中小小売業の人件費 ➁

前回のブログをアップしようと思ったら、16日の日経新聞土曜版で「勤務先企業がパート年金保険料肩代わり」と1面のトップ記事として掲載された。まとめてアップしようかと思ったが、パート2として書くことにした。

どういうことかというと、社会保険料が「年収の壁」によって手取りが減る対策として、その個人の負担分を企業が肩代わりする仕組みのようである。具体的には現状の労働者の社会保険の負担割合(折半なので会社5:労働者5)を収入に合わせて9:1~5:5までの仕組みを作るというものだそうだ。つまり企業負担が大きくなり、折半までは肩代わりするということだ。前回書いた中小企業の負担がさらに増えるということになる。これによって労働者側は手取りの急減を避けられる。さらに企業規模要件の撤廃や、5人以上の個人事業所も適用対象とする方針も示したようだ。

もしこうなれば、社会保険料の負担増分の多くを企業が負担することになる。これが本当に進んでいけば、中小企業のダメージは相当大きい。新聞にもあったが、企業間格差が拡大する。おそらく中小企業の淘汰が始まるだろう。特に経費に人件費の占める割合の大きい小売業は大変な時期に入る。前回書いたブログの前提がさらに重くなっている。

ちょっと話は逸れるかもしれないが、サントリーの新浪社長の「時給1500円にできない会社は退出」の言葉通り、厳しい会社はなくなり、労働者も高い給与を払える会社に移ればよいという発想になる。だが果たして、働くことは「給料」が基準なのだろうか?全員が高い給料を払えるサントリーに就職したいわけでもないし、得意でない分野の仕事をしたいわけでもない。さらに入社できるかもわからない。小売業でも全員がユニクロで働きたいわけでもない。やりたい仕事と給料のギャップはいつの時代もある。

新しく企業を立ち上げても継続が難しくならないか?スタートアップ企業が減ってしまうのではないか?などの疑問も残る。小売業では、現状以上に新しいショップが出現せず、同じラインナップのテナントリーシングばかりになりそうな気がする。もうすでにそういう状態ではあるが・・・

おそらく、金銭的に余裕のある企業が、厳しい企業を吸収していく流れが加速するだろう。そして、その流れに乗れなかった会社はどんどん「退出」していく。

厳しい中小企業の淘汰によって、ますます、小売業でいう客層の2極化が進んでいくようにも感じる。

■今日のBGM

中小小売業の人件費

連日報道される「103万の壁」のニュースで、中小小売業は耐えられるのかと感じてしまう。その少し前には「時給1500円」のニュースも多く報道されていた。

中小小売業で収益を改善することはまず絶対条件として「売上を上げること」になる。自店でヒット商品が生まれたり、取扱ブランドが脚光を浴びたりして売上が上がる。ただその売上を維持するのは非常に難しい。特にファッションは長くは続かない。「利益を上げる」にはある程度の商品量が必要で規模が拡大しないと、なかなか仕入原価が下がらない。さらに規模を拡大するには当然店舗数も必要になり、投資を続けていかねばならない。そして最終的には「販売スタッフ」の質と人数のアップが不可欠になる。

立ち上げた会社でのラフな損益計算書を見ると、最も黒字が出た年度には人件費率が18%だったのが、コロナ期には34%になり大きく赤字を計上している。黒字期においても地代(家賃、駐車場費、共益費)の負担率よりも人件費が高くなっている。当然小売業は労働集約型で人件費の占める割合が非常に高い。

今回の「103万の壁」だが会社に損益上ダメージが大きいのは「106万の壁」がなくなる事だと思う。2024年10月から従業員50名以上の会社が対象になっている。以前の会社は約100名の従業員数だったので該当する。例えば時給1000円で月18日、日6時間働くとそのボーダーラインになる。今までは「130万の壁」が大きかったのだが今後は「106万の壁」になる。国は2020年代に時給1500円にすると言っている。と、するとボーダーラインだった人はどう働くか?時間を短くするか、壁を超えるか?今後配偶者特別控除の「150万の壁」をどうするかも考えなければならない。

それと同時に大きな負担が増えるのは企業にも当てはまってくる。個人の負担額を折半して会社が支払う義務が生じてくる。106万の人がそのまま働いたとして、健康保険+厚生年金+(介護保険)で折半分年間160千弱の会社負担が生じる。当然国の政策により時給は上がる。さらに年間130万働くと200千の負担額になる。以前の会社でも10名くらいはこのラインのアルバイトがいたので年間2000千以上の経費負担増になる。当然他のスタッフの月給や時給も上がるので人件費負担額はどんどん膨れる。時給アップと社会保険負担増で以前の会社だと、単純に2店舗分以上の人件費増になる。

中小小売業が、この人件費増とどう戦っていくのか?円安は続き海外生産のコストは上がり、出店条件も厳しくなる。小売業で販売力を落とすことはできない。力のある企業に飲まれるしかないのだろうか?

■今日のBGM

サラリーマンが提案する改装

近くのイオンでGMSの衣料品中心の改装をしている。まだ出来上がってはいないが、浦和美園で見た、「トップバリュコレクション」の改装のようだ。

以前「トップバリュコレクション」の改装については書いたが、この投資対効果は十分な数字なのだろうか?おそらく各カテゴリーを明確にして区分し、縮小コーナー化していき、各カテゴリーの在庫を減らす。その空いたところに、量販店メーカーブランドを加える。売上アップより効率アップの改装だと思う。ただコーナー化することによって担当者を張り付ける必要も出てくる。そう考えると、間違いなく大きな効果はないだろうと思う。

この改装の発議者は誰なのだろう。店長は発議者ではなさそうだ。本部主導の改装だと思う。間仕切りの壁と、それに伴う什器などで大きな改装ではないが売場面積が大きいので相応の投資金額にはなる。サラリーマンがいかにも仕事をしている流れでやっている改装で、GMSの衣料の大幅な数値改善という根本的な問題は解決しない。

店舗改装は気持ちが入らないと成功しない。現場に近い人間が発案して、プランをまとめていくほうが説得力はある。細かい数字根拠もそのほうが現実味を増す。その提案した改装概要を、図面に落として、概算の投資予算をはじき出す。改装によって導かれる数字の改善と総投資金額と投資内容での経費処理から、改善効果を計算し、改装決定者に諮る。会計処理上10万円未満の什器は経費処理して、それ以上は資産計上となる。資産は毎年償却され経費計上されるのが一般的だ。

ビブレに在籍時は改装の発議はいろんな立場でしてきた。そういう意味では面白い会社で、現場責任者である店長が改装の発議をすることもできた。ヤングターゲットの商業施設だったこともあり、ファッションの動向が目まぐるしく変わり、それに呼応するべく多くの改装をしてきた。数億単位の改装もあり、40前後の若造に投資を託してくれた。ただ会社の流れが悪くなり、活性化できる改装が後手後手になってきた。

気持ちを持った社員が、そのスタッフに気持ちを持たせて計画し、思いを持ったスタッフが運営していくのが理想の改装だと思う。

イオンの改装を見ていると、少し出血を止めるべく改装で、本来の原因をとらえてどうしていくべきかの改装ではないと思う。おそらく商品部も店のラインもそれにより大きな変化が出るとは感じていない。根本的な問題は「GMSにファッションは必要か」ということであり、その結果は出ているにもかかわらず、先延ばししているだけとしか思えない。

サラリーマンがオーナー社長(会長?)には、なかなか意見できない。オーナーがその結果をジャッジし結論を出すまで、無駄な投資は続いてく。オーナー企業はどこでもありがちなことだ。

私事であるが、以前このブログにも書いたが、イオンの岡田社長が「イオンはELP(エブリデイロープライス)でそれを徹底する」と訓話し、それを聞いてある意味感動し、納得はしたが、それが退社にもつながった。あれから20年以上たち、あの時の訓話は、それ以降ぶれすぎているようにも感じる。ELPを目指しているとは思えない。もうそろそろGMSの衣料品は縮小から廃止へのジャッジが必要だと思う。イトーヨーカドーはオーナーの力がなくなったので衣料品はなくなっていっている。

誰かが首に鈴をつけないと・・・

■今日のBGM

商売の寿命

小売業界でいろんな会社を見てきたし、在籍してきた。さらに立ち上げた。そしていろんな会社の浮沈を見てきた。

商売の成功をどう計るかはわからない。儲けは少なくても長く続く商売は成功とするのかもしれない。ただ商売は、商品の変化や、顧客の変化、商売している場所の変化でも情勢が変わってくる。

まず、客層の幅を狭めた商売は長く続いていない。在籍していた商業施設のビブレやマルイはヤングターゲットで商売をしていた。ヤング層のブランドもそうだが、流れが短サイクルで変化する。DC(デザイナー&キャラクター)ブランドで集客して、その後109ブランドに移っていったヤング層のトレンドの変化に、売場は追いつけなかった。さらにそのターゲットの会社も浮き沈みが目まぐるしかった。それでもマルイはクレジット商売が実を結び、現在は小売より金融系の会社になっている。その当時のブランドを生み出していた会社も浮かんでは消えていった。つまり、流れが速いヤングターゲットの商売は続きにくく、寿命は短い。例外としては、当時の固定客の年代層と共に年を取って存在するブランドは続いている。販売の場所も百貨店、路面店に移っている。堅く商売はしているが規模はずいぶん小さくなっている。ただすでにヤングターゲットではない。

小売業で堅調に生き残っているのは、ヤングミセスからミセスゾーンが得意な大手アパレルなのかもしれない。ヤングが賑わったときはそれなりにそのターゲットのブランドを開発し、SCが全盛になってからもショップを立ち上げた。各社に共通するところは各年代のたくさんのブランドを持っていることだと思う。それと同様の流れになってきている企業は、ティーンズヤングからヤングミセスゾーンまで幅広くショップを持っているアダストリアやパルグループがあげられる。各ターゲットのそれぞれのシーンに対応するショップも開発している。

広い客層をもってシェアを確保していっている企業も成功パターンかもしれない。昔からよく言われる「高感度値頃」を追求している企業で、衣料系ではユニクロ、住関連ではニトリ、複合的には無印良品などがあげられる。現状はフルターゲットに適合しており、特に低価格ゾーンをボリュームとしているが、今後の社会情勢で若干の変動要素もある。

商品のカテゴリーの専門店は以前にブログで記したように、そのカテゴリーの大きさとカテゴリーの動向を慎重に図る必要がある。そしてそのシェア率を常に意識するべきだ。今回のジーンズカジュアル業界の崩壊のような例もある。カテゴリーの大きさとシェアで寿命が見えてくる。

地元に根付いた専門店は、常に商品のトレンド変化や、商圏変化、客層変化を気にする必要がある。こういった専門店は突出した人物がマネジメントしているケースが多い。その意志がどれだけ引き継がれるか、熱意がどれだけ続くかがポイントになる。

企業の存続は、どうやって前に進みながら進化させていけるかということだと思うが、近年は、感性よりも組織力、データ処理などのシステム力とその分析力のほうが商売の寿命に大きな影響を与えるのではないかと思ってしまう。

まだまだ、過去の慣例や感情で方向性を決めている企業が多そうだが・・・

■今日のBGM

モール(RSC)になくなってきた「わざわざ感」あるテナント

「客層が2極化し、中間層が減っている」と常々書いている。20年位前から郊外モール(RSC)がどんどん建設され、GMSにとって代わってSCの中心になっていった。RSCとは当然広域からの集客を狙って、車で行ける「手の届きやすい贅沢な場所」だったのが、近年の開発ラッシュで「わざわざ感」がなくなり、狭商圏化され、まさにGMSが大きくなっただけの商業施設になってしまっている。大都市郊外では完全にオーバーストア化しており、なくなってしまったGMSと同じ道をたどっているように見える。テナント揃えも「ユニクロ」「GU」「無印」「ABCマート」などの同じようなラインナップになってきた。

本来、RSCにはどんな客層が来てほしかったのだろうか。業態のフォーマットを見ると価格はアッパー、モデレートで、商品の特色はトレンドとホット商品と区分されている。

多少、各ブランドのニュアンスは違うが、RSCから減りつつあるテナントがいくつかある。

ユニクロがやっている「プラステ」というショップは、以前からずっと気にしていて、自分の店の出店時にはSCに「あればいいな」と思っていた。いろんなSCを見て回るときもあるかないかチェックしていた。客層も商品も売り方もきちんと徹底されており、晩期にもそこまでセールを打ち出さないし、引っ張らなかった。近年、RSC特にイオン系から消えてきている。店舗数は現在43店舗で2020年に102店舗から大幅に減っている。イオン系は6店舗、ららぽーとは2店舗となっている。このターゲット客層は広いので、おそらく一番難しくなってきたゾーンなのかもしれない。

「ナチュラルビューティベーシック」(以下NBB)もRSCスタート時はほぼ全店のラインナップにあったショップだ。RSCがスタート当初から旧サンエーインターナショナルでは「&バイPD」と並んでラインナップしたかったブランドで、ほぼ一等地にレイアウトされていた。販売代行をしていた時、このブランドを2店舗運営していた。現在もイオン系12店舗、ららぽーと5店舗あるが、駅ビル型にシフトしているように感じる。ターゲット客層も当時はヤングかヤングミセスか見えにくかったが、現状は20~30代に変化しており、若返っているように感じる。

この2店舗はRSCへの出店はストップしているようにも感じられる。さらにRSCのテナントの中ではトレンドにシフトしているセレクト系のショップも、間違いなく出店するSCを選んでいる。

トレンドリーダーやSCイメージを持ち上げるようなショップがどんどん消えていき、本来あるべきショップリーシングをしているRSCは本当に少なくなってきている。当然経費高騰で賃料も大きく下げられなくなってくると、多くのSCは似たようなゾーニングになってくる。さらにキーテナント(イオンモールでいうとGMSのイオン)もSM以外は集客の要にはなっておらず、どんどん魅力が薄れてきている。

本当に、そのSCのカギを握るテナントがなくなってきているように感じる。

■今日のBGM

個人消費の実態

先日の日経に、丸井グループの青井社長の記事があった。その中に「衣料品の国内市場は金額では1990年の約15兆円から8兆円程度まで半減しているが、数量はほぼ倍増している。」との発言があった。単純に衣料品の単価は4分の1になる。その後のコメントは個人消費の中身が変わってきていて、消費者は意味のあるお金を使いたがっていると続いている。

先日、「着てない服(着られない服?)を捨てるパート1」をやったが、箪笥の肥やしは、ある意味一定のブームを経た商品が多かった。ボトムは、どこのシップスで買ったか思い出せないが、シップスのブランドコラボの商品が多かった。当然サイズが合わないので捨てることになる。カットソーやニットやアウター類はまだ手を出してないが、たくさんの商品を捨てることになりそうだ。現役でなくなり、出張や公式の場もなくなってくると、ほとんど買い物はしないし、買ってもアウトレットか無印、ユニクロになってきている。衣料品への支出は大きく減ってきており、確かに単価も4分の1以下に落ちている。ちなみに数量も半分以下に減ってはいる。

百貨店やファッションビル、路面店が中心の販路も減ってきており、百貨店や路面店は一部のコア客層になり、ファッションビルはなくなってしまっている。郊外モール(RSC)が買い物の場の中心になっている。当然主役はユニクロやGU、アダストリアの各ブランドなどに変化しており、単価は大きくダウンしていると理解していた。具体的にどれくらいの変化があったのか見えにくかったが、私自身もDC時代を経験してきて、さらにそのブームの中心の丸井の社長の発言だったので、実感は大きい。

青井社長は今後について「好きなものにお金を使うメリハリ消費が強まっていく」と結んでいるが、それはいつの時代にもあることで、ピンとくる結論ではなかった。さらに今後百貨店などの大型商業施設は、「店舗はモノを売り買いする拠点から、イベントで人が集まる場へと変わっていく」とも言っている。受け身の発言だ。

昔、西武百貨店が文化を発信し、シードや劇場を作っていったが、それはファッション以外の文化的な「何か」で街に人を集めようとしていた。流通業丸井で培ったクレジットカード中心の金融業で大きくなった会社なのだから、好立地を生かして、イベントで人を集めるだけでなく、「何か」を作り出してほしい。

渋谷やなんばの丸井は悲しい・・・

■今日のBGM

小売業が生き残るために必要なこと 2…会社の方向性

前回、小売業を立ち上げる時の理念は何かを書いた。「お客様に満足感を与えること」がすべての企業の根底にあった。その理念から次のステップに進んでいく。例えば、ユニクロは「服を変え、常識を変え、世界をかえていく」、アダストリアは「なくてはならぬ人となれ なくてはならぬ会社になれ」と変革していく。

グローバルな企業になるか、ローカルでも信頼感を深めていく企業になるか、2つの流れがある。それは企業としての方向性であり、絶対企業が決めるべきものだと思っている。ユニクロのように世界に目を向けて進んでいく企業もあれば、地域で圧倒的に信頼される企業もある。それは会社を始めてから、流れの中で決めていくべきものだと思う。立ち上げた会社でもその方向性を作った。

当然会社は成長していく必要がある。従業員の給与はベースアップしていかねばならないし、出店投資やデータ分析などをするためのシステムにも資金を回していかねばならない。ブランドビジネスを狭商圏内で続けていく事業以外は、当然拡大政策になる。

ランチェスター戦略という、経営戦略がある。もともと軍事戦略モデルとして考案されたもので、それをもとに作った「マーケットのシェア理論」がある。小売業では商圏設定にも使われていた(現在はハフモデル分析が多い)。これは市場競争の目安としてポジションを分析し、狙うべき目標を判断するために使われる。マーケットシェアの目標値を大きくは7段階に分けている。以前の会社では何とか市場認知シェア(シェア10.9%)を目標に経営計画を立案していった。

業種が細かく明確なほど年間需要はわかりやすく、その業種内での立ち位置はすぐにわかる。いろんなデータをまとめて、それを提供する企業もある。

例えば、矢野経済研究所の調査では眼鏡業界だと2022年の国内需要は4918億となっている。2022年売上トップ3はメガネトップ850億、ジンズ670億、パリミキ470億でそれぞれのシェアは17%、13.4%、9.4%となる。マンチェスター理論のシェア論ではメガネトップが上位目標値(準1番シェア:どんぐりの背比べの中では上位)ジンズ、パリミキが影響目標値(市場に影響を与えられる)と分類される。つまり、その立ち位置と現状の数字動向を分析して、自社の方向性を明確にしていく。

何度も登場させて申し訳ないが、ジーンズカジュアル業界について考えてみる。ネットを調べてみると2014年にデータがありボトムの市場規模は1018億円とある。インナー、アウターを同金額と考えるとジーンズカジュアル業界は3000億と仮に推測する。(正確なデータがおそらくあるとは思うが・・・)ずいぶん乱暴な数字だとは思うが、仮にその数字で分析すると、ライトオンのピークの売上は1067億、マックハウスは567億となっており、それぞれシェアは35.6%と18.9%となる。ライトオンのシェア率はランチェスター理論では安定目標値41.7%に近く完全にNo1企業になる。その数字がどんどん下降線をたどり、業界全体の数字を変わらないと考えると、2019年にはライトオンはシェア率24.6%に下がり、何とか上位値にはいるが、2022年には15.7%まで落ち込む。マックハウスは2023年には6.1%まで落ち込み下から2番目の存在目標値(市場で存在を認めることができる)になってしまっている。

会社の置かれたポジションを冷静に分析し、業界動向も理解し、数字動向と重ね合わせ、企業の戦略を当然判断しなければならない。安定した企業運営をしている会社は、きちんとした分析を実施し、戦略、方向性を明確にしている。

■今日のBGM

時給1500円にできない企業は退出する!払えない企業はダメ!

サントリーの新浪社長の言葉が、ずっとひっかかっている。10月18日経済同友会の記者発表で話した言葉だ。もう会社を経営していないので、全く関係ない立場だが、乱暴な発言だと思う。どういう意図があったのだろうか。奮起を促したのだろうか?中小企業は不要なのだろうか?このブログでも、この時給政策については書いてきた。

2020年代の時給1500円は理論的にも無理だと経済評論家も言っているし、単純に今後の毎年の必要賃上げ率を考えても難しい。さらに会社数の99%を占め、労働者数70%を占める中小企業の約半数が下請企業の現状を考えれば、この発言の突き放し方は厳しい。当然、仕組みをお互いに考え、それが可能な社会にしようという気持ちだろうが、きつい言葉に聞こえる。さらに、時給1500円払えない会社の従業員は、時給1500円以上の企業に移ればいいと言っているが、そのハードルは高くないだろうか。努力して勉強し、語学も堪能な新浪氏のような人間ばかりではない。

先日、ワイドショーでどうやったら時給が上げられるかという質問があった。経済評論家はシステム投資をして省力化を図るべきだというようなことを言っていた。国が投資を手伝ってくれるのか?省力化で削減されたスタッフは他の企業に移れるのか?ただその評論家も2020年代時給1500円は不可能との見解を持っていた。

優秀な新浪氏はサントリーに移る前は、ローソンの社長だった。少しコンビニについて調べてみた。コンビニは周知のとおり、直営店は少なく、FCのオーナーが運営している。所謂中小企業の運営となっている。

ローソンのFCにはいくつかのパターンがあるが一般的な条件で計算してみた。年間フランチャイジー収入は最低1860万(月度155万)となっている。本部にチャージする金額が荒利300万以下は45%、300~450万は70%、450万超は60%となっている。具体的な数字にすると、ローソンの一般的売上日販は55万(ずいぶん上がった・・)で、月度は1650万となる。2023年売上総利益率は31.5%と決算で発表しているので、平均的な店の総利益額は約520万になる。上記の本部にチャージする額を計算すると282万になる。つまり粗利益520万―チャージ料282万=238万が収入と考えられる。経費は電気代のみ折半で他の事務経費はFC負担となっている。大きな経費の人件費だがまずコンビニの従業員数は平均で15名くらいのようだ。令和元年の経産省のコンビニアンケ―ト調査のデータを見て、簡単に分析すると平均で1人当たり勤務は週3.5日、1日5時間くらいとなる。そうすると月間約70時間の労働となる。時給1000円で13人が70時間働くと91万円となり、残り2人をオーナー夫妻と想定すれば147万のオーナー収入となる。ただし電気代の折半分やその他の経費を考えると夫婦で120万くらいの収入が見えてくる。(いろんな雑用などを考えてそれが納得できる金額かどうかはわからない。)あくまでも私自身の想定であって、現実はもっと高収入なのかもしれない。

さて、最低賃金が時給1500円になったとして、売上や利益が変わらなければ、スタッフの人件費は137万になり、オーナー夫婦の収入は80万前後になってくる。当然時給が上がれば、社保加入者も増えてくるし、ベテラン従業員は当然1500円以上の時給になるので、それ以上の人件費は必要になり、オーナーの収入はさらに減っていく。

インフレで商環境は当然変化するだろうが、苦しくなるのは間違いない。新浪氏の発言内容では、コンビニのFCの企業は退出することになる。ローソンは、天下の三菱商事の子会社なので、存続に問題はないのだろうか?

中小企業には、数字や、仕組み、システムだけではなかなかクリアできない問題が多い。一度、新浪氏もどこかのローソンのFCのオーナーをやってみてほしい。

■今日のBGM

小売業が生き残るために必要なこと

ライトオンやマックハウス、アナップなどの営業不振に伴う株主変更や、タカキューのファンド支援などいろんなスキームで企業の再興が急激に増えてきている。企業がもともと描いていたゴール(通過点?)と違う形にどんどん変わっていくのだろうと思う。金融資産としての取り組みになり、お客様(顧客)不在の企業になってしまうことを危惧する。

企業は何を目的にスタートしたのだろうか?ユニクロの企業理念は「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」とあるが、それはその理念に手が届くだろう時期に来た時に作られたものであり、最初のミッションは「・・良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供します」とある。アダストリアも今の理念とは別に「お客様の生活にワクワクを提供する事」とあり、ニトリも、理念とは別にロマン(志)として「住まいの豊かさを人々に提供する」とある。小売業はやはり「お客様の満足感」を与えることがすべて根底にあると思っている。

「お客様の満足感」からスタートし、しばらく経過すると企業の存続を考える時が必ず来る。その時にそこからの企業の方向性と可能性を考える。

崩壊したジーンズカジュアル業界を考えると、ライトオンがピークの売上が2007年1067億で今期が389億、マックハウスが2009年567億で今期予測が135億となっている。どこかの段階で成長余力がないことを確認できなかったのだろうか。それともまだ成長業界だと認識していたのだろうか?上場しているので企業の成長戦略が必要だが、過去の成功体験から抜け出せなかったということになる。業界自体を細かく分析し、会社の存続を考えるならば、いつまでも過去の成功体験を引きずらず、他の業態(商売)をいち早く開発して、マイナス分をカバーするべきだったのではないかと思う。(やってはきたのだろうが・・・)

ただ、上記2社は上場企業で成長が義務付けされているが、ジーンズ業界を生き延びている企業もたくさんある。企業が大きくならなくても固定客のライフスタイルを提案して品揃えしている専門店は、各地域に根付いて安定した売上を確保している。企業は大きくなって成長し続けることも大事だが、立ち止まって、現状の顧客のニーズを考えて、満足度を上げていくことも必要なことではないかと思う。

ファッション業界でも同様のことがいえる。まずティーンズヤングのトレンドを打ち出す企業は存続していない。将来の成長戦略がなく、目先の事業で終わっている。片方である一定の規模で内部充実を図り、既存顧客の満足度を高めることで存続している企業はある。さらに生き残るために業態を分析して、方向性を明確にし、細かく戦略の方向性を変えていく企業は成長している。

立ち止まって、お客様を理解し、業態を分析し、明確な方向性を考えることが、生き残るために必要なことだが、どうしても過去の成功体験を引きずる。そしてその成功体験を作った人間が経営層にいると道は開かない。

もう「勘」と「汗」の時代ではない。

■今日のBGM

小売業は「在庫」で損益は隠れる

コロナ以降、経営が躓いた企業が増えている。何度も指摘していたジーンズカジュアル業界のライトオンもマックハウスもTOBで経営を譲渡する。今年1月には債務超過になっていたタカキューも第三者割当増資でファンドから金融支援を受けた。それによりイオン傘下ではなくなった。マックハウスも同様にチヨダ傘下ではなくなっている。

常々、小売商売は在庫で損益が隠れると言ってきた。在庫評価で利益はいくらでも変えられる。PL(損益計算書)は良好な数字もBS(貸借対照表)で見るとリスクが隠れていることが多い。順調な企業では看過されるが、厳しい企業は在庫でひずみが出てくる。つまり在庫評価を甘くすると利益は出るが資金繰りは厳しい。在庫を現実的な数値で評価すると大きな損失が出る。

ライトオンもマックハウスもジーンズカジュアル業態で、サイズが細かいので在庫が増える。タカキューもスーツが中心であり現在はサイズが変わっているが、まだまだサイズが細かい。つまり、もともと在庫を抱える業種になっている。デニムに季節やファッション変動はあまりないので、商品が回転しなくても(売れなくても)在庫評価を落とさない。スーツも同様で若干のトレンドは変わるものの、大きく変更がなければ評価を落とさないので、在庫金額は大きく減ってはいかない。ちなみにライトオンの年間商品回転率は前々期(2023)2.2回転、前期(2024)は3.0回転、マックハウスは前々期2.3回転、前期1.98回転、タカキューは前々期2.5回転、前期2.8回転となっている。ライトオンは前回ブログに書いたが、前期に売価90億近く在庫評価を落としているし、タカキューも前期に在庫を40%以上減らしている。

在庫評価を落とせば、原価在庫はそのままで売価在庫のみ減るので、原価率が悪化し利益は落ちる。商品の賞味期限は明確ではなく、企業が設定している。ただビンテージと呼ばれるもの以外は商品が回転していなければ、当然評価は落とさなければならない。季節商品はその晩期にセールで商品をなくす。ファッション企業であれば最低年3回転はしなければ、売れない在庫は不良在庫になる。(四季なので4回転は必要だが・・・)さらに商品の支払いサイトは手形でない限り最長でも90日後になり、3か月後には支払いが生ずる。つまり入荷して90日で売れれば支払いが滞らないことになる。財務的に問題があっても年4回転だと何とかキャッシュは回っていくということになる。

ライトオン、マックハウス、タカキューはいずれも厳しくなって5~6年後に、企業を譲渡している。上場企業で資金的に猶予があったかもしれない。今回の企業譲渡に関して言えば、このブログでもずっと警鐘を鳴らしていた。

ワールドはライトオンの事業を継続するが、ファッション企業だけあって、在庫を前期末に大きく処理をさせている。営業面は規模やMDの方向性が見えてないが、比較的スムーズにスタートするかもしれない。マックハウスは買いたたかれたというイメージがあるが、今後の営業面では在庫面での負の遺産が大きく出る気がする。タカキューは承継前に在庫の処理はしたものの、ファンド傘下ではやはり数字重視になっていかざるを得ず、今(2025)第二四半期決算では、在庫を増やして利益を確保しているように見える。投資ファンドが継承すれば、次に売り抜くことを考えるので、長期的な考えは少なく、再建には相当の覚悟が必要だと思う。

売上傾向が悪くなり、在庫回転率の低い企業は、いち早く在庫の適正化を急ぐ必要がある。

小売業の損益は在庫で大きく左右される。

■今日のBGM

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