月: 2025年10月

赤字の中小小売業に前向きな策はない

数日前の日経新聞の社説に「実質賃金の上昇へ労組は意欲的な要求を」という提言があった。当然、大企業に向けての提言ではあるが、赤字の中小企業にも以下のコメントがある。「赤字の中小企業には賃上げ原資を補填するような支援を検討しているが、それでは生産性は向上しない。経営者を前向きな投資に向かわせてこそ、強い日本経済の実現につながる。」

2024年の「国税庁法人統計法人税表」から赤字法人率は64.8%で約189万社あるようだ。その企業にどうやって前向きな投資をさせるのだろうか?

コロナ禍におけるゼロゼロ融資返却や人件費高騰で中小企業の倒産件数は、2023年には9年ぶりに9000件を超え前年比では32%増となっている。コロナ前から倒産件数は増えていたがコロナ禍で大きく増えた状態になっている。国も借り換えや経営改善のサポートを行っているが厳しい状況は続いている。そして小売業も企業数は31.6万社あり、22.6万社が赤字で赤字法人率は71.4%となっている。

小売業の「前向きな投資」とは何だろう?小規模な店舗にPOSシステムなどの 導入は必要だろうか?導入したとしても効率化は図られるが、営業数値にどれだけプラス効果があるのだろうか?一番前向きな投資は出店だろうが、好物件は当然賃料も高いし内装経費なども高くなる。何よりも投資金額は非常に大きくなる。その資金はどこから捻出するのだろうか?新たに借金をするのだろうか?

30坪程度の店を商業施設に出店するには、内装投資で最低1000万、共用工事負担金などで150万程度、損金にはならないが敷金500万程度は必要になる。支払い時期は少しずれるが、オープン商品の仕入原価分で最低500万の支払いも発生する。その他、備品や採用費なども含めると2500万くらいの資金がなければ出店できない。近年はさらに内装コストが上昇している。商業施設もテナント誘致に苦しんでおり、テナントの大型化が進んでいる。テナントの大型化が進むと、大型テナントの出店ありきの条件から、その皺寄せで小型区画の出店条件は上昇する。

投資をして出店するからには成功することが必須となってくる。近年の商業施設の成功物件は規模の大型化や、エリアでの寡占化で、当然出店へのハードルも上がってくる。さらにテナント構成も類似してきており、新規テナントの参入も既存大手企業の開発ショップ中心になってきている。つまり新規参入の余地も少なくなってきている。

そんな中で、コロナ禍で経営資源が枯渇し、コロナ融資で何とかやりくりしている中小小売業がどうやって前向きな出店投資ができるのだろうか?そして出店投資に対してどういう支援があるのだろうか?

この社説は大きな意図はなく、第三者として文字を埋めたのだろうが、やはりきれいごとの文章で、全く響かない。22万社強の赤字小売企業は、自然淘汰されるか、M&Aで大企業の傘下に入るしかない策は見えない。

■今日のBGM

無印良品の決算

大変恐れ多いのだが、無印良品の決算が発表されたので、感想を書いてみる。

無印良品については、今年1月と4月に主に四半期決算数字についてこのブログで書いている。1月には在庫が課題ではないかと記したが、中間決算のコメントで在庫処理をするので総利益率は据え置かれており、4月のブログには「ちゃんとした会社」と評価した。その時、無印良品の株でも買おうかと思ったのだが、買っておけば当時2500円前後の株が、今は株式分割し(1株が2株に)先週は3000円まで上がっている。つまり株価は、倍以上になっていることと同様の状況になっている。

前期の無印良品の決算数字だが、売上は7846億 前年比118.6%、営業利益738億 前年比131.5%、経常利益723億 前年比129.6%と過去最高数値となっている。売上総利益率も前年50.8%から51.4%と上昇している。 

このブログにも頻繁に書いているが、小売企業の健全度は、常に「在庫」で図っている。いろんな商品があるが、生鮮食品は賞味期限があり、当然早く売り切ってしまわなければならない。衣料も年間定番的なものはあるが、四季での着装感もある。さらに素材やスタイルの変化も早い。つまりなくしていくタイミングで利益率は変化する。そしてそのタイミングは企業がジャッジする。売れない商品をそのままにしていれば利益率は下がらないが、在庫は増えていくし回転率は悪化する。値段を下げてなくしていけば利益率は下がるが不良在庫は減る。つまり在庫で利益操作は簡単にできる。

無印良品の回転率については、どの数字が適正か見えない。今決算では2.36回転で前期2.27回転よりは改善しているが、前々期と同じ数字になっている。衣料品は定番志向が強いが、単価設定を考えれば年間3回転はしなければならないと思う。ちなみに、競合他社のパルグループの年間回転率は5.3で、アダストリアは4.8回転となっている。住まい関連でもニトリは4.3回転しており、一般的には2回転後半くらいのようだ。食品で菓子類をネットで調べると年間5回転くらいだし、レトルト商材も年間5回転くらいと出てくる。以前も書いたがスキンケア中心の企業である「ハウスオブローゼ」の回転率が2.2回転と低く利益率が71%と高いので、おそらくスキンケア商材の在庫が回転率を引き下げ、衣料品と共に利益率アップにも寄与しているのではないかと思う。

近年の無印良品の出店傾向は、他社の大型モール中心の戦略とは大きく変化しているように見える。路面の大型店や、地方のCSC(コミュニティSC)に隣接しての出店など独自性を見せている。特に大型化を進めており、イオンモール橿原に今春2500坪弱の店舗を出店している。決算ごとに発表されるデータブックで数字を見ると、2025年の売場面積は2021年比で191.4%とほぼ倍増している。ちなみに売上の2021年比は173.5%で売場拡大に追い付いていない。㎡当たり売上は2021年が54.7(千)に対して2025年度は43.7(千)であり、㎡あたり在庫は2021年の47.9(千)に対して129(千)となっている。この数字を見ると、売場の大型化に順応した適正な在庫をつかめてないようにも見える。売場の大型化コンセプトや出店戦略が先行し、動向を見ながら売場の効率を探っている状況ではないだろうか。

諸事情があったのだろうが、関東最大級と言われていた東京板橋の路面店が3年で閉店というニュースもある。まだまだ出店戦略は試行錯誤を繰り返していくだろうと思う。現状の大型モールへ大型店舗を出店できないなら、イトーヨーカドーが狙っているCSCへの出店やその近辺への路面戦略は正解だと思っている。

企業としては、適正な売場面積と適正な在庫の指針を明確に示してもらいたい。その上で「これがいいより、これでいい」のコンセプトを明確に伝えられる商品政策や売場の構築を、早急に目指して欲しい。

■今日のBGM

イオンのポイント戦略を考える

またまたイオンの話になるのを容赦願いたい。

食品の買物は、売場を見るのも好きなので、完全にルーティンになっている。10月に入ってから、おそらく10%前後の値上げを感じている。買った内容と数量感でだいだいの値段はわかる。事実、値上げ発表している商品も多いし、便乗値上げのように感じる商品もある。総務省の物価指数では「食料工業製品」は8月に前年同月比6.5%高と11か月連続で上昇している。そして賃上げはその指数まで追い付いていない。2024年家計調査では、食料品購入額は平均月額89936円でエンゲル係数は28.3%と43年ぶりの最高値のようである。さらに高齢化は進んでおり、間違いなく今後もさらにエンゲル係数は上昇していく。

スーパーマーケット(SM)の利益率は、ファッション系アパレルの売上総利益率50%以上と比べると非常に低い。SM業界の売上総利益率は平均26%くらいのようだ。イオンの食品SM会社グループのUSMHは28.3%でマックスバリュー西日本は24.6%となっている。ロープライス型SMのオーケーが21.7%、ロピアは20%前後と言われている。営業利益率は2%前後が多く、物価の上下が経営数字にも響いてくる。物価上昇で値段を据え置けば、利益率悪化で経営不振に向かう現実もある。つまり価格を上げれば利益は安定するが、売上は鈍化する。価格を据え置けば売上は維持できるが、利益率は下がる。

売上対策としてのSMの販促は、現状チラシとポイント戦略が多い。品揃えで大きな差が出なければ、当然価格戦略が多くなる。その中で、前回も書いたが、イオンの繰り出すポイント戦略の圧倒的なパワーには驚かされる。一般的なSMではポイント3倍(1.5%還元)が主流だが、イオンではポイント10倍日が非常に多い。以前コメントしたのが6月で5%オフとポイント10%で10日とある。ちなみに今月は5%オフの日が4日(GG感謝デー含む)イオンカード、イオンペイでポイント10倍の日が7日ある。9月にはイオンペイでポイント20倍の日もあった。つまり食品も5%引き相当の日が11日あるということになる。これは定期的な買い物パターンを考えるとすべて5%オフ相当で買い物ができるということになる。その売上構成比次第だが、前述した各社の利益率を考えれば普通ならここまで取り組めない。食品全品5%オフということ自体、過去経験した店長時代には考えられない販促になる。

このポイント戦略は、イオンカードの拡大戦略と「イオンペイ」の普及を考えての販促であり、その経費負担はどうなっているのかはわからない。おそらくポイント戦略に関しては、イオンカード側の負担になっているのではないかと思う。すでに小売業ではなくなった感のある丸井の例を見るだけでも、カード戦略における収益は間違いなく大きい。前期のイオン金融事業の売上はイオングループ比率で5.2%に過ぎないが、営業利益の比率は25.7%であり、営業利益は616.6億に上る。ちなみにGMS事業はイオングループの売上比率は約39%と大きいが営業利益は6.9%しかない。

ポイント10倍の戦略は他のSMとの大きな差別化になる。利益率が示す通り、衣料品や服飾品には大きな購買目的要素にはならないが、デイリーニーズの食料品には効果的な販促にはなる。過去、月2回の「20、30日」だけ買い物に行っていたのだが、完全にポイント10倍が増えたことで、イオンカレンダーを見てイオンの買物が主になった。さらに近隣のSMのマルエツ(イオングループ)も毎週日曜はイオンカード、イオンペイで5%オフとなっている。

カード販促の軽費負担がどう変動していくかわからないが、現状イオングループはカード戦略で食品中心のデイリー顧客の囲い込みを図っている。インフレが続き価格競争が激化していく中、このカード戦略は有効な差別化策になる。ただ、どれくらいの原資が必要なのか想像もつかないが、いつまでもこのポイント戦略は続くのだろうか。

高年齢化が進む中、ポイント戦略が周知され継続されていけば、コンビニ事業の脅威になってきた「まいばすけっと」も含め、イオングループのSM業態(GMSの食品含む)はさらにシェアを高めていきそうな気がする。

■10月19日の日経 二連版広告 「ブルネロ クチネリ」

イオンへの疑問点

イオンの第二四半期の決算発表があった。日経新聞も「純利益9%増」「売上高と営業益は過去最高」を見出しにしている。さらに「PB好調、節約志向映す」とのコメントがある。イオン主要5事業の営業損益もある。記載されている25年上期の営業損益グラフを見ると、5事業はなく、4事業で構成されていることがすぐわかる。総合スーパー(GMS)事業の営業損益は前年の赤字から改善したしたが、実績はほぼ±0になっている。過去5年間も2年前を除くとすべて赤字で上期は終わっている。そしてGMS事業はイオンの売上構成比35%を占めている。つまり売上の屋台骨であるGMS事業は、ほとんど営業損益面では貢献していないことになる。

このイオンのGMSについての追求は非常に弱い。イトーヨーカドーがGMSをやめていくことに関しては大きな話題になった。では、イオンのGMSはこの収益で続けていけるのか?他事業のプラットホームになっているからということだろうか?過去にも同様の指摘をしてきたが、イオンはなぜGMSを続けていくか全く腑に落ちない。あれだけイトーヨーカドーのGMSを酷評した論者たちも口を閉ざしている。

数字を拾ってみたが、なかなかイオンのGMS事業であるイオンリテール単体の数字(地方イオン子会社などを除いた数字)が捉えられなかったが、2024年の決算数字が見つかった。ただしこれが比較対象になるのかはわからない。その数字を、イトーヨーカドーの同年の決算数字と比べてみる。売上はイオンリテールが売上1兆8419億、売上総利益4760億、総利益率25.8%、営業利益82億、イトーヨーカドーが売上8150億、売上総利益2006億、総利益率24.6%、営業利益-12億という数字だった。他にも人件費率はイオンリテールが15.1%、イトーヨーカドー11.4%と計算上は算出されたが、イオンリテールが高すぎるので正確には比較しにくい。この数字を見る限りではイオンリテールの営業利益率も0.5%程度しかなく、イトーヨーカドーと大きな違いはない。イオンリテールの利益率が上回っているのはおそらくイオンリテールのモール賃料分のプラスではないかと思うのだが、詳細は未確定ではある。(この時期はイオンリテール物件のモールも多い) つまり、イオンのGMS事業もイトーヨーカドーと似たような状況ではないだろうか。

GMS事業がグループとして必要な理由は何だろう。まず金融事業のプラットホームになっている事があげられる。キャッシュレスやカード事業の拡大には欠かせない。逆に、ポイント戦略などでのGMSの食品への売上貢献度も高い。ただポイント戦略の影響度が高い業種は食品であり、必ずしもGMS非食品との連動は必要とも思えない。逆に食品以外では売り上げ規模の大きいテナントと組む方が金融事業としてのプラス効果は大きいと思う。さらにデベロッパー事業のキーテナントとしての位置づけはあるが、「ららぽーと」のテナント構成を見ればGMSは必要なく、SMだけで充分なことが実証されている。今後ニーズがあるとすれば、開発を続ける「そよら」などのCSC(コミュニティSC)への出店ニーズくらいかもしれない。それでも大きな規模はいらないし、非食品業種はテナントでも補える。

簡単に考えると、GMS事業で黒字だと思われる食品業種をSM事業で賄い、赤字だろう衣料品や服飾品、住居関連などはテナントに任せれば賃料さえ間違わなければ、営業損失は発生しないのではないだろうか?逆にGMSを核テナントにしているから、若干アッパーなテナントが目を向けてないとも思える。SM事業もGMSの食品業種と合算すればさらに効率化するし、収益が出てないであろうGMSの非食品業種も、テナント化することで損切りできる。

そんなことは誰でもわかっていると思うが、祖業でもあり、なかなか意見が出しにくいとしか思えない。企業の風通しはきっと悪い。

■昨日の日経折込 アルパチーノ+デ・ニーロ=モンクレール

イオンモールに「おしゃれ感」は必要ある?

イオンモールには過去多店舗出店していたし、北海道、東北、北陸以外のイオンモールは、新店を除けば、ほぼわかる。レイクタウンや各エリアの中心となる大型モール以外にはもうファッション(おしゃれ感)を打ち出したショップはいらないと思っている。現役から離れ、小売業を冷静に見るようになってつくづく感じる。

一番大きな変動は、中心客層の変化で、高齢者比率の増加にある。郊外モールがスタートした30年前と比べて人口は減っており、そのうち60才以上は181.5%と大幅増で、人口構成比も19.3%から35.4%となっている。年金だけの世帯収入は平均年200万弱とされている。つまり30年前にファッションを語っていた客層がどんどん高年齢層に突入している現実があり、ファッションを語るべき層は激減しているということになる。

好調を続ける企業は「ユニクロ」、「無印良品」、「ニトリ」や「ABCマート」などのフル感性ターゲットの企業が多い。そしてまさしく「これがいいより、これでいい」という「無印良品」の目指す満足感が主流になっている時代のような気がする。そしてここではよく書いているが、「生活感」を感じる商品のニーズが強い。「生活感」の定義には、商品や着装感だけでなく、買いやすさや親しみやすさなどの売場環境も含まれている。

月度毎に発表される上場企業の9月の売上状況を見ていて、事業再生中の「タカキュー」が前年比79.7%と異常に悪い数字に終わっていた。企業譲渡された「ライトオン」が84.6%であり、その数字をも下回っている。もっとも、9月は日曜が前年より少なく、猛暑が続いており、衣料店舗には大きなアゲインストがあった。

実は、少し「新タカキュー」には違和感を持っていた。HPが変わったのだが、IRを見てファッションアパレルへの変化を感じた。企業のイメージ戦略を意図的に大きく変えたのだろうが、ニュースリリースや代表挨拶は昔のファッションブランドのようだ。(ポーズした社長の写真は必要?)決算説明会資料も余り響かず、イメージ戦略的に見える。

決算数字だが、最近の数字では第二四半期決算数字が発表されており、売上高は前年比91.2%、前前年比86.1%とマイナストレンド、売上総利益率は本年が62.4、前年62.1、前前年61.5と微増になっている。上期営業利益はそれぞれ3157(千)、101519(千)、55811(千)で、第二四半期時点の在庫で回転率は今期1.23、前期1.34、前々期1.48となっている。大きく変化はないが、売上は厳しくなりつつあり、利益率を上げる方向に向かっているように見える。そして営業利益は厳しい数字になっている。量販系の専門店と思っていたのだが、60%以上の利益率は必要なのだろうか?

近隣のイオンモールに出店しているので店もよく見ているが、たしかに整然とされており、ストアメイキングマニュアルに沿った売場だが、入りやすくはない。商品も手に取りにくい。つまり、整然としており、着装感を演出強化しているが、SCの客層とはあってなさそうに見える。もう少し価格訴求をしたりして、賑わいを作り、入店を促した方がいいように感じる。現状では、郊外モールよりターミナルに近い商業施設の客層のほうがマッチしているのではないだろうか。イオン系の企業だったためにイオン系のSCに多く出店しており、新しくした目指すべきコンセプトと客層感の違いが少し大きいかもしれない。

RSC(大型モール)とGMSが両立していた時代は終わり、GMSは淘汰されようとしている。そのためか、現状のRSCの客層はGMSの客層に近づいてきている。特にイオンモールの客層には、その変化を強く感じる。その流れをつかめない店は、他のSCで戦うか、RSCの主流になりつつある客層に対応していかねばならない。もう標準型のイオンモールにはファッション(おしゃれ感)を打ち出す店は、多くはいらないのではないだろうか。

■今日のBGM

在庫と利益 ③

小売商売は「売上」「利益」「在庫」が大きなチェックポイントだと何度も書いてきた。小売業を経験してきた経営者なら当然理解している。すべて適正に回っていればいいが、常にこの3項目では「売上」「利益」が優先される。損益計算書が中心になっているように見える。

以前に書いたが、今回企業譲渡された「ライトオン」「マックハウス」、厳しい状況の「ヴィレッジヴァンガード」などが在庫評価損を計上している。その金額が「ライトオン」1564(百万)、「マックハウス」726(百万)、ヴィレヴァンでは前期末2472(百万)と非常に大きな金額になっている。ではなぜここまで金額が大きくなってきたのだろうか?1期だけで計上される金額ではない。毎期の積み重ねの金額に違いない。毎年売れない商品があるにもかかわらず、適正な在庫評価をしていなかったとしか思えない。計上すれば利益が減り、株価に影響するし、それによって資金繰りも厳しくなる。おそらく作為的なもので、企業体制も追求すべきではないだろうか?

適正在庫についても何度も書いてきたので割愛するが、小売業は、決算時に「商品回転率」へのコメントが必要だと思う。商品の「在庫回転日数」(平均的に入荷後何日後に売れて現金に変わっているか)と支払いサイト(入荷何日後に支払いが発生するか)でキャッシュの回り方が、概ねわかる。ただ、おそらく資産が多い会社はあまり気にしていない。以前経営していた会社は20億以上の売上はあったが、出店も重ねていたので、毎月の商品支払い日の前日の残高には気を使っていた。もしものために当座貸越を利用する月もあった。それだけに、仕入れに関しては厳しくチェックしていた。キャッシュフローを考えても、「商品回転率」は小売業のチェックポイントとしなければいけない。

今日、ネットの記事で「ライトオン110店退店で25年8月期は赤字大幅縮小」とあった。当然記事は前向きなことを書いている。「従来は値引きで粗利を痛めていたが、値引き抑制で利益は前期比12,2%増」になったらしい。さらに今期は黒字化と結んでいる。在庫評価損を計上した商品はどうやってなくしているのだろうか?廃棄にはしないと思うので、売価設定次第では、当然大きな利益も計上されることになる。前期評価損を計上した「ヴィレヴァン」も今期は大幅に利益率が改善する指標が出ていた。つまり利益の改善は、前年の評価損による一時的なもののような気がする。「ライトオン」の売場には「ついている値段から・・・円引き」の前年秋冬キャリー商品らしきものが前面を占めていたが・・・

では、企業は適正在庫に対して、どう対応すればいいのか?経営陣の重要さの認識は前提条件だが、売上予算、利益予算、在庫予算は必ず個店別に作成させるべきだ。当然、店長含むマネジメント層に在庫管理の重要性を理解させ、売上の進行管理と共に利益、在庫の進行管理も行い、上長に報告義務を持たせる。そして対策を講じる。さらに在庫管理面も売上、利益と共に業績評価の対象とするべきだと考える。

現実的に一番大きなことは、個店の店長が、店の「キャッシュ」の意識を持つことだと思う。店長は、売れる商品があればあるだけ欲しい。欲しいだけでは売場の在庫が膨らんでくる。つまり好きな商品の「足し算」だけで、売れてなくなる「引き算」も計画しなければ、売場は商品があふれる。そして店長やバイヤーは商品を仕入れるだけで、現実的には支払いはしない。まず、店長が仕入と売上のバランスを考えてみる。そして、経費を含めた支払いも考える。単純なキャッシュフローを作成してチェックさせる。そうすることで必ずキャッシュがショートする月が出てくる。そうすれば、売上、利益とキャッシュの差にやっと気が付く。

「パルグループ」は在庫に関しての意識が高く、決算で発表されている回転率も衣料系の中では高い。「無印良品」は以前の中間決算で、売上は大きく伸長していたが、最終の決算数字予測では、売上の大幅増に反して利益率は在庫処理のため据え置いていた。

在庫に対する姿勢で今後の小売企業の業績や企業評価は大きく上下していく。

■今日のBGM

アンドエスティの少し気になること

アンドエスティ(アダストリア)の中間決算が発表された。売上前年比102.6%、売上総利益率前年同期比-0.5%、営業利益前年同期比-19.4%、期末在庫前年比98.7%となっている。夏商材の在庫処理で値引き額が拡大し利益ダウンになったようだ。春夏商売はプロパー消化ができず、在庫を持ち越さないように処分した結果と会社は発表しており、その結果の数字になっている。

前回のブログにも書いたが、小売業の課題は、ターゲット年齢層の絶対数の減少にあると思っている。ファッション業界では、より一層ターゲット年齢層は減少しており、現実的で、リーゾナブル価格への流れが強くなっていると感じている。そしてその流れにうまくマッチしているのが「ユニクロ」や「無印良品」で、年齢層の幅を広くしている。

今までのファッション業界は、それぞれ細かなベクトルがあり、その細かな客層のシェア率を上げ、客数を拡大していき大きくなっていった。そしてファッション業界に生活感はあまりいらなかった。ただ現状はその層の絶対客数が減っているし、高年齢化が進むことでファッションでも生活感がキーワードになりつつある。

アダストリアに、そういう状況に対応するブランドはあるのだろうか?ジーンズ業界出身でよく似た企業だと思っているパルグループは、「3コインズ」で幅広い年齢層からの支持を得ている。前期「3コインズ」の売上は709億と発表されており、パルグループ売上2078億の34%を占めている。アダストリアでの基幹ブランドは「グローバルワーク」で前期売上は517億でグループ売上2931億の17.6%の売上構成比になっている。ただ「グローバルワーク」が広い年齢層に向けたブランドとは思えない。売場作りや演出を見る限り、高齢者は気安く入店できない。アダストリアで考えると「スタジオクリップ」がそのグルーピングかもしれないが、あまり大型化、多店舗化しているようには見えない。

アダストリアとしての方向性は、むしろ現状のターゲットのさらなるシェアアップに向いているようにも見える。衣料服飾だけでなく「飲食」への進出、アウトドアブランド「カリマー」の株式取得、プレステージブランドの開発など従来の客層のカテゴリーの幅を広げる方向のように見える。年齢層を広くとらえる生活雑貨「ジョージズ」も取り込んだが、本格的な動きは見えず、そのグループのライバルブランドと戦うには相当な努力が必要だと思う。一般的には、新しいカテゴリーに新規参入して成功するのは簡単ではない。

年齢層の幅という意味ではイトーヨーカドーとの「ファウンドグッド」の取り組み中止と「フォーエバー21」の撤退は大きかった。やはり量販店の客層の幅の大きさや、低価格商材の「デザインと品質」には苦労したと思う。そのゾーンが得意な取引先もあるが、企業体質が違うしバイヤーの感性も違うので、うまく取り込めてなかったのではないだろうか。アダストリアの従来のターゲットとは、想定外のニーズがあったのだと思う。そういえば「ユニクロ」の柳井氏はジャスコ(イオン)出身だし、「無印良品」は西友が開発したショップだ。やはり企業の色が違うのかもしれない。

現在のアンドエスティは、昔からよく知っているアダストリアと違ってきているように見える。ここまでブランドを広げていくとは思ってなかった。経営を次の世代にタッチしたのだと思うが、今戦っている年代層はどんどん少なくなっていくと危惧する。企業としては、少なくなりつつある現状の客層のシェアを上げる戦略に見えるが、幅広い年齢層に取り組んでいくことには目を向けないのだろうか?

■今日のBGM