最低賃金の引き上げで、全国加重平均の時給は1054円になるとの報道がある。いよいよ小売業は大企業しか生き残れないかもしれない。

小売業は「立ち仕事」「土日休みづらい」などの理由で人材不足は続いている。過去の経験から、欠員が出るたびに募集をするが、なかなか応募はこない。年々厳しくなっている。今回の引き上げで今まで時給850円が最低賃金だったエリアも時給900円近くにアップする。ただ時給900円で募集しても間違いなく来ない。おそらく募集相場は時給1000円近くになる。受け入れ側の問題も当然あるが、時給を最低賃料に近づければ近づけるほど定着率は低くなる。そのたびに募集経費は発生する。さらに募集時給を上げることで当然既存のスタッフの給与も上げなければならない。さらに賃上げ分は当然賞与にも加算される。

会社は、給与に加えて社会保険の負担分の50%を支払っている。健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料あわせて約30%の個人負担分の半分15%相当(都道府県により変化する)を負担している。さらに今年の10月から51人以上の会社も週20時間以上の従業員にも社会保険を適用することが義務化されることになっている。

会社にとっては、経費負担がどんどん大きくなっている。

新聞の社説などを読むと、中小企業も賃金引き上げに伴ってシステムの導入を進めたり、省力化の努力をするべきとの意見がある。労働集約型の小売業で、さらに接客ウエイトが高い専門店はどう対応すればいいのだろう。後方の人材を減らしていくしか頭に浮かばない。おそらく後方部隊の経費は最低限まで落としている。どうやればいいのか具体的事例の提案が欲しい。こういう他人事のような意見は必要ない。

人件費を吸収するには売上を上げるか、利益率を上げるかになる。コロナ以降、売上が伸び悩んでいる現状を考えると、売上確保より利益率を上げていく流れにはなる。利益率を上げるにはどうするか?オリジナル商品を増やして商品の原価を下げる。つまり企業商品を作ったり、取引先との別注商品を作ったりして、原価率を下げ、それを販売する。その商品を拡販することによって利益率を改善していく。しかし、それを中小企業がやっていけるか?取引先との別注商品を作るにも、商品コストを下げるのだからある程度の数量が必要になる。そして当然全品引き取りになる。店舗数が少ないと当然1店舗あたりの在庫が増える。売れなければ逆に利益ダウンの要因になる。経験上オリジナル商品を作るには最低40店舗くらいの店舗数は必要だと思う。中小企業でオリジナル商品を作るにはリスクは大きい。

「買い」の商売を続けるにも、現状ほとんど海外生産商品で、為替の問題もあり、取引先の利益も考えると商品原価は上がり、従来の値段を維持しづらい。値段を上げると売れなくなるし、値段を維持すると利益が上がらない。

おそらく、賃貸物件で償却もしなければならない店が5店舗以内の小売業は相当厳しくなってくる。いよいよ小売業は大企業しか生き残れない。

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