月: 2024年5月

GMSは再生できない

「イトーヨーカドーが総菜で経営再建」というテーマで先日「ワールドビジネスサテライト」に数分間流れた。概要の一部だろうが、コメの質を変えるなどして総菜を強化していくとのことだ。食品売り場は変化してきており、所謂「ダブルコンコース」が広がり「生鮮+総菜」で差別化を図る戦略はどこの会社でも推進している。それでGMSの経営が再建できるのだろうか?

まず食品強化ということだろうが、SMの競合各社のレベルは相当上がっている。近隣に「ヤオコー」や「マルエツ」があるが大型モールのGMS(イオン)と比較すると商品力は格段の差がある。生鮮3品や総菜は完璧にSMの勝ちで、午前中に行くとイオンの生鮮の品揃えの遅さが際立つ。グロサリーやデイリー商材は売り場面積が広い分品揃えの幅は広いが、そこまで嗜好品を求めなければSMのほうがはるかにいい。なぜ大型モールに行くかといえば、まず駐車場が広くまとめ買いがしやすい事。さらに食品以外に定期的に見るテナントがある事だと思う。

前回書いたが、一定規模の駐車場があり、定期的に見ることができるテナントがあれば、NSC(ネイバーフッドSC)でもGMS(コミュニティSC)でも構わないと思う。つまりGMSに必要なのは当然SMに勝つべく食品と、定期的に見たい日常的なテナントが網羅されているかにかかっている。

イトーヨーカドーは「衣料品をやめテナントに変える」と当初発表していたが、現状はアダストリアと協業で「ファウンドグッド」を積極的に導入している。まずテナント導入についてはこのブログでも「できない理由」を上げた。おそらく賃料が合わなかったことと、売場の形状がテナントに向いてなかったことが原因だと思う。イトーヨーカドーという高収益体質の会社が賃料をどこまで譲歩できるかが課題で、賃料を下げなければテナントは積極的には出店しないと思った。賃料が譲歩できれば入るテナントはあったはずだ。さらにGMSはオープン年度によって、区画や仕様が変化してくる。古いGMSは天井高や導線が今のSCとは全く違う。天井の低い古いイトーヨーカドーに今のテナントはまずリーシングできない。アダストリアも自社ブランドなら出店しない店にも出店せざるを得ず、「ファウンドグッド」も売上にばらつきが出ると思う。その他のGMSの衣料品に関しても、イオンも坪売上10万もいかない衣料品を続けている。売場を新しくしても完全にお客様目線からずれている。

投資対効果で可能性は低いのかもしれないが、一度ユニクロや無印良品、ABCマートなど来店モチベーションが高いテナントと話し合って、建物の構造をどう変化すれば出店が可能かヒアリングすればよい。アリオに出店しているテナントと話し合えばいい。天井高や区画の形状を変えるのにいくら投資が必要か算出して、再度テナント誘致をするべきだと思う。

最後の手段は今のGMSの顧客をミドルレンジから、値段を意識する顧客に変更することだ。そのターゲットのテナントなら誘致できるはずだ。いつまでも減りつつある「中流」を中心顧客に据え続けているから再浮上はしない。なぜGMSが終わりそうなのかを冷静に考えればいい。

イトーヨーカドーの「食」の改善、イオンの「衣料」の改善、ともにお客様が見えていない。

■今日のBGM

ヤオコー マルエツ ダブルコンコース NSC GMS イトーヨーカドー イオン ファインドグッド

ファイブフォックス

ファイブフォックスの会長だった上田稔夫氏が亡くなられた。ファッション業界に一時代を築き上げた人物だ。ファイブフォックスはDCブランド全盛期の「コムサデモード」「ペイトンプレイス」などを展開していたファッション業界の大企業で、2000億超の売上で経常利益率もピークは13%あったとのことだ。

ファイブフォックスは黒を基調にしたモードファッション「コムサデモード」がメインブランドで、少し宗教染みた会社というイメージが強い。開店前に大きな声でスタッフ全員声を合わせて挨拶をしていたのを何度も見た記憶がある。商品の中に台紙を入れて同じ大きさに合わせて商品整理を徹底し、VP(演出)はモノトーン基調で固めており、さらに店内音楽はビートルズで統一していた。上田氏はファッションビジネスで大事なのは「商品」「店舗」「在庫コントロール」だと言っていたそうだ。全くその通りだと思う。

DCブームの後、 「野菜売り場の近くに大きな店を出せ。」との大号令で、「コムサイズム」を立ち上げ、脱ファッションビルで大型モール(GMS)に参入したのもファイブフォックスだった。「野菜売り場」はお客様が必ず通る。つまりデイリーのお客様の目につく一番の場所にファミリー市場の店を出した。この業態はファッション業界の常識を覆した。これが今のモールのファッション大型区画のスタートだったと思う。

昔の仕事柄、各ブランドの開発担当者と打ち合わせをしていたが、ファイブフォックスは冷たいイメージが強く、特に弱いデベロッパーには強気だったような気がする。売れているブランドはえてしてその傾向が強いが、大手だった「ビギ」や「ニコル」よりその印象は強い。それだけブランドの位置づけを大事にしていたのかもしれない。

コムサブランドはモードテイストの黒を基調としたMDブランドで、他の黒基調だった「ギャルソン」や「ワイズ」などデザイナーブランドよりクリエイティブさはなく、店舗イメージや演出、売り方を差別化させて、そこを武器にお客様を引き付けていたと思う。ただ、やはりモノトーンのMDブランドとして感じられてしまうと、ブームが去ると厳しい状態になっていった。現在年商が200億くらいということだが、それでもすごいと思ってしまう。売り上げの中心は「コムサフィユ」(子供服)ではないかなと思う。

商売哲学の「商品」「店舗」「在庫コントロール」については記事を読んで初めて知ったが、「商品」は小売業では共通だが、「店舗」「在庫」を意識していたことには共感する。あのレベルまで売場のイメージを固めてしまうと逆にマイナス要素になるかもしれないが、「おたたみ」のマニュアルや演出は驚かせた。コムサ憲法と言われるマニュアルがあると聞いたこともある。環境面を含めた店舗マニュアルは必要だと思う。「在庫」に関しては常々私自身も商売の基本だと思っているので、このブログでも一番ページを割いている。ファッションビジネスで大事なことと言っていたことには強く共感する。

改めて、デザイナーブランドでなくMDブランドで年商2000億まで育て上げた力量には時代背景もあったが、「すごみ」を感じる。

ただ、私はファイブフォックスの服を自分用には買ったことはない。

■今日のBGM

ファッション店舗は激減している

先月、知り合いの会社が株式譲渡された。ファッション小売店舗だが、一時は大型モール(RSC)中心に50店舗以上展開していた。譲渡時は10店舗を割っていたそうだ。大型モールは増えたがファッション関連の店舗は激減しているのではないか。個別にはMDや販売体制の問題もあるが、それ以前に店舗数が減っている。大型モールにファッションのニーズが少なくなっているのかもしれない。

大型モールの国内最初はどこか難しいが、現状のモール型は2000年のダイヤモンドシティキャラ(川口)がスタートのような気がする。その後、従来のGMSには入店しなかった「ワールド」「イトキン」「オンワード」など百貨店系メーカーや「サンエーインターナショナル」などヤングファッション系ブランドがディフュージョンブランドを大型区画で展開し、新しいモールのイメージを強めた。そこから20年経過しGMSを消滅させ、今は全国どこにでも点在している。つまり大型モールを引っ張ったのは都心から郊外へ広がったファッション店舗の力が大きい。

その当時立ち上げた「ワールド」のブランド「ショップTK」や「オペーク.クリップ」などは激減し「ハッシュアッシュ」はなくなった。イトキンの「avv」もほとんど見ないし、オンワードも「エニーファム(エニシィス)」もあまり見ない。サンエーインターナショナル(現TSIホールディングス)の「ナチュラルビューティベーシック」も大型モールへの出店スピードはダウンし、「&バイPD」はなくなった。いずれもメインフロアの大型区画にあり、大型モールの顔だった。

カジュアル系ではユニクロの国内店舗数は2019年817店が2023年に820店、同じくGUが421店から463店と大きな変動はない。アダストリアは国内2017年1220店から2023年1509店と増えている。大型ショップはほぼ横ばいだが、一世を風靡したストライプインターナショナルが2017年1400店から2023年には700店舗と半減している。ライトオンも2017年513店が2023年には373店に減少している。多くのカジュアル系の店舗は激減しており、それに代わって古着や値段志向の強いショップがやや増えてきている感はある。

逆に、1階のSMの近くには食物販のテナント、上層階には「100均、300均」や「携帯ショップ」など所謂「その他」業種の出店が増えている。さらに店舗の大型化が進んでおり、ユニクロや無印良品、ABCマートは増床出店が多い。どちらかというと必需品を大型化させているイメージは大きい。

ファッションが商業施設のイメージになる事は間違いない。新しいブランドを探し提案できなかった百貨店は、顧客年令が上がり衰退した。GMSも同様にお客様の年齢が上がって、デイリーウェアの品揃えの年齢も上がり、30代から50代の顧客を大型モールにとられた。中心客層が上がっていけば大型モールも同じ流れになる。すでにお客様は商業施設の使い分けはできている。新しいファッションの流れや新しいショップを探して導入していかねば間違いなく衰退する。常に新鮮であり続けなければ商業施設は淘汰されていく。

■今日のBGM

NSC(ネイバーフットショッピングセンター) 2

平成3年度統計で年金受給者数は4023万人いるとのことである。人口の30%を占め、その1家庭当たりの年金額は22万496円となっている。さらに「老後2000万問題」もあり貯金の取り崩しで生活している。ただ「食」に関しては最低限必要品でニーズは落ちることはない。

近隣にヤオコーが出店した。駅前の高級マンション「プラウド」の1~5階の1画に入店し、専門店は16店で、延床面積は2200坪(ヤオコー950坪、5層)となっておりヤオコーの初年度売り上げ目標は26億と公表している。商圏は1km圏5.4万人、2Km圏17.7万人、3km圏33.3万人という恵まれたエリアではある。ただ近隣(100メートル圏)にマルエツが2店もあり、駅ビルに食の専門店が多数入店している。

消費支出は伸びているが物価高騰に食われ、消費数量が減っている。2023年消費支出は1.1%の増加だが物価変動が3.8%あり実質は2.6%の減少と家計調査報告にある。おそらく状況は変わらない。給与が大企業中心にアップはしたが、物価に釣り合っているのだろうか?特に「食」に関しては毎日需要するもので支出を減らすべく、「オーケー」や「ロピア」などの格安スーパーに人気が集まっている。季節や輸入コストで値動きが大きく値段志向が強まっている。高年齢化もあり買い物は1部の富裕層を除くと「食品」中心の流れになってきている。

ヤオコーは35期連続増収増益で、SMの超優等生だ。私も食品売り場を持つビブレの店長時代、南古谷のウニクスを見に行って勉強させてもらった。提案型のSMの印象が強かった。おそらくSMとしてはどこにも負けないのではないかと思う。ただ食品以外をどうとらえていくか。NSCとしてのテナントのラインアップは何を優先しているのかと思う。今回の高級マンションと言われる「プラウド」への出店のテナント揃えはこれでいいのかとも思う。

ヤオコーが狙うべき客層の「衣料」、「服飾」、「雑貨」のニーズは何なのかを考えると、値段志向一点ではない。ある程度の感性を持ち合わせている。今回のテナント揃えは何を優先したのかと感じる。「賃料」で選んだようにも見える。飲食やクリニックモールを除くと「セリア(100均)」ドラッグ、買取大吉、パリミキ、ダンススタジオ、コンタクトアイシティなどで高層マンションに囲まれた駅前物件としてはコンセプトがない。3階1フロアを「無印良品」にするだけでSCが締まってくるように思う。ほかにもそういうショップは探せばある。「3コインズ(メガ版)」やダイソーの大型ショップもある。もう少し規模が必要だが「ユニクロ」もありだ。さらにアダストリアは絶対NSC、CSC向けのブランドを模索している。テナントが固定賃料の高さを嫌がるなら、「低い固定賃料+売上歩率」にしても売上額で賃料はカバーできると思う。

優等生の食品SMだけで戦うより、SC全体で戦えばさらに相乗効果が出ると思う。過剰な数の大型モール(RSC)がもう厳しい状況にあるので、NSCの成功タイプを早急に確立すべきのような気がする。

■今日のBGM

売場環境の維持…レイアウト・演出他

出店が決まると、売場図面の作成になる。店がオープンしてからもレイアウトや演出は売場の鮮度を見せる意味でも、大きなポイントになる。

レイアウトや演出も開発部中心に本部主導になっていることが多いが、間違いなく営業(特に店長)が中心になるべきだと思う。やはり「何を売りたいか」「どうやって売っていくか」は販売計画の基本で、それは現場により近いところで進めて行かなければ売場に「魂」が入らない。完全に店は作業だけで本部主導ですべて決定していけるのは、組織がきちんと機能している優良企業のみではないかと思う。ただ店に対するモチベーションアップの切り口は絶対に必要で、優良企業でも何か店が起因するプランもあると思う。

ストアメイキングマニュアルは各社にあると思うが、それは理想像に過ぎず、ほぼマニュアル通りにはならない。演出の仕方や陳列の仕方のマニュアルは当然あっていいが、最低限すべきことだけでいいと思う。例えば主通路の通路幅やサブ通路の通路幅、最高陳列量、最低陳列量など売り場を作るにあたっての基本を徹底し、あとは店に任せればいい。過去大手小売業で有名なコンサル会社を利用してVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)を推し進めていたが、成功したとは聞かなかった。(すぐ崩れたので失敗だったと思う。VMDではなくVP(ビジュアルプレゼンテーション)に過ぎなかった。)やはり売場作り、演出も現場に近いところで進めるべきだ。

最後に、売場環境で一番大きなポイントになる内装だが、内装には大きな経費が掛かり収益に直結する。素材の値段も上がっており、人的コストも上がっている。簡単にいうとローコストでインパクトある内装がベストだが、安い原価の商品をなかなか高く売れないのと同じで難しい。商品の値段が高ければ高いほど、売場のグレード感は必要だが、商品がボリュームゾーンであれば値ごろ感ある内装であっていいということはない。多店舗展開の店は当然売場区画の大きさや商品アイテムや商品ボリュームも大きく変化しないので同一イメージ、レイアウトが望ましいが、店舗数が少ない店やエリアに複数店持たない店は、できるだけ印象に残る内装が欲しい。友人の店で作業足場を組んだ店や、鉄骨むき出しの店など工夫した店は面白かった。什器以外でも映画や音楽のテーマで売り場のイメージを出すなど考えることはできる。お客様に商品だけでなく興味を持ってもらうべき店にしてほしい。

近頃SCを見ていると、興味を持つ店が全くなくなってきた。どこに行っても同じ店があり、その傾向が強いので「わざわざ感」を持てない。デベロッパーのリーシングの面白さがなくなってきているのが最大の原因だが、実はテナント側からも興味を持つようなインパクトがなくなってきている。ファッションビルのデザイナーブランドの内装インパクトまでは必要ないが、MDも含めて興味を持てる店がなくなっている。逆にテナントゾーニングで「こんなところになぜ?」と思う店は多い。その多くはショップとゾーニングがあっていない。

出店する側も冷静に出店環境を精査し、お客様を引き付ける店づくりを考えていくべきだ。

■今日のBGM

売場環境の維持…売場開発

売場環境を整える第一の問題は、出店場所を間違わないことになる。どこに、いくらの賃料で、どういう売場にするかを適正にジャッジする必要がある。

まず、自店をよく知っていること。自店の成功例、失敗例を列挙していると自ずとどこに出店すればいいか、やめたほうがいい区画かが、わかってくる。さらにその店舗環境(近隣テナントとの相性、フロアやエリア、区画の形状、大きさなど)でおおよその売上は読めてくる。

以前の会社ではモールの3階はほぼ失敗したし、小型店での失敗例も多く、小型店で開発した新ショップの既存店はほぼすべて退店し、新ショップでの出店は取りやめた。

さらに自店を知る上では、現状の既存店毎の数値状況も当然理解していかねばならない。自店の売上、収益予測は状況を理解した上作成し、それは当然賃料交渉時に必要になる。つまり提示賃料が収益上どう影響するのか計算する必要がある。売上と利益は当然ながら人件費や家賃、その他経費を考えればどれくらいの営業利益が出るかを計算する。過去そのエリアの責任者には契約内容を加味した損益計算書を契約年数分時系列で作成させた。さらにそこに当然投資が入ってくる。簡易的に予測損益を計算していたが、投資に対しての経費率は10~20%で初年度経費計上し、資産計上分は概略で残投資額の35%を減価償却費として毎年の収益予測に計上した。その計算で契約期間の収益を計算していた。SCからの条件で当然収益基準に満たなければ条件交渉するし、合わなければいい物件でも出店はしない。おそらくこの数字が一番の出店根拠になる。

もう1点必要なことは、開発担当者はいろんなSCをどれくらい見ているか、そこに出店しているテナントのMDや状況をどれだけ知っているかは絶対必要だと思う。SCを多く見れば見るほどそのSCの状況がわかってくる。リーシングに対しての優位性はSCにあるかテナントにあるかもわかってくる。出店要請された場所の隣接するテナントやゾーニングされたエリアは、どういうメンバーなのかで当然売り上げは変わってくる。SCを多く見てくると相性のいいテナントや相性のいい場所がわかってくる。さらにはデベロッパーも知る必要がある。デベロッパーとの相性もある。以前書いたが、同じイオンのモールでもイオンモールとイオンリテールでは窓口の対応が全く違う。さらに近年多い証券化されたSCとの交渉は、商売の話ではなく完全に不動産契約の話になり、土俵が違うため会話が全くかみ合わないことが多い。私自身SC側にいてリーシングもした経験もあるので、SCとの相性の違いも理解できる。

出店はきちんとした数字を見たうえで検討すべきであり、独断的にやるものではない。当然結果的にそうなっても、反省としてきちんと履歴を残すべきだと思う。

・・・実家に寄ったついでに大阪と福岡に行った。非常に楽しかったが、結局飲みに行っただけだった。

■今日のBGM

本当に景気は上向くのだろうか?

GW期間中に近くのモールに買い物に行ったが、例年通りか、少し少ない集客だったように思う。行楽もあるし普通の土日よりも客数は少ない。

賃金を上げれば消費につながり、景況感は上がっていくと報じられている。経団連や同友会が給料を上げて引っ張っていくと言っているが、国民の労働者の大企業に占める割合は30%弱であり、大企業の下請的企業は中小企業の50%弱を占めるという。当然コストを下げると中小企業に跳ね返ってくる。円安の流れで輸出企業のメリットは大きいが国内向け企業は厳しくなる。「国外向きに会社の方向性を変えるとチャンスだ。」と経済評論家はいうが、そうするには相当の労力が必要になる。つまり労働者の70%の中小企業労働者の景気の恩恵にはしばらく時間はかかる。さらに年金受給者数は平成23年度で3600万人超となっており、総人口の約30%が賃金アップの対象ではない。

前向きな意見は多いが、後ろ向きに考えればいくらでも不安要素は出てくる。事実小売業の売上の上昇機運は低く、インバウンド需要や高所得者層以外に好調要素はなかなか見当たらない。特に中小企業はコロナのゼロゼロ融資の返済が始まり、友人の会社もM&Aをしたり、廃業したりしている。

4月の月次売上速報を確認すると、日祭日1日減でも前年越えの企業は多い。特にファッション系は気温が上がり初夏物の流れが良かったようだ。確認できた中では既存店売上で、ユニクロ前年比118.9%、ユナイテッドアローズ112.3%と2桁増の好調な数字となっている。ただユニクロは今期期首からの累計では99.3%とまだ前年未達となっている。ユナイテッドアローズも年度で見ると先月までの1年間で小売既存店は100.3%と大きくは伸長できてない。数字の流れが悪いジーニングカジュアルのマックハウスはレディス強化で95.5%と少し上向き、ライトオンは状況変わらず82.7%となっている。

大きなヒット商品もない現状、「総中流」の流れは完全に終わっている。大部分がユニクロで商品を納得して買っている現実の中、価格対応ができてない店はせめて付加価値のある環境(売場内装、演出など)を作って付加価値を感じさせる商品を売っていくしかないのではないだろうか?

また、当たり前のことを書いてしまった・・・ 毎日、新聞を読んでいるとずいぶん景気が良くなったように書いているけど、やはり読み物であって、暗い気持ちになる記事は避けているように感じる。新聞社も企業だし、悪いことはほとんど記事にしない。毎朝明るい気持ちになるほうがいい一日になるからかな?

■今日のBGM

利益率は商売の結果であるべきだ

前回書いた研修のプログラム「基本的数値の教材」の最後は「商品の回転率、回転日数の意味すること」で終わっている。「商品回転率が高く、回転日数が短いと不良在庫の発生が少なく、仕入れ活動がしやすく、新商品の導入や気候変化に柔軟な対応ができ、売場が新鮮になる」とまとめている。これが私自身の商売の基本にもなっている。

商売は現状COD(キャッシュオンデリバリー:金を支払ってから商品を納入すること)はほとんどなく、支払いサイトは現金払いでは一般的に月末締め月末払いでスタートが多く、最長2か月後最短1か月後の支払いになり、平均すると45日後の支払いになる。伸ばしても2か月後には支払いになる。(近頃手形払いはあまりないのでは?)つまり商売の理屈では商品を2か月で現金にして代金を払い、その差額が利益になるということになる。資金がなければその流れを繰り返して手持ち資金を蓄えていく。資金が回ってくれば銀行から融資もあるし、規模を広げていける。

PB商品や取引先との別注商品などが増え、「買い」の商品が減ってきているので原価率も下がり、回転日数が増えても利益には響かなくなってきているが、やはり回転日数が増えれば売場の鮮度感がなくなってしまう。つまり売場に変化が見えてこず、売場のイメージが変わってこなくなる。

回転日数の悪い商品をなくすために、商品の値引きをして販売する。値引き販売をすると利益は当然下がる。値引き販売をしなければ不良在庫が減らないし売上金が入ってこないので、新しい商品を仕入れられない。規模が大きくなってくると、利益を落とせなくなって、その状態で仕入れを続けてしまう。回転日数が増え、悪循環の始まりになる。どうしても利益率優先になってくる。しかし、ここで計上された利益率は実態とはかけ離れている。

イオングループから離れてファンドのもと再生を図るタカキューの2024年2月期決算の数字を見てみる。営業状況はわからず、あくまでも数字だけだが、利益率は61.4%(前年差;+1.5%)回転率3.00(前年3.36回転)売上高100.3億(前年比83,7%)となっている。前年の純損失は10,5億で、今年は店舗大幅減で人件費と家賃の削減で10億以上改善して約1億の損失になっている。現金は11億(しかない?)で債務超過は続き、危険な状況には変わりない。

回転率年3.0であれば1カ月0.25回転になる。4000万の商品で月1000万の売上を作っていることになる。支払いサイトを長く見て90日後支払いで設定しても、回転率は月度0.33回転しなければキャッシュは回っていかない。リストラにより規模縮小があり売上は減っているが、回転率は悪化しているので商品は売上に合わせて減っている状況ではない。商品が売れなければ商売にならない。利益率61.4%あっても売れなければ利益にならない。最近の専門店決算でも利益率はユニクロ51.9%、アダストリア55.3%、スーツ業界では青山51.1%、コナカ58.0%となっている。つまり売上は上がってないのに在庫は多く、利益率は高いままという構図が見えてくる。なぜ値段を下げて、売れてない商品を減らそうとしないのだろうか?

利益率を上げていくのは当然企業としての大命題だし、そこを目指していくことは当たり前のことだ。ただ売上を上げていくことがさらに優先されるべきであって、そのための手段として値段を下げて売っていくことも当然ある。商品が売れて消化されることによって、新しい商品を入れるキャパができる。そうすることがあって売場が変化し新鮮になっていく。

利益率は当然高みを目指していくべきだが、努力した商売の結果で算出された利益率こそが本来のあるべき姿だと思う。

■今日のBGM