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商売をやってきて今だから思えること

年齢を重ねると運動不足を指摘される。暇を見て歩いているのだが、その時間がいろいろ考える時間にはなっている。そういう時、過去自分で立ち上げた小売りの会社で、引っかかっていることを考えることが多い。

小売業では、まず売上を上げていくことだが、それは数店舗やってみて、立ち上げた時の考え方は間違ってなかったと思った。順調に推移した。そこから店舗を拡大していくのだが、20店舗くらいまでは勢いで何とかなったように思う。その次のステップで考えていった1つが、利益率アップへの体質改善についてだった。つまり自主商品を作っていき、利益率を上げていくということだった。今考えると時期尚早だったのかもしれないと思ってきている。

成功している小売業の大手は、自社で商品を作って販売している。そのスタート段階では、当然生産工場とのパイプ等もあるので、まずは取引先と相乗りしたりして取引先を通すことになる。その時の商品原価は個別商品によって違うが、以前の商売だと上代の40%台くらいだったと思う。ロットによっては40%後半になる。企業が大きくなると直接工場との商談になるので諸経費込みで30%前後になるかもしれない。以前やっていた業界では、取引開始時の卸原価は50%台が多く、取引先によっては60%を超えることもあった。商売が大きくなると原価は下げていけるが、それでも利益率を改善するには取引先との商品開発は必須事項だった。

個店仕入れから商売はスタートした。店長は昔から一緒にやってきたメンバーが多く、取引先を設定すれば、数値計画を考えて仕入をしていた。店舗数が増えても商品部は作らず、リーダー的なマネージャーや店長が取引先を開発し、窓口として全店に広げていった。ただあくまでも店長の責任のもと仕入をしていた。店長は、会社の指標に基づいて、売上、利益、在庫の予算を作成し、月度の仕入れ額をもそこから算出していた。「商売は在庫」が常に根底にあり、在庫管理は徹底していた。ピーク期は年間7回転前後の回転率だったと思う。

店舗数が増え、売上が上がってきて、利益率に目を向けるようになった。その流れの中、取引先から、相乗り商品や別注商品の話が増えていった。営業との兼任ではあるが商品部を作り、あくまでも店主導の仕入れではあるが商品部の別注開発商品も品揃えするようになっていった。

結果としては、5年後くらいに利益率はその当時から5%位上昇する。ただ売上はほぼ変わらなかった。店舗数は増えていたので、店舗当たりの売上は落ちた。それが商品のせいなのか、環境のせいなのか検証はできていない。そこからコロナ禍に入った。

昔在籍したビブレも、店仕入れ主導から本部仕入れ商品の増加でMDが崩れていった。そこまでひどくはないが「私作る人」「あなた売る人」の意識がなかったかとも考えてしまう。商品部との力関係が出てきて、ビブレも20店舗くらいからおかしくなっていった。

商品部の開発商品を管理する分類コードを作って、データ化しきちんと検証すべきだったと思う。商品検討会議や売場作りや販売方法を考えるミーティングも増やすべきだったかもしれない。そして、「店の声」をもっと聴くべきだった。問題点や対策を急ぐことなく検証を続け、仕入れ形態はどうあるべきか、組織をどうするべきかをもっと時間をかけて話し合うべきだったと思う。

「人の力」から「組織の力」への転換期だったのかもしれない。

■今日のBGM

ちゃんとした会社

この時期は、決算や中間決算の数字や経営計画の資料がでてくる時期で、暇に任せてみている。本当に大きな会社は大変だなとは感じる。当然上場している責任はあるので、きちんとした分析と対策は発表する必要はある。

先日、無印良品の中間決算数値が決算説明会資料等と発表された。全体の数字は大幅な増収増益、各段階の利益も大幅な増収増益で過去最高の数字だったようだ。

今年の1月にこのブログで無印良品のことを書いた。無印良品の企業の意思は感じたが、「在庫」に若干危惧している旨を記した。今回の資料でも国内の棚卸資産は1716億と前同時期より320億増となっている。決算説明資料にも160億過剰と報告されており、今期末の営業利益に関しては「発注抑制と不動向商品の在庫消化」のため、第一四半期予測を据え置かれている。売上は第一四半期より大きく伸びたが、営業利益率の予測は第一四半期予測より-0.3%となっている。通期の見通しは「国内は営業収益を引き上げも、在庫適正化に向けた対応強化により営業利益は据え置き」と第一四半期の予測から若干利益面で修正されている。企業として無印良品は好調に数字を伸ばしているが、「棚卸資産の増加とその適正化」が会社として改善するポイントということと発表されている。

在庫をどのように適正化するかには、いろんな方法はあるが、売上上昇に対して営業利益を据え置くということは、利益を落としても処分することだと想定する。詳細はわからないが、「在庫過多」が企業の問題ということを理解して発表している。好調企業だからこれができるのかもしれないが、資料に記すことによっての覚悟は感じる。ちゃんとした会社だと思う。

イオンも決算発表されている。売上は前年106.1%も営業利益は前年94.8となっている。金融とデベロッパー事業で営業利益の約半分を占めていて、小売業と呼べるのかどうかわからない。課題のGMS事業は売上前年比102.6%も営業利益は前年-115億となっている。ライン別には細かく発表はされていないが、食品とHBCが伸長しており、衣料は前年割れのようだ。これだけ大きいと詳細は全く伝わらない。

気になる会社のビレッジバンガードが、第3四半期決算発表と同時に278百万の減損損失を計上する業績予想修正についての発表があった。そのため今期の営業利益も赤字となり、これで3期連続の赤字になる。おそらく期末はさらに赤字幅が増大すると予想する。商品回転率が年1回転前後では、腐らない商品も腐ってしまう。前回指摘した在庫について簡単に計算してみた。第3四半期まで原価で13億弱在庫を削減させている。利益率のダウンと期末在庫から計算して、商品の値入率を43%(2期前の利益率が41%だったので)と想定すると、売価で約23億円の商品価格を下げている計算になった。全体の在庫の9%に過ぎず、これではまだまだ回転率は改善できてないので、今後も細かく実施していくと思われる。商品は資産なので、商品評価を下げると会計上さらに厳しい数字になっていく。

具体的に「在庫過多」を問題点と発表する無印良品は、つくづく「ちゃんとした会社」だと思う。

■今日のBGM

高齢層のノンポリメンズをどう取り込むか?

自分で商売を立ち上げる時、「ノンポリの男性」をターゲットにしようと思った。詳細はいつか書こうと思うが、現状の小売業を見ていると、さらにそこが狙い目になっていると思う。

30年前の話になるが、DCブランド時代にビブレで店長をしていた。ビブレはブランド集積のように見えるが、オリジナルの自主MDの売場を多く展開していて、その直営売り場の収益が館全体の収益を底上げしていた。そこがマルイやパルコなどのデベロッパー的なSCと大きく違うところだった。その中での儲け頭はメンズだった。特にブランドには手が出ないが何か買いたい男性客に人気があった。それは衣料品だけでなく服飾まで広範囲に及んだ。当然DCブランドのパワーによるところは大きいが高層階でも収益は大きかった。その当時はノンポリのティーンズヤングメンズ層で稼いでいた。

30年前の20代はもう60才の手前まで来ている。人口統計を見ると2024年の人口推計では60才以上の男性は19457千人で1993年の10381千人の187.4%と大幅に増えている。ちなみに女性は24346千人で1993年は13747千人で177.1%増となっている。人口合計は98.1%となっているので、30年で60才以上人口がいかに増えたかがわかる。このブログでも何度も書いているが、高齢者(ここでは60才以上)を狙わなければ商売は成功しない。

ここ数年、メンズ目線にあった会社の数字が厳しくなってきている。スーツ、ジーンズ系の企業が顕著な例となっており、メンズ目線だったカジュアルショップもユニセックスからレディスの見え方にうまく変わってきている。広義で言うとアダストリアやパルもその流れになる。

この層を取り組むにはやはり「奥さんが夫に買える」がキーワードになる。「無印良品」や「ユニクロ」は買いやすい。SCに行くと「ユニクロ」には夫婦客も非常に多い。ちなみに「ユニクロ」も始まりはメンズ目線の会社だった。大きな特徴は「アイテム集積」の売場だということ。ファッション型店舗は着装感をとかく打ち出しているが、高齢者は「足らなくなったもの」、「必要なもの」を買いに来る。ある程度の素材感と値頃感があればすぐジャッジできる。売場に関しては、マネキンも顔の表情がなくノンエイジだし、決して年齢を意識させていない。さらに売場の照度は高く、照明も天井埋め込みで清潔感を感じる。

例えば、アダストリアは「グローバルワーク」を幹になるブランドにしていくと発表しているが、やはり今の売場はある程度ファッション感度を持った客層をターゲットにしているように見える。高齢者層を取り組むという観点で見れば、イメージキャラクターのポスターや着装提案を前面に打ち出す売場から変わる必要がある。そして、もう少し売場の照度を上げ、値頃感を感じさせる単品集積をメインに変更したほうが望ましいと感じる。トレンドを打ち出した着装提案は当然必要なことだが、わかりやすく売りたい単品を打ち出していく見え方の比重を上げたほうがいいと思う。

昔、丸井やパルコ、ビブレに買い物に行っていたノンポリの人たちが、高齢者層になっている。その大きな割合を占める客層をもっと理解することが、まちがいなく成功要因になる。

■今日のBGM

ファッション事業の方向性

4月5日の日経新聞に「アダストリア売上高3割増へ」の記事が掲載された。主力のファッション事業に加えて、海外事業の強化、その他異業種への取り組みで事業の多角化を図り、M&Aを加速させマルチカンパニー化を進めるとのことだ。前身の会社「ポイント」から見てきた会社の考え方を振り返ると、少し違和感を覚えた。新しい方向性に変わったような気がした。

「その方向は正解なのかな?」と考えていて、ネットを見ていたら「ファッションスナップ」のサイトに「今を見つめるか 先を見通すか 二分化するアパレル企業の経営スタイル」という記事があった。要約すると、本業で蓄積したシステムや人材を新事業に活用し、事業の多角化を進める「アダストリア」とアパレルと服飾に集中して小売業を完成させようとする「パル」の取り組みについての内容だった。当然どちらが正解とは記されてない。

以前もこのブログで書いたことがあるが、いろんなブランドや会社を持つことは必要だが、やはり幹になる店やブランドを持つことが最も大事なことだと思っている。ワールドやオンワード、イトキンなど過去の大手アパレルには規模の大きなブランドはたくさんあったが、収益の大きな幹となるブランドがなかった。ユニクロや無印良品はその大きな幹を太くすることで企業力が大きくなったと思っている。そして今でもショップの精度を上げる努力をしている。アダストリアは当然他業務と並行して進めるだろうが、「グローバルワーク」を大きな幹にすることが必要ではないかと感じていた。アダストリアからもそのように発表はされている。そして、片やパルの「3コインズ」は完全に大きな柱になっている。

話は逸れるが、ファッションスナップの記事にパルの各ブランドは4週間毎の在庫の評価損を粗利益に反映させる」とあり、「店長はいかに在庫を抑えられたかが人事考課に加味される」とあった。その事実は全く知らなかった。ちなみに2024年のパルの年間在庫回転率は手計算だが5.9回転でアダストリアの4.3回転と比べると高い数値になっている。ずっと「小売業は在庫がポイント」といい続けていたのだが、もっと早くこの手法を細かく知るべきだったと後悔した。

今後のファッション業界は、総需要がどんどん減っていく中、競争激化が予測されている。先行するブランドやショップに追い付くのは、大変な労力が必要になってくる。かといって、得意種目外で戦うには、きらいな種目も勉強しなければならない。そして共通言語で話したほうが、意思も伝わりやすい。

どちらに行くにしても、すでにハードルは高くなっている。どちらに向かっていくのが正解か、ジャッジさえできない。今回のアダストリアの記事で一番強く思ったのは、私が思っていたアダストリアでなくなってしまったということだけかもしれない。

■今日のショット

ニッチマーケットで生き抜くには

この数年、めっきり服を買わなくなった。行動範囲が狭まったこともあるし、出かける頻度も減ってきた。調べると60代以上の人の洋服平均月購入額は約4000円となっている。そして、3~4か月に一度程度の購入頻度が一番多くなっている。さらに高齢者世帯(65才以上)の年平均所得は318.3万円(令和3年)というデータもある。以前も書いたが65才以上の構成比は2024年度で29.1%となっており、過去最高を更新している。ちなみに65才以上構成比は1985年に10%を2005年に20%を超えており、どんどん上昇している。

つまり、少子化と高齢化で完全に中心となる消費人口は大幅に減っているし、今後はさらに減少していく。当然小売業もマーケットはどんどん小さくなっていく。そして、流れ通りに好調企業はデイリーマーケット中心になり、どんどん規模を拡大している。類似企業は整理され、癖がある企業は、淘汰されるか大企業の傘下になってきている。

先日、都内に所要があり、その帰路、池袋東武百貨店立ち寄って「御座候」を買って帰った。今までも出かけた際は、都内では新宿高島屋、立川高島屋、大宮では大宮そごうでよく買って帰っていた。「御座候」は関東でいう大判焼きか、今川焼のことで関西では回転焼きか「御座候」と呼ばれている。赤と白(餡)を5個ずつ買って10個で1100円。それでもいつも数人並んでいる。女房は関東人だが、この類では一番おいしいと言っている。10個で1100円は値上げした価格だが、この値段でも「御座候」の販路はほぼ百貨店となっている。調べてみると北海道から広島、徳島まで(九州は売っていない)で79店舗あり、近畿地方以外では30店舖で、駅ビル百貨店以外では3店舗しかない。関西でも駅ビル百貨店以外は49店舗中7店舗しかない。1個110円の今川焼(回転焼)のほとんどの販路が実演販売での百貨店への出店になっている。そして企業としては、創業75年で2024年売上高は67億円となっている。

今後小さくなっていくマーケットで狙っていくには、ニッチマーケットしかないかなと思っている。「御座候」はそこでうまく生き残っている。

ニッチマーケットで残っていくのは、わかりやすい切り口とコンセプトを変えず背伸びをしないことだと思う。ファッションでもいろんな切り口で過去登場してきた。Tシャツを切り口にしたり、帽子だけのショップだったり、パンツの専門店だったり・・・そこでもいろんな試行錯誤を繰り返している。例えばTシャツ中心の「グラニフ」は一挙に広がったが、取扱商品の幅を広げたり、売場を大型化したりして少し迷走しているように見える。レディスのパンツショップの「ビースリー」は当初、郊外モールにも多く出店していたが、客層を見定めて百貨店志向に変えて安定した立ち位置を確立している。

私自身立ち上げた店も、隙間を狙ったMDだったが、なかなかわかりやすく標準化を整理できなかった。市場を分析し、理論上の売上も充分あったのだが、現実として売場の大きさや立地、区画の形状でイレギュラーが出てきた。多店舗になっていくにつれ、会社の考え方がぼやけてきたようにも感じる。もう少し徹底するべきことを明確にして、守るべきだったと反省している。

小売業の現状の流れに当分変化はないように感じる。ただ、ニッチマーケットは必ずある。そのマーケットの特性を細かく把握して、ビジネスモデルを真剣に考えれば、新しいことは必ずスタートできると思う。

■今日のBGM

小売業に優秀な人材は集まるのか?

「人が集まらない」ことを書こうとしたのだが、まず小売業にはどんな人材が必要なのかを考えてみた。自分自身も小売業しかやってこなかったので、個人的には「小売業の優秀な人材」についてしか語れない。

やはり、視野が広い人だと思う。全体を見ている人というのかもしれない。

小売業の基本は現場、つまり店での仕事になる。店の仕事は、接客を中心とした販売が主な仕事と思っているかもしれないが、それは違う。高単価な商品を接客で売る店は当然のことながら最も重要視されるが、そういう類の店は非常に少ない。そういう意味で「ミステリーショッパー」などの評価は全く意味がない。店の仕事は非常に多い。接客とレジ作業はルーチンな業務だし、商品入荷時の検品や登録、品出し、商品の演出、POP作業もある。品出しも簡単な単品フォロー品と、新規商品群で違ってくる。レイアウト変更も伴う。そして、それぞれに守るべきマニュアルがある。例えば演出にはカラーコントロールもあるし、陳列にも最大陳列量などのストアメイキングマニュアルがある。

作業中、やるべきことだけに目を向けている人と、全体を見渡しながら動いている人に分けることができる。全体を見て動いている人は、指示を出せている。例えば演出を真剣にやっていて、レジのお客様に気が付かなかったりすることがよくある。それを指摘して、教育してもなかなか改善できないスタッフもいる。ただ、接客や演出で群を抜くレベルのスタッフもいる。でもそういうレベルのスタッフは当然全体も見えている。

本部での仕事も同じだ。店での仕事を経験して本部勤務になるケースが多いが、店や他セグメントとの協調ができるかがポイントになる。どうしても自分の数字を中心に考えてしまいがちになるが、本部の担当者の数値責任の範囲と、店の数値責任は必ずしも同じではない。本部はあくまでも店の数字を手助けする立場ということを忘れがちになる。あくまでもスタッフ(本部)はライン(店)を助ける位置づけということを理解しているかが大事な要素になる。そういう視野で小売りの本部の仕事はすべきだと思う。

ただ、そういう意識を持つ人材は、だんだん少なくなっている。以前の会社でも、「視野の広い」スタッフに支えられてきた。ただそういう人材も高年齢化して、若手からは数人くらいしか視野が広い人材は出てこなかったように感じる。新卒採用に関しても、定期採用は3年目くらいから始めたが、会社の規模は順調に大きくなっていったにもかかわらず、年々応募者は減り、コロナ前には東京、大阪、九州の説明会には数人しか応募がなかった。

話は逸れるが、新卒者の求人倍率を調べてみると、従業員5000人以上の会社の求人倍率は0.34倍、1000~4999人は1.14倍,300~999人は1.6倍、300人未満は6.5倍だそうだ。求人倍率は1人に何社から求人が来るかということなので、規模が大きくなればなるほどハードルが高くなっている。裏を返せば、大企業の人気は高い。さらに現状の給与、待遇面から大企業志向は強くなっている。これだけパブリシティで給与待遇のことが言われると、そこに目がいってしまう。中小小売業はどうしても構造的に待遇拡大志向には、ついていきにくい。

小売業はなかなか活性化しづらい環境に来ているようだ。特に中小小売業に若く視野が広いスタッフが増えなければ、新しく元気な企業が出てこない。だんだん面白くない業種になってしまう。実は、一番スタートアップしやすい業種なのだが・・・

■今日のBGM

仕入れるだけなら誰でもできる

ビレッジバンガード(ビレバン)の数字を見ていて、浮かんだのが標題の言葉になる。「仕入れる人」と「売る人」の気持ちが1つでないと商売はうまくいかない。できれば「仕入れる人」と「売る人」は同じが望ましい。小売業が大きくなると「商品部」と「店」との間に、多かれ少なかれ温度差は必ず出てくる。

ビレバンはマニアックな商品を仕入れて、さらに雑多な売場で、「宝探し感」ある店だ。そして、衣料品や雑貨(食品も)まで広範囲な品ぞろえになっている。商品の幅が広がれば広がるほど、マニアが欲しがる商品が見えてこなくなる。さらに店舗数が増えると、そういう商品の好きなスタッフも減ってきて、店の対応も店舗間の格差が出てくる。

35年以上も前のことになるが、インポートの品揃えショップを立ち上げようと動き回ったことがあった。そういうゾーンには一種のマニアのようなお客様がいる。そのお客様を見て、満足させる品揃えをすると大変なことになる。今はわからないが、その時代は単品では発注はできなかった。ミニマムの発注量が設定された。さらにアイテムのみの拾い買いなら原価は当然高かった。つまりトータルで提案しているブランドで、例えばカットソーだけ仕入れることは難しく、仕入れできても原価は高く発注量も設定される。当然返品はできない。そういう商品は評判が良くても売りづらい。つまり「見せる」だけの商品になることが多い。ただ、その商品があることによって店格が上がり、そういう商品の好きな人たちが集まる。ただ、「見る」だけのお客様は増えても、売上や利益は上がらない。そういう商品を仕入れるのは楽しいし、もてはやされるが、売れなければ商売は続かない。売れる商品の開発が必要になる。

さらに商品にも寿命はある。寿命がなさそうな商品群でもそれはある。食品に賞味期間があるように、衣料、雑貨にもある。商品を入れるだけでは、商売はできない。商品の寿命を考えてなくしていかねばならない。売場に手を加えて売る努力をする。ただ、それだけではよほど人気の商品以外はなくならない。売れ残った商品をどう処理をしていくかも非常に大きなポイントになる。値段を下げて売りつくしていくのが普通だが、値段を下げると当然利益は下がる。

「面白い商品があるから仕入れる」だけなら誰でもできる。商品を販売して現金にして、やっとその金で新しい商品を仕入れることができる。その理屈がわからないと商売はできない。立ち上げたインポートの品揃えショップの評価は高かったが、商売にはならなかった。

ビレバンには、昔やっていた会社で取り扱っていた商品も入っていた。ただシーズンが終わり、なくすべくタイミングでもそのままで、残品的にずっと残っていた。そのまま次のシーズンまであっても、もう売れない。売れ残り品はすぐわかる。

商売は「仕入れること」が一番楽しい。だが、売り切って初めて仕事は終わる。生鮮食品では、なくならなければ、廃棄するしかない。衣料品も雑貨も理屈としては同じで、売り切らないと、次の商品は仕入できない。その理屈を誰かが明確にマネジメントしないと、事業は成り立たない。

■今日のBGM

ちょっと心配な会社

コロナ前と前期の数字を簡単にチェックしていて、いくつか心配な会社がある。当然、あくまでも個人的な数字からの見方であって、細かく売場に行って確認したわけではない。

このブログでは頻繁に上げているが、小売業は在庫をコントロールできているかが商売の根幹だと思っている。商売が回り始めると、金を集める手法はたくさんできるが、もともとは「仕入れて売る」が基本になる。「キャッシュオンデリバリー」の取引先もまれにはあるが、一般的には「末締め翌末払い」が多い。つまり月初に入れて、翌月中に売れてしまえばキャッシュインし支払いができるということになる。その仕入原価と売上の差が利益になる。商品がうまく回転しないと商売は厳しくなる。そこを一番注目する。

在庫も含めて、厳しいと思うのは「ビレッジバンガード(ビレバン)」。専門分野ではないので、店はよく見ていたが営業数値にはさほど興味はなかった。コロナ前比で売上は73.2%、店舗数も89.0%と減少しており、そうなれば店舗当たりの売上は82.3%まで落ち込んでいる。サブカルっぽい商品群でザワザワ感が人気だったのだが、まずターゲット客層自体が減っている。マニアックな客層に加えて、2000年に4400万人以上いた30才までの人口が3200万人まで減っている現実がある。ファッションゾーンでいえば、カットソーや雑貨なども、わざわざビレバンで買わなくてもいい商品品揃えになってしまっている。客層を上げた「ニュースタイル」も売り方と客層があっていないと思っていた。そして何より在庫回転率は2024年期末数字で計算すると年0.95回転しかしていない。コロナ前も1.32回転と低いが、年間1回転しない会社は絶対存続できない。つまり1年間でやっと売れる商品がほとんどということになる。当然売場は変わらないし、売場を変えたら、売れない商品はさらに売れない場所に置かれる。商売の理屈からいうと、金が回ると思えない。現金商売の小売業だが、それでも当座比率も50.8%と低い。2024年の決算では経常損失が934百万となっている。間違いなく、商品の整理が必要で、それを実施するとさらに損失は拡大する。商品に目が行き過ぎて商売をしていない。つまり商品を売って金に換え、その金で仕入れるという基本ができてない。再度計算してみたが、売上は平均1店舗月670万になり、在庫は平均して8470万持っていることになる。この数字を改善させるのは至難の業かもしれない。

イオングループの「ジーフット」も厳しい状況は続いている。債務超過に陥っていたが、昨年末にイオンから第3者割当増資を65億受け債務超過は解消されそうだ。ただ靴業界はサイズが多く、自力再生ができなかったライトオンやマックハウスのジーンズ業界と同様の在庫課題を持っている。ジーフットも売上はコロナ前比68.0%ですでに赤字に転落している。期末回転率は前期年間1.5回転となっている。靴業界は在庫が課題にはなるが、カジュアルの流れが強い現状、「ABCマート」1強の流れをかえるのも至難の業になる。イオンG  としては、上場企業「タカキュー」を切り離したのと同様の流れになるかもしれない。ただイオンスタイルというGMSの売場の一角を担う会社だけに、手放すことはGMS解体につながってしまうという見方もある。ここ数年の実績で結論を出すかもしれない。

決算数字の動きで見ると、他にも厳しい会社はある。ファッショントレンドの変化で厳しくなっていくだろう会社もある。ただ、商品回転率の面で上記2社は特に厳しさを感じる。現状の在庫を減らす努力をすればするほど、利益率は悪化していくだろうし、在庫内容を修正しながら改善していくには先が長すぎる。ここにトレンドの変化が加わると、すぐ動ける状況ではないので、立ち行かなくなるかもしれない。

■今日のショット(近くの公園の河津桜)

コロナ以降どうすれば企業は伸びたのか?

前回、12月、1月の既存前年比をコロナ前から掛け合わすことで、小売各企業の動向と取り巻く環境を簡単に書いた。小売各企業のコロナ以降の数字はこれだけで書けないと思い、簡単にコロナ前と近年の決算数値を拾ってみた。(コロナ期は2020年3月以降からと設定)尚、簡単に計算したので計算ミスはご容赦願いたい。

まず売上がコロナ前を上回っている企業は、調査した企業25社中12企業と約半数。(尚、対象企業は小売販売をしている企業のみで、卸商売もある大手アパレル、FC中心の企業は除いている)大きく伸びているのが、無印良品(コロナ前比151.1%)ニトリ(147.3)パルG(145.7)ユニクロ(135.5)ABCマート(135.4)が上位5社。まず店舗数の拡大が目立つ。

店舗数コロナ前比は無印良品127.2%、ニトリ144.6、ABCマート123.6でユニクロは海外店舗が増えている。パルGは102.5%だがおそらく「スリーコインズ」は大幅に増えている。逆に店舗数を減らした企業は当然のように売上を落としている。タカキューは店舗数39.7%で売上は40.1%、マックハウス、ライトオンなど再生に向けた企業はすべて大きく店舗数を減らしている。さらにジーフット店舗数(72.0)コックス店舗数(77.8)とイオンGの企業も縮小傾向は続いている。当然のことながら、店舗を減らすことで売上の増加は見られない。やはり、コロナで弱った企業の店舗撤退をチャンスと捉えて、店舗を拡大、増加させた企業が大きく伸長している。

売上に関して、その他の企業では西松屋(128.2)アダストリア(123.9)しまむら(116.3)ハニーズ(113.8)などの企業の数字が伸長している。ただ店舗数のコロナ前比で西松屋(110.5)、しまむら(101.7)、ハニーズ(101.3)と大きくは増加しておらず、比較的買いやすい値頃感ある店は店舗売上が上がっているのがわかる。逆にある程度のプライスレンジで戦う企業は厳しい数字でユナイテッドアローズ(84.5)バロック(84.9)TSI(94.2)と回復途上の段階にある。「値段への取り組み」は大きなポイントになっている。

営業利益に関しては、西松屋(331.1)、しまむら(217.3)、パル(205.2)、ユニクロ(194.4)、無印(154.3)と売り上げ好調各社が上位を占める。逆に上述したベターゾーンに向かう各社の回復が遅く、バロック(41.3)UA(60.9)、TSI(76.9)となっている。UAは近年回復が著しいが、まだまだコロナの壁を乗り越えられていない。

数字を見る限り、前回書いたように、客層の年齢が上がったことで「値頃」「必需」を切り口にしている企業が伸長していることがよくわかった。

コロナをはさんで会社の状況が変わった会社も多く、簡単に売上、利益を中心に決算数字を拾っただけなのだが、疑問を感じる企業もあった。気になる企業もあったので、もう少し詳細に見てみようと思う。

■今日のBGM

店舗大型化への壁

先日、「グローバルワーク」が増床改装で売上を上げていき、アダストリアのコアブランドにしていくという記事についてコメントした。売場を大きくするということを、簡単に政策に上げるが実は非常に難しい。大型化したためになくなっていったショップは数多くある。

RSC(大型モール)を主な出店場所とするなら、売場は50坪以上で組み立てたほうがいいと思う。40坪くらいまでの小型店と、それ以上の中型店では条件面で差が出てくる。おそらく近年はその傾向が強いのではないだろうか?特にリーシングに苦労しているSCにとっては、空床期間は短くさせたい。さらにある程度の大きさのテナントを導入させたい。そのためには若干の条件面での優遇はある。例えば坪当たりの最低保証の金額を低くしたり、最低保証をなくしたりして歩率のみにする交渉も可能になる。

例えば、40坪が適正だったボリュームゾーンのメンズカジュアルの店で、売場を広げるには何をするか?まずプライスラインの幅を広げる。ブランド商材を投入したり、高感度商材を導入したりする。値段の幅を下に下げるのはなかなか厳しいので、ボリュームゾーンを厚くすることも当然考える。メリットはグレード感が出ることだが、デメリットは「値段が上がる」ということになる。さらに、カジュアルからドレスへの幅を広げることも考えられる。それにより、客層の幅は広がるが、ここでのデメリットは「客層の変化」「商品回転率の悪化」があげられる。雑貨類の拡大もある。ここまでになると、「商品品揃えの得意、不得手」というポイントも出てくる。アウター、カジュアル、雑貨とも仕入れの視点が変わってくる。それだけに品揃えの偏差値は上がる。つまり、現状の店に絶対プラスすべき商材やブランドなど必然性がなければ、大きく売場は広げにくい。

最も安易に考えれば、レディス衣料を加えて世界観を広げることだが、これは一番危険な取り組みだ。まず商品サイクルも違うし、見せ方も違う。同じ目線で品揃えできる人間は数少ない。MD型のショップでは全体のまとめ役が必要になり、その責務は大きい。このやり方で売場を広げて成功した例はブランドショップぐらいで、MD型のショップではあまり見たことがない。

商品だけの問題点も上げたが、当然「人」「金」の問題も出てくる。売場が大きくなってセルフ販売に変えるのならいいが、従来の販売方法を続けるなら、当然人員を増やす必要がある。つまり人件費は増える。さらに拡大することによる内装費や経費負担も増える。それを吸収できるだけの売上増は当然必要にはなる。

さてどうすればいいか?もう一度ゼロベースから店のコンセプトを作り直していく必要がある。例えば、ユニクロのように「シーン」は強調せずに、「商品」「値段」だけを大きな切り口にしたり、無印良品のように「世界観」を決めて、その「世界観」を共有してあらゆる商品群を品揃えしたりする。両者とも目線を揃えるべき「決まり」が必要で、そこをジャッジすべきマーチャンダイザーがいる。つまり最初からショップのブランドを作っていくしかない。

単純に売場を広げたり、客層の幅を広げたりするには、多くの検証が必要で、安易に決定すべきではない。今まで築いてきた店のMDテーマがぼやけていくことが一番の致命傷になることが多い。

売場の大型化には、最初からブランドを作りかえるほどの労力が必要になる。

■今日のBGM

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