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店舗大型化への壁

先日、「グローバルワーク」が増床改装で売上を上げていき、アダストリアのコアブランドにしていくという記事についてコメントした。売場を大きくするということを、簡単に政策に上げるが実は非常に難しい。大型化したためになくなっていったショップは数多くある。

RSC(大型モール)を主な出店場所とするなら、売場は50坪以上で組み立てたほうがいいと思う。40坪くらいまでの小型店と、それ以上の中型店では条件面で差が出てくる。おそらく近年はその傾向が強いのではないだろうか?特にリーシングに苦労しているSCにとっては、空床期間は短くさせたい。さらにある程度の大きさのテナントを導入させたい。そのためには若干の条件面での優遇はある。例えば坪当たりの最低保証の金額を低くしたり、最低保証をなくしたりして歩率のみにする交渉も可能になる。

例えば、40坪が適正だったボリュームゾーンのメンズカジュアルの店で、売場を広げるには何をするか?まずプライスラインの幅を広げる。ブランド商材を投入したり、高感度商材を導入したりする。値段の幅を下に下げるのはなかなか厳しいので、ボリュームゾーンを厚くすることも当然考える。メリットはグレード感が出ることだが、デメリットは「値段が上がる」ということになる。さらに、カジュアルからドレスへの幅を広げることも考えられる。それにより、客層の幅は広がるが、ここでのデメリットは「客層の変化」「商品回転率の悪化」があげられる。雑貨類の拡大もある。ここまでになると、「商品品揃えの得意、不得手」というポイントも出てくる。アウター、カジュアル、雑貨とも仕入れの視点が変わってくる。それだけに品揃えの偏差値は上がる。つまり、現状の店に絶対プラスすべき商材やブランドなど必然性がなければ、大きく売場は広げにくい。

最も安易に考えれば、レディス衣料を加えて世界観を広げることだが、これは一番危険な取り組みだ。まず商品サイクルも違うし、見せ方も違う。同じ目線で品揃えできる人間は数少ない。MD型のショップでは全体のまとめ役が必要になり、その責務は大きい。このやり方で売場を広げて成功した例はブランドショップぐらいで、MD型のショップではあまり見たことがない。

商品だけの問題点も上げたが、当然「人」「金」の問題も出てくる。売場が大きくなってセルフ販売に変えるのならいいが、従来の販売方法を続けるなら、当然人員を増やす必要がある。つまり人件費は増える。さらに拡大することによる内装費や経費負担も増える。それを吸収できるだけの売上増は当然必要にはなる。

さてどうすればいいか?もう一度ゼロベースから店のコンセプトを作り直していく必要がある。例えば、ユニクロのように「シーン」は強調せずに、「商品」「値段」だけを大きな切り口にしたり、無印良品のように「世界観」を決めて、その「世界観」を共有してあらゆる商品群を品揃えしたりする。両者とも目線を揃えるべき「決まり」が必要で、そこをジャッジすべきマーチャンダイザーがいる。つまり最初からショップのブランドを作っていくしかない。

単純に売場を広げたり、客層の幅を広げたりするには、多くの検証が必要で、安易に決定すべきではない。今まで築いてきた店のMDテーマがぼやけていくことが一番の致命傷になることが多い。

売場の大型化には、最初からブランドを作りかえるほどの労力が必要になる。

■今日のBGM

街の流れは変わったほうがいいのか?

恒例の、大阪から博多の「実家の用事+飲み旅行」をしてきた。例によって外人観光客だらけで、強烈な円安の影響を感じる。過去、毎月1~2回は行っていたので、ホテルは定宿がある。大阪のホテルは1.5倍位に上がっていた。博多のホテルは毎回1万前後だったのだが、今回は2.5万円が最安値となっており、別のホテルに泊まった。もうそろそろ、日本人と外国人の値段を別にしたほうがいいようにも思う。

「飲み旅行」なので夜がメインになり、昼間は空く。大阪の次の日は私用があるので2日酔いでもすることがあるのだが、博多の次の日は時間がある。今回は友人と昔働いていた天神界隈から、博多駅までぶらぶら歩いた。(当然その後は飛行機の時間まで飲んだ・・・)

天神で働いていたのは約30年前で、今の天神の街はきれいになったし、さらにきれいにしようとしているし、ちょっときれいになりすぎた。昔は渡辺通りをはさんで片側に「ショッパーズ」「マツヤレディス」「コア」「ビブレ」「イムズ」、百貨店の「博多大丸」、そして対峙して「三越」「ソラリアプラザ」「岩田屋」があった。西通りまでには新天町などの商店街があり、「親不孝通り」といわれた若者のたまり場もあった。渡辺通りの地下の天神地下街は日本一通行客がいる地下街と言われた。天神は本当に商業の街だった。

再開発で街は変わりつつある。外国人観光客を含めて人が集まっているのは、博多駅から中州になっている。もともと観光客は、きれいな街は見慣れており、世界観にあるところに集まっている。中州界隈の夜の屋台や、川端通商店街のほうがおもしろいに決まっている。もう変わりつつある天神は魅力がダウンしている。東京では浅草や秋葉原に集まるし、大阪では通天閣や戎橋界隈に集まる。さらに駅は旅行には欠かせないところとなっている。

博多駅に2011年に百貨店の博多阪急ができた。当初は厳しいと見られていたが、2012年の売上373億に対して2023年は623億まで伸びている。2024年予測は661億だそうだ。天神の岩田屋は700億超のようだが、博多大丸は541億で阪急の後塵を拝している。岩田屋や大丸は当然外商比率が高い(20%強)が、阪急は外商比率が1桁とのことだ。現状アミュプラザなどの駅ビルやマルイを含めると約1600億の売上の規模で、天神地区に迫る勢いになっている。当日も明らかに天神地区より中州から博多駅のほうがパワーを感じた。「キャナルシティ」は、やり方次第では間違いなく大きく浮上する。

「天神ビッグバン」でオフィスを呼び込み活性化しようとしているが、商業の観点からすると間違いなく天神は厳しくなると思う。商業が2拠点で成立しているのは、東京以外では大阪ぐらいではないだろうか?大阪は梅田の北側や、なんばの南側にも大きな都市を複数持っていて、環境ができている。果たして博多はどうか?そこまでの力は、間違いなくないと思う 。大阪以外では名古屋も「名駅対栄」だが、もともと名駅は商業が弱く、そこが大きく浮上してきており、博多と似ているかもしれない。だがここも商圏は博多より大きい。

博多は住みやすく、「人」もいい街だ。景色が変わっていくのは時代の流れだけど、味があった「セレクトショップ」や「飲食店」がどんどん減っていきそうな気はする。

■今日のショット(コアとビブレ跡のビル)

アダストリアの向かう方向は?

「グローバルワークを1000億に」という記事が出ていた。具体的には都心部への進出と、既存店の改装増床で500~600㎡の店をモデルにしていくという。

企業の大きさはある意味「売上の規模」になってしまう。2024年度ファッション業界(グルーピングは難しいが)では年間売上3兆を超えた「ユニクロ」を筆頭に、「良品計画」6617億、「しまむら」6350億、「アダストリア」2756億、「ワールド」2023億、「パルグループ」1925億、「オンワード」1896億となっている。「ワールド」や「オンワード」は卸もあり並列するには難しいし、「しまむら」も少し異なる位置づけではある。ただもうすでにあの「ワールド」や「オンワード」よりも「アダストリア」が大きな位置づけにあることは、時代を感じる。

上位に位置している2社はほぼメインブランドを中心に大きくなっている。他のブランドもあるが、「ユニクロ」は“ユニクロ”と“GU”が中心だし、「良品計画」は“無印良品”だ。売上数値を見ていると、いろんなブランドを持っている企業は、一定以上売上規模が大きくなっていない。さらに顧客層を絞り込んで「お客様を選ぶ」企業も規模は拡大していない。「ワールド」や「オンワード」など30代前後からの客層で、客数も減少傾向にある百貨店をメインターゲットにしている企業や、セレクト業態などは大きな売上分母にはなりにくい。同時に社内で競合になりそうなブランドを持つ企業も、ブランドの改廃が進み、売上は大きくならない。

「グローバルワークを1000億に」というのは核になるブランドを作っていくという方向だと思う。同じジーンズカジュアルからスタートした「パルグループ」には現状“3コインズ”という核になるブランドがある。3コインズの売上は2024年度630.6億で“グローバルワーク”の516.7億より大きい。企業内でのウェイトも”3コインズ“は32.7%に対して“グローバルワーク”は18.8%と小さい。両社の利益率は「アダストリア」55.2%に対し「パル」は55.3%。メインブランドの比率のせいか在庫回転率は「アダストリア」は年4.8回転、「パル」は5.9回転。「パルグループ」は“3コインズ”の収益改善を課題には上げているが、営業利益は186.1億とアダストリアとほぼ同額となっている。つまり売上の大きく安定感のあるメインブランドを作ることで企業数値も安定してくることになる。

核になるブランド(ショップ)に言えることは、客層の幅が広いことが必須になる。それは“ユニクロ”や“無印”や“3コインズ”を見ても明らかだ。その意味で“グローバルワーク”の客層の幅をどうやって広げていくのかも大きなポイントになりそうだ。さらにどちらかというと単品量販型の店でなく、着装提案型のイメージが強いのでフル感性に対応させるにも工夫が必要な気がする。さらに店の立地や大きさを標準化させる必要もある。イトーヨーカドーとコラボしている“ファウンドグッド”はあまりスムーズなスタートではないと思う。客層の幅を意識しすぎているように感じる。私見ではあるが高齢者層を70代までにすればファッション感度は変わらず、値段の切り口だけで十分対応できると思う。

私は、アダストリアの福田会長には、「小売業」や「商売のポイント」を教えてもらったと思っている。ここまで企業を大きくしてきたのはすごい努力があったと思う。引き継いだ次の世代が、さらに企業力を高めていくためにはどうしていくべきか、そしてどうしていくのかをじっくり見ていきたい。

まだまだバトンを渡さないかもしれないが・・・

■今日のBGM

専門店の出店場所 ①

「小売業はお客様を見て品揃えするのか、コンセプトを貫いて品揃えするのか」という内容でブログを書いていたのだが、出店する場所によってやはりMDも経費率も変わってくるので文章が止まってしまった。少し出店する商業施設の変化についてまとめてみたい。

まず、駅ビルか郊外の商業施設か路面店に分けて考える。

駅ビルは大都市か地方の中心都市しか売上は望めないだろう。2023年の売上データでは梅田ルクア883億、相鉄ジョイナス643億、JR博多598億、ルミネ新宿473億、エスト472億など大都市の駅ビルが上位を占めている。当然乗降客が多く、中心地にあるので賃料は高い。通勤客が多いのでキャリア層狙いとなる。そうなると出店するショップは大手アパレル系の直営出店や大手専門店が中心になる。出店コストも高いのでなかなか中小の専門店の出店は厳しく、出店ができても郊外都市の駅ビルしか想定できない。

路面店は大都市の都市部ではお客様が流れるが、郊外に行けばフリー客は少なくなる。わざわざ来店してもらえるような商品の品揃えでなければ、間違いなく成り立たない。さらに店舗イメージを上げなければならないので、内装や什器には金がかかる。近年は幹線道路沿いに、ユーズド系の大型店舗も見られる。

郊外の商業施設は敷地面積5万坪以上のRSC(リージョナルSC)と1.5万坪~5万坪までのCSC(コミュニティSC)、それ以下のNSC(ネイバーフッドSC)に分類される。近年出店が多いイオンモールやららぽーとがRSCに分類され、昔のGMSがCSC、スーパーマーケットを中心にしたSCをNSCと考えればわかりやすい。イオンモールは公式に売上を発表してないが、ららぽーとの2023年度売上では、ラゾーナ川崎883億、東京ベイ628億、エキスポシティ519億、富士見514億、豊洲488億と大きな売上になっている。イオンモールはレイクタウンを別として近年500億以上の施設はほぼないか、少なくなってきていると思う。現状専門店の主な出店場所はここになる。ただ食品以外のイオンのGMSに魅力がなくなっており、さらにモール出店過多エリアでは2階、3階の空床が多くなっている。ターゲットが合えば出店交渉も進みやすいのではないだろうか?それでもあるレベルの出店費用は必要になる。

現状、イトーヨーカドーや西友の売却などがあるGMSはもう成り立ってはいない。建物も老朽化している。逆にSMは生活必需品であり各社しのぎを削っている。出店も多くなっている。つまり、CSCの衰退とNSCの活性化が現状では進んでいる。ただ数多くのCSCは既存のGMSで残っており、今後どんどん改廃が進んでいくと思われる。

このブログでも書いているが、近年、RSCは出店過多で本来の商圏(車30分圏)内に競合SCが乱立しており、各モールのショップMDも大きな変化がないため、完全に狭商圏化している。所謂RSCのCSC化を感じている。逆に現状のCSCの改廃を進めれば、中途半端なRSC並みの売上は十分可能なのではないかと感じる。さらに活性化してきているNSCはその近辺に大型専門店を呼び込むことで大きな商業集積にもなっていく。

近年少しずつ商業施設の変化が出てきており、今後の小売専門店の出店場所も変わっていきそうな気がする。

■今日のDVD

無印良品についてちょっと考えてみた

前々回に、好調専門店の動きについて書いた。特に出店立地について「無印」と「ユニクロ」は必ずしも大型モールに優先的に出店せず、会社の方向性を考えて動いているのではないかと書いた。その時少し気になったことがある。

2024年度の「無印」の決算は売上前年比113.8%、営業総利益率50.8%(前年差+4.7%)と営業数値を大きく改善させ増収増益となっている。ただ商品回転率は2.27回転と低く、前年回転率を―0.09回転下回っている。「無印」は、こんなに回転率は低かったのかと少し驚いた。

常々、小売業は「在庫」が商売の一番のポイントだと言っている。営業面では「売上」「利益」「在庫」が抑えるべき3本柱になる。原価率を下げれば(単純に売価を上げることもできる)必然的に「利益」率は上げることはできるし、売れている商品の値段を下げて量販すれば「売上」は上がる。「在庫」が多ければ、売場が変わらないし、動けない。そのバランスが商売のポイントで、一般的な会社は在庫が多いと、商品を仕入れる金がショートしてしまう。つまり売れる商品を仕入れられない。

「無印」の商品回転率2.27という数字について少し説明する。年間に商品が入れ替わる回数が2回強ということで、平均として商品は半年たてば売れてなくなるということになる。衣料関係でいえば夏物は4月に入荷してなくなるのは10月になり、冬物は10月に入荷すれば4月になくなるということになる。これでは、いつまでも季節外れの商品が残っている。季節商材は四季があるので、簡単にいえば年4回転は必要になる。2回転では売場に鮮度が出ない。さらに「無印」は自社商品が多いので必ずしも当てはまらないが、一般的に外部取引先への支払いは、遅くても入荷して3か月後にはなる。つまり6か月後に売れる状態なら、売れる前に支払いが発生する。キャッシュフローに影響が大きい。回転率2.27という数字は、中小小売業では危機的な数字になる。

少し「無印」の決算をさかのぼってみた。コロナ前の2018年決算では売上は2024年比で57.2%しかないが在庫は51.2%で、回転率は2.56と2024年+0.29となっている。ちなみに利益率は50.4%で-0.4%となっている。2010年までさかのぼると売上は2024年比24.7%しかないが回転率は5.88回転と2024年と比べると+3.61回転と非常に高い。在庫高でいうと10.6%しかない。利益率は2024年比―5.3%となっている。つまり全く違う決算内容になっていることがわかる。15年前の「無印」とは全くMDが変わったということだろう。ここまで利益率が改善できて在庫回転率が悪化した理由は何だろうか?

いろいろ考えてみたが、利益率が高くて、在庫を寝かしておいても値崩れしない商品を増やしたのだろうとしか思いつかない。インテリアやハウジング関連は増えているがその影響を考えると、「ニトリ」の2024年度の商品回転率は4.1回転でそこまで悪化要因にはならない数字だ。その他広がった商材を見ると、レトルト商材やグロッサリー商材、さらにスキンケアなどの化粧関連などがある。レトルト商材は賞味期限を考えると在庫回転率は低くても問題ないし、好評で売れている。化粧関連だが、専業で上場企業の「ハウスオブローゼ」の2024年決算での商品回転率は2.2回転と低い。ただこのゾーンの利益率は高く同社の売上総利益率は71.0%となっている。

「無印」の売場の変化を見ても分かるが、レトルト中心のオリジナルの食品とスキンケアなどの化粧関連の拡大で売上を拡大させ、利益率を改善させている。ただ両品種は回転率が低いため全体の在庫増になっていると予測できる。

「無印」は独自に出店を続けており、600坪型の路面店や、SM隣接型など生活に密着した立地への出店を続けている。3月橿原イオンモールの別棟に8200㎡(約2500坪)の大規模出店も発表された。規模が大きくなればなるほど、商品を増やさなければならず、効率がアップするとは思えない。つまり厳しい商品も出てくる。昔の規模が小さいときには回転率が高かったように、大きくなると当然効率も悪化する。規模を拡大するのなら、一度に大きくするにはリスクがある。これ以上商品アイテムを増やすと回転率はさらに悪化し、商品の鮮度感がなくなっていく。自社リスクでやるのではなく、相乗効果ある業態を持つ会社と組んでいったほうが望ましいとは思う。

3年後くらいに、どういう数字になっているか興味を持ってみていきたい。

■今日のBGM

好調続ける専門店とその変化

昨年12月の各社数値が発表されている。全体的にはまずまずの数字で量販期を乗り切っている。引き続き各社好不調ははっきりしているが、カテゴリーは違うが「ユニクロ」「無印良品」(以下無印)、「ABCマート」(以下ABC)「ユナイテッドアローズ」(以下UA)が常に安定して大きく伸ばしてきている。その中でも「ユニクロ」と「無印」は少しずつ立ち位置が変わってきているように感じる。

セレクト業態の「UA」を除くと、ここ20年の流れに乗って郊外大型モール(RSC)に出店を重ね、その成長と共に大きく数字を伸ばしてきた。「UA」もRSCへの業態も作り、環境が合いそうなSCへは参入している。ただ近年「ユニクロ」と「無印」は出店についての動きが変わってきているように見える。

最も変化が見られるのは「無印」で、出店場所は全くRSCにはこだわらなくなってきている。昨年11月の出店は14店舗で大型RSCと思える出店は0、10月の出店は5店舗で同じく0、9月の出店は9店舗で同じく0と、CSCやNSCには出店はあるがRSCには出店していない。逆に路面店への出店も多い。展開アイテムも多く日用雑貨の観点で600坪前後の路面店も含めて出店を進めているようだ。

「ユニクロ」の出退店の国内データを見ると、2023年8月度決算では出店34、退店43、2024年8月度決算では出店37、退店40、今年度は4か月で出店15、退店10となっている。国内ユニクロ事業は全体の売上の30%に過ぎず、現状の800店舗近い店を飽和状況とみているのかもしれない。店舗の増床含めた場所移動は多く見られる。

「ユニクロ」「無印」ともに、モールでのテナントゾーニングによる出店環境や、他テナントとの相乗効果をあまり意識しないようになっている。つまり他店舗からのプラス効果より自社独自での立ち位置を優先しているように見える。当然大きな集客要素を持つRSCに関しては前向きに取り組んではいる。ただ、モールとの契約では高くなりがちな賃料(それでも低歩率)、基準面積より小さな区画提案、短い契約年数などがあり、それ以上の好条件の場所へ出店するメリットを十分意識し始めているようだ。現実にRSCの大型物件から退店して、近隣に出店する「ユニクロ」は多数ある。そういう意味で、出店条件のハードルが低いCSCやNSCへの出店や、契約年数をあまり意識せず「根を張る」商売をしていける路面大型店への取り組みが増えていっている。

モール側のテナントリーシングとしては、メインフロアにできるだけプレステージの高いテナントを出店させたい。そして上層フロアの核に集客要素の高い大型店を誘致したいと考える。つまり低層階にモデレートな大きい売場をリーシングすると上層階へのリーシングに苦しむ。さらにSCのグレード感を出しづらい。そして現状、それを許容していることがRSCの不振の原因にもなっている。さらにRSCの出店過多もあり、テナント側もよりいい立地への出店を望むようになっている。そういう環境下での好調2社の動きがある。

「ユニクロ」「無印」の決算数字を見ると、海外事業の数字が大きく、さらに数字の計上方法の変化もありそうで一概には判断できないが、大型化によって在庫回転率は低くなっている。特に「無印」は業種が混在しているせいか、年間2.1回転位の数字で、「利益率に走っている」感はある。ただ会社の、「根を張る商売」への方向性は明確になっている。

上記した好調4社はSCの集客を担う上で、重要なテナントになる。「ABC」も売り場拡大を続けており、以前経営していた会社のショップも「ABC」拡大のあおりで店舗移動の依頼を受け、好調店だったが退店した経緯もある(おそらくデベロッパーは賃料ダウンになったと思うが・・・)。「UA」も主戦場は違うが、RSCでの売り上げも小さくはない。「UA」でのミッドトレンドマーケット(グリーンレーベルなど)の2024年の売上構成比は、単体売上高の28%と大きな数字になっている。

この好調小売各社の出店動向は、今後の大型モール(RSC)の流れに大きな影響を及ぼすと思う。

■今日のBGM

今年は、冷静に立ち位置を分析する

今の流れを見ていると、間違いなく、体力のない専門店は淘汰される。路面店の飲食店がどんどんなくなっていくように、資金力がなくなってきた小型店は厳しい流れになる。最低賃金の上昇と社会保険「壁」の撤廃など逆風が強すぎる。金利も上昇しそうな流れだし、当然銀行の融資の壁も高くなる。商品の原価も円安の流れが続けば当然上昇するし、売価を抑えれば利益率は確保できない。逆に売価を上げれば、価格志向が強い現状では売れない。要員不足も待遇改善される大手へ流れるので、マイナス要素しかない。大手企業のアダストリアの年末に発表された第3四半期決算でも売上前年比は108.3%にもかかわらず、営業利益前年比は90.6%となっている。その要因として、円安による原価上昇や待遇改善による人件費増をあげている。つまり「人」「物」「金」すべてがアゲインストになってくる。

その流れで、間違いなくM&Aの活性化が起こる。去年の「タカキュー」、「ライトオン」や「マックハウス」を見るまでもなく、厳しい業態は3年先くらいを想定しても成り立っていかない。上場企業でもスーツ業態専業の会社や、ティーンズ系中心のアパレルは厳しい流れは続くと思う。非上場企業でも50~100店舗を運営する厳しいファッション店舗は数多くある。そういう店は近年出店数より退店数が増える傾向にあり、さらに不振店舗を減らして体制を整えていかねばならない状況にある。M&Aについては、当然負債の問題も大きいが、償却済みの店舗や、人員を引き継げれば、承継会社にはプラスの要素もある。最悪の事態をリスクヘッジする意味でもM&Aは間違いなく増えていく。

厳しい流れが予測される環境下だからこそ、「各小売専門店がすべきことは何か?」を冷静に分析する必要がある。その結果を持って、早急に修正をしていかねばならない。いろんな分析手法は、本やコンサル会社を通じて教示してもらえる。悪化傾向の会社はどうしても過去の成功例のインパクトに引っ張られて、現状を見失っていることが多い。自社の立ち位置を理解し、すべきことをジャッジする必要がある。

そして、今後の方向性の中で、専業を続けるか、複数の切り口を持つかを考えていくことが、今後企業継続での大きなポイントになるような気がする。専業とは、広義にはなるが「ユニクロ」や「ニトリ」などほぼ単一業態で経営していることを指す。逆に「アダストリア」や「パル」は複数の切り口をもちグループを形成している企業ととらえてもらいたい。

専業ならば市場の大きさとトレンドを理解し、現状のポジショニングを明確にする必要がある。現状のターゲット客層の動向や、その市場の大きさ、その中のシェアを考えれば、拡大するか縮小するかなど、企業としての方向性は明確になる。

市場規模や企業規模を考えれば、現状の市場で拡大するだけでなく、他の切り口を考えることも必要になる。現状の市場が頭打ちなら、当然企業を維持成長させる方法として、他業種への取り組みも必要になる。中小企業では難しいかもしれないが、中小企業でなければ気が付かない市場もある。大手が手を付けにくい市場もきっとある。以前立ち上げた会社はそういう市場に向けて立ち上げた。どうしても厳しくなると、現状の事業をマイナス志向で分析してしまう。今のターゲットを細分化すればプラスに転じる市場はたくさんありそうな気がする。

こういう時期だからこそ、企業としての立ち位置を冷静に分析し、向かうべき方向を明確にすることが必要だと思う。そしてそれを社内で徹底させるべきだ。

■今日のBGM

セールが多くなり、セール期間が長くなった

いつの間にか冬のバーゲンは12月からになってしまった。まだ百貨店や駅ビルは1月スタートが多いが、郊外モールは12月スタートが普通になってきた。ただ昔のように一斉バーゲンのイメージはなく、「並んでまで行く」イメージはない。特にモールなどは日ごろからセールのオンパレードで「売場全品いつでもセール」の店もある。

数年前までバーゲンは7月、1月だった。それがいつの間にか前倒しされている。近年は11月に「ブラックフライデー」と称する大きなセールが現れ、ほとんど11月からセール状態になっている。

そもそも値段を下げる理由は何だろうか?季節感に基づく商品の入れ替えが大きな理由ではある。大きくは夏物と冬物の処理で、その処理によりキャッシュを貯めて、その金で、次のサイクルの商材を仕入れる。そのキャッシュを大きくするために大きな販促(バーゲン)を使う。

従来の商売は、夏であれば5月中旬から、冬であれば11月中旬くらいから季節商材や、動きの悪い商品の原価を下げてメーカーが出荷するようになる。その商品を買って7月、1月のバーゲン期まできちんと販売して、そこで利益を貯める。その後バーゲンで利益を考えながら値段を下げる商売に入る。特に12月はボーナスとクリスマスのギフト期が重なり、売上と利益を稼げる月だった。春夏商材は7月、8月に、秋冬商材は1月、2月になくして、その金で次節の秋冬物、春夏物を仕入れて利益を回復させていく。そんな商売サイクルだった。その商売サイクルも変わってしまったと言えるかもしれない。春夏秋冬の4シーズンではなくなり、春と秋が極端に短くなってきている。当然それにより、季節商材の売れ方も変わるし、社会催事にも変化が出る。

そして、その図式はテナントにも変化が出てきている。先述した「売場全品いつでもセール」の店は、単品メーカーの直営店が多く、それによって当然小売店に卸すより安く販売できる。それを直接売るときに割引訴求している。公取が定めた2重価格表示をうまく抜ける方法はいくらでもある。ユニクロなど大手もメーカーなどを通さず、自社で商品を作っている。そういう企業は、あくまでも小売店であり、メーカーではない。細かなMDのもと短サイクルで商品を作り、きちんとした値段を打ち出し、その演出計画もあり、陳列台帳もある。しかし短サイクルで商品を作っており、商品計画との差異が出た時は自社セールをして、バーゲン期に関係なく値段を下げてなくしていく。

デベロッパーは売上を上げたい。当然それにより賃料収入を増やしたい。さらに近年の郊外モールのテナントは、前述したように商品サイクルが早くなり、従来の四季による切り口だけではなくなっている。そうなるとどうしてもセール期が長くなる。そしてその流れに対応できる店が増えてきている現実がある。流れに対応できない商品のサイクルが長そうな業態(スーツ、ジーンズなど)は姿を消していっている。デベロッパーもその流れには逆らえず、個別セールを黙認している。モール型のSCの多くはそういう現状にある。逆に百貨店やファッション系のSCではまだセールを野放しにはしていない。ここに客層の差別化が出て2極化がさらに進んでいる。

昔よく言っていた「中間層」は、いなくなったのだろうか?

■今日のBGM

ちょっと気になること

11月の小売上場各社の数字が発表されている。11月は気温が低下してやっと冬物が動き出し、各社とも前年を大きく上回る数字だったようだ。ユニクロは既存昨対112.2%、アダストリア108.9、無印119.2、UA116.2とほぼ全社大きく前年をクリアしてきている。

ここでちょっと気になったのはワールド傘下になったライトオンが既存昨対83.7%と大きく前年を割っていることだ。チェックした上場各社の中では当然ワーストの数字だ。同様にファンドにTOBされた同業態のマックハウスは100.9%となんとかクリアしている。ずっとライトオンについてはこのブログでも触れてきたし、ワールド傘下になったのだからもういいとは思っていたが、どうも解せないことがある。

このブログの6月25日に上期決算数字を概算して34億円分の商品価格を下げているのではないかと書いている。10月に発表した今期決算書で再度確認してみる。くれぐれも勝手に推測しての計算ということは最初に再度断りを入れておく。

若干狂いは出るが、売価還元法で計算する。前年の利益率は48.1%なので原価率を51.9%とすると、期首原価在庫が10479(百万)であれば売価在庫は20190となる。今期末の利益率は39.9%なので期末の原価在庫5111から逆算すると期末売価在庫は8504となる。今期の商品仕入高は17693でありこれを原価50%(甘い!)で仕入れたとすれば仕入売価は35386となる。単純に期首売価在庫+仕入売価-今期売上=期末売価在庫になり、ここに今期売上(売価)38808を挿入すると20190+35386―38808=16768となる。値段を動かさなければこの売価在庫になる。期末原価在庫から計算した売価在庫は8504なので、16768-8504=8286(百万)の金額分商品が減っている。商品を破棄してないなら、単純に考えると80億以上の在庫評価を下げていることになる。つまり売価を下げているということだ。決算期に商品評価損として特別損失1564(百万)の計上を発表しているが、それでは数字が合わないような気がする。

計算が違っていれば指摘していただきたいが、これだけの商品の価値を下げて、商品をどうしたのだろうか?160億円分の商品を半額処分にするのと同じことで、それでも売れないだろうか?その半額にした商品が半分売れたとして、売上40億くらいは底上げできる。前期の売上が380億だがその数字が入っての売上だろうか?ちなみに今年は2月に既存店売上前年比をクリアしているのみで、トータルの前年比は82.7%となっている。その在庫評価を落とした商品は売れていないのか?売れてこの数字なのか?それとも破棄したのか?経験上不良品以外の商品を破棄することはないのだが、80億円超の商品はどこに消えたのだろうか?それを現金にしていたなら資金繰りも変わってくる。一般的にはセールをしてキャッシュに変えて商品をなくしていくのだが、売場にその気配は全然なかった。

ワールドに譲渡されたのでどこかで大きなセールをするのかわからないが、これだけの金額を処理しても売上数字に変化がでてこないのを不思議に思う。年末年始でなくしていくのだろうか?

■今日のBGM

FCでの小売業

セブンイレブンやローソンなどコンビニのことを書いていて、自分がそのFCのオーナー(フランチャイジー)になれるかどうか、そしてそのFCオーナーはどういう目的でFCをやっていくのかを考えてしまう。衣料関連ではワークマンもほとんどFCでの運営と聞く。

昔、DCブランド全盛時は、大都市には直営店、地方都市はFC店という図式があった。FC条件は各社力関係でバラバラだった。ほとんど、売場はFC先(フランチャイジー)が作り、商品の取引条件を個別に設定していた。売場内装が高い時代で、ブランド力があるほど、坪単価は上がった。余談だが、各ブランドにつく内装業者は高い内装費でものすごく儲けていた。取引条件はメーカーとFC先の力関係で差が出て、標準化されてなかった。商品を委託条件でできるところもあり、高い掛け率での買い取り条件のところもあった。ファッション業界のFCは現在もあるが、大幅に減ってきている。

FCはオーナーの思い入れで成功するかどうか変わると思う。商品を売っていくので商品への愛着がなければ成り立たないのではないかと思う。コンビニやワークマンのFCのオーナーはその商品への愛着やこだわりはあるのだろうか?

ネットで見ると、商品の思い入れとは別に、1つのビジネス、職業として選択しているように見える。脱サラをする、夫婦で始めるというスタートが多いようだ。商品やその店へのあこがれよりもビジネスとしての見方が強い。条件を調べていても、なんとなく仕組みはわかるが、そこで果たしてどれだけ収入が得られるか見えにくい。

諸条件を見ていて、一番わかりにくいのは商品在庫の負担についてだ。FC先(フランチャイザー)に商品在庫分の借り入れをしたことにして金利分を払っていくような仕組みのようだが、コンビニは在庫日数が10~12日とあるのでそこまで大きなリスクにならないが、ワークマンは在庫資産2400万と記されているので、回転率を考えるとなかなか返済に時間はかかりそうだ。前年度の在庫日数は85日前後となっているので年間3回転前後のようだ。そしてその商品リスクは完全に取引先が取ってくれるのだろうか?

さらに懸念事項になるのが、人的課題だ。社会政策的な時給の高騰や社会保険料の負担増など、利益を圧迫する大きな問題がある。コンビニも24時間営業なら当然スタッフ数は多く必要になってくる。ワークマンも家族経営で回せるだけの面積ではない。コンビニは今後、レジの無人化や万引き防止策など対策は進んでいくだろうが、それでも最低要員は必要になる。スタッフのリクルートはどんどん厳しくなる。

先述したが、小売業のFCはオーナーが「収入を得るための仕事」だけでなく「小売」が好きなことや「取引先の商品」が好きでなければ続かない。うまく流れれば問題は浮上しないが、数字が想定より下回ると、「不満」「不安」が大きくなりそうだ。

もう完全になくてはならなくなったコンビニは、商品ラインナップや改善ポイントは見えてきていて、省人化などのシステムも進んでいくだろう。ただ多発するFC企業(フランチャイザー)対FCオーナーの課題も改善していかねば拡大方向に進んでいかない。各社の競合は烈火するが、コンビニ事業はインフラとして今後も必ず残っていく業態だと思う。逆に衣料品中心のFCは商品回転率も悪く、品揃えも標準化しにくいのではないか?ワークマンのような業態はFC店舗と併せて直営展開を考えていかねば成長は厳しいのではないだろうか?特に「実用」から「ファッション」に変化すると間違いなく無理だ。

くどいが、FCのオーナーは本当にその商売や商品が好きでなければ続かないと思う。

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