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好調続ける専門店とその変化

昨年12月の各社数値が発表されている。全体的にはまずまずの数字で量販期を乗り切っている。引き続き各社好不調ははっきりしているが、カテゴリーは違うが「ユニクロ」「無印良品」(以下無印)、「ABCマート」(以下ABC)「ユナイテッドアローズ」(以下UA)が常に安定して大きく伸ばしてきている。その中でも「ユニクロ」と「無印」は少しずつ立ち位置が変わってきているように感じる。

セレクト業態の「UA」を除くと、ここ20年の流れに乗って郊外大型モール(RSC)に出店を重ね、その成長と共に大きく数字を伸ばしてきた。「UA」もRSCへの業態も作り、環境が合いそうなSCへは参入している。ただ近年「ユニクロ」と「無印」は出店についての動きが変わってきているように見える。

最も変化が見られるのは「無印」で、出店場所は全くRSCにはこだわらなくなってきている。昨年11月の出店は14店舗で大型RSCと思える出店は0、10月の出店は5店舗で同じく0、9月の出店は9店舗で同じく0と、CSCやNSCには出店はあるがRSCには出店していない。逆に路面店への出店も多い。展開アイテムも多く日用雑貨の観点で600坪前後の路面店も含めて出店を進めているようだ。

「ユニクロ」の出退店の国内データを見ると、2023年8月度決算では出店34、退店43、2024年8月度決算では出店37、退店40、今年度は4か月で出店15、退店10となっている。国内ユニクロ事業は全体の売上の30%に過ぎず、現状の800店舗近い店を飽和状況とみているのかもしれない。店舗の増床含めた場所移動は多く見られる。

「ユニクロ」「無印」ともに、モールでのテナントゾーニングによる出店環境や、他テナントとの相乗効果をあまり意識しないようになっている。つまり他店舗からのプラス効果より自社独自での立ち位置を優先しているように見える。当然大きな集客要素を持つRSCに関しては前向きに取り組んではいる。ただ、モールとの契約では高くなりがちな賃料(それでも低歩率)、基準面積より小さな区画提案、短い契約年数などがあり、それ以上の好条件の場所へ出店するメリットを十分意識し始めているようだ。現実にRSCの大型物件から退店して、近隣に出店する「ユニクロ」は多数ある。そういう意味で、出店条件のハードルが低いCSCやNSCへの出店や、契約年数をあまり意識せず「根を張る」商売をしていける路面大型店への取り組みが増えていっている。

モール側のテナントリーシングとしては、メインフロアにできるだけプレステージの高いテナントを出店させたい。そして上層フロアの核に集客要素の高い大型店を誘致したいと考える。つまり低層階にモデレートな大きい売場をリーシングすると上層階へのリーシングに苦しむ。さらにSCのグレード感を出しづらい。そして現状、それを許容していることがRSCの不振の原因にもなっている。さらにRSCの出店過多もあり、テナント側もよりいい立地への出店を望むようになっている。そういう環境下での好調2社の動きがある。

「ユニクロ」「無印」の決算数字を見ると、海外事業の数字が大きく、さらに数字の計上方法の変化もありそうで一概には判断できないが、大型化によって在庫回転率は低くなっている。特に「無印」は業種が混在しているせいか、年間2.1回転位の数字で、「利益率に走っている」感はある。ただ会社の、「根を張る商売」への方向性は明確になっている。

上記した好調4社はSCの集客を担う上で、重要なテナントになる。「ABC」も売り場拡大を続けており、以前経営していた会社のショップも「ABC」拡大のあおりで店舗移動の依頼を受け、好調店だったが退店した経緯もある(おそらくデベロッパーは賃料ダウンになったと思うが・・・)。「UA」も主戦場は違うが、RSCでの売り上げも小さくはない。「UA」でのミッドトレンドマーケット(グリーンレーベルなど)の2024年の売上構成比は、単体売上高の28%と大きな数字になっている。

この好調小売各社の出店動向は、今後の大型モール(RSC)の流れに大きな影響を及ぼすと思う。

■今日のBGM

GMSが勝てない理由を今頃気づいた

イオンの第3四半期の決算が発表された。連結決算では第3四半期までの累計で最終損益が156億の赤字で、前年同期の183億の黒字から大きく下回っている。営業利益に関しては主力事業ではGMS事業のみ192億の赤字であり、さらに前年よりも-177億と厳しい数字になっている。

やはり課題はGMS事業だが、一般的な目で見ている記者のコメントで「GMSの食品以外はユニクロやニトリなどの専門店で十分まかなえる」とあった。常にそれを指摘して、「GMSはなくなる」と言っているのだが、今更だけど専門店に勝てない理由がやっとわかった。社員のモチベーションと社内環境の違いだ。

GMSに入社してサラリーマンとしての目標は何だろうか?私自身もそうだったがある程度経験を積めば、まず店長職をめざす。当然売場責任者で数字を上げていくことが最初の仕事だが、そのまま商品のプロに進んでいく人は非常に少ない。食品は特に生鮮においては技術も必要で、その分野でプロになっていくこともあるが、衣料品や生活関連品の担当はずっとその仕事を続けることは非常に少ない。衣料品であれば売場責任者で数店舗勤務し、次のステップでバイヤーとして商品部に配属されるか、店での複数売場をマネジメントするポジションになる。バイヤーになっても商品部長を次のステップにはできない。商品部長へのステップとしても、やはり店長職の経験が必要で、店長を経験しなければ部長職にはなれなかったと記憶する。私の経験上、GMSでは店長を経験して営業関連、商品関連、人事管理関連へ異動していったと思う。つまり商品が好きで、商品一筋の人はほぼ皆無だと言える。

私自身も売場を5店舗6年経験し、その後商品部に5年在籍した。商品は楽しかったし、いろんな経験もした。ある専門店のオーナーに、小さな店だったが「違うことするから、店をあげる。」と言われたこともあった。(その後そこで売っていたブランドが大人気になって数億の売上の店になった。)だが、その後営業企画のポジションに異動になり商品とは離れていった。

つまり、商品を売りたくて、そして商品を作りたいという気持ちで入社してくる専門店の社員とは、まず立ち位置が違っている。会社のジョブローテーションも違ってくる。専門店の社員はどの商品が売れるか、どうやって売るか、レイアウトはどうするか等、売るために何が必要かを考えて仕事をし続ける。ステップとして仕事をするGMSの社員では絶対勝てない。

イオンなどGMSも商品供給の別会社を作ってはいるが、あくまでも形式的なものが多く、単なるモチベーションを変えるだけのものが多い。そしてその会社の従業員も形式的に組織に組み込まれるケースが多く、商品に対して前向きなモチベーションを持って仕事に従事してはいないと思う。さらに、取引先はまだまだ従来のGMSへの卸取引先が多く(衣料関係は名古屋、岐阜)その流れでMDを組み立てており、SPA型の専門店の商品量とコスト、販売力に完全に負けている。つまりモチベーションと取り組み方に大きな差が出ている。

今まで量販店が、なぜ本気で「ユニクロ」や「無印」(もともとはGMSの西友が開発したが・・・)を作れなかったのかと思っていたが、従業員のモチベーションと企業風土が違うからだった。今頃気づいたのかと言われそうだが、この立ち位置の差は大きい。

やっぱり、GMSは専門店に絶対に勝てない。

■今日のBGM

感覚よりも数字

「消費者の2極化」「中間層の減少」などと軽々しく書いているけど、現実的にはどうなのだろうか?小売業の現状のデータ以外にどんなデータがあるのだろうか?どうも感覚で言っているようで、現実的にはなかなかはっきりしない。ちょっと、いろいろ思いついたことを調べてみた。

以下羅列する。

・レクサスの2023年の国内販売台数は前年229%で2024年度も増加傾向で10万台を超える。

・大手企業の2024年の定期昇給+ベースアップは5.58%で33年ぶりの高水準、中小企業も4.42%で32年ぶりの高水準。

・JTBによると、今年の年末年始海外旅行渡航人数は前年113%、費用は106.6%、旅行消費額は120.6%。

・世帯所得は2013年528.9万、2020年564.3万、2022年524.2万。高齢者以外の世帯所得は2013年615.2万、2022年651.1万。

・人口構成比65才以上1950年4.9%、2023年29.1%。65才以上:15~64歳、1950年12.1:1,2022年2:1。

・Z世代(15~24才)のブランド志向データ:ブランド意識しない70%。

ちょっと意図的な方向で調べたのだが、結論は人口構造の変化に尽きるということだと思う。年金中心の高齢者が増えたことで、2極化のイメージが強くなっているということだ。現役世代は、高齢者が少なかった時と同様かそれ以上の生活水準になっている。ただし購買ニーズには変化がある。テレビで、物価が高いとか生活が厳しいと言っているのはほとんどが高齢者で、現役時より収入が減っているので当然のことだ。しかし、その高齢者層が増えていることが大きな変化で、全体の流れが大きく変わってしまっている。そこに若年層のブランド離れも併せて、価格志向になっているということだと感じる。

話は突然変わるが、ヤオコーの社長が年末記者会見の記事で、以下のように述べている。

・現状1Km商圏シェアは17~18%。商圏シェアを分析して低い店より高い店をどうするかが課題。

・都心20Kmに出店したが、通常店の6割位の面積でも通常MDを凝縮すれば十分戦える。

・都心20Km以内には大きな商圏があり、さらに売場を小さくしたときに自社の強みを出せるかが課題。

・品揃えの強みは現状19のセグメント、特に10の主要セグメントを細かくチェックして品揃えを決めていること。

等々・・・

うまくまとめきれないが、数値データをもとに方向性を語っている。

企業は大きくなると、トップや上層部は、現実的なことは語らず、言っていることが抽象的になる。なかなか身近な数字で語らない。それを理解して指示するのが中間管理職かもしれないが、そうなると受け取り方で内容が変わることが多い。ヤオコーの社長のように数字で話せば、理解しやすい。実はこの記者会見の記事を見てこのブログを書こうと思った。

小売業は、とかく「感性」や「ロマン」を語りがちになる。スタートアップ時はそれでいいが、企業が動き始めると、仕事への取り組みや、結果には常に「数字」が付いて回る。数字で語れる経営者がいる会社は数字意識が高いはずで、間違いなく成長し続けることができると思う。

■今日のBGM

今年は、冷静に立ち位置を分析する

今の流れを見ていると、間違いなく、体力のない専門店は淘汰される。路面店の飲食店がどんどんなくなっていくように、資金力がなくなってきた小型店は厳しい流れになる。最低賃金の上昇と社会保険「壁」の撤廃など逆風が強すぎる。金利も上昇しそうな流れだし、当然銀行の融資の壁も高くなる。商品の原価も円安の流れが続けば当然上昇するし、売価を抑えれば利益率は確保できない。逆に売価を上げれば、価格志向が強い現状では売れない。要員不足も待遇改善される大手へ流れるので、マイナス要素しかない。大手企業のアダストリアの年末に発表された第3四半期決算でも売上前年比は108.3%にもかかわらず、営業利益前年比は90.6%となっている。その要因として、円安による原価上昇や待遇改善による人件費増をあげている。つまり「人」「物」「金」すべてがアゲインストになってくる。

その流れで、間違いなくM&Aの活性化が起こる。去年の「タカキュー」、「ライトオン」や「マックハウス」を見るまでもなく、厳しい業態は3年先くらいを想定しても成り立っていかない。上場企業でもスーツ業態専業の会社や、ティーンズ系中心のアパレルは厳しい流れは続くと思う。非上場企業でも50~100店舗を運営する厳しいファッション店舗は数多くある。そういう店は近年出店数より退店数が増える傾向にあり、さらに不振店舗を減らして体制を整えていかねばならない状況にある。M&Aについては、当然負債の問題も大きいが、償却済みの店舗や、人員を引き継げれば、承継会社にはプラスの要素もある。最悪の事態をリスクヘッジする意味でもM&Aは間違いなく増えていく。

厳しい流れが予測される環境下だからこそ、「各小売専門店がすべきことは何か?」を冷静に分析する必要がある。その結果を持って、早急に修正をしていかねばならない。いろんな分析手法は、本やコンサル会社を通じて教示してもらえる。悪化傾向の会社はどうしても過去の成功例のインパクトに引っ張られて、現状を見失っていることが多い。自社の立ち位置を理解し、すべきことをジャッジする必要がある。

そして、今後の方向性の中で、専業を続けるか、複数の切り口を持つかを考えていくことが、今後企業継続での大きなポイントになるような気がする。専業とは、広義にはなるが「ユニクロ」や「ニトリ」などほぼ単一業態で経営していることを指す。逆に「アダストリア」や「パル」は複数の切り口をもちグループを形成している企業ととらえてもらいたい。

専業ならば市場の大きさとトレンドを理解し、現状のポジショニングを明確にする必要がある。現状のターゲット客層の動向や、その市場の大きさ、その中のシェアを考えれば、拡大するか縮小するかなど、企業としての方向性は明確になる。

市場規模や企業規模を考えれば、現状の市場で拡大するだけでなく、他の切り口を考えることも必要になる。現状の市場が頭打ちなら、当然企業を維持成長させる方法として、他業種への取り組みも必要になる。中小企業では難しいかもしれないが、中小企業でなければ気が付かない市場もある。大手が手を付けにくい市場もきっとある。以前立ち上げた会社はそういう市場に向けて立ち上げた。どうしても厳しくなると、現状の事業をマイナス志向で分析してしまう。今のターゲットを細分化すればプラスに転じる市場はたくさんありそうな気がする。

こういう時期だからこそ、企業としての立ち位置を冷静に分析し、向かうべき方向を明確にすることが必要だと思う。そしてそれを社内で徹底させるべきだ。

■今日のBGM

2025年に小売業で起こりそうなこと

この2年間、小売業を外から見てきて痛感することは、「消費者の完全2極化」ということになる。そして、おそらく中間層は完全に値頃感に流れていると感じる。そして、中間層はアッパーには向いていない。SMは値段の切り口で売上が上下しており、値頃感が一番の切り口になっている。衣料雑貨に関しても「ユニクロ」や「ニトリ」の値段が標準にされている。一方、百貨店は今年1月~7月で、インバウンド売上は前年比150.4%と大幅増にもかかわらず、トータルでは98.7%と前年数字を割り込んでいる。百貨店の国内需要は大きく落ち込んできており、アッパー層自体も大幅に減少していると感じる。

通貨の価値を見ても、円安傾向は続いており、将来的にも流れの変化は見えない。現状の流れはしばらく変わらないと見るのが普通の見方だと思う。つまり中間層のボリューム志向の流れは続いていく。

その流れもあり、2024年度はイトーヨーカドーのGMSの解体につながったが、25年度はGMS業態の存続がジャッジされる年になる。量販店業界でイトーヨーカドーと双璧であるイオンの2024年度中間決算を見ると、営業利益トータル986億のうち、金融Gで274億、デベロッパーGで273億、ヘルス事業で184億、専門店事業で141億となっており、その4Gで営業利益の88.4%を占めている。主要事業に中ではGMS事業が-82億で唯一の赤字でさらに前年より-117億という状況になっている。

創業者一族がまだトップにおり、さらに「物言う株主」も多くなさそうな状況では、なかなか祖業であるGMSをなくすことは難しいかもしれないが、外部から見ていてもGMS事業の厳しさはわかる。GMSでの食品事業を好調なSM事業グループと合流すれば、多く改善効果が出ると思う。おそらく赤字の衣料G,住居Gを解体し、GMS事業を見直すことでグループの収益は大きく改善する。そして今後苦戦が予想される国内デベロッパー事業(郊外モール事業)でも、GMSをなくすことでプラス要素での改善ができる。冷静に見れば、もう大型モールにGMSの存在価値はない。

それに絡んで、ヨーカドーの跡地の活用についても話題になっているが、GMSの跡地問題が活性化する。現状話題が多いSMの流れに合わせて、「SM+大規模専門店」中心のCSC(コミュニティSC)、NSC(ネイバーフッドSC)の開発が進んでいくと予測する。イオンモールが先行する大型モール(RSC)が標準化されており、テナントMDも新鮮さがなくなってきている状況下、価格競争が活発で話題の多いSMを主人公とした環境づくりが注目される。GMS跡地を活用しての「SM+マグネット要素の強い専門店」などのSCの開発が進んでいくと思われる。もうすでに「ユニクロ」や「無印」はRSC以外にも目を向けており、「アダストリア」もヨーカドーとブランド開発をしている。特にGMS撤退跡地の活用にはコスト的にもハードルは高くなく、現状のRSCの「いいとこどり」をすれば高効率なSCに変わることも可能だと思う。

百貨店については、その存続はもう大都市だけになり、地方都市にあった百貨店は百貨店でなくなっている。百貨店の定義自体がもう見えなくなっており、地方百貨店の「高級GMS化」が進んでいる。百貨店が高級ブランドのある店と定義するのであれば、どのブランドがあれば百貨店なのだろう?まだ「ヴィトン」のある店は多いが「エルメス」などは調べてみれば11都道府県にしかない。おそらく地方都市の中心市街地の百貨店への求心力は弱まり、地方は郊外モールが地域一番店になっている。

消費者の2極化はどんどん進み、ボリュームゾーンへ志向はどんどん増える。それに合わせて業態の勢力図は大きく変わる。

■今日のBGM

小売業にスタートアップ企業は生まれるのか?

近年、特にコロナ以降、SCの改装でニューフェイス的な店舗が出てこなくなっている。大手小売業が開発する店舗はいくつか見られ、いい場所で出店しているが、それ以外で興味を持てる店はほとんどない。コロナ禍で傷ついた企業は多く、退店も多い。退店区画には空床も出てきており、催事出店も多く、さらには携帯ショップや「ガチャガチャ」などの比較的出店が容易なテナントをリーシングしているSCが多い。

現状の小売業で新しく店を立ち上げ、成長していこうとするスタートアップ企業はあるのだろうか?

日本では中小企業が企業数では99.7%を占め、労働者数は69%を占めている。小売業での中小企業の定義は資本金が5000万以下、従業員数では50人以下を指している。ちなみに小売業では企業数の99.7%、従業員数は61.6%、付加価値額(企業が生産活動によって生み出した価値)54.1%を中小企業が占めている。

他業種ではあるが、飲食業では業績不振や人手不足もあり廃業率が上昇しており、開業後3年以内の廃業率が70%、5年で80%、10年で90%以上と言われている。

国が推し進めている「最低賃金の引上げ」、「103万の壁」「106万の壁」の撤廃は素晴らしい事ではある。ただ、その財源を考える時に、会社の負担が増大していくことに対しての話は出てこない。経団連や経済同友会などに所属する大企業にとって、この問題は大きくないだろうが、総労働者数の70%を抱える中小企業の体力への話が全く出てこない。社会保険の企業負担や時給のアップは労働集約型の小売業には大きな問題になる。マスコミも同様で国の財源論争のみになっている。以前このブログでも書いたが、中小企業の体力についてはお構いなしだ。極論だが、その政策についてくることができない企業は、なくなってもいいようにもとれる。

国は新しく立ち上げた企業にどうやって手を差し伸べてくれるのだろうか?事業のビジネスモデルを検討して作り上げスタートするにも一番大きい課題は資金面になる。30坪で路面に出店しても、敷金、内装費、初回仕入れ商品分、オープンまでの人件費を考えても少なく見積もっても1000万以上は必要になる。商売がスタートすれば自己資金でなければ返済も始まるし、ルーチンの出費がある。金を借りるのも金融公庫の基準は甘くない。経験上、銀行取引は1年以上たたないとスタートできないと思うし、周りに資金繰りに関する諸問題を相談できる人間はいないと思ったほうがいい。そして、設立後発生する資金面以外の問題(商品面、出店面、要員面等)もほぼ自ら解決するしかない。私自身も、会社立ち上げに関してはビジネスモデルも十分に検討したし、さらに小売業の経験は積んでいた。そして当面の問題はシュミレーションしていた。それでも実務としての問題は山ほど出てきた。税理士の先生はじめいろんな人の助言もあり何とか軌道に乗せられた。

公的機関に事業の立ち上げの助言をできるとは思えないし、小売りに関しては金融機関も助言は難しいと思う。現実的には、新規店舗を出店させ活性化を図りたいデベロッパーがいろんな支援をしてはどうかと思う。ただデベロッパーにそういうノウハウがある人間がいるとは思えないし、立ち上げてから企業の色がつく。結局、多少の失敗には許容力のある大手企業の新しい業態開発からしか、新しい物は生まれないのが現実になる。

企業の負担がどんどん大きくなっていく中、小売業を活性化すべく、負担を強いている公的機関がバックアップできる組織を作るべきだ。そして、小売業のスタートアップ企業の育成に前向きに取り組んでいくべきだと思う。

■今日のBGM

セールが多くなり、セール期間が長くなった

いつの間にか冬のバーゲンは12月からになってしまった。まだ百貨店や駅ビルは1月スタートが多いが、郊外モールは12月スタートが普通になってきた。ただ昔のように一斉バーゲンのイメージはなく、「並んでまで行く」イメージはない。特にモールなどは日ごろからセールのオンパレードで「売場全品いつでもセール」の店もある。

数年前までバーゲンは7月、1月だった。それがいつの間にか前倒しされている。近年は11月に「ブラックフライデー」と称する大きなセールが現れ、ほとんど11月からセール状態になっている。

そもそも値段を下げる理由は何だろうか?季節感に基づく商品の入れ替えが大きな理由ではある。大きくは夏物と冬物の処理で、その処理によりキャッシュを貯めて、その金で、次のサイクルの商材を仕入れる。そのキャッシュを大きくするために大きな販促(バーゲン)を使う。

従来の商売は、夏であれば5月中旬から、冬であれば11月中旬くらいから季節商材や、動きの悪い商品の原価を下げてメーカーが出荷するようになる。その商品を買って7月、1月のバーゲン期まできちんと販売して、そこで利益を貯める。その後バーゲンで利益を考えながら値段を下げる商売に入る。特に12月はボーナスとクリスマスのギフト期が重なり、売上と利益を稼げる月だった。春夏商材は7月、8月に、秋冬商材は1月、2月になくして、その金で次節の秋冬物、春夏物を仕入れて利益を回復させていく。そんな商売サイクルだった。その商売サイクルも変わってしまったと言えるかもしれない。春夏秋冬の4シーズンではなくなり、春と秋が極端に短くなってきている。当然それにより、季節商材の売れ方も変わるし、社会催事にも変化が出る。

そして、その図式はテナントにも変化が出てきている。先述した「売場全品いつでもセール」の店は、単品メーカーの直営店が多く、それによって当然小売店に卸すより安く販売できる。それを直接売るときに割引訴求している。公取が定めた2重価格表示をうまく抜ける方法はいくらでもある。ユニクロなど大手もメーカーなどを通さず、自社で商品を作っている。そういう企業は、あくまでも小売店であり、メーカーではない。細かなMDのもと短サイクルで商品を作り、きちんとした値段を打ち出し、その演出計画もあり、陳列台帳もある。しかし短サイクルで商品を作っており、商品計画との差異が出た時は自社セールをして、バーゲン期に関係なく値段を下げてなくしていく。

デベロッパーは売上を上げたい。当然それにより賃料収入を増やしたい。さらに近年の郊外モールのテナントは、前述したように商品サイクルが早くなり、従来の四季による切り口だけではなくなっている。そうなるとどうしてもセール期が長くなる。そしてその流れに対応できる店が増えてきている現実がある。流れに対応できない商品のサイクルが長そうな業態(スーツ、ジーンズなど)は姿を消していっている。デベロッパーもその流れには逆らえず、個別セールを黙認している。モール型のSCの多くはそういう現状にある。逆に百貨店やファッション系のSCではまだセールを野放しにはしていない。ここに客層の差別化が出て2極化がさらに進んでいる。

昔よく言っていた「中間層」は、いなくなったのだろうか?

■今日のBGM

大型モール(RSC)にGMSは必要ない

昔は「洋服好き」だったけど、現役を離れると、おじさんが着てはいけない「無印」で買ったパーカーに、昔の「Lee」や「リーバイス」のデニム、寒いときは何年も前の「バブアー」のキルティングや、いつの時代かわからない「モンクレール」のダウンを着て買い物に行っている。毎週のように出張していた時に着ていた服はタンスの中に眠っている。そうなってくるとSCに行っても立ち寄る店は決まってくる。あるデータ会社によればSCの客層は50代以上がほぼ半数を占め、30代以上がほぼメインの客層になっている。仕事真っ盛り世代から外れてくると同じようなワードローブになるし、見に行く店も決まってくる。ましてやGMSの洋服は全く見ない。

イトーヨーカドーの売却の話題もあり、このブログでもGMS不要と言ってきている。ただSCがなくなればよいとは言っていない。RSC(大型モールイオンモール、ららぽーとなど)、CSC(旧GMS型SC)、NSC(SMを中心とした小型版)は形を変えながら残っていくとは思う。

昨年からイトーヨーカドーの衣料服飾の売場とコラボしているアダストリアの「ファウンドグッド」をたまに見ている。おそらく各店舗の立地と客層の差が大きくて戸惑っているのではないかと思う。立地を選んで出店してきた企業(アダストリア)だけに、アリオ型店舗とGMS型店舗のギャップに対応できていないようだ。アダストリアのブランドなら出店しない立地にも展開せざるを得ない。ユニクロのニーズが強そうな客層の店と、しまむらに近い客層の店のギャップに苦しんでいそうだ。どちらかというとミセスシフトになってきているように見える。GMSが苦労している衣料品の難しさに直面しているようだ。現状の取引条件がわからないが、商品リスクが今後の課題になりそうな気がする。

近隣のイオンの2階衣料の改装は、モールの弱いところをイオン直営で補おうという改装に見えた。本来はGMSの売場は確立されていて、GMSで満足できないところをテナントで補い、客層の幅を広げ、広域からの集客を図るのがモールの考え方だと思う。おそらくそのイオンの売場が本来狙うべきターゲットは「ユニクロ」や「無印」に奪われてしまっており、テナントで補えていない「子供」や「高年齢層」に売場をシフトしてしまっている。GMSの標準的な売場でなく、イレギュラーな売場に変化している。雑貨関連も同様でGMSの売場は「ニトリ」や「無印」、「ABCマート」「100均,300均」で代替えできそうな気がする。

食品は、売場の大きさから品ぞろえの幅が広く、定期的な「全品%オフ」の販促で一定の評価はあるが、近年のSMのパワーは強く、逆に大きすぎることが買いにくさにつながっているようにも見える。

イオンのGMSは、過去のGMSの出店計画とモール(RSC)の出店計画にギャップが出てきており、標準化されたつもりのGMSが標準化されていない現実がある。つまり従来ならGMSで出店しなかった場所に出店していくのでMDにずれが生まれている。さらに得意とするボリュームゾーンも大型化されたテナントに顧客を取られてしまっているのが現実だ。一方、成功したGMSの定義を踏襲していたヨーカドーは、モールの出現でコアターゲットのお客様を奪われ、モールに行きにくい客層(高齢者など)が多くなり、今までのGMS成功の定義が通用しなくなりGMS業態から退いていった。

ららぽーとのようにGMSをキーテナントにせず、個性あるテナントミックスをしたRSCのほうが買いやすいのかもしれない。ただ、イオンモール先行の中、現状では成功する場所は限られているとも思う。

■今日のBGM

中小小売業の106万の壁

先日のモーニングショーで「106万の壁」のことが話題に上がっていた。このブログでも以前に書いているが、この問題の有識者の考え方は、現場感がないのではないかと痛感した。特に会社側から見たとらえ方については全く触れてなかった。

簡単に「106万の壁」を説明する。現状は従業員51人以上の会社では週20時間以上月額賃金8.8万以上年106万以上の従業員には社会保険に加入義務がある。その規模案件を撤廃するというもので、全企業、年収106万を超えると会社の規模に関係なく社会保険に加入義務が生じるということになるということだ。社会保険の負担割合は労使折半となっている。

ちなみに東京都で月額8.8万円の収入の35歳の人なら個人負担、会社負担が折半なのでそれぞれ月額12452円の負担になるという。中小企業にとってもその労働者にとっても大きな金額で、労働者は当然のように労働時間を増やす方向に考えると思う。さらに最低賃金も上昇させていくことも当然のようになっており、双方社会保険料の負担はどんどん大きくなっていく。現状次の壁の130万までは、個人負担をできるだけ少なくして(ゼロにはしないと言っている)会社の負担を大きくする方向のようである。つまり会社が個人分の肩代わりをするということになる。国は金銭負担をする気がなさそうなので話は進んでいきそうだが、本来の折半以上に従業員の分まで負担を強いられる中小企業の話はほとんど出てこない。

さて、現実の話なのだが、「社会保険料は会社と個人が折半していること」をどれくらいの人が理解しているのだろうか。データでは現れてないようだが、肌感覚でいうと上場企業にいても半分くらい、規模が小さくなると30%以下の理解度のような気がする。金融関係の友人と話をしていても同意見で、入社教育に給料明細の説明が必要だと言っていた。そういう意味でそのモーニングショーのパネリストの1人が、「給料明細の社会保険料のところに会社負担分を明記するべき」という意見には納得できた。中小企業の負担は本当に厳しいラインに来ていると思う。当然企業を救済する制度もある。だが、以前も書いたが経営者として毎月1度はハローワークに行っていたが、「キャリアアップ助成金」のことは全く知らなかったように、企業への応援制度をもっとわかりやすくするべきだとは思う。

次に、もう1人のパネリストが、「払えない企業で働くなら、もっと待遇がいい企業で働ける環境ができる」旨の発言をしていた。いろんな会社を見てきたが、当然向き不向きも出てくる。個人としてやりたい仕事も違う。そしてまだまだいろんな意味で企業レベルが違う。そのレベル感を労働者がすぐには埋められないことをわかっていない。学校に偏差値があるように会社にもレベル差はある。ここでもまた2極化する。

最後に、決定的に厳しくなることは中小企業の体力だと思う。日本の会社で従業員50人以下の会社は97.3%でそこで働いている労働者数は61.8%を占めるそうだ。社会保険料の負担増で本当に厳しい会社が増えることは間違いない。国はそれでいいのかもしれないが、間違いなく社会構造が崩れていく。

この話題でのブログは3回目だけど、つくづく国は中小企業を切り捨てようと思っているのだろうなと感じる。そして何より、さらに今回でさらに厳しくなるだろう総企業数の60%を超える従業員50人以下の中小企業への救済対策もわかりやすく説明する必要がある。

■今日のBGM

FCでの小売業

セブンイレブンやローソンなどコンビニのことを書いていて、自分がそのFCのオーナー(フランチャイジー)になれるかどうか、そしてそのFCオーナーはどういう目的でFCをやっていくのかを考えてしまう。衣料関連ではワークマンもほとんどFCでの運営と聞く。

昔、DCブランド全盛時は、大都市には直営店、地方都市はFC店という図式があった。FC条件は各社力関係でバラバラだった。ほとんど、売場はFC先(フランチャイジー)が作り、商品の取引条件を個別に設定していた。売場内装が高い時代で、ブランド力があるほど、坪単価は上がった。余談だが、各ブランドにつく内装業者は高い内装費でものすごく儲けていた。取引条件はメーカーとFC先の力関係で差が出て、標準化されてなかった。商品を委託条件でできるところもあり、高い掛け率での買い取り条件のところもあった。ファッション業界のFCは現在もあるが、大幅に減ってきている。

FCはオーナーの思い入れで成功するかどうか変わると思う。商品を売っていくので商品への愛着がなければ成り立たないのではないかと思う。コンビニやワークマンのFCのオーナーはその商品への愛着やこだわりはあるのだろうか?

ネットで見ると、商品の思い入れとは別に、1つのビジネス、職業として選択しているように見える。脱サラをする、夫婦で始めるというスタートが多いようだ。商品やその店へのあこがれよりもビジネスとしての見方が強い。条件を調べていても、なんとなく仕組みはわかるが、そこで果たしてどれだけ収入が得られるか見えにくい。

諸条件を見ていて、一番わかりにくいのは商品在庫の負担についてだ。FC先(フランチャイザー)に商品在庫分の借り入れをしたことにして金利分を払っていくような仕組みのようだが、コンビニは在庫日数が10~12日とあるのでそこまで大きなリスクにならないが、ワークマンは在庫資産2400万と記されているので、回転率を考えるとなかなか返済に時間はかかりそうだ。前年度の在庫日数は85日前後となっているので年間3回転前後のようだ。そしてその商品リスクは完全に取引先が取ってくれるのだろうか?

さらに懸念事項になるのが、人的課題だ。社会政策的な時給の高騰や社会保険料の負担増など、利益を圧迫する大きな問題がある。コンビニも24時間営業なら当然スタッフ数は多く必要になってくる。ワークマンも家族経営で回せるだけの面積ではない。コンビニは今後、レジの無人化や万引き防止策など対策は進んでいくだろうが、それでも最低要員は必要になる。スタッフのリクルートはどんどん厳しくなる。

先述したが、小売業のFCはオーナーが「収入を得るための仕事」だけでなく「小売」が好きなことや「取引先の商品」が好きでなければ続かない。うまく流れれば問題は浮上しないが、数字が想定より下回ると、「不満」「不安」が大きくなりそうだ。

もう完全になくてはならなくなったコンビニは、商品ラインナップや改善ポイントは見えてきていて、省人化などのシステムも進んでいくだろう。ただ多発するFC企業(フランチャイザー)対FCオーナーの課題も改善していかねば拡大方向に進んでいかない。各社の競合は烈火するが、コンビニ事業はインフラとして今後も必ず残っていく業態だと思う。逆に衣料品中心のFCは商品回転率も悪く、品揃えも標準化しにくいのではないか?ワークマンのような業態はFC店舗と併せて直営展開を考えていかねば成長は厳しいのではないだろうか?特に「実用」から「ファッション」に変化すると間違いなく無理だ。

くどいが、FCのオーナーは本当にその商売や商品が好きでなければ続かないと思う。

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