった。気になる企業もあったので、もう少し詳細に見てみようと思う。

■今日のBGM

もう誰も小売業に参入しないのではないか?

小売各社が発表する、月次売上のデータがある。各社2月の数字を見ていて、ふと思い立って、以前コロナ前からの数字を毎年拾っていた月があり、そこに今年の数字を記入してみた。その対象月は12月と1月だった。既存店前年比のみを記入していたのだが、その数字を掛け合わせてみた。これで既存店の動向が明確にわかるわけではない。期中にできた店もあるだろうし、なくなった店もある。ずっとその期間、店がある割合はわからないが、指標にはなると思う。

12月はコロナ前2019年の数字から順に2024年12月の前年比までを掛け合わせてみる。2019年比ベスト5はABCマート145.4%、しまむら125.8、西松屋119.4、アオキ116.3、ハニーズ110.4となる。 ワースト5はライトオン49.0%、マックハウス73.5、ジーフット75.8、パレモ75.2、ビレバン77.0の順となる。 ちなみにユニクロは101.9、アダアストリアは98.7、ユナイテッドアローズ(UA)87.9となっている。尚、無印良品はコロナ期間の数字は発表されておらず、数字はつかめない。

1月はコロナ前2020年の数字から順に2025年1月までの数字までを掛け合わせる。ベスト5はABCマート120.6%、西松屋115.6、しまむら114.6、ハニーズ110.9、ユニクロ105.6 。 ワースト5はライトオン62.8%、ジーフット75.6、タカキュー76.3、TSI78.7、UA80.8の順となる。 ちなみにアダストリアは98.2、ニトリは101.4となっている。

繰り返しになるが、これが正確な流れではない、あくまでも個人的な指標ではある。

この数字を眺めると、必需商品、さらに値頃感がある企業はコロナ以降も安定的な数字になっており、あまり大きな影響はなかったように見える。逆にファッション感が高い会社はコロナ時の落ち込みが大きく(12.1月はバーゲン期にも重なる)、回復も遅い。さらにコロナで大きく数字を落とした企業は、この数年で会社組織も大きく変わっている。つくづくコロナ5年間の空白期間の影響は大きく、数字は最近やっと回復してきた感が強い。

それに加えて、以前このブログでも数字を出したが、購買客層の変化も大きい。日本の総人口は2000年と比べると約98%と微減となっている。一番大きな変化は65才以上の比率で2000年は総人口比17.4%だったのが、2023年は29.1%まで上昇している。65才以上人口は実に164.4%まで増えている。50才以上にすると人口構成比は38.6%から49.5%と広がっている。そして最も購買力がある15~49才は人口が81.7%まで減っている。つまり、小売りの販売環境も世間の流れと同様、高齢化に対応せざるを得なくなっている。その流れが数字の流れになっていて、「値頃感」、「必需品」という言葉がキーワードになっている。

商売を始める動機として、当然「儲けること」を念頭に置く。その上で「何を」「誰に」売るかを明確にする。スタートアップするのに「高い年代層」に「値頃品」を売るという発想は、あまり念頭に置かない。たとえ、それを念頭に置いたとしても、販売経路が限られてくる。郊外モールや、駅ビルからは誘致されにくい。「トレンド品」を「高感度な客層」に売ることはかっこいいし立ち上げてみたいが、現状の流れでは成功の確率は当然低い。

小売業への新規参入は、ますます難しくなってきている。

■今日のBGM

イオンモールの完全子会社化

先月末、イオンはイオンモールの完全子会社化を発表した。これによりイオンモールは上場廃止となる。イオンは「建設資材の調達などでグループ規模を効率的かつ効果的に活かす」と発表している。さらに子会社の収益をイオン以外の株主に流出することを防ぐとも説明している。 

このブログでもイオンモールの個性化がどんどん薄れていき、当初大型ショッピングモールとして出店した時のインパクトがだんだん弱くなり、魅力がなくなりつつあると書いている。さて今後はどういう方向になっていくのだろうか?以下、私の今までの経験から個人的な見解として記してみたい。

イオンにはイオンの礎でもある、イオンリテールという会社がある。主にはGMSを運営している祖業である小売業の会社である。しかし、イオンリテールはイオングループの中核企業だが上場はしていない。多数あるイオンモールにはイオンモールのモールとイオンリテールのモールがある。何度か書いているが、自宅近隣のイオンモールでも、イオンモールのモールは川口、川口前川、レイクタウン「kaze」があり、リテールのモールは戸田、与野、浦和美園、レイクタウン「mori」がある。一般のお客様にはわかりにくいが、テナントのグレード感やモールスタッフの対応は違っており、ここではダイアモンドシティの歴史も併せ持つイオンモールのほうがやはり安定感はある。イオンリテールのモールもPM(運営管理)はイオンモールがしているが、決定権はなくスムーズな運営ができていると思わなかった。過去、15店舗以上イオン系のモールに出店したが、イオンリテールのモールはすべて退店した経緯がある。

さて今後考えられることは何か?おそらくイオンリテールのモールはすべてイオンモールが管轄していくと思う。これで、イオンリテールの仕事が明確になり、モールへの投資等もイオンモール主体となり、旧イオンリテールのモールの改善は進む。そしてイオンリテールも投資は主たる業務の小売業に向けられる。これが一番の改善ポイントになる。さらに今後、CSC(コミュニティSC)やNSC(ネイバーフッドSC)は間違いなく注目される。従来のGMSを作り出したように、新しいSCの開発に目を向けていける。古いSCに新しいテナントなどの導入で活性化できるし、特に前述した小型物件の開発も他の子会社と連動できる。

ただ、ここからのイオンモールのモール事業はどうなっていくのか?まず、RSC(郊外大型モール)の理想形からはどんどん離れていくような気がする。現状のイオンモールは間違いなく伸び悩んでいる。2024年2月期の営業利益ではコロナ前の2割強ダウンしている。RSCとしての評価も、明らかに「ららぽーと」に負けている。その最たる理由はGMSのイオンをキーテナントにしていることに起因している。もう大きな面積でGMSをゾーニングする必要はない。すべてカテゴリーキラーで賄える。そしてそのほうが集客もできる。SMでさえイオンリテールでは勝てないかもしれない。つまりイオンリテールの売場(特にGMS)を切り捨てていくことができるかどうかが成功の鍵にはなるが、イオンの方向性を考えると、おそらくそれはできない。つまりRSCとしての進化は、まちがいなくなくなる。

今回のイオンモールの子会社化は「脱RSC」へ進むような気がする。そしてGMS事業は今後も続けていくという意思表示なのかもしれない。

■今日のBGM

客層を選ぶのか、客層に合わせるのか?

各社の1月の売上速報を見て、ブログを書き始めて途中でやめた文章が残っていた。それを読んでいて、まとめきれなかったのだが、少し修正をしてみようと、再度書いてみることにした。

タカキューの数字を拾っていて、間違って第3四半期決算資料を開いてしまい、それを見ていた時に感じたことだ。数字に関しては改善を示しており、今期決算でどういう着地になるのかというところだとは思う。ただ、決算概要の中に「再成長に向けた課題解決」という項目があり、理路整然と示されているのだが、現実としてどうなのかと少し引っかかった。きれいな言葉で書かれてはいるが、現場はそう動くかなと思った。ターゲットを明確にしてMDを再設計するということだが、いかにも書類上のことのようにしか思えなかった。

タカキューはイオングループの会社だったし、まだ現在でもイオンは大株主ではある。イオンという会社は、やはり大企業であり、明らかに昔の小売業ではない。短期間だが、仕事をしてきてそれは痛切に感じた。特に従業員教育に関しては驚くほどの内容があり、小売の勉強をしないとついて行けない厳しさもあった。タカキューが、その環境下にいたということは、おそらく政策論は十分やりつくしているのではないかと思う。小さな変化は当然あるが、再成長に向けた今回の実施施策が、どれだけ従業員に響いたのかはわからない。外部から新しい風を入れて変革しようというのはわかるが、従業員はもう疲れているのではないだろうか?

私自身も明確にわからないので、文章がまとまらなかったのだが、一番気になるのは「ブランドを再定義する(ポジショニングを変える)」ことは正しいのかどうかということだ。このブログの標題の「お客様を選ぶのか、お客様に合わせるか?」が明確でなく、そこが一番すっきりしない。長年商売をしてきて、お客様が離れていった。その結果、数字が悪化している。離れていったお客様を再度呼び込むためにお客様に合わせるのか、きちんとした戦略を立てて、再度お客様像を変えるのかということだ。しかし出店場所は大きくは変わらない。従来のお客様がターゲットになる。新しいお客様を引き込めるかどうかのリスクは高い。

そして、再定義したポジショニングが得意な販売チャネルはどこなのか?どこにするのかも明確にする必要がある。ショップ運営で大事なポイントだと思う。ただ、今はもう自社のブランドポリシーを推し続けていくより、お客様に合わせていくしかないような気がする。もし「お客様を選ぶ」方向なら、今の出店政策を根本的に変える必要があるように思う。

この「再成長に向けた課題解決」を見ると、今まで繰り返されてきたことの焼き直しで、きれいごとにしか見えない。現場感が見えてこないこと、具体的な戦略の変化が見えないことを、従業員がどう捉えるのだろうか?そこが、変革のポイントになるだろうと思う。

やっぱり、書き直しても、うまくまとまらなかった。

■今日のBGM

店舗大型化への壁

先日、「グローバルワーク」が増床改装で売上を上げていき、アダストリアのコアブランドにしていくという記事についてコメントした。売場を大きくするということを、簡単に政策に上げるが実は非常に難しい。大型化したためになくなっていったショップは数多くある。

RSC(大型モール)を主な出店場所とするなら、売場は50坪以上で組み立てたほうがいいと思う。40坪くらいまでの小型店と、それ以上の中型店では条件面で差が出てくる。おそらく近年はその傾向が強いのではないだろうか?特にリーシングに苦労しているSCにとっては、空床期間は短くさせたい。さらにある程度の大きさのテナントを導入させたい。そのためには若干の条件面での優遇はある。例えば坪当たりの最低保証の金額を低くしたり、最低保証をなくしたりして歩率のみにする交渉も可能になる。

例えば、40坪が適正だったボリュームゾーンのメンズカジュアルの店で、売場を広げるには何をするか?まずプライスラインの幅を広げる。ブランド商材を投入したり、高感度商材を導入したりする。値段の幅を下に下げるのはなかなか厳しいので、ボリュームゾーンを厚くすることも当然考える。メリットはグレード感が出ることだが、デメリットは「値段が上がる」ということになる。さらに、カジュアルからドレスへの幅を広げることも考えられる。それにより、客層の幅は広がるが、ここでのデメリットは「客層の変化」「商品回転率の悪化」があげられる。雑貨類の拡大もある。ここまでになると、「商品品揃えの得意、不得手」というポイントも出てくる。アウター、カジュアル、雑貨とも仕入れの視点が変わってくる。それだけに品揃えの偏差値は上がる。つまり、現状の店に絶対プラスすべき商材やブランドなど必然性がなければ、大きく売場は広げにくい。

最も安易に考えれば、レディス衣料を加えて世界観を広げることだが、これは一番危険な取り組みだ。まず商品サイクルも違うし、見せ方も違う。同じ目線で品揃えできる人間は数少ない。MD型のショップでは全体のまとめ役が必要になり、その責務は大きい。このやり方で売場を広げて成功した例はブランドショップぐらいで、MD型のショップではあまり見たことがない。

商品だけの問題点も上げたが、当然「人」「金」の問題も出てくる。売場が大きくなってセルフ販売に変えるのならいいが、従来の販売方法を続けるなら、当然人員を増やす必要がある。つまり人件費は増える。さらに拡大することによる内装費や経費負担も増える。それを吸収できるだけの売上増は当然必要にはなる。

さてどうすればいいか?もう一度ゼロベースから店のコンセプトを作り直していく必要がある。例えば、ユニクロのように「シーン」は強調せずに、「商品」「値段」だけを大きな切り口にしたり、無印良品のように「世界観」を決めて、その「世界観」を共有してあらゆる商品群を品揃えしたりする。両者とも目線を揃えるべき「決まり」が必要で、そこをジャッジすべきマーチャンダイザーがいる。つまり最初からショップのブランドを作っていくしかない。

単純に売場を広げたり、客層の幅を広げたりするには、多くの検証が必要で、安易に決定すべきではない。今まで築いてきた店のMDテーマがぼやけていくことが一番の致命傷になることが多い。

売場の大型化には、最初からブランドを作りかえるほどの労力が必要になる。

■今日のBGM

«過去の 投稿