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中小小売業の人件費 ➁

前回のブログをアップしようと思ったら、16日の日経新聞土曜版で「勤務先企業がパート年金保険料肩代わり」と1面のトップ記事として掲載された。まとめてアップしようかと思ったが、パート2として書くことにした。

どういうことかというと、社会保険料が「年収の壁」によって手取りが減る対策として、その個人の負担分を企業が肩代わりする仕組みのようである。具体的には現状の労働者の社会保険の負担割合(折半なので会社5:労働者5)を収入に合わせて9:1~5:5までの仕組みを作るというものだそうだ。つまり企業負担が大きくなり、折半までは肩代わりするということだ。前回書いた中小企業の負担がさらに増えるということになる。これによって労働者側は手取りの急減を避けられる。さらに企業規模要件の撤廃や、5人以上の個人事業所も適用対象とする方針も示したようだ。

もしこうなれば、社会保険料の負担増分の多くを企業が負担することになる。これが本当に進んでいけば、中小企業のダメージは相当大きい。新聞にもあったが、企業間格差が拡大する。おそらく中小企業の淘汰が始まるだろう。特に経費に人件費の占める割合の大きい小売業は大変な時期に入る。前回書いたブログの前提がさらに重くなっている。

ちょっと話は逸れるかもしれないが、サントリーの新浪社長の「時給1500円にできない会社は退出」の言葉通り、厳しい会社はなくなり、労働者も高い給与を払える会社に移ればよいという発想になる。だが果たして、働くことは「給料」が基準なのだろうか?全員が高い給料を払えるサントリーに就職したいわけでもないし、得意でない分野の仕事をしたいわけでもない。さらに入社できるかもわからない。小売業でも全員がユニクロで働きたいわけでもない。やりたい仕事と給料のギャップはいつの時代もある。

新しく企業を立ち上げても継続が難しくならないか?スタートアップ企業が減ってしまうのではないか?などの疑問も残る。小売業では、現状以上に新しいショップが出現せず、同じラインナップのテナントリーシングばかりになりそうな気がする。もうすでにそういう状態ではあるが・・・

おそらく、金銭的に余裕のある企業が、厳しい企業を吸収していく流れが加速するだろう。そして、その流れに乗れなかった会社はどんどん「退出」していく。

厳しい中小企業の淘汰によって、ますます、小売業でいう客層の2極化が進んでいくようにも感じる。

■今日のBGM

中小小売業の人件費

連日報道される「103万の壁」のニュースで、中小小売業は耐えられるのかと感じてしまう。その少し前には「時給1500円」のニュースも多く報道されていた。

中小小売業で収益を改善することはまず絶対条件として「売上を上げること」になる。自店でヒット商品が生まれたり、取扱ブランドが脚光を浴びたりして売上が上がる。ただその売上を維持するのは非常に難しい。特にファッションは長くは続かない。「利益を上げる」にはある程度の商品量が必要で規模が拡大しないと、なかなか仕入原価が下がらない。さらに規模を拡大するには当然店舗数も必要になり、投資を続けていかねばならない。そして最終的には「販売スタッフ」の質と人数のアップが不可欠になる。

立ち上げた会社でのラフな損益計算書を見ると、最も黒字が出た年度には人件費率が18%だったのが、コロナ期には34%になり大きく赤字を計上している。黒字期においても地代(家賃、駐車場費、共益費)の負担率よりも人件費が高くなっている。当然小売業は労働集約型で人件費の占める割合が非常に高い。

今回の「103万の壁」だが会社に損益上ダメージが大きいのは「106万の壁」がなくなる事だと思う。2024年10月から従業員50名以上の会社が対象になっている。以前の会社は約100名の従業員数だったので該当する。例えば時給1000円で月18日、日6時間働くとそのボーダーラインになる。今までは「130万の壁」が大きかったのだが今後は「106万の壁」になる。国は2020年代に時給1500円にすると言っている。と、するとボーダーラインだった人はどう働くか?時間を短くするか、壁を超えるか?今後配偶者特別控除の「150万の壁」をどうするかも考えなければならない。

それと同時に大きな負担が増えるのは企業にも当てはまってくる。個人の負担額を折半して会社が支払う義務が生じてくる。106万の人がそのまま働いたとして、健康保険+厚生年金+(介護保険)で折半分年間160千弱の会社負担が生じる。当然国の政策により時給は上がる。さらに年間130万働くと200千の負担額になる。以前の会社でも10名くらいはこのラインのアルバイトがいたので年間2000千以上の経費負担増になる。当然他のスタッフの月給や時給も上がるので人件費負担額はどんどん膨れる。時給アップと社会保険負担増で以前の会社だと、単純に2店舗分以上の人件費増になる。

中小小売業が、この人件費増とどう戦っていくのか?円安は続き海外生産のコストは上がり、出店条件も厳しくなる。小売業で販売力を落とすことはできない。力のある企業に飲まれるしかないのだろうか?

■今日のBGM

商売の寿命

小売業界でいろんな会社を見てきたし、在籍してきた。さらに立ち上げた。そしていろんな会社の浮沈を見てきた。

商売の成功をどう計るかはわからない。儲けは少なくても長く続く商売は成功とするのかもしれない。ただ商売は、商品の変化や、顧客の変化、商売している場所の変化でも情勢が変わってくる。

まず、客層の幅を狭めた商売は長く続いていない。在籍していた商業施設のビブレやマルイはヤングターゲットで商売をしていた。ヤング層のブランドもそうだが、流れが短サイクルで変化する。DC(デザイナー&キャラクター)ブランドで集客して、その後109ブランドに移っていったヤング層のトレンドの変化に、売場は追いつけなかった。さらにそのターゲットの会社も浮き沈みが目まぐるしかった。それでもマルイはクレジット商売が実を結び、現在は小売より金融系の会社になっている。その当時のブランドを生み出していた会社も浮かんでは消えていった。つまり、流れが速いヤングターゲットの商売は続きにくく、寿命は短い。例外としては、当時の固定客の年代層と共に年を取って存在するブランドは続いている。販売の場所も百貨店、路面店に移っている。堅く商売はしているが規模はずいぶん小さくなっている。ただすでにヤングターゲットではない。

小売業で堅調に生き残っているのは、ヤングミセスからミセスゾーンが得意な大手アパレルなのかもしれない。ヤングが賑わったときはそれなりにそのターゲットのブランドを開発し、SCが全盛になってからもショップを立ち上げた。各社に共通するところは各年代のたくさんのブランドを持っていることだと思う。それと同様の流れになってきている企業は、ティーンズヤングからヤングミセスゾーンまで幅広くショップを持っているアダストリアやパルグループがあげられる。各ターゲットのそれぞれのシーンに対応するショップも開発している。

広い客層をもってシェアを確保していっている企業も成功パターンかもしれない。昔からよく言われる「高感度値頃」を追求している企業で、衣料系ではユニクロ、住関連ではニトリ、複合的には無印良品などがあげられる。現状はフルターゲットに適合しており、特に低価格ゾーンをボリュームとしているが、今後の社会情勢で若干の変動要素もある。

商品のカテゴリーの専門店は以前にブログで記したように、そのカテゴリーの大きさとカテゴリーの動向を慎重に図る必要がある。そしてそのシェア率を常に意識するべきだ。今回のジーンズカジュアル業界の崩壊のような例もある。カテゴリーの大きさとシェアで寿命が見えてくる。

地元に根付いた専門店は、常に商品のトレンド変化や、商圏変化、客層変化を気にする必要がある。こういった専門店は突出した人物がマネジメントしているケースが多い。その意志がどれだけ引き継がれるか、熱意がどれだけ続くかがポイントになる。

企業の存続は、どうやって前に進みながら進化させていけるかということだと思うが、近年は、感性よりも組織力、データ処理などのシステム力とその分析力のほうが商売の寿命に大きな影響を与えるのではないかと思ってしまう。

まだまだ、過去の慣例や感情で方向性を決めている企業が多そうだが・・・

■今日のBGM

モール(RSC)になくなってきた「わざわざ感」あるテナント

「客層が2極化し、中間層が減っている」と常々書いている。20年位前から郊外モール(RSC)がどんどん建設され、GMSにとって代わってSCの中心になっていった。RSCとは当然広域からの集客を狙って、車で行ける「手の届きやすい贅沢な場所」だったのが、近年の開発ラッシュで「わざわざ感」がなくなり、狭商圏化され、まさにGMSが大きくなっただけの商業施設になってしまっている。大都市郊外では完全にオーバーストア化しており、なくなってしまったGMSと同じ道をたどっているように見える。テナント揃えも「ユニクロ」「GU」「無印」「ABCマート」などの同じようなラインナップになってきた。

本来、RSCにはどんな客層が来てほしかったのだろうか。業態のフォーマットを見ると価格はアッパー、モデレートで、商品の特色はトレンドとホット商品と区分されている。

多少、各ブランドのニュアンスは違うが、RSCから減りつつあるテナントがいくつかある。

ユニクロがやっている「プラステ」というショップは、以前からずっと気にしていて、自分の店の出店時にはSCに「あればいいな」と思っていた。いろんなSCを見て回るときもあるかないかチェックしていた。客層も商品も売り方もきちんと徹底されており、晩期にもそこまでセールを打ち出さないし、引っ張らなかった。近年、RSC特にイオン系から消えてきている。店舗数は現在43店舗で2020年に102店舗から大幅に減っている。イオン系は6店舗、ららぽーとは2店舗となっている。このターゲット客層は広いので、おそらく一番難しくなってきたゾーンなのかもしれない。

「ナチュラルビューティベーシック」(以下NBB)もRSCスタート時はほぼ全店のラインナップにあったショップだ。RSCがスタート当初から旧サンエーインターナショナルでは「&バイPD」と並んでラインナップしたかったブランドで、ほぼ一等地にレイアウトされていた。販売代行をしていた時、このブランドを2店舗運営していた。現在もイオン系12店舗、ららぽーと5店舗あるが、駅ビル型にシフトしているように感じる。ターゲット客層も当時はヤングかヤングミセスか見えにくかったが、現状は20~30代に変化しており、若返っているように感じる。

この2店舗はRSCへの出店はストップしているようにも感じられる。さらにRSCのテナントの中ではトレンドにシフトしているセレクト系のショップも、間違いなく出店するSCを選んでいる。

トレンドリーダーやSCイメージを持ち上げるようなショップがどんどん消えていき、本来あるべきショップリーシングをしているRSCは本当に少なくなってきている。当然経費高騰で賃料も大きく下げられなくなってくると、多くのSCは似たようなゾーニングになってくる。さらにキーテナント(イオンモールでいうとGMSのイオン)もSM以外は集客の要にはなっておらず、どんどん魅力が薄れてきている。

本当に、そのSCのカギを握るテナントがなくなってきているように感じる。

■今日のBGM

小売業が生き残るために必要なこと 2…会社の方向性

前回、小売業を立ち上げる時の理念は何かを書いた。「お客様に満足感を与えること」がすべての企業の根底にあった。その理念から次のステップに進んでいく。例えば、ユニクロは「服を変え、常識を変え、世界をかえていく」、アダストリアは「なくてはならぬ人となれ なくてはならぬ会社になれ」と変革していく。

グローバルな企業になるか、ローカルでも信頼感を深めていく企業になるか、2つの流れがある。それは企業としての方向性であり、絶対企業が決めるべきものだと思っている。ユニクロのように世界に目を向けて進んでいく企業もあれば、地域で圧倒的に信頼される企業もある。それは会社を始めてから、流れの中で決めていくべきものだと思う。立ち上げた会社でもその方向性を作った。

当然会社は成長していく必要がある。従業員の給与はベースアップしていかねばならないし、出店投資やデータ分析などをするためのシステムにも資金を回していかねばならない。ブランドビジネスを狭商圏内で続けていく事業以外は、当然拡大政策になる。

ランチェスター戦略という、経営戦略がある。もともと軍事戦略モデルとして考案されたもので、それをもとに作った「マーケットのシェア理論」がある。小売業では商圏設定にも使われていた(現在はハフモデル分析が多い)。これは市場競争の目安としてポジションを分析し、狙うべき目標を判断するために使われる。マーケットシェアの目標値を大きくは7段階に分けている。以前の会社では何とか市場認知シェア(シェア10.9%)を目標に経営計画を立案していった。

業種が細かく明確なほど年間需要はわかりやすく、その業種内での立ち位置はすぐにわかる。いろんなデータをまとめて、それを提供する企業もある。

例えば、矢野経済研究所の調査では眼鏡業界だと2022年の国内需要は4918億となっている。2022年売上トップ3はメガネトップ850億、ジンズ670億、パリミキ470億でそれぞれのシェアは17%、13.4%、9.4%となる。マンチェスター理論のシェア論ではメガネトップが上位目標値(準1番シェア:どんぐりの背比べの中では上位)ジンズ、パリミキが影響目標値(市場に影響を与えられる)と分類される。つまり、その立ち位置と現状の数字動向を分析して、自社の方向性を明確にしていく。

何度も登場させて申し訳ないが、ジーンズカジュアル業界について考えてみる。ネットを調べてみると2014年にデータがありボトムの市場規模は1018億円とある。インナー、アウターを同金額と考えるとジーンズカジュアル業界は3000億と仮に推測する。(正確なデータがおそらくあるとは思うが・・・)ずいぶん乱暴な数字だとは思うが、仮にその数字で分析すると、ライトオンのピークの売上は1067億、マックハウスは567億となっており、それぞれシェアは35.6%と18.9%となる。ライトオンのシェア率はランチェスター理論では安定目標値41.7%に近く完全にNo1企業になる。その数字がどんどん下降線をたどり、業界全体の数字を変わらないと考えると、2019年にはライトオンはシェア率24.6%に下がり、何とか上位値にはいるが、2022年には15.7%まで落ち込む。マックハウスは2023年には6.1%まで落ち込み下から2番目の存在目標値(市場で存在を認めることができる)になってしまっている。

会社の置かれたポジションを冷静に分析し、業界動向も理解し、数字動向と重ね合わせ、企業の戦略を当然判断しなければならない。安定した企業運営をしている会社は、きちんとした分析を実施し、戦略、方向性を明確にしている。

■今日のBGM

小売業が生き残るために必要なこと

ライトオンやマックハウス、アナップなどの営業不振に伴う株主変更や、タカキューのファンド支援などいろんなスキームで企業の再興が急激に増えてきている。企業がもともと描いていたゴール(通過点?)と違う形にどんどん変わっていくのだろうと思う。金融資産としての取り組みになり、お客様(顧客)不在の企業になってしまうことを危惧する。

企業は何を目的にスタートしたのだろうか?ユニクロの企業理念は「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」とあるが、それはその理念に手が届くだろう時期に来た時に作られたものであり、最初のミッションは「・・良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供します」とある。アダストリアも今の理念とは別に「お客様の生活にワクワクを提供する事」とあり、ニトリも、理念とは別にロマン(志)として「住まいの豊かさを人々に提供する」とある。小売業はやはり「お客様の満足感」を与えることがすべて根底にあると思っている。

「お客様の満足感」からスタートし、しばらく経過すると企業の存続を考える時が必ず来る。その時にそこからの企業の方向性と可能性を考える。

崩壊したジーンズカジュアル業界を考えると、ライトオンがピークの売上が2007年1067億で今期が389億、マックハウスが2009年567億で今期予測が135億となっている。どこかの段階で成長余力がないことを確認できなかったのだろうか。それともまだ成長業界だと認識していたのだろうか?上場しているので企業の成長戦略が必要だが、過去の成功体験から抜け出せなかったということになる。業界自体を細かく分析し、会社の存続を考えるならば、いつまでも過去の成功体験を引きずらず、他の業態(商売)をいち早く開発して、マイナス分をカバーするべきだったのではないかと思う。(やってはきたのだろうが・・・)

ただ、上記2社は上場企業で成長が義務付けされているが、ジーンズ業界を生き延びている企業もたくさんある。企業が大きくならなくても固定客のライフスタイルを提案して品揃えしている専門店は、各地域に根付いて安定した売上を確保している。企業は大きくなって成長し続けることも大事だが、立ち止まって、現状の顧客のニーズを考えて、満足度を上げていくことも必要なことではないかと思う。

ファッション業界でも同様のことがいえる。まずティーンズヤングのトレンドを打ち出す企業は存続していない。将来の成長戦略がなく、目先の事業で終わっている。片方である一定の規模で内部充実を図り、既存顧客の満足度を高めることで存続している企業はある。さらに生き残るために業態を分析して、方向性を明確にし、細かく戦略の方向性を変えていく企業は成長している。

立ち止まって、お客様を理解し、業態を分析し、明確な方向性を考えることが、生き残るために必要なことだが、どうしても過去の成功体験を引きずる。そしてその成功体験を作った人間が経営層にいると道は開かない。

もう「勘」と「汗」の時代ではない。

■今日のBGM

小売業は「在庫」で損益は隠れる

コロナ以降、経営が躓いた企業が増えている。何度も指摘していたジーンズカジュアル業界のライトオンもマックハウスもTOBで経営を譲渡する。今年1月には債務超過になっていたタカキューも第三者割当増資でファンドから金融支援を受けた。それによりイオン傘下ではなくなった。マックハウスも同様にチヨダ傘下ではなくなっている。

常々、小売商売は在庫で損益が隠れると言ってきた。在庫評価で利益はいくらでも変えられる。PL(損益計算書)は良好な数字もBS(貸借対照表)で見るとリスクが隠れていることが多い。順調な企業では看過されるが、厳しい企業は在庫でひずみが出てくる。つまり在庫評価を甘くすると利益は出るが資金繰りは厳しい。在庫を現実的な数値で評価すると大きな損失が出る。

ライトオンもマックハウスもジーンズカジュアル業態で、サイズが細かいので在庫が増える。タカキューもスーツが中心であり現在はサイズが変わっているが、まだまだサイズが細かい。つまり、もともと在庫を抱える業種になっている。デニムに季節やファッション変動はあまりないので、商品が回転しなくても(売れなくても)在庫評価を落とさない。スーツも同様で若干のトレンドは変わるものの、大きく変更がなければ評価を落とさないので、在庫金額は大きく減ってはいかない。ちなみにライトオンの年間商品回転率は前々期(2023)2.2回転、前期(2024)は3.0回転、マックハウスは前々期2.3回転、前期1.98回転、タカキューは前々期2.5回転、前期2.8回転となっている。ライトオンは前回ブログに書いたが、前期に売価90億近く在庫評価を落としているし、タカキューも前期に在庫を40%以上減らしている。

在庫評価を落とせば、原価在庫はそのままで売価在庫のみ減るので、原価率が悪化し利益は落ちる。商品の賞味期限は明確ではなく、企業が設定している。ただビンテージと呼ばれるもの以外は商品が回転していなければ、当然評価は落とさなければならない。季節商品はその晩期にセールで商品をなくす。ファッション企業であれば最低年3回転はしなければ、売れない在庫は不良在庫になる。(四季なので4回転は必要だが・・・)さらに商品の支払いサイトは手形でない限り最長でも90日後になり、3か月後には支払いが生ずる。つまり入荷して90日で売れれば支払いが滞らないことになる。財務的に問題があっても年4回転だと何とかキャッシュは回っていくということになる。

ライトオン、マックハウス、タカキューはいずれも厳しくなって5~6年後に、企業を譲渡している。上場企業で資金的に猶予があったかもしれない。今回の企業譲渡に関して言えば、このブログでもずっと警鐘を鳴らしていた。

ワールドはライトオンの事業を継続するが、ファッション企業だけあって、在庫を前期末に大きく処理をさせている。営業面は規模やMDの方向性が見えてないが、比較的スムーズにスタートするかもしれない。マックハウスは買いたたかれたというイメージがあるが、今後の営業面では在庫面での負の遺産が大きく出る気がする。タカキューは承継前に在庫の処理はしたものの、ファンド傘下ではやはり数字重視になっていかざるを得ず、今(2025)第二四半期決算では、在庫を増やして利益を確保しているように見える。投資ファンドが継承すれば、次に売り抜くことを考えるので、長期的な考えは少なく、再建には相当の覚悟が必要だと思う。

売上傾向が悪くなり、在庫回転率の低い企業は、いち早く在庫の適正化を急ぐ必要がある。

小売業の損益は在庫で大きく左右される。

■今日のBGM

マックハウスもTOB

先日、ライトオンに続きマックハウスもTOBが発表された。TOBの価格は1株当たり32円で、チヨダが全株売却する。ジーエフホールディングスが投資会社を通じてその株を取得する。10月11日時点の終値は334円なので90%安の価格になる。

ジーンズ業界は厳しいと書いてきたが、ライトオンに続いてマックハウスも売却される。マックハウスに関しては親会社が靴業界の大手チヨダだったので、まだ猶予はあると思っていたが、ライトオンとほぼ同時期に発表された。

チヨダも靴業界ではABCマートに大きく水をあけられ、本業重視する方向かもしれない。赤字の子会社には構っていられないということだろうか?チヨダはもともとテナントとしてはダイエー寄りであり、イオン系には出店が少なかった。その流れで郊外モール(RSC)の流れに乗れず伸び悩んでいるように感じる。マックハウスも同様の戦略もあり270店舗の規模の割には、売上面ではライトオンと大きな差がある。店舗の大きさにも差があるが、1店舗当たりの売上がライトオンの半分ぐらいの数字になっている。

これでジーンズ業界は大きく変わる。マックハウスはワールドの「ハッシュアッシュ」との取り組みで少し上向きかなと感じていたが、このTOBでワールドとの取り組みはほぼ終わるだろう。今後株を取得するジーエフホールディングスは、ファッション系では、ジャバグループやテットオムをグループ会社にしているが、現状のMDとの相乗効果は弱い。ただ、今後の方向性は、ライトオンと同様に、ターゲットをファミリー層に変更し、ジーンズのイメージを弱め、オリジナル比率を上げていくことは間違いない。

ジーンズ業界については、ジーンズの原点と言われるリーバイス501が2万近くするようになり、完全に客層は変わっている。値段や履きやすさを求めれば当然ユニクロやGUに流れていく。昔からのコアな客層はジーンズテイストを持ったセレクトショップに流れていっている。そしてその客層は大きく減っている。わずかにBshop系ブランドとセレクトされている地方専門店は新鮮なにおいもあり、客数を伸ばしているように見える。ただ客層を選ぶのと、商品のバッティング問題が大きく、店舗数は広げにくい。

一昔前のNBジーンズ全盛時代は完全に終わっている。ビジネスモデルも市場に合わない。サイズが細かく、そのため在庫回転率は悪く、キャッシュが回らない。ライトオンもマックハウスも年間2回転前後の回転率になっている。売上が落ちてくると当然仕入れられないし、品揃えもできなくなる。さらに、売上の補完として、回転率が高い商品を仕入れることで、店のイメージが変わり、従来の客層は逃げる。そうはいっても、ジーンズカジュアルは見せていかねばならない。その繰り返しで品揃えが崩れていく。ジーンズ専門店からスタートした、アダストリアやパルグループはさすがに先が読めていたのかもしれない。

チェーン展開するジーンズ専門店、ジーンズカジュアル専門店の時代は完全に終わった。

■今日のBGM

ワールド傘下になったライトオンの今後

9月にこのブログで、「ライトオンは自力以外での再生を模索しているのではないか」と書いたが、やはりワールド傘下での再生を、決算と同時に発表した。ここ数カ月、売場を見ていて、「数字が厳しくて何とかしなければいけない」ムードはなく、委託っぽいセール商品と秋色の商品を打ち出していた。全く商売に前向きさがなく、どこかがデューデリをしている雰囲気があった。

格安でもワールド傘下にならざるを得ないのは、数字上しょうがない状況にあったと思う。私は、常々「商売は在庫」と言っていて、いくらジーンズ中心でも回転率が悪すぎ、商品価値を高く計上しすぎだと感じていた。このブログの6月に書いたが、ライトオンも価格を見直し、上期決算で概算34億分の値段を下げて利益を大きく落としていた。当然ワールドもそこを指摘していて、今決算で店舗閉鎖の在庫分と併せてさらに大きく在庫評価を落としている。

簡単に計算してみる。決算短信によると、期末原価在庫が5111(百万)で決算売上総利益が39.9%なら、単純計算で期末売価在庫は8504(百万)になる。期首原価在庫+仕入原価―売上原価=期末原価在庫で計算すると10479+(x)+23343=5111となり仕入原価は17975となる。同様に売価も期首売価在庫+仕入売価―売価売上=期末売価在庫で計算する。(原価率から逆算する。)20190+(x)―30808=8504となり仕入売価は27122となる。仕入売価27122で仕入原価17975では商品値入率は33.7しかない。商品値入率を仮に50%で計算すると商品仕入売価は35950となる。つまり原価50%ですべて仕入れたとすると35950―27122=8828(百万)の値段を下げた計算になる。計算上は期首の売価在庫の40%強の評価を落としたことになる。(今後のことを考えて大きく評価を落としたかもしれない。)在庫評価をこれだけ落とせば今後の運営はずいぶん楽になる。

ワールドと組むことに関してはどうなのだろうか?ワールドしかなかったということだったと思う。ワールドとも私自身は長い付き合いだが、オンワードやイトキンと同様のサラリーマンの会社というイメージが強い。他のアパレルとは違い「会社」らしい雰囲気がある。もともとは専門店商売が中心で「コルディア」「ルイシャンタン」などを取り扱っていたが、DCブームから「タケオキクチ」「オゾック」「アクアガール」「アンタイトル」でヤング層を拡大し、SCが広がっていくと「TK」「ハッシュアッシュ」「シューラルー」でファミリー層への販路が広がっていった。当然百貨店ミセスゾーンは得意ゾーンだ。DCブームもファミリー層へのマーケットの取り組みも、現状を考えればうまくいったというイメージはない。

さて、どう取り組んでいくのだろうか?単純に考えるとマックハウスと取り組んでいる「ハッシュアッシュ」を投入しジーンズテイストを弱めていくのだろうと思う。ここ数カ月のマックハウスの数字も改善してきており、一番手堅いコラボになるのではないだろうか。ジーンズテイストを弱めてファミリー層ターゲットを打ち出していく方向だろうと思う。ただこれだけでは、ライトオンのいいロケーションの売場を手に入れるだけの事業構築になる。長く培ってきたライトンのジーンズカジュアルを、伊藤忠との関係でワールドがつながりのあるエドウィンとのコラボなどで、再構築を図ることも考えられる。ただジーンズカジュアルは完全にアゲインストの流れで、これはあくまでも可能性に過ぎないかもしれない。

ワールドとしては、格安で、340店舗という多くの売場を手に入れたので、現状ではあまり大きなことをせず、ファミリーターゲットに変更と事業の棚卸をして、売場と在庫の整理を急ぐと思う。ただ、ライトオンの源流であるジーンズカジュアルを見つめなおし、小さくてもいいので本質がわかる少しこだわった店も是非見せてもらいたい。

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時給1500円

石破首相は2020年代に全国平均の時給を1500円に引き上げる目標を掲げた。達成するには、あと5年間で年平均89円の引き上げが必要になってくる。24年は過去最高の51円引き上げを実施したが、これを大きく上回る引上げを継続していかねばならない。果たしてどうやっていくのだろうか。ちなみに2024年度は、過去最高の1055円に引き上げることとなっている。過去最高の引き上げで27県が目安を上回っている。

この政策通り進めるには小売業界は何が必要だろうか?そもそも可能なのだろうか?

大手小売業はどうしていくか?当然のように省人化とシステムの変更をしていくだろう。コンビニ、SMなどでは当たり前になってきた無人レジ、商品の配送システムの整理、複合化している業務を専門化して簡素化していく。現場では、売場の画一化を進め、大きさ、レイアウトも共通化させていく。本部機能もデータ決済を優先させ、商品政策も自社MDを強化し、当然セントラルバイイング中心で商品作りこみが増えてくる。

これが中小小売業になると、そこに耐えうる体力があるかどうか。先日新しく着任した政調会長が「最低賃料を1500円にするだけだ。」と言っていたが、最低賃料を1500円にすることだけではなく、全体の給与を同じくらい上げていかねばならないことを理解していないような口ぶりだった。最低賃料1500円ということは月間160時間勤務で24万の給与になる。当然、それを最低給にして給与形態を見直さざるを得ない。そうしなければ全社員のモチベーションも上がらないし組織が成り立たない。ということは人件費が大きく上がるということだ。人件費だけでなく、他のコストカットするためにシステム導入も援助なくしては厳しいし、商品原価も中小企業ではロットが小さいのでなかなか下げられない。それどころか、取引先も同じ経費増の流れになりなかなか商品原価は下げられる環境にない。

中小小売店のメリットであるべき、接客強化は人件費高騰で利益を圧迫する。差別化すべき個性ある商品を品揃えすることも、ロットが小さくては商品原価も下げられない。当然デベロッパーも賃料アップはあるだろうし、ますます大企業とは戦えなくなっていく。個性ある面白い店が少なくなっていき、標準化された大型店だけが残っていく。

こういう流れだと、ますますインフレ傾向は強まり、その流れについて行けない中小企業は淘汰されていく。

2020年代に最低賃金を時給1500円に引き上げることは、おそらく不可能だとは思う。ただそれを公約にするには、そのために国が何をしてくれるかが問題になる。大企業は掛け声だけで対応できるかもしれないが、ベンダー企業の要請は聞いてくれるのか。さらに間違いなく、中小企業には国からの大きな援助が必要になってくる。企業は国営ではない。中小企業の労働人口は多い。具体的な政策を是非聞いてみたい。

■今日のBGM

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