月: 2025年1月

大型モール(RSC)の寿命 2

前回、標題について少し納得いかない気持ちで書いていた。大型モール(RSC)が多すぎるということが大前提ではあるが、理想のテナントゾーニングも大きく変化があるのかもしれない。「ファッションビルがなくなりつつある」のブログの中で年齢別人口について書いているが、その構造は大きく変化しており、客層の変化がRSCの寿命にも影響があるのではないかと考えられる。

RSCの開発が進みだした2000年と一昨年2023年の年齢別人口を見てみる。(単位:万)

0~14才 2000年 1850 構成比14.6   2023年 1417 構成比11.4:

15~29才 2000年 2575 構成比20.3   2023年 1821 構成比14.6

30~49才 2000年 3366 構成比26.5   2023年 3031 構成比24.4

50~64才 2000年 2696 構成比21.2   2023年 2544 構成比20.5

65才以上 2000年 2204 構成比17.4   2023年 3623 構成比29.1

まず顕著なところでは65才以上(所謂年金世代)の人口を見ると、2023年は2000年の人口が164.4%と増加し、人口構成比も大きく上昇している。ちなみに2023年最も多い年代層は65才以上で、2000年に最も多い年代層は30~49才となっている。人口構成比も2000年はRSCでのメインターゲットの30~49才を中心にきれいに分布されているが、2023年は高年齢層に引っ張られている。つまり、2000年は本来の「お母さんと子供たち」だったのが「おばあちゃんとお母さん」に変わったというイメージがある。

29才までのヤング層は総人口も73.2%まで落ち込み、特にRSCでの購買動向も弱いのでティーンズヤングターゲットの店舗は当然厳しくなる。そうなると高年齢層が大幅に増えている現状、可処分所得は間違いなく減ってきており、値段を打ち出していく商売は当然のように増えるし、そこが集客のポイントになる。食品以外では高年齢者でも違和感ないファッションで値段志向も強い店舗が賑わう。今売れているRSC内の大型店はすべて当てはまる。

高年齢層が増えると、車での来店手段も減っていく。つまり、商圏は当然狭くなり、買い上げ点数も減ってくる。さらに所得も減るので実需品へ流れが強くなる。本来RSCが求める広域商圏で時間消費型ではなくなってくる。

では今後SCの流れはどうなるのだろうか?所得が減っていく高年齢層も取り込めるSCに流れていくような気がする。当然商圏は小さくなる。従来のGMSなどの立地でMDを変えていったコミュニティSC(CSC)や食品SM中心のネイバーフットSC(NSC)が再度活性化する気がする。消え行くGMSは画一的なレイアウトで効率を考えた売場に魅力を感じなくなっただけだと思う。価格志向のSMは媒体でも多く取り上げられている。衣料品でも「ユニクロ」「GU」は人気だし「しまむら」や「西松屋」などの大型店も好調を続けている。「ニトリ」や「無印良品」などの生活関連の大型店も業績はいい。そういったテナントをうまくミックスすれば高年齢化にも対応できるように思う。

大型モールはあまりにも乱立しすぎている。RSCの周りにCSCやNSCがあることが、本来のあるべき姿だと思う。各大手小売業も収益構造が変化している。多すぎるRSCをどう変えていくかが企業としても大きな問題になってくると感じる。

■今日のBGM

大型モール(RSC)の寿命

近隣でもあり、営業状況が厳しそうな「イオンモール川口前川」の退店店舗が非常に多い。HPを確認すると大型店舗の「GAP」や「須原屋書店」をはじめ「バナナリパブリック」「ロデオクラウン」「アクシーズファム」「ヨギボー」など17店舗となっている。各テナントとの契約満了時期とも考えられるので2月度もさらに増えそうな気配はある。

日本のRSC(大型モール)は1981年に三井不動産が「ららぽーと船橋」を開業したのがスタートだと言われている。ただ、その後のららぽーとは2004年の「ららぽーと甲子園」までRSCを作っていない。私は、その後イオン(ジャスコ)と三菱商事とで設立されたデベロッパーの「ダイヤモンドシティ」が日本の大型モール(RSC)の基礎を築いたと思っている。今はイオングループでイオンモール(AM)となっているが、その最初のRSCがダイヤモンドシティ「キャラ」(現AM川口前川)である。イオンも単体で1999年にAM倉敷,2000年にAM成田、岡崎、高知をオープンさせているが、RSCとしての考え方は、その当時いろんな打ち合わせをした経験から、「ダイヤモンドシティ」があるべき姿を追求していたと思っている。

AM川口前川もすでにオープンから25年を経過しようとしており、建物自体の老朽化が感じられ、さらに増床を重ねてきた売場の使いにくさも顕著になってきている。そして従来想定された商圏にいろんな商業施設が出てきており、競合が激化している。致命的だったのは1.5Km圏に売り場面積5.9万㎡のAM川口がオープンしたことだと思う。もともとあった小型SCを増床させ2500台の駐車台数、150店舗でさらにAM川口前川にないシネマもある。AM川口は必ずしも成功しているとは思えないがAM川口前川には大きなダメージはあったと思う。さらに5Km圏にはアリオ川口、AM北戸田、10Km圏にAM浦和美園、新都心コクーン、15Km圏にAM与野などの大型競合施設があり、20Kmまで広げると越谷レイクタウンやららぽーと富士見など国内最大級の商業施設がある。すべてAM川口前川の後発であり、商圏がどんどん狭められている。さらにテナントMDも苦しんでおり、狭商圏化と老朽化で、新しく買いやすくなった他のRSCに流れてしまっている。そのため厳しくなったRSCの特徴の「その他、サービス」業種のテナントがどんどん増えていっている。

RSCの創成期から見ているが、RSCの寿命は30年くらいのような気がする。特に日本では中心になるイオンモールの劣化が目に付く。2000年代前半にオープンし好調だったイオンモールは、もうピークの7掛け以下の売上になっていると思う。近年は、規模に走っているのか出店数が多く、AM同士のバッティングも多くみられる。上記したAM川口前川の20km圏でもAMでの競合が4SCもある。2核1モールでほぼ似たような構造であり、MDも大きな変化はない。変化のないMDには安定感はあるが、新鮮なイメージは見えない。「ららぽーと」が新鮮に見えるのは、SCの環境コストも高く、MDも新鮮味があるからだ。そのため、商圏内にあるAMとの差別化が明確になっている。(出店計画は意図的にかどうかわからないがAMより少ない。)つまりAMは、MDも標準化されており、環境レベルも同様で面白みがなくなっている。前述した「ダイヤモンドシティ」にはMDや環境にも冒険的なことや面白さがあったような気がする。デベロッパーという意識が強く、小売業とは違う感性が見えたということかもしれない。「ららぽーと」もやはり同じ匂いはする。

GMSもそうだが「利益」に走るあまり、面白みがなくなっていく。冒険にはリスクが伴う。リスクを持つ反面、鮮度はあがる。余談になるが、以前絶好調だった関西のあるAMのGM(支配人)に出店依頼した時に「このAMは梅田のルクアと同じくらいの売上ですよ。」と全く相手にされなかったことを思い出す。その同時期に西宮ガーデンズの部長は店を見に来てくれた。出店はかなわなかったが姿勢の違いは感じた。

RSCは間違いなく衰退期に入っている。もう一度新しいものを作り出していく気持ち、今あるべき理想の商業施設を作り出す熱意を持たないと、どんどん寿命は縮まる。

イオンモールからイオンのGMSを追い出すくらいの気概は欲しい。

■今日のBGM

無印良品についてちょっと考えてみた

前々回に、好調専門店の動きについて書いた。特に出店立地について「無印」と「ユニクロ」は必ずしも大型モールに優先的に出店せず、会社の方向性を考えて動いているのではないかと書いた。その時少し気になったことがある。

2024年度の「無印」の決算は売上前年比113.8%、営業総利益率50.8%(前年差+4.7%)と営業数値を大きく改善させ増収増益となっている。ただ商品回転率は2.27回転と低く、前年回転率を―0.09回転下回っている。「無印」は、こんなに回転率は低かったのかと少し驚いた。

常々、小売業は「在庫」が商売の一番のポイントだと言っている。営業面では「売上」「利益」「在庫」が抑えるべき3本柱になる。原価率を下げれば(単純に売価を上げることもできる)必然的に「利益」率は上げることはできるし、売れている商品の値段を下げて量販すれば「売上」は上がる。「在庫」が多ければ、売場が変わらないし、動けない。そのバランスが商売のポイントで、一般的な会社は在庫が多いと、商品を仕入れる金がショートしてしまう。つまり売れる商品を仕入れられない。

「無印」の商品回転率2.27という数字について少し説明する。年間に商品が入れ替わる回数が2回強ということで、平均として商品は半年たてば売れてなくなるということになる。衣料関係でいえば夏物は4月に入荷してなくなるのは10月になり、冬物は10月に入荷すれば4月になくなるということになる。これでは、いつまでも季節外れの商品が残っている。季節商材は四季があるので、簡単にいえば年4回転は必要になる。2回転では売場に鮮度が出ない。さらに「無印」は自社商品が多いので必ずしも当てはまらないが、一般的に外部取引先への支払いは、遅くても入荷して3か月後にはなる。つまり6か月後に売れる状態なら、売れる前に支払いが発生する。キャッシュフローに影響が大きい。回転率2.27という数字は、中小小売業では危機的な数字になる。

少し「無印」の決算をさかのぼってみた。コロナ前の2018年決算では売上は2024年比で57.2%しかないが在庫は51.2%で、回転率は2.56と2024年+0.29となっている。ちなみに利益率は50.4%で-0.4%となっている。2010年までさかのぼると売上は2024年比24.7%しかないが回転率は5.88回転と2024年と比べると+3.61回転と非常に高い。在庫高でいうと10.6%しかない。利益率は2024年比―5.3%となっている。つまり全く違う決算内容になっていることがわかる。15年前の「無印」とは全くMDが変わったということだろう。ここまで利益率が改善できて在庫回転率が悪化した理由は何だろうか?

いろいろ考えてみたが、利益率が高くて、在庫を寝かしておいても値崩れしない商品を増やしたのだろうとしか思いつかない。インテリアやハウジング関連は増えているがその影響を考えると、「ニトリ」の2024年度の商品回転率は4.1回転でそこまで悪化要因にはならない数字だ。その他広がった商材を見ると、レトルト商材やグロッサリー商材、さらにスキンケアなどの化粧関連などがある。レトルト商材は賞味期限を考えると在庫回転率は低くても問題ないし、好評で売れている。化粧関連だが、専業で上場企業の「ハウスオブローゼ」の2024年決算での商品回転率は2.2回転と低い。ただこのゾーンの利益率は高く同社の売上総利益率は71.0%となっている。

「無印」の売場の変化を見ても分かるが、レトルト中心のオリジナルの食品とスキンケアなどの化粧関連の拡大で売上を拡大させ、利益率を改善させている。ただ両品種は回転率が低いため全体の在庫増になっていると予測できる。

「無印」は独自に出店を続けており、600坪型の路面店や、SM隣接型など生活に密着した立地への出店を続けている。3月橿原イオンモールの別棟に8200㎡(約2500坪)の大規模出店も発表された。規模が大きくなればなるほど、商品を増やさなければならず、効率がアップするとは思えない。つまり厳しい商品も出てくる。昔の規模が小さいときには回転率が高かったように、大きくなると当然効率も悪化する。規模を拡大するのなら、一度に大きくするにはリスクがある。これ以上商品アイテムを増やすと回転率はさらに悪化し、商品の鮮度感がなくなっていく。自社リスクでやるのではなく、相乗効果ある業態を持つ会社と組んでいったほうが望ましいとは思う。

3年後くらいに、どういう数字になっているか興味を持ってみていきたい。

■今日のBGM

なくなりつつあるファッションビル

「心斎橋オーパが閉店」との記事があった。「心斎橋オーパ」は大阪御堂筋沿いにあり「オーパ」のフラッグシップ店舗だと思う。ファッションビルと呼ばれる10~20代をメインターゲットにしてきた商業施設はどんどん姿を消している。

ファッションビルを調べてみると、「衣類や雑貨などファッション関連を取り扱う専門店を主なテナントとするショッピングセンターの一種」とある。近年はターミナル駅にある駅ビルもそのカテゴリーに入っている。諸説あるがファッションビルは西武グループが池袋でスタートさせたと言われている。特に渋谷カルチャーを作った、パルコパート1、2,3、クワトロの4館体制は、街づくりや、ファッショントレンド、若者文化を発信していった。1980年代には「デザイナー&キャラクターブランド」(俗にいうDCブランド)ブームが起こり「ラフォーレ」や「マルイ」を中心に広がっていった。1990年代からは「ギャルブーム」が始まり「渋谷109」は聖地になっていった。

グループでいうと前述した「パルコ」が現在でも一番存在感はある。ネットで見ると現状16店舗(松本が閉店で15になる)となっている。それでも閉店した店も多く、上述した渋谷も3店なくなり、宇都宮や千葉など10店舗程なくなっている。イオン系では「オーパ」が14店舗(心斎橋が閉店で13になる)。オーパもネット上では8店舗程閉店している。同じくイオン系では「フォーラス」は金沢1店舗になっており、好調だった仙台を中心に「オーパ」への業態変更もあり6店舗なくなっている。「ビブレ」は23店舗あったが(東北の別会社を含めると31店)イオングループ下でフォーラス同様「オーパ」への業態変更もあり現状2店舗となっている。かつては各主要都市に必ず1つはファッションビルが存在していた。

20代中心にファッション動向が変化したのだろうか?まずターゲット年令層が大きく減っている。年代層別人口を調べると1995年は15才~29才までの人口が27241(千人)で全体構成比では21.6%を占めていた。それが2023年には人口は18209(千人)で構成比は14.6%まで大きく減ってきている。対象の人口は66.8%まで下がっている。単純にその世代でファッションに興味を持つ比率が同じだとしても、おそらく購買客数は70%以下になっている。

さらにZ世代(2000年前後生まれ)の調査では「ブランドを意識しない」割合が70%超というデータもある。そしてファッションについてはデザイナーブランドのチェックも欠かさないが、購入店舗の上位は「ザラ」「ユニクロ」「GU」「セカンドストリート」となっており、さらに通販のウェイトも上がっている。少し古いが2014年の消費者庁の若者の消費動向調査では、30才未満の1カ月当たりの洋服の平均支出額は1999年度男性5338円女性9345円が、2014年男性2201円女性5081円とほぼ半減するほど大きく下落している。

ターゲット人数が大きく減少し、さらにファッションへの購入金額が減っていく流れの中では当然ファッションビルは成り立ってはいかない。

何とか現状も数字を確保しているファッションビルもある。百貨店と連動してインバウンド客に向けたブランドも展開している「心斎橋パルコ」や大都市ターミナルの駅ビルの「ルミネ」や「アトレ」などは順調な流れのようだ。つまり大きな商圏を持っていることとその立地環境に左右されており、MDそのものよりそれ以外の集客環境のウェイトが高くなっているように感じる。

もう間違いなく、大都市圏以外ではファッションだけで集客できる商業施設は成り立っていない。

■今日のBGM

好調続ける専門店とその変化

昨年12月の各社数値が発表されている。全体的にはまずまずの数字で量販期を乗り切っている。引き続き各社好不調ははっきりしているが、カテゴリーは違うが「ユニクロ」「無印良品」(以下無印)、「ABCマート」(以下ABC)「ユナイテッドアローズ」(以下UA)が常に安定して大きく伸ばしてきている。その中でも「ユニクロ」と「無印」は少しずつ立ち位置が変わってきているように感じる。

セレクト業態の「UA」を除くと、ここ20年の流れに乗って郊外大型モール(RSC)に出店を重ね、その成長と共に大きく数字を伸ばしてきた。「UA」もRSCへの業態も作り、環境が合いそうなSCへは参入している。ただ近年「ユニクロ」と「無印」は出店についての動きが変わってきているように見える。

最も変化が見られるのは「無印」で、出店場所は全くRSCにはこだわらなくなってきている。昨年11月の出店は14店舗で大型RSCと思える出店は0、10月の出店は5店舗で同じく0、9月の出店は9店舗で同じく0と、CSCやNSCには出店はあるがRSCには出店していない。逆に路面店への出店も多い。展開アイテムも多く日用雑貨の観点で600坪前後の路面店も含めて出店を進めているようだ。

「ユニクロ」の出退店の国内データを見ると、2023年8月度決算では出店34、退店43、2024年8月度決算では出店37、退店40、今年度は4か月で出店15、退店10となっている。国内ユニクロ事業は全体の売上の30%に過ぎず、現状の800店舗近い店を飽和状況とみているのかもしれない。店舗の増床含めた場所移動は多く見られる。

「ユニクロ」「無印」ともに、モールでのテナントゾーニングによる出店環境や、他テナントとの相乗効果をあまり意識しないようになっている。つまり他店舗からのプラス効果より自社独自での立ち位置を優先しているように見える。当然大きな集客要素を持つRSCに関しては前向きに取り組んではいる。ただ、モールとの契約では高くなりがちな賃料(それでも低歩率)、基準面積より小さな区画提案、短い契約年数などがあり、それ以上の好条件の場所へ出店するメリットを十分意識し始めているようだ。現実にRSCの大型物件から退店して、近隣に出店する「ユニクロ」は多数ある。そういう意味で、出店条件のハードルが低いCSCやNSCへの出店や、契約年数をあまり意識せず「根を張る」商売をしていける路面大型店への取り組みが増えていっている。

モール側のテナントリーシングとしては、メインフロアにできるだけプレステージの高いテナントを出店させたい。そして上層フロアの核に集客要素の高い大型店を誘致したいと考える。つまり低層階にモデレートな大きい売場をリーシングすると上層階へのリーシングに苦しむ。さらにSCのグレード感を出しづらい。そして現状、それを許容していることがRSCの不振の原因にもなっている。さらにRSCの出店過多もあり、テナント側もよりいい立地への出店を望むようになっている。そういう環境下での好調2社の動きがある。

「ユニクロ」「無印」の決算数字を見ると、海外事業の数字が大きく、さらに数字の計上方法の変化もありそうで一概には判断できないが、大型化によって在庫回転率は低くなっている。特に「無印」は業種が混在しているせいか、年間2.1回転位の数字で、「利益率に走っている」感はある。ただ会社の、「根を張る商売」への方向性は明確になっている。

上記した好調4社はSCの集客を担う上で、重要なテナントになる。「ABC」も売り場拡大を続けており、以前経営していた会社のショップも「ABC」拡大のあおりで店舗移動の依頼を受け、好調店だったが退店した経緯もある(おそらくデベロッパーは賃料ダウンになったと思うが・・・)。「UA」も主戦場は違うが、RSCでの売り上げも小さくはない。「UA」でのミッドトレンドマーケット(グリーンレーベルなど)の2024年の売上構成比は、単体売上高の28%と大きな数字になっている。

この好調小売各社の出店動向は、今後の大型モール(RSC)の流れに大きな影響を及ぼすと思う。

■今日のBGM

GMSが勝てない理由を今頃気づいた

イオンの第3四半期の決算が発表された。連結決算では第3四半期までの累計で最終損益が156億の赤字で、前年同期の183億の黒字から大きく下回っている。営業利益に関しては主力事業ではGMS事業のみ192億の赤字であり、さらに前年よりも-177億と厳しい数字になっている。

やはり課題はGMS事業だが、一般的な目で見ている記者のコメントで「GMSの食品以外はユニクロやニトリなどの専門店で十分まかなえる」とあった。常にそれを指摘して、「GMSはなくなる」と言っているのだが、今更だけど専門店に勝てない理由がやっとわかった。社員のモチベーションと社内環境の違いだ。

GMSに入社してサラリーマンとしての目標は何だろうか?私自身もそうだったがある程度経験を積めば、まず店長職をめざす。当然売場責任者で数字を上げていくことが最初の仕事だが、そのまま商品のプロに進んでいく人は非常に少ない。食品は特に生鮮においては技術も必要で、その分野でプロになっていくこともあるが、衣料品や生活関連品の担当はずっとその仕事を続けることは非常に少ない。衣料品であれば売場責任者で数店舗勤務し、次のステップでバイヤーとして商品部に配属されるか、店での複数売場をマネジメントするポジションになる。バイヤーになっても商品部長を次のステップにはできない。商品部長へのステップとしても、やはり店長職の経験が必要で、店長を経験しなければ部長職にはなれなかったと記憶する。私の経験上、GMSでは店長を経験して営業関連、商品関連、人事管理関連へ異動していったと思う。つまり商品が好きで、商品一筋の人はほぼ皆無だと言える。

私自身も売場を5店舗6年経験し、その後商品部に5年在籍した。商品は楽しかったし、いろんな経験もした。ある専門店のオーナーに、小さな店だったが「違うことするから、店をあげる。」と言われたこともあった。(その後そこで売っていたブランドが大人気になって数億の売上の店になった。)だが、その後営業企画のポジションに異動になり商品とは離れていった。

つまり、商品を売りたくて、そして商品を作りたいという気持ちで入社してくる専門店の社員とは、まず立ち位置が違っている。会社のジョブローテーションも違ってくる。専門店の社員はどの商品が売れるか、どうやって売るか、レイアウトはどうするか等、売るために何が必要かを考えて仕事をし続ける。ステップとして仕事をするGMSの社員では絶対勝てない。

イオンなどGMSも商品供給の別会社を作ってはいるが、あくまでも形式的なものが多く、単なるモチベーションを変えるだけのものが多い。そしてその会社の従業員も形式的に組織に組み込まれるケースが多く、商品に対して前向きなモチベーションを持って仕事に従事してはいないと思う。さらに、取引先はまだまだ従来のGMSへの卸取引先が多く(衣料関係は名古屋、岐阜)その流れでMDを組み立てており、SPA型の専門店の商品量とコスト、販売力に完全に負けている。つまりモチベーションと取り組み方に大きな差が出ている。

今まで量販店が、なぜ本気で「ユニクロ」や「無印」(もともとはGMSの西友が開発したが・・・)を作れなかったのかと思っていたが、従業員のモチベーションと企業風土が違うからだった。今頃気づいたのかと言われそうだが、この立ち位置の差は大きい。

やっぱり、GMSは専門店に絶対に勝てない。

■今日のBGM

感覚よりも数字

「消費者の2極化」「中間層の減少」などと軽々しく書いているけど、現実的にはどうなのだろうか?小売業の現状のデータ以外にどんなデータがあるのだろうか?どうも感覚で言っているようで、現実的にはなかなかはっきりしない。ちょっと、いろいろ思いついたことを調べてみた。

以下羅列する。

・レクサスの2023年の国内販売台数は前年229%で2024年度も増加傾向で10万台を超える。

・大手企業の2024年の定期昇給+ベースアップは5.58%で33年ぶりの高水準、中小企業も4.42%で32年ぶりの高水準。

・JTBによると、今年の年末年始海外旅行渡航人数は前年113%、費用は106.6%、旅行消費額は120.6%。

・世帯所得は2013年528.9万、2020年564.3万、2022年524.2万。高齢者以外の世帯所得は2013年615.2万、2022年651.1万。

・人口構成比65才以上1950年4.9%、2023年29.1%。65才以上:15~64歳、1950年12.1:1,2022年2:1。

・Z世代(15~24才)のブランド志向データ:ブランド意識しない70%。

ちょっと意図的な方向で調べたのだが、結論は人口構造の変化に尽きるということだと思う。年金中心の高齢者が増えたことで、2極化のイメージが強くなっているということだ。現役世代は、高齢者が少なかった時と同様かそれ以上の生活水準になっている。ただし購買ニーズには変化がある。テレビで、物価が高いとか生活が厳しいと言っているのはほとんどが高齢者で、現役時より収入が減っているので当然のことだ。しかし、その高齢者層が増えていることが大きな変化で、全体の流れが大きく変わってしまっている。そこに若年層のブランド離れも併せて、価格志向になっているということだと感じる。

話は突然変わるが、ヤオコーの社長が年末記者会見の記事で、以下のように述べている。

・現状1Km商圏シェアは17~18%。商圏シェアを分析して低い店より高い店をどうするかが課題。

・都心20Kmに出店したが、通常店の6割位の面積でも通常MDを凝縮すれば十分戦える。

・都心20Km以内には大きな商圏があり、さらに売場を小さくしたときに自社の強みを出せるかが課題。

・品揃えの強みは現状19のセグメント、特に10の主要セグメントを細かくチェックして品揃えを決めていること。

等々・・・

うまくまとめきれないが、数値データをもとに方向性を語っている。

企業は大きくなると、トップや上層部は、現実的なことは語らず、言っていることが抽象的になる。なかなか身近な数字で語らない。それを理解して指示するのが中間管理職かもしれないが、そうなると受け取り方で内容が変わることが多い。ヤオコーの社長のように数字で話せば、理解しやすい。実はこの記者会見の記事を見てこのブログを書こうと思った。

小売業は、とかく「感性」や「ロマン」を語りがちになる。スタートアップ時はそれでいいが、企業が動き始めると、仕事への取り組みや、結果には常に「数字」が付いて回る。数字で語れる経営者がいる会社は数字意識が高いはずで、間違いなく成長し続けることができると思う。

■今日のBGM

今年は、冷静に立ち位置を分析する

今の流れを見ていると、間違いなく、体力のない専門店は淘汰される。路面店の飲食店がどんどんなくなっていくように、資金力がなくなってきた小型店は厳しい流れになる。最低賃金の上昇と社会保険「壁」の撤廃など逆風が強すぎる。金利も上昇しそうな流れだし、当然銀行の融資の壁も高くなる。商品の原価も円安の流れが続けば当然上昇するし、売価を抑えれば利益率は確保できない。逆に売価を上げれば、価格志向が強い現状では売れない。要員不足も待遇改善される大手へ流れるので、マイナス要素しかない。大手企業のアダストリアの年末に発表された第3四半期決算でも売上前年比は108.3%にもかかわらず、営業利益前年比は90.6%となっている。その要因として、円安による原価上昇や待遇改善による人件費増をあげている。つまり「人」「物」「金」すべてがアゲインストになってくる。

その流れで、間違いなくM&Aの活性化が起こる。去年の「タカキュー」、「ライトオン」や「マックハウス」を見るまでもなく、厳しい業態は3年先くらいを想定しても成り立っていかない。上場企業でもスーツ業態専業の会社や、ティーンズ系中心のアパレルは厳しい流れは続くと思う。非上場企業でも50~100店舗を運営する厳しいファッション店舗は数多くある。そういう店は近年出店数より退店数が増える傾向にあり、さらに不振店舗を減らして体制を整えていかねばならない状況にある。M&Aについては、当然負債の問題も大きいが、償却済みの店舗や、人員を引き継げれば、承継会社にはプラスの要素もある。最悪の事態をリスクヘッジする意味でもM&Aは間違いなく増えていく。

厳しい流れが予測される環境下だからこそ、「各小売専門店がすべきことは何か?」を冷静に分析する必要がある。その結果を持って、早急に修正をしていかねばならない。いろんな分析手法は、本やコンサル会社を通じて教示してもらえる。悪化傾向の会社はどうしても過去の成功例のインパクトに引っ張られて、現状を見失っていることが多い。自社の立ち位置を理解し、すべきことをジャッジする必要がある。

そして、今後の方向性の中で、専業を続けるか、複数の切り口を持つかを考えていくことが、今後企業継続での大きなポイントになるような気がする。専業とは、広義にはなるが「ユニクロ」や「ニトリ」などほぼ単一業態で経営していることを指す。逆に「アダストリア」や「パル」は複数の切り口をもちグループを形成している企業ととらえてもらいたい。

専業ならば市場の大きさとトレンドを理解し、現状のポジショニングを明確にする必要がある。現状のターゲット客層の動向や、その市場の大きさ、その中のシェアを考えれば、拡大するか縮小するかなど、企業としての方向性は明確になる。

市場規模や企業規模を考えれば、現状の市場で拡大するだけでなく、他の切り口を考えることも必要になる。現状の市場が頭打ちなら、当然企業を維持成長させる方法として、他業種への取り組みも必要になる。中小企業では難しいかもしれないが、中小企業でなければ気が付かない市場もある。大手が手を付けにくい市場もきっとある。以前立ち上げた会社はそういう市場に向けて立ち上げた。どうしても厳しくなると、現状の事業をマイナス志向で分析してしまう。今のターゲットを細分化すればプラスに転じる市場はたくさんありそうな気がする。

こういう時期だからこそ、企業としての立ち位置を冷静に分析し、向かうべき方向を明確にすることが必要だと思う。そしてそれを社内で徹底させるべきだ。

■今日のBGM