カテゴリー: ファッション (1ページ目 (7ページ中))

大手アパレルの行く先は?

前回、「オンワードクローゼット」について簡単にコメントしたが、昔の大手アパレルはこういう残り方をしても、あと十数年で需要がなくなるのではないかとも感じている。ここでいう大手アパレルとは百貨店型アパレルで「ワールド」「オンワード」「イトキン」「三陽商会」を指す。もともとはここに「レナウン」も属していた。「ワールド」「イトキン」は専門店中心からスタートし、「オンワード」「サンヨー」は百貨店主軸というイメージを持っていた。

大型モール(RSC)スタート期から百貨店以外の販路として大型区画を立ち上げてきた。当初は鮮度があり、SCの顔として出店も多かったが、現在は当時のショップのほとんどは見かけなくなった。おそらく過去の顧客ターゲットとの差が大きく、売れる商品や値段も違ってきて、今までの落ち着いた商売ができなかったのではないかと思う。展示会中心のサイクルから短サイクルに変わると商売も当然変わっていく。販売体制の違いも影響していたように感じた。

60代以上の客層には、百貨店メーカーというイメージは強くインプットされている。そういう意味でSCでも「オンワード」「ワールド」などのメーカー名を打ち出して、もう一度ブランドを整理して提案すれば、その世代の客層には響く。ただその客層もどんどん減っていく。

大手アパレル4社の売上だが、ワールドが2010年3141億から2024年は2023億、オンワードが同じく2486億から1896億、三陽商会が1121億から614億、イトキンは非上場で調べた数字では2001年1424億から2024年は321億となっており、すべて大幅ダウンしている。中心販路だった百貨店がどんどん減っていけばこういう数字になってしまう。

逆にRSCの流れから小売専門店大手の数字は大きく伸長している。売上推移でユニクロは2010年8148億が2024年に3兆1038億、無印良品は1643億から6616億、アダストリアは977億から2756億、パルGは699億から1925億になっている。

今後の百貨店の流れを想定しても、都心部くらいしか生き残れそうにない。当然「脱:百貨店」を考えるしかない。その流れで、色の違う企業の買収も進めている。ワールドは子供服の「ナルミヤ」や雑貨の「212キッチン」などを買収し、最近では「ライトオン」も傘下に入れた。古着の「ラグタグ」にも出資している。オンワードも「ウィゴー」や「クリエイティブヨーコ」を買収している。両者とも買収により、企業の色を広げようとしているようにも見える

ただ、新しい風を会社に迎えても、会社の風は変わらないと思う。今まで「小」(被買収企業)が「大」(買収企業)の流れに乗らずに、その個性が変わらなかった例は非常に少ない。今回の買収例で成功しているのは、比較的土俵が近い「ナルミヤ」だけではないだろうか。大手アパレルの社風は絶対に変わらないし、その流れが買収先にも影響する。流れが変わっていたなら、RSCの流れになった時点で変わっている。RSCの流れに乗れなかった現状では、百貨店主導の色は変えられない。おそらく「ライトオン」も「ウィゴー」も、絶対に上向かない。両ブランドの今までのSC戦略での「強み」は消える。今後はRSCからCSC,NSCの時代に変わっていくと思うが、当然その波にも乗れない。

ユニクロに慣れ親しんだ層が、再度百貨店に向かうとは考えられない。大手アパレルに、もうプラス要素はほとんど見えない。百貨店の流れと同じ運命を歩む。

■今日のBGM

チラシ販促の意味

GWに入ってユニクロのチラシが2回新聞に折り込まれた。GWの割引訴求と定番の紹介の内容だった。チラシはかさばるのでチラシ折り込みの少ない日経新聞しかとってない。ただそれでも、近頃はチラシが増えてきている。

2023年のデータで、新聞を取っている家庭の割合は58.1%となっており、2013年度81.2%から10年で大きく減少している。さらにその年代別にみると、購買人数は2016年比で70代以上は82.7%になっており、60代68.2%、50代56.7%で20~40代は30%代まで落ち込んでいる。当然の現象ではあるが、ネットに情報はあふれ、新聞の購読者は減少している。ただ、まだまだ高齢者層は新聞を宅配しているというデータになる。

ユニクロのチラシは見る人も多いと思うが、今回はB3サイズでエリア店舗の合同版だった。大きなセールではさらに大きなサイズで折り込まれることもある。昔は販促の仕事もやっていたので少しはわかるが、製作コストは削減できても、折込料を含めると大きな経費になる。

ファッション企業は、チラシ媒体などの販促手法を当然したがらない。値段に訴えたくないのと、当然のように効果が出ないと考えている。ユニクロがそこまでの経費を使っても、チラシ媒体を使う理由は何だろうか?それは間違いなく客層の幅を広げたいからだ。上記したように60代以上のニーズも取り込みたいと思っているからだと思う。今の60代以上はそんなに老人ではない。60代はDCブランドを経験し、70代以上は「VAN,JUN」時代を経験している。ワンポイントファッションに頼った世代ではない。ユニクロのチラシ戦略は、その世代をよく知る経営者の考えもあると思う。

ターゲット年齢層を上げていかねば、売上確保が難しくなる。以前書いたが2024年の人口は30年前比で98.1%と減っているが60才以上は181.5%と増えており、人口構成比も19.3%から35.4%と大幅に上がっている。ファッショントレンドは20才前後から動き始めるが、趣味の多様化に加え、絶対的人口の減少もありトレンド志向の客層を追いかけると、商売にはなりにくくなっている。

無印良品の出店傾向も、客層の幅を意識しているように見える。RSCへの出店より、CSC,NSC及びその隣接地への出店を加速させているように見える。そして地方、郊外への出店が増えている。さらに「無印500」でコンビニエンス化を図り、さらに店舗の大型化で600坪の路面への単独出店も進めている。出店場所の変化に伴い、商品の幅も広がり客層の幅も広がっている。

話は変わるが、先日ららぽーとに行って店をぶらぶらしていたが、オンワードの「オンワードクローゼット」に50代以上のお客様が多く、にぎわっていた。オンワードの社長が積極的に出店していく旨を話していたが、おそらく「オンワード」の名前に反応する客層狙いなのだろうと感じた。「ワールド」も「イトキン」もこの手法で出店すれば、50代以上の客層は取り込めるかもしれない。

「企業を大きくする」ことを成長戦略と考えるなら、客層の幅を広げることは必須事項になる。狭い客層の中でパイを取り合っていても、大きな成長はない。「無印良品」もファッション業界と呼ぶのなら、現状ではファッション業界では「ユニクロ」と「無印良品」しか成長しないのではないかと思う。

■今日のBGM

高齢層のノンポリメンズをどう取り込むか?

自分で商売を立ち上げる時、「ノンポリの男性」をターゲットにしようと思った。詳細はいつか書こうと思うが、現状の小売業を見ていると、さらにそこが狙い目になっていると思う。

30年前の話になるが、DCブランド時代にビブレで店長をしていた。ビブレはブランド集積のように見えるが、オリジナルの自主MDの売場を多く展開していて、その直営売り場の収益が館全体の収益を底上げしていた。そこがマルイやパルコなどのデベロッパー的なSCと大きく違うところだった。その中での儲け頭はメンズだった。特にブランドには手が出ないが何か買いたい男性客に人気があった。それは衣料品だけでなく服飾まで広範囲に及んだ。当然DCブランドのパワーによるところは大きいが高層階でも収益は大きかった。その当時はノンポリのティーンズヤングメンズ層で稼いでいた。

30年前の20代はもう60才の手前まで来ている。人口統計を見ると2024年の人口推計では60才以上の男性は19457千人で1993年の10381千人の187.4%と大幅に増えている。ちなみに女性は24346千人で1993年は13747千人で177.1%増となっている。人口合計は98.1%となっているので、30年で60才以上人口がいかに増えたかがわかる。このブログでも何度も書いているが、高齢者(ここでは60才以上)を狙わなければ商売は成功しない。

ここ数年、メンズ目線にあった会社の数字が厳しくなってきている。スーツ、ジーンズ系の企業が顕著な例となっており、メンズ目線だったカジュアルショップもユニセックスからレディスの見え方にうまく変わってきている。広義で言うとアダストリアやパルもその流れになる。

この層を取り組むにはやはり「奥さんが夫に買える」がキーワードになる。「無印良品」や「ユニクロ」は買いやすい。SCに行くと「ユニクロ」には夫婦客も非常に多い。ちなみに「ユニクロ」も始まりはメンズ目線の会社だった。大きな特徴は「アイテム集積」の売場だということ。ファッション型店舗は着装感をとかく打ち出しているが、高齢者は「足らなくなったもの」、「必要なもの」を買いに来る。ある程度の素材感と値頃感があればすぐジャッジできる。売場に関しては、マネキンも顔の表情がなくノンエイジだし、決して年齢を意識させていない。さらに売場の照度は高く、照明も天井埋め込みで清潔感を感じる。

例えば、アダストリアは「グローバルワーク」を幹になるブランドにしていくと発表しているが、やはり今の売場はある程度ファッション感度を持った客層をターゲットにしているように見える。高齢者層を取り組むという観点で見れば、イメージキャラクターのポスターや着装提案を前面に打ち出す売場から変わる必要がある。そして、もう少し売場の照度を上げ、値頃感を感じさせる単品集積をメインに変更したほうが望ましいと感じる。トレンドを打ち出した着装提案は当然必要なことだが、わかりやすく売りたい単品を打ち出していく見え方の比重を上げたほうがいいと思う。

昔、丸井やパルコ、ビブレに買い物に行っていたノンポリの人たちが、高齢者層になっている。その大きな割合を占める客層をもっと理解することが、まちがいなく成功要因になる。

■今日のBGM

ファッション事業の方向性

4月5日の日経新聞に「アダストリア売上高3割増へ」の記事が掲載された。主力のファッション事業に加えて、海外事業の強化、その他異業種への取り組みで事業の多角化を図り、M&Aを加速させマルチカンパニー化を進めるとのことだ。前身の会社「ポイント」から見てきた会社の考え方を振り返ると、少し違和感を覚えた。新しい方向性に変わったような気がした。

「その方向は正解なのかな?」と考えていて、ネットを見ていたら「ファッションスナップ」のサイトに「今を見つめるか 先を見通すか 二分化するアパレル企業の経営スタイル」という記事があった。要約すると、本業で蓄積したシステムや人材を新事業に活用し、事業の多角化を進める「アダストリア」とアパレルと服飾に集中して小売業を完成させようとする「パル」の取り組みについての内容だった。当然どちらが正解とは記されてない。

以前もこのブログで書いたことがあるが、いろんなブランドや会社を持つことは必要だが、やはり幹になる店やブランドを持つことが最も大事なことだと思っている。ワールドやオンワード、イトキンなど過去の大手アパレルには規模の大きなブランドはたくさんあったが、収益の大きな幹となるブランドがなかった。ユニクロや無印良品はその大きな幹を太くすることで企業力が大きくなったと思っている。そして今でもショップの精度を上げる努力をしている。アダストリアは当然他業務と並行して進めるだろうが、「グローバルワーク」を大きな幹にすることが必要ではないかと感じていた。アダストリアからもそのように発表はされている。そして、片やパルの「3コインズ」は完全に大きな柱になっている。

話は逸れるが、ファッションスナップの記事にパルの各ブランドは4週間毎の在庫の評価損を粗利益に反映させる」とあり、「店長はいかに在庫を抑えられたかが人事考課に加味される」とあった。その事実は全く知らなかった。ちなみに2024年のパルの年間在庫回転率は手計算だが5.9回転でアダストリアの4.3回転と比べると高い数値になっている。ずっと「小売業は在庫がポイント」といい続けていたのだが、もっと早くこの手法を細かく知るべきだったと後悔した。

今後のファッション業界は、総需要がどんどん減っていく中、競争激化が予測されている。先行するブランドやショップに追い付くのは、大変な労力が必要になってくる。かといって、得意種目外で戦うには、きらいな種目も勉強しなければならない。そして共通言語で話したほうが、意思も伝わりやすい。

どちらに行くにしても、すでにハードルは高くなっている。どちらに向かっていくのが正解か、ジャッジさえできない。今回のアダストリアの記事で一番強く思ったのは、私が思っていたアダストリアでなくなってしまったということだけかもしれない。

■今日のショット

ニッチマーケットで生き抜くには

この数年、めっきり服を買わなくなった。行動範囲が狭まったこともあるし、出かける頻度も減ってきた。調べると60代以上の人の洋服平均月購入額は約4000円となっている。そして、3~4か月に一度程度の購入頻度が一番多くなっている。さらに高齢者世帯(65才以上)の年平均所得は318.3万円(令和3年)というデータもある。以前も書いたが65才以上の構成比は2024年度で29.1%となっており、過去最高を更新している。ちなみに65才以上構成比は1985年に10%を2005年に20%を超えており、どんどん上昇している。

つまり、少子化と高齢化で完全に中心となる消費人口は大幅に減っているし、今後はさらに減少していく。当然小売業もマーケットはどんどん小さくなっていく。そして、流れ通りに好調企業はデイリーマーケット中心になり、どんどん規模を拡大している。類似企業は整理され、癖がある企業は、淘汰されるか大企業の傘下になってきている。

先日、都内に所要があり、その帰路、池袋東武百貨店立ち寄って「御座候」を買って帰った。今までも出かけた際は、都内では新宿高島屋、立川高島屋、大宮では大宮そごうでよく買って帰っていた。「御座候」は関東でいう大判焼きか、今川焼のことで関西では回転焼きか「御座候」と呼ばれている。赤と白(餡)を5個ずつ買って10個で1100円。それでもいつも数人並んでいる。女房は関東人だが、この類では一番おいしいと言っている。10個で1100円は値上げした価格だが、この値段でも「御座候」の販路はほぼ百貨店となっている。調べてみると北海道から広島、徳島まで(九州は売っていない)で79店舗あり、近畿地方以外では30店舖で、駅ビル百貨店以外では3店舗しかない。関西でも駅ビル百貨店以外は49店舗中7店舗しかない。1個110円の今川焼(回転焼)のほとんどの販路が実演販売での百貨店への出店になっている。そして企業としては、創業75年で2024年売上高は67億円となっている。

今後小さくなっていくマーケットで狙っていくには、ニッチマーケットしかないかなと思っている。「御座候」はそこでうまく生き残っている。

ニッチマーケットで残っていくのは、わかりやすい切り口とコンセプトを変えず背伸びをしないことだと思う。ファッションでもいろんな切り口で過去登場してきた。Tシャツを切り口にしたり、帽子だけのショップだったり、パンツの専門店だったり・・・そこでもいろんな試行錯誤を繰り返している。例えばTシャツ中心の「グラニフ」は一挙に広がったが、取扱商品の幅を広げたり、売場を大型化したりして少し迷走しているように見える。レディスのパンツショップの「ビースリー」は当初、郊外モールにも多く出店していたが、客層を見定めて百貨店志向に変えて安定した立ち位置を確立している。

私自身立ち上げた店も、隙間を狙ったMDだったが、なかなかわかりやすく標準化を整理できなかった。市場を分析し、理論上の売上も充分あったのだが、現実として売場の大きさや立地、区画の形状でイレギュラーが出てきた。多店舗になっていくにつれ、会社の考え方がぼやけてきたようにも感じる。もう少し徹底するべきことを明確にして、守るべきだったと反省している。

小売業の現状の流れに当分変化はないように感じる。ただ、ニッチマーケットは必ずある。そのマーケットの特性を細かく把握して、ビジネスモデルを真剣に考えれば、新しいことは必ずスタートできると思う。

■今日のBGM

小売業に優秀な人材は集まるのか?

「人が集まらない」ことを書こうとしたのだが、まず小売業にはどんな人材が必要なのかを考えてみた。自分自身も小売業しかやってこなかったので、個人的には「小売業の優秀な人材」についてしか語れない。

やはり、視野が広い人だと思う。全体を見ている人というのかもしれない。

小売業の基本は現場、つまり店での仕事になる。店の仕事は、接客を中心とした販売が主な仕事と思っているかもしれないが、それは違う。高単価な商品を接客で売る店は当然のことながら最も重要視されるが、そういう類の店は非常に少ない。そういう意味で「ミステリーショッパー」などの評価は全く意味がない。店の仕事は非常に多い。接客とレジ作業はルーチンな業務だし、商品入荷時の検品や登録、品出し、商品の演出、POP作業もある。品出しも簡単な単品フォロー品と、新規商品群で違ってくる。レイアウト変更も伴う。そして、それぞれに守るべきマニュアルがある。例えば演出にはカラーコントロールもあるし、陳列にも最大陳列量などのストアメイキングマニュアルがある。

作業中、やるべきことだけに目を向けている人と、全体を見渡しながら動いている人に分けることができる。全体を見て動いている人は、指示を出せている。例えば演出を真剣にやっていて、レジのお客様に気が付かなかったりすることがよくある。それを指摘して、教育してもなかなか改善できないスタッフもいる。ただ、接客や演出で群を抜くレベルのスタッフもいる。でもそういうレベルのスタッフは当然全体も見えている。

本部での仕事も同じだ。店での仕事を経験して本部勤務になるケースが多いが、店や他セグメントとの協調ができるかがポイントになる。どうしても自分の数字を中心に考えてしまいがちになるが、本部の担当者の数値責任の範囲と、店の数値責任は必ずしも同じではない。本部はあくまでも店の数字を手助けする立場ということを忘れがちになる。あくまでもスタッフ(本部)はライン(店)を助ける位置づけということを理解しているかが大事な要素になる。そういう視野で小売りの本部の仕事はすべきだと思う。

ただ、そういう意識を持つ人材は、だんだん少なくなっている。以前の会社でも、「視野の広い」スタッフに支えられてきた。ただそういう人材も高年齢化して、若手からは数人くらいしか視野が広い人材は出てこなかったように感じる。新卒採用に関しても、定期採用は3年目くらいから始めたが、会社の規模は順調に大きくなっていったにもかかわらず、年々応募者は減り、コロナ前には東京、大阪、九州の説明会には数人しか応募がなかった。

話は逸れるが、新卒者の求人倍率を調べてみると、従業員5000人以上の会社の求人倍率は0.34倍、1000~4999人は1.14倍,300~999人は1.6倍、300人未満は6.5倍だそうだ。求人倍率は1人に何社から求人が来るかということなので、規模が大きくなればなるほどハードルが高くなっている。裏を返せば、大企業の人気は高い。さらに現状の給与、待遇面から大企業志向は強くなっている。これだけパブリシティで給与待遇のことが言われると、そこに目がいってしまう。中小小売業はどうしても構造的に待遇拡大志向には、ついていきにくい。

小売業はなかなか活性化しづらい環境に来ているようだ。特に中小小売業に若く視野が広いスタッフが増えなければ、新しく元気な企業が出てこない。だんだん面白くない業種になってしまう。実は、一番スタートアップしやすい業種なのだが・・・

■今日のBGM

仕入れるだけなら誰でもできる

ビレッジバンガード(ビレバン)の数字を見ていて、浮かんだのが標題の言葉になる。「仕入れる人」と「売る人」の気持ちが1つでないと商売はうまくいかない。できれば「仕入れる人」と「売る人」は同じが望ましい。小売業が大きくなると「商品部」と「店」との間に、多かれ少なかれ温度差は必ず出てくる。

ビレバンはマニアックな商品を仕入れて、さらに雑多な売場で、「宝探し感」ある店だ。そして、衣料品や雑貨(食品も)まで広範囲な品ぞろえになっている。商品の幅が広がれば広がるほど、マニアが欲しがる商品が見えてこなくなる。さらに店舗数が増えると、そういう商品の好きなスタッフも減ってきて、店の対応も店舗間の格差が出てくる。

35年以上も前のことになるが、インポートの品揃えショップを立ち上げようと動き回ったことがあった。そういうゾーンには一種のマニアのようなお客様がいる。そのお客様を見て、満足させる品揃えをすると大変なことになる。今はわからないが、その時代は単品では発注はできなかった。ミニマムの発注量が設定された。さらにアイテムのみの拾い買いなら原価は当然高かった。つまりトータルで提案しているブランドで、例えばカットソーだけ仕入れることは難しく、仕入れできても原価は高く発注量も設定される。当然返品はできない。そういう商品は評判が良くても売りづらい。つまり「見せる」だけの商品になることが多い。ただ、その商品があることによって店格が上がり、そういう商品の好きな人たちが集まる。ただ、「見る」だけのお客様は増えても、売上や利益は上がらない。そういう商品を仕入れるのは楽しいし、もてはやされるが、売れなければ商売は続かない。売れる商品の開発が必要になる。

さらに商品にも寿命はある。寿命がなさそうな商品群でもそれはある。食品に賞味期間があるように、衣料、雑貨にもある。商品を入れるだけでは、商売はできない。商品の寿命を考えてなくしていかねばならない。売場に手を加えて売る努力をする。ただ、それだけではよほど人気の商品以外はなくならない。売れ残った商品をどう処理をしていくかも非常に大きなポイントになる。値段を下げて売りつくしていくのが普通だが、値段を下げると当然利益は下がる。

「面白い商品があるから仕入れる」だけなら誰でもできる。商品を販売して現金にして、やっとその金で新しい商品を仕入れることができる。その理屈がわからないと商売はできない。立ち上げたインポートの品揃えショップの評価は高かったが、商売にはならなかった。

ビレバンには、昔やっていた会社で取り扱っていた商品も入っていた。ただシーズンが終わり、なくすべくタイミングでもそのままで、残品的にずっと残っていた。そのまま次のシーズンまであっても、もう売れない。売れ残り品はすぐわかる。

商売は「仕入れること」が一番楽しい。だが、売り切って初めて仕事は終わる。生鮮食品では、なくならなければ、廃棄するしかない。衣料品も雑貨も理屈としては同じで、売り切らないと、次の商品は仕入できない。その理屈を誰かが明確にマネジメントしないと、事業は成り立たない。

■今日のBGM

もう誰も小売業に参入しないのではないか?

小売各社が発表する、月次売上のデータがある。各社2月の数字を見ていて、ふと思い立って、以前コロナ前からの数字を毎年拾っていた月があり、そこに今年の数字を記入してみた。その対象月は12月と1月だった。既存店前年比のみを記入していたのだが、その数字を掛け合わせてみた。これで既存店の動向が明確にわかるわけではない。期中にできた店もあるだろうし、なくなった店もある。ずっとその期間、店がある割合はわからないが、指標にはなると思う。

12月はコロナ前2019年の数字から順に2024年12月の前年比までを掛け合わせてみる。2019年比ベスト5はABCマート145.4%、しまむら125.8、西松屋119.4、アオキ116.3、ハニーズ110.4となる。 ワースト5はライトオン49.0%、マックハウス73.5、ジーフット75.8、パレモ75.2、ビレバン77.0の順となる。 ちなみにユニクロは101.9、アダアストリアは98.7、ユナイテッドアローズ(UA)87.9となっている。尚、無印良品はコロナ期間の数字は発表されておらず、数字はつかめない。

1月はコロナ前2020年の数字から順に2025年1月までの数字までを掛け合わせる。ベスト5はABCマート120.6%、西松屋115.6、しまむら114.6、ハニーズ110.9、ユニクロ105.6 。 ワースト5はライトオン62.8%、ジーフット75.6、タカキュー76.3、TSI78.7、UA80.8の順となる。 ちなみにアダストリアは98.2、ニトリは101.4となっている。

繰り返しになるが、これが正確な流れではない、あくまでも個人的な指標ではある。

この数字を眺めると、必需商品、さらに値頃感がある企業はコロナ以降も安定的な数字になっており、あまり大きな影響はなかったように見える。逆にファッション感が高い会社はコロナ時の落ち込みが大きく(12.1月はバーゲン期にも重なる)、回復も遅い。さらにコロナで大きく数字を落とした企業は、この数年で会社組織も大きく変わっている。つくづくコロナ5年間の空白期間の影響は大きく、数字は最近やっと回復してきた感が強い。

それに加えて、以前このブログでも数字を出したが、購買客層の変化も大きい。日本の総人口は2000年と比べると約98%と微減となっている。一番大きな変化は65才以上の比率で2000年は総人口比17.4%だったのが、2023年は29.1%まで上昇している。65才以上人口は実に164.4%まで増えている。50才以上にすると人口構成比は38.6%から49.5%と広がっている。そして最も購買力がある15~49才は人口が81.7%まで減っている。つまり、小売りの販売環境も世間の流れと同様、高齢化に対応せざるを得なくなっている。その流れが数字の流れになっていて、「値頃感」、「必需品」という言葉がキーワードになっている。

商売を始める動機として、当然「儲けること」を念頭に置く。その上で「何を」「誰に」売るかを明確にする。スタートアップするのに「高い年代層」に「値頃品」を売るという発想は、あまり念頭に置かない。たとえ、それを念頭に置いたとしても、販売経路が限られてくる。郊外モールや、駅ビルからは誘致されにくい。「トレンド品」を「高感度な客層」に売ることはかっこいいし立ち上げてみたいが、現状の流れでは成功の確率は当然低い。

小売業への新規参入は、ますます難しくなってきている。

■今日のBGM

客層を選ぶのか、客層に合わせるのか?

各社の1月の売上速報を見て、ブログを書き始めて途中でやめた文章が残っていた。それを読んでいて、まとめきれなかったのだが、少し修正をしてみようと、再度書いてみることにした。

タカキューの数字を拾っていて、間違って第3四半期決算資料を開いてしまい、それを見ていた時に感じたことだ。数字に関しては改善を示しており、今期決算でどういう着地になるのかというところだとは思う。ただ、決算概要の中に「再成長に向けた課題解決」という項目があり、理路整然と示されているのだが、現実としてどうなのかと少し引っかかった。きれいな言葉で書かれてはいるが、現場はそう動くかなと思った。ターゲットを明確にしてMDを再設計するということだが、いかにも書類上のことのようにしか思えなかった。

タカキューはイオングループの会社だったし、まだ現在でもイオンは大株主ではある。イオンという会社は、やはり大企業であり、明らかに昔の小売業ではない。短期間だが、仕事をしてきてそれは痛切に感じた。特に従業員教育に関しては驚くほどの内容があり、小売の勉強をしないとついて行けない厳しさもあった。タカキューが、その環境下にいたということは、おそらく政策論は十分やりつくしているのではないかと思う。小さな変化は当然あるが、再成長に向けた今回の実施施策が、どれだけ従業員に響いたのかはわからない。外部から新しい風を入れて変革しようというのはわかるが、従業員はもう疲れているのではないだろうか?

私自身も明確にわからないので、文章がまとまらなかったのだが、一番気になるのは「ブランドを再定義する(ポジショニングを変える)」ことは正しいのかどうかということだ。このブログの標題の「お客様を選ぶのか、お客様に合わせるか?」が明確でなく、そこが一番すっきりしない。長年商売をしてきて、お客様が離れていった。その結果、数字が悪化している。離れていったお客様を再度呼び込むためにお客様に合わせるのか、きちんとした戦略を立てて、再度お客様像を変えるのかということだ。しかし出店場所は大きくは変わらない。従来のお客様がターゲットになる。新しいお客様を引き込めるかどうかのリスクは高い。

そして、再定義したポジショニングが得意な販売チャネルはどこなのか?どこにするのかも明確にする必要がある。ショップ運営で大事なポイントだと思う。ただ、今はもう自社のブランドポリシーを推し続けていくより、お客様に合わせていくしかないような気がする。もし「お客様を選ぶ」方向なら、今の出店政策を根本的に変える必要があるように思う。

この「再成長に向けた課題解決」を見ると、今まで繰り返されてきたことの焼き直しで、きれいごとにしか見えない。現場感が見えてこないこと、具体的な戦略の変化が見えないことを、従業員がどう捉えるのだろうか?そこが、変革のポイントになるだろうと思う。

やっぱり、書き直しても、うまくまとまらなかった。

■今日のBGM

店舗大型化への壁

先日、「グローバルワーク」が増床改装で売上を上げていき、アダストリアのコアブランドにしていくという記事についてコメントした。売場を大きくするということを、簡単に政策に上げるが実は非常に難しい。大型化したためになくなっていったショップは数多くある。

RSC(大型モール)を主な出店場所とするなら、売場は50坪以上で組み立てたほうがいいと思う。40坪くらいまでの小型店と、それ以上の中型店では条件面で差が出てくる。おそらく近年はその傾向が強いのではないだろうか?特にリーシングに苦労しているSCにとっては、空床期間は短くさせたい。さらにある程度の大きさのテナントを導入させたい。そのためには若干の条件面での優遇はある。例えば坪当たりの最低保証の金額を低くしたり、最低保証をなくしたりして歩率のみにする交渉も可能になる。

例えば、40坪が適正だったボリュームゾーンのメンズカジュアルの店で、売場を広げるには何をするか?まずプライスラインの幅を広げる。ブランド商材を投入したり、高感度商材を導入したりする。値段の幅を下に下げるのはなかなか厳しいので、ボリュームゾーンを厚くすることも当然考える。メリットはグレード感が出ることだが、デメリットは「値段が上がる」ということになる。さらに、カジュアルからドレスへの幅を広げることも考えられる。それにより、客層の幅は広がるが、ここでのデメリットは「客層の変化」「商品回転率の悪化」があげられる。雑貨類の拡大もある。ここまでになると、「商品品揃えの得意、不得手」というポイントも出てくる。アウター、カジュアル、雑貨とも仕入れの視点が変わってくる。それだけに品揃えの偏差値は上がる。つまり、現状の店に絶対プラスすべき商材やブランドなど必然性がなければ、大きく売場は広げにくい。

最も安易に考えれば、レディス衣料を加えて世界観を広げることだが、これは一番危険な取り組みだ。まず商品サイクルも違うし、見せ方も違う。同じ目線で品揃えできる人間は数少ない。MD型のショップでは全体のまとめ役が必要になり、その責務は大きい。このやり方で売場を広げて成功した例はブランドショップぐらいで、MD型のショップではあまり見たことがない。

商品だけの問題点も上げたが、当然「人」「金」の問題も出てくる。売場が大きくなってセルフ販売に変えるのならいいが、従来の販売方法を続けるなら、当然人員を増やす必要がある。つまり人件費は増える。さらに拡大することによる内装費や経費負担も増える。それを吸収できるだけの売上増は当然必要にはなる。

さてどうすればいいか?もう一度ゼロベースから店のコンセプトを作り直していく必要がある。例えば、ユニクロのように「シーン」は強調せずに、「商品」「値段」だけを大きな切り口にしたり、無印良品のように「世界観」を決めて、その「世界観」を共有してあらゆる商品群を品揃えしたりする。両者とも目線を揃えるべき「決まり」が必要で、そこをジャッジすべきマーチャンダイザーがいる。つまり最初からショップのブランドを作っていくしかない。

単純に売場を広げたり、客層の幅を広げたりするには、多くの検証が必要で、安易に決定すべきではない。今まで築いてきた店のMDテーマがぼやけていくことが一番の致命傷になることが多い。

売場の大型化には、最初からブランドを作りかえるほどの労力が必要になる。

■今日のBGM

«過去の 投稿