月: 2023年6月

店のポリシーはゆるぎないものを持つべきだ

前回、「ポイント」を高崎SATY6階に誘致し入店してもらった、と書いた。

「ポイント」は今のアダストリアの前身で、元は水戸の福田屋洋服店だったと思う。北関東でジーンズの品揃え店舗を複数店運営していた。地元の高校生には絶大な人気があり、店長はいい兄貴分ですごく売れていた店だった。

高崎に出店してもらう際、社内でクレームが入った。SATYには直営のジーンズ売り場があり、「バッティングが多すぎる、食い合いになる。」との意見だった。こだわり客とコンサバ客で客層が違うと説明してもなかなか納得してもらえなかった。

ポイントの福田専務に状況を説明したら、「そういう状況ならポイントは国産のデニムはやりません。NBではリーバイス501のみ取り扱います。リーバイス501をわかるお客様相手に商売します。」と明確に答えられた。

社内で了承され、無事出店できたが6階で35坪くらいの店で年間2億近くは売っていたと思う。おりしもアルファMA-1やムートンのジャケットがバカ売れしていた時期でもあった。SATY直営からの細かな突っ込みは多かったが、まったく客層が違っており、それは誰でも理解できた。

「リーバイス501がわかる人間に対する店」という店の指針がわかる店だったし、お客様もそれはわかっていた。

店の守らなければならないポリシーは必ずある。なければならない。それをスタッフが全員理解することが成功するポイントであることは間違いない。それがぶれると絶対お客様には見抜くし、離れる。私自身も自分の会社でことあるごとに会社のMDポリシーを言っていたが、浸透するのは非常に難しかった。

余談ではあるが、その後福田屋洋服店は、売れていたジーンズカジュアルの店をすべてやめ、「ローリーズファーム」を立ち上げ、大きく方向転換し今に至っている。すごい英断だったし、すごいトップマネジメントだと思う。

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商売の在り方を考えさせられたこと

以前に書いたが30年以上も前、高崎SATYの6階を全面改装した。苦戦していた駅前立地の6階だった。DCブランド全盛期で主なブランドは百貨店2店舗と路面店で出尽くされており、高層フロアは特に厳しかった。丸井、ビブレ全盛の時代だった。なかなかいい手はなく、売れるショップを何とか導入することが基本構想だった。近隣のビルにあった人気のジーンズショップ「ポイント」とカジュアルブランド「45RPM」を何とか口説き落として出店をしてもらった。

それでも埋まらず、当時のポイントの専務が「インポートの流れがくるから自主でできない?」との提案を受けた。ちなみにそのポイントの常務は現在のアダストリアの福田会長である。

それからいろんな店を見て回って取引先も開発し、品揃え構想はできた。一番チェックしたのは渋谷のシード館で、内装もできるだけ真似た。

MDはレディスがGCOが引っ張ってきたばかりの「キャサリンハムネット」、和商Gだったアングローバルの「マーガレットハウエル」中心。メンズは三幸衣料のアメリカンジャケットがやっていた「ポールスミス」(全然メジャーじゃなかった。)、前述した「マーガレットハウエル」中心。カジュアルはインポートジーンズ(アルマーニジーンズ、ベルサーチ、ベントゥーリ、トラサルディ、クローズドなど)、「ストーンアイランド」「CPカンパニー」などのイタリア系。売り場面積は100坪くらいだったと思う。ブランド品揃えのMDだった。

投資も大きかったし、どこのものかわからないブランド品揃えショップをよくOKがもらえたなと思う。それも基本条件は買取の品揃えである。業界紙にも取り上げられたし、取引先も興味を持って受け入れてくれた。

結論から言うと、インポートショップの数値面は全くの失敗だった。ただ館全体のロイヤリティアップにはつながったし、同時オープンした「45RPM」や「ポイント」が好調で俗にいう「シャワー効果」もあり、それを契機に館全体の数値は大きく上がっていった。

サラリーマンとしてその窓口(バイヤー、リーシング)をずっとやっていけるわけでもなく、その品揃えショップは最終的には1階の裏側の入り口近くに移設し続けていたが、MDの担当窓口がいなくなりメンズは「ポールスミス」のオンリーショップに、レディスはなくなった。

おそらく6階の時は100坪で月度売上7000千くらい、利益は30%前後、在庫は40000千くらいだったと思う。今考えると全く商売ベースでなく、利益は低いし、在庫は多いしでよく続けてこれたと思う。

大手でしかできないMDだった。シード館も長く続かなかったし、販促面の効果はあってもやるべきショップではなかったと思う。特に在庫回転率が低すぎて、利益も圧迫してしまったこともあり、前回書いた「在庫過多=悪」の流れだった。

館側から見れば館全体のイメージアップにはなったと思う。ただ当時はデベロッパーが直営でやっていたので継続できたが、もしテナントで出ていれば会社は倒産していたと確実に言える。

一方、前述したように人のつながりは後で大いに役立った。ポイントの福田専務以外でも、取引していたルックのブティック事業部(イルビゾンテ、プリュックなど、のちにドリスバンノテンやジョーケイスリーヘイフォードなど)の泉課長は有名セレクトショップ「デスペラード」の社長だし、担当だった多田氏はルックの社長になっている。いろんな影響を受けたし、いい時代でもあったのかもしれない。

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売り上げが厳しくなったら、まず在庫を減らす。

40年以上小売業界にいて、間違いなく断言できることは「過剰在庫を持たないこと」が健全な経営につながるということだ。唯一断言できる小売りの鉄則だ。最初に書くべきことだった。

不振店対策をするときも、まず在庫を減らすことから始める。在庫が多いと売れ筋が見えない。よく言われることだと、川を渡るとき水が少なければ、けがをする大きな石などがわかるが、水が多ければ危険なものが見えてこない。つまりリスクのある商品がわかりにくいということだ。さらに品種内でいろんなアイテムがあればどれが売れているかはっきりしないが、極端に言えば2点しかなければどちらが売れているか明確になる。つまり在庫が多いと売れ筋が見えにくくなってきている。売れ筋が見えてくればその流れを広げていける。

おそらく厳しい商品を返品したり、値段を下げて処分すると、利益率がダウンするので、なかなかできないのが現実でもある。上司がどれだけ数値計画を確認して、許容していけるかが課題でもある。ただ、在庫が減ることにより利益率の回復は早まる。これをどう会社がジャッジするかがその会社の裁量だと思う。

在庫が多いと、体重が重いのと一緒で動きが遅くなる。商品回転率も低くなるので、売り場の鮮度感もなくなる。売れなければキャッシュインが減るのでキャッシュアウトとなる仕入れがしにくい。全くの悪循環となる。

在庫を持って商売するジーンズカジュアルやスーツ中心の業態は当然厳しくなってきている。トレンドから外れると一気に落ち込む。ジーンズはメンズでは27~34インチまで揃えなければならないし、スーツに至ってはY体からB体まで揃えなければならないしサイズもさらに増える。厳しい流れの中、細かいサイズはなくなってきたが、それによるアゲインストもある。ライトオンなどのジーンズ専門店やスーツ専門店が厳しくなっているのはサイズによる在庫過多が要因の1つでもある。

DCブームの時、レディスサイズはほぼ9号のみだった。他のサイズに広げると在庫が増え、効率が下がってしまう。サイズの数だけ在庫が増えるからだ。

子供ブランドもDCブームの時、一気に広がったが、トドラーサイズは細かく、なおかつ着る時期が短いので、現在はトドラー中心のブランドは一気に減った。これも在庫リスクによるものが一因だと思われる。

総論を書いたが、いろんな事例も経験してきた。これからも在庫を抱えるリスクについてはどんどん述べていきたい。

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数字を冷静に分析する

少しデータをまとめる用があり、営業面の数字を拾ってみた。対象となる売場は見てないのだが、売り場の状況が見えてきたような気がする。

小売業は「感性」によるところが大きい。特にファッション要素が高くなればなるほどその傾向は強い。思い入れを持って仕入れて、思い入れを持って売っていくからだ。ただその思い入れが強ければ、冷静に商品の流れが見えない。思い入れの強い商品は当然売るために努力する。前面に出したり、演出を強化したりする。ただそれよりも確実に売れている商品があることが多い。

管理系のスタッフが時にデータを拾い指摘することがある。そのデータに冷静に向き合っていけてはいないのが現実だ。

財務会計と管理会計という言葉がある。財務会計は利害関係者に企業活動報告をするためのもので、前向きな経営に関する手段としての会計を管理会計というようだ。会社は営業と管理に分かれているケースが多く、その橋渡しをする部署は少ない。

営業面のデータを見て、感想と原因を羅列していくと、現状が必ず浮かび上がってくる。例えば毎日の売上前年比の流れだけでもトレンドはわかる。

小売業は毎日が勝負で、毎日の仕事は売り場で終始する。月に1度くらいはいろんなデータを集めて、数字を見ていると、見えないものが見えてくる。そしてそれは絶対売り場の問題点の解決につながる。

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地方専門店は残っていけるのか。

昔の形で残っている専門店はまずないのではないか?

まず思いつくのはトラッド系の専門店。「VAN」から始まって「Jプレス」「ニューヨーカー」「エイボンハウス」などと、ちょっとそこからヨーロピアン「JUN」に流れた専門店。トラッド系は「ポールスミス」や「マーガレットハウエル」の品ぞろえに変わり、DC全盛時にオンリーショップになり、専門店としてはもうほとんど見ることはない。

DCブランドは大都市中心にオンリーショップを直営で展開したが、地方ではトラッド系の専門店が「ビギ」「ニコル」中心にFCとして広がっていく。現在はブランド衰退と同時になくなっている。大手のFCであった企業ももうなくなったか規模が小さくなった。

次にジーンズ系。ジーンズの人気に相まって広がりを見せた。が、おそらく在庫の問題や掛け率の件もあり、インポートデニムブームをピークに減少していく。「三信衣料」から「アーバンリサーチ」を立ち上げ脱ジーンズを図ったアーバンリサーチ、「ポイント」から見事に転身したアダストリアが大手専門店に変化を遂げた。地方にはまだジーンズ専門店からジーンズのにおいがするセレクトに変わっていった店は多い。「Bshop」系のセレクトを加えて生き残っている専門店もある。ただエリアでのバッティングや在庫の重さで大きくはなっていけない。

1970年代後半くらいからじわじわ大きくなってきたセレクトショップも、今は完全に「自主MD+買い」に変化して大手専門店チェーンのようになってきている。(「トゥモローランド」だけ別路線に見えるが・・・)地方のセレクト系はファッションに興味を示す客数がダウンしてきたこともあり、大幅に減ってきた。昔は「ファッションは熊本から」と言われていたが、九州も、もうその面影はなくなった。

いろいろ思うところはあるが、規模を拡大せず、売っていきたい商品を、好きになってくれた顧客に売っていくしかないのかと思う。チェーン化を目指しても相当の分析努力がなければできない。ストライプインターナショナルの例を見ても流れだけでは成功はしない。

山口からのユニクロや水戸からのアダストリアのような企業はもうできないのだろうか?

余談ではあるが、私がいろいろお世話になった人が群馬県の桐生市でセレクトショップをやっている。工場をリノベする大きな投資をして「思い」がわかる店を作った。チェーン化しなくても「会社スタッフ」と「お客様」が満足してくれるならそれだけでいいのかもしれない。

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低価格衣料品店

イオンが低価格衣料品店を30年までに240店舗出店するとの報道があった。「ユニクロ型店舗」ということである。

イオンの友人に「トップバリュ」でショップを作らないのかと聞いたことがあり、その時はその意見はずっと構想に出ているが、トップが変わるたびに浮かんだり消えたりしているとのことだった。大きな組織にありがちで、トップが変わると決定が先延ばしになる典型のようだった。

イトーヨーカドーと同様に、イオンのファッションは間違いなく売れてない。イオンモールもイオンで必要なのは「食品」であり、衣料や生活雑貨は大型専門店にしてゾーニングしたほうがずっと買いやすいし、イオン側も効率が上がると思う。

「ユニクロ」型と「無印」型ができると思うが、絶対に優秀で力があり、なおかつ量販店を理解している外部ブレーンを入れなければならない。全体をコーディネイトできる人間が必要だ。

おそらくイオンの商品担当者は衣料では「婦人」「紳士」「子供」、住関連では「リビング」「ハウジング」などに分かれていて、さらにそこから品種ごとに細かく分かれている。それをすべてまとめてマネジメントしていくのは大変な力がいる。しがらみがある人間がマネジメントすると絶対品ぞろえに偏りがでる。

さらに以前イトーヨーカドーで伊勢丹のカリスマバイヤーに商品改革を託したが失敗したように、違うチャネルからのブレーンは危険だと思う。百貨店のバイヤーと量販店のバイヤーは全く仕事内容が違う。アイテム単位の商品の知識はおそらく量販店のバイヤーのほうがレベルは高い。ただファッション全体に対しての視野は狭い。

売り場づくりも、ローコストですると失敗する。ユニクロの売り場はローコストに見えて金はかかっている。売場内装を乃村工芸社や丹青社が担ってきたことでもわかる。ビジュアル面に気を使っている。ある程度マニュアルができればコストダウンができるが、そこまでイオンが我慢できるか?

店名も「トップバリュ」では厳しいと思われるし、イオン臭さを消す必要はある。

どんな店ができるのか楽しみではある。

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