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イトーヨーカドー、アダストリアからの調達終了

8月14日の日経新聞に「ヨーカ堂、今期秋冬商品を持ってアダストリアからの商品調達を打ち切る。」という記事があった。「ファウンドグッド」を続けないということになり、今後は経営資源を食品スーパー(SM)に集中するということのようだ。

「ファウンドグッド」に関してはこのブログでスタート期に3度(2024年2.3.4月)書いており、今年も6月に書いている。再度読み直したのだが、立ち上げ期から成功を危惧しており、最近も「数字は上向いてないように見える」という内容となっている。成功するには、お互いの資金を出し合って、会社を立ち上げるべきだったと思っていた。

新聞記事の内容から察すると、商品のリスク、内装負担、販売員はイトーヨーカドー(IY)にあったようだ。この条件は、IYからの強い協力要請の結果だと思う。「残った商品は26年以降も販売は続ける」と記事にあるように、商品リスクがIYにあることがわかる。

現状、IYのセブン&アイホールディングスでの立ち位置が厳しくなっており、IYの株式を売却する話も出てきている。その流れで、IYはスーパーマーケット(SM)事業に集中する方向に動いている。IYとしては、「ファウンドグッド」事業は、上記したようにほぼリスクを負担しており、短期的に黒字化のめどが立たない事業として結論付け、事業撤退を決定したということだと思う。数字が順調でなければIYとすれば続けるメリットはない。データ分析が得意な、現実的な会社であるIYらしい結論だ。

「ファウンドグッド」は何店舗か見に行ったが、同じIYでも立地が大きく異なる。古いIYもあるしGMSとしての店もある。さらには大型SC(アリオ)内にあるIYもある。アダストリアにとっては、経験したことのないGMSの客層だったはずだ。MDを進めてきたアダストリアのスタッフには、簡単には対応はできなかったと思う。おそらく大型モール内のGMSをイメージしてのMDだったと思うが、それでは対応できない店が多すぎた。プライスラインもユニクロよりも若干高めに設定されており、競合にも勝てていない。さらに販売スタッフの数も教育も足らなかった。ユニクロは1店舗当たりのスタッフは最低40~50名と聞くが、アリオ内の大型物件でも5~10名程度ではなかっただろうか。ユニクロやGUを競合と考えていたのであれば、商品面、販売体制面でも完全に見劣りしていた。何度か見たアリオ川口内でのショップは、オープン期より縮小されており、厳しい状況がうかがえた。

アダストリアにとっては数字としては大きなマイナスはないが、従来の販売チャネル以外での失敗は社内外には大きい痛手でとなったのではないか。どちらかというと顧客や市場をよく研究してファッション業界では手堅く、偏差値の高い企業のイメージがあったのだが、少し取り組みが甘かったイメージが残る。企業として多角化を上げており、マルチカテゴリー戦略を打ち出している企業としては少し気にかかるマイナスになった。

IYの今後の非食品の売場は、今取り組んでいる商品リスクが小さい量販店ブランドのコーナー化を増やし、さらには大きなマイナスが出ないような条件(固定賃料は低く設定し、売上歩率での契約など)で、テナント出店にもシフトしていくと思われる。「しまむら」との組み合わせも面白いし、好立地なら「無印良品」にすべて任せるというリーシングもある。無印の近年の出店は生活感のある場所への出店が増えているように思う。

40年以上小売業に携わってきて、「イトーヨーカドー」と「アダストリア」は私にとって優秀な会社のイメージしかない。量販店時代は取引先各社からイトーヨーカドーの優れた商品戦略、在庫戦略を聞き、その後アリオ立ち上げ時のコンサルに加わった時も企業体質のすごさを感じた。ビブレ在籍時や小売業経営者の時にはアダストリアには大変お世話になった。その2社が取り組んでも結果が出なかった。

間違いなく、客層のバラツキがあるGMSの非食品売場は成り立たない。この結論はここでも実証されている。

■今日のBGM

季節指数の変化とバーゲンパワーの低下

昔は、「ニッパチ」と言われた2月と8月は売れない月だった。共に、1月7月のバーゲンで春夏物や秋冬物を売り尽くしてセール商材がなくなり、売場前面も先取りと称して2月には春物をメインに8月には秋物の打ち出しを強化していたからだ。それがいつの間にか季節指数が変化し、2月の落ち込みは小さくなり、8月は6月や9~11月より売上分母が大きくなってきた。

要因はいくつかある。まず考えられるのは、郊外型大型モールが各地にできたことで、SCが買物目的と併せて、時間消費型に変わってきたことにある。夏は暑いので買い物を控えるという行動パターンから、快適な空間で時間を過ごせる場所として大型モールを利用し、そして買い物も楽しむという流れへの変化である。特に8月は学校の休日もあり、飛躍的に売上構成比は上がった。

さらに、温暖化が進み9月はまだ秋ではなく、夏が続いている状況にあるという季節感の変化がある。つまり7月で夏物をなくすより8月や9月まで夏商戦を引っ張るほうが商売上のメリットが出てきている。そして季節商品のサイクルの変化とそれに伴うセールのタイミングの変化も出てきている。

このブログでは何度も書いているが、購買客層の変化も大きい。完全に高年齢化が進んでおり、ファッションの流行を第一に考える層が完全に減ってきている。ファッションを引っ張ってきた客層は大きく減り65才以上の高齢者層が大幅に増えている。つまりトレンドを意識する層が減っているということだ。ちなみに30年前の65才以上構成比は14.6%だったのが今年には29.6%と倍増以上になっている。ファッションは、よりデイリーへ変化している。

バーゲン期に値段を下げて、「季節商品をなくす、商品を入れ替える」ことは商売として当たり前のことになる。夏商戦であれば、従来の8月は売れない月だったので7月に春夏商品を売り切って、8月から初秋物を見せて切り替えていくという商売が普通の流れだった。8月が集客できる月に変わったことで、その商売のサイクルが変わっていった。百貨店や専門店の一部では、まだ従来のバーゲンの流れはあるが、他の商業施設では、SC中心にメリハリのあるバーゲンではなくなり、だらだらとセールを続ける状況となっている。これは冬のバーゲンでも同じ傾向にある。

そのような環境下、季節感と客層の変化にどう対応するかで企業力がわかる。ユニクロは自社のルールで商品の値段を下げ、なくしていっている。当然SCでのバーゲンのタイミングにも合わせている。つまり自社の消化率等のデータに基づいて商品を売り切っている。そしてそのサイクルは比較的早い。店を見ているとプロパー期でも商品のプライスダウンをしており、セール期もなくしたい商品の順序がよくわかる。無印良品も自社でタイミングを計ってセールをしている。そして、おそらく、季節商品でも売れている商品は値段を下げていない。両社とも、細かいデータ管理と商品をなくす必要性は十分理解している。そして、昔ながらの「動かない商品は迅速になくしていく」という考えが見えるのも両社になる。

逆に、近年は利益を優先している会社が増えているように感じる。そのため、セールを長引かせることで売場の新鮮さが見えなくなってきている。さらに、季節商品の比率を下げ、比較的ライフサイクルの長い商品を品揃えしようとしている企業も増えている。その結果として、サイクルが長いため消化率が低下している事には目をむけていない。そして、利益率の確保を優先するあまり、在庫過多に陥る。そういう流れもあって、何社かの会社が機能不全に陥り、事業譲渡されている。

環境変化でバーゲンの取り組みが変わったことで、商売に対しての各社の姿勢が改めて浮き彫りになっている。

■今日のBGM

大型モール(RSC)の寿命 3

今年の1月に、この標題で2本ブログを書いている。その他のブログでも、大型モールに関しては悲観的な見方で書いている。ネットでAIに「ショッピングセンター(SC)の推移」と聞けば、「新規開業数は減少傾向であり、小型で生活密着型のSCが増加している」と答える。さらに、「テナント構成比は衣料品の割合が低下し、取り巻く環境は人口減少や建築費の高騰が要因で非常に厳しい」と答えている。

一番の要因は、テナントの新鮮さがなくなってきている事だと思う。これだけSCが増えると、どのSCも入店テナントが似てきて、テナントでの買い物をするためにわざわざSCに行くより、デイリー的な買い物で行く比率が完全に上回っているように思う。RSCのスタート期は大手アパレル(ワールド、オンワードなど)や旧DCブランド系(ファイブフォックス、サンエーなど)の百貨店以外へのチャネル開発もあり、テナントには新鮮さがあった。さらに路面店やファッションビルに出店していたヤングターゲットのテナントを積極的に誘致していった。つまりそれまでの「ダイエーと50の専門店」とか「イトーヨーカドーと70の専門店」といったチェーンストア目的のデイリー的なSCから専門店目的のSCへ大きく転換していった。ただそれから30年近くたち、テナントの新陳代謝は進んでいない。

では、テナントのラインアップが変わらない要因は何だろうか?現状上記したようなどこにでも出店しているテナントは大型区画が多い。「ユニクロ」「GU」「無印良品」「ABCマート」などは、区画がどんどん大きくなっている。大型カテゴリーとしての家電、書籍やニトリなどの住まい関連、ムラサキスポーツなどのスポーツ関連、さらに近年は100均、300均の店舗も大型化している。ファッション系ではアダストリアやパルの各ショップも大型化しており、アダストリアでは基幹のグローバルワークも標準面積を150坪となっている。他のほとんどのブランドも100坪前後の標準面積となっている。従来からの大手アパレル系テナントは100坪前後だし、付加価値のあるセレクトショップも100坪前後と大型区画としての出店が多い。

大型区画は一般的には、歩率契約が多く、最低賃料があったとしても単価は安くなる。以前の会社で約30坪の店が契約満了の際、再契約なしということがあった。売上は順調に推移しており、標準的な契約で賃料も安いわけではなかった。続ける意思はあったが、隣の大型区画を拡大するとのことで退店した。過去のリーシング経験からおそらく広がっただけで、固定賃料の増加はほぼなく、売上アップ分の歩率賃料増加のみがデベロッパーの賃料増になる契約だろうと思う。デベロッパーはその拡大区画だけを見ると、賃料ダウンにしかならない。当然そこには企業同士の思惑はあるが、どこかでその賃料ダウン分を埋め合わせしなければならなくなる。

大型店舗を導入すると、SC全体のバラエティ感がなくなってくる。当然複数店舗の固定賃料や共益費など合算のほうが、大型区画1店舗の賃料収入よりは大きい。ただ大型区画が、そのSCイメージを上げ、集客策としてはプラスになることもある。しかし、これだけ大型区画が増えてくると、50坪以下の標準区画への賃料にしわ寄せがくる。その結果として、出店へのハードルが上がる。標準区画への出店交渉が厳しくなった結果、出店コストがかからないショップや催事要素の強いショップが増えている。そして大型店舗が増えることでSCの個性がなくなり、狭商圏化が進む。

さらに賃料のしわ寄せによって、次世代のテナントが入店しにくくなっている。実際に、ここ数年大手企業以外で、興味を持つようなテナントは非常に少ない。内装経費上昇など出店するハードルもどんどん上がっている。各地域で成功して、全国展開していったテナントは本当に少なくなった。そういうテナント開発をしていくのもデベロッパーの使命だと思うが・・・

国内のGMSは約50年で淘汰が始まった。国内大型モールもおおよそ30年を過ぎようとしている。ラインアップが同じようなRSCが増えてくると狭商圏化し、淘汰が始まる。

■今日のBGM

競合激化するSM(スーパーマーケット)業界

再三、このブログで取り上げているが、国内需要は高齢化によって必需品中心にならざるを得ない状況にある。現状国内の60才以上人口構成比は35.4%であり、30年前の倍の構成比になっており、その人口は43800(千)人になっている。まだ働ける年齢とはいえ、現役ではなくなりつつある世代になる。当然、ファッション関連やビジネス志向の商品は伸びるわけはなく、食品を中心に必需品の購買ウエイトが上がってくる。その流れ通り、SM業界の数字は堅実に伸びている。6月のスーパー全体の売上は前年比104.2%と4カ月連続伸長となっている。

近隣にまたヤオコーができるようだ。駅前に昨年5月オープンしたばかりだ。新物件のオープンは来年6月となっている。ちなみに駅前物件と新物件の距離は500mくらいしかない。調べてみると駅近辺1km圏には、ヤオコーを含めて、マルエツ2店、コープ、ベルク、オーケーなど10店程度のSMがある。マルエツは500mくらいの距離に2店出店している。武蔵浦和駅前から2kmで浦和駅の商業集積があり、3Kmのところにイオンモール北戸田もある。そしてSMの密度は濃い。

おそらく、近隣2店舗出店は競合激化によるところだろうと思う。オーケーは近隣にあるが、オーケーも含めてロピアなど新興ディスカウントSMの進出に抵抗した結果かもしれない。マルエツの近隣の2店舗戦略も「競合に出店されるなら・・」という同様の結果だと思う。ただ今回の出店で一番ダメージを受けるのは300mも離れていないマルエツの1店舗になる。

地元民として、新物件は決していい場所だとは思えない。南側には学校が2校あり、その先にはベルクスやイオンモールがある。東側にはロッテの工場や2軍球場があり、その先は線路で商圏が分断されている。駅に向かっての東北側はマンション群だが、駅中心に商業集積があり、西側はマンションや住宅地になるが、SMのコープが近隣にある。さらに新物件は駅に向かうメインの道路に面しておらず、立ち寄りやすい場所ではない。

間違いなくSMの魅力だけでは、自社も含めて各社との食い合いになる。SM以外で何か引き付けるものが絶対必要になってくる。説明会の資料には述床面積9140㎡で3層、1階はピロティ(駐車場)と飲食、2階がヤオコー、3階が専門店となっている。この立地で、ある程度わざわざ性を高めるには間違いなく魅力ある専門店が必要になってくる。

昨年の駅前出店の時にもヤオコーの「テナントの弱さ」を指摘したが、今回の出店場所は、ますます集客力のあるテナントが必要になってくる。現状、武蔵浦和駅周辺には、ある程度の商業集積には必要な「ユニクロ」「無印良品」がない。これだけ高層マンションがあり、交通の利便性がいい立地でこの2店舗がないというのは、街自体に欠落があるようにも思えてくる。フロア構成上2社は難しいかもしれないが、この商業物件としての成功は、この2社へのリーシングにかかっていると思う。

国内の大型モール(RSC)はもうすでに停滞期に入っており、今後は、少しずつ淘汰されていくように思う。商圏に合わない大型化しすぎたRSCが多く、空床部分も目立ってきている。さらに、先述したように高齢化が進んでおり、以前のGMSのようなCSC(コミュニティSC)や、SMが中心のNSC(ネイバーフッドSC)といった利便性あるSCの時代に戻っていくと思う。その時には自店でのSMのMD力だけでなく、フル感性で日常的なテナントとの共存が絶対に必要になってくる。

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自主再建が厳しかった3社の現状

このブログを書き始めて、厳しい状況を分析してきたライトオン、マックハウス、タカキューの3社は自主再建ができなかった。売場や数字を見ているとその状況はよくわかったし、さらにそういう結末も予測していた。特に持論でもある「在庫過多」から導かれた結果だったように思う。そういう経緯もあり、現状の3社の決算状況は四半期ごとに興味深く見ている。

ライトオンもマックハウスもジーンズカジュアルを打ち出した専門店で、その業界では1位、2位の企業だった。その2社がそのビジネスモデルで自主再建できずにTOBされたということは、もうその分野では成功はできないということになる。当然、商売の失敗はあったが、環境変化も大きな要因だった。ライトオンの直近の決算を見てもまだ企業のマイナスを処理中の印象しかない。戦略としてもEC強化くらいしか前向きなものは見えない。親会社にあたるワールドにとってのメリット部分は活かしていくとは思う。別の交渉にはなるが、好立地物件へのグループブランドの出店などは想定できる。ただワールド傘下ということもあり、規模の縮小はあっても継続事業を確実に進めていく気配は見える。

マックハウスは親会社のチヨダからのTOBを経て再生ファンドの傘下に入っている。出資しているジーエフホールディングスという会社を調べたのだが、どうもよくわからない。傘下のアパレル企業としてはジャバG(神戸の老舗企業、ブランドはロートレアモン、子供服のべべなど)、シティヒルなどがある。このTOBの経緯も分かりにくい。間違いなく親会社チヨダは切り離したかったということはわかる。市場取引価格330円の株が32円でのTOBということに現れている。ただファンドの思惑と違い、その後の株価が低迷し、そのため資金調達スキームが崩れそうになったようだ。そこで金融事業と題してビットコイン投資を始めている。レディスカジュアルのアナップと同じ手法だ。ジーニングカジュアルとしての企業再生とはかけ離れているようだ。コアの事業として従来の事業が継続できるかどうかも不確実な状況のような気がする。

債務超過だったタカキューは昨年の1月に官民ファンドによる再生支援を受け、金融機関、投資ファンドから第3者割当増資を受けている。そして同時にイオンとの提携を解消している。債務超過解消した前年数値は、落ち込んでいた売上も96.2%まで戻した。ただ今期第一四半期は90,8%と伸び悩み、前期に比べて利益率は+2.4%だが在庫は119.0%と増加している。ちょっときれいになったHPに違和感を覚えたが、イオングループとして再生に取り組んだ方法とは違った角度で取り組んでいる様子は伺えた。ただイオングループの力は相当大きかったと思うのだが・・・

この3社の取扱商材はもう大きな市場ではなくなりつつある。ジーンズ業界はコアの客層は、地元にあるセレクト店舗に流れ、そうでない客層はユニクロなどで充分間に合っている。スーツを中心にしたビジネス顧客に向けたファッションも、カジュアル化が進んでおり、市場全体が小さくなっている。さらにそのターゲットのカジュアル衣料を扱う店は山ほどある。小さくなったターゲットで商売できるようにダウンサイジングするか、他の業種を取り組むしか対策は考えられない。

現状の数字や再生支援している企業を見ると、存続に向けた大幅な縮小案と現状の立地の有効利用が可能なワールドがバックアップするライトオンしか、先が見通せないように感じる。それでも規模は大幅に縮小されると思う。さらに、ファンドを利用しての再生は短期間での収益改善を目指すケースが多く、永続的な企業運営には疑問符が付く。

今後の数字も確認していこうと思う。

■今日のBGM

業界大手2社がTOBされたジーンズカジュアルは大幅規模縮小するしかない

難しい靴業界で成長続けるABCマート

ここ数回ずっと在庫のことを書いてきた。自分で商売するときは「在庫を持たない」商売をしようと思っていた。過去小売りの仕事をしてきて「ジーンズカジュアル」と「靴」は在庫を持って商売しているイメージしかなかった。両カテゴリーに言えることは、サイズが細かいということになる。細かなサイズに合わせて在庫を持てば当然在庫は増える。中心サイズがなくならないように多く持つと1品番当たりの在庫は増えていく。さらに定番的な商品が多く、値段を打ち出しにくい。

ビブレの店長時代、店長は自主直営売場の数値責任を持っていた。当然各売場には、仕入れ権限のある売場の責任者がいるが、MD計画、数値計画は店長が確認する。一番利益面でわかりにくかったのが靴業種だった。サイズが多岐にわたり在庫も多くなる状況はジーンズと同様だが、ジーンズの売場はトップス、アウターでの調整ができる。靴は皮革とケミカル、スポーツなどに分かれるが、調整できるアイテムは少ない。取引先との商売条件も多くあり(消化、委託など)買い取り商材は大きな値下げが発生することも多く、利益率が高い状況で安定することがなかった。難しい業種だった。

ジーンズのナショナルチェーンはどんどん厳しくなり、全国チェーン展開の専門店は近年のライトオン、マックハウスの事業譲渡もあり、ビジネスとしては成り立ちにくくなってきている。一方靴業界も同様でありアメリカ屋靴店やマルトミなどの倒産例もあり、特にカジュアル志向が強くなった現状では靴業界も淘汰されようとしているように見える。そういう状況下、靴業界のABCマート、チヨダ、ジーフットの大手3社の決算数字をチェックしてみた。

売上面ではABCマートの絶好調ぶりが群を抜く。2025年決算で3772億計上されておりコロナ期以前の数字から136.7%伸長している。チヨダはマックハウスを除外して調べてみた。売上数字は年々マイナス傾向で1000億企業だったのだが、2025年787億まで落ち込み、コロナ前からでは89.5%の売上となっている。ジーフットは2025年売上が600億でコロナ前からでは67.3%の状況となる。

利益率は2025年決算でABCマートは50.5%、チヨダは47.7%、ジーフットは44.1%。営業利益率はABCマート16.8%、チヨダ5.3%、ジーフット-1.3%となっている。チヨダはコロナ期以外黒字体質ではある。ちなみにジーフットは2023年に債務超過になっており、2025年親会社のイオンからの第3者割当で解消している。1店舗当たり売上はABCマート248(百万)、チヨダ87(百万)、ジーフット63(百万)と大きな差がある。

一番重視している回転率はABCマートが年2.04回転で数年はほぼ2回転前後。チヨダは年2.21回転と前期大幅改善しており、過去の1.8回転前後から良化している。ジーフットは年1.46回転で、過去の1.3回転前後からは改善しているがまだまだ低い。

完全にカジュアル化の波が大きく、スポーツブランドを打ち出すABCマートの出店戦略が成功しており、特に売場大型化がその要因にもなっている。近年主流になった大型モール(RSC)の全国拡大に併せて企業規模が拡大している。逆にチヨダは大型モールへの流れに乗れず、従来のGMSやSCでの商売を続けている。ジーフットは当然イオン系SC中心になるが、イオンGMS内(所謂ジャスコ)の靴売場も運営しているため、SC部分への出店が大きく出遅れた。さらに現状のGMS内の衣料服飾品の赤字体質が続けば、企業存続にも赤信号が灯る可能性もある。

在庫面に関して考えると、ABCマートは常にプライスダウンを打ち出し消化率を上げようとしている。売場内でも大きなセールコーナーを取っているし、いたるところで催事も見かける。アパレルを加えた売場が増えているのも在庫面の課題解消策かもしれない。それでもあと年0.5回転くらいのプラスは必要だと思う。チヨダも回転率の大幅上昇もあり、意識は高まっている。逆にジーフットは決算時に在庫課題はいつも上げているが、全く改善は見られない。

追随する企業のアゲインストの流れが大きく、対抗する企業がない状況下で、カジュアル志向が続けば「ABCマート」1強の流れは確定的になっている。

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商品の幅を広げると商売は難しくなる

ヴィレッジバンガードの経営状況の悪化は、商品の幅が広がりすぎた事が大きな引き金になっている。

少し商品の用語の説明をする。まず小さな商品単位を品目と呼ぶ。一般的にはアイテムと同義になる。品目が集まって品種になる。品種が集まって品群になる。例えば品群が婦人衣料、品種がスカート、品目がフレアスカートという分け方になる。

ヴィレッジバンガードの商品構成は、多くの品群が入れ混じっている。衣料品、服飾品、書籍、文具、玩具、食品など。さらにそこから細分化され、衣料服飾系でもメンズ、レディス、アクセ、鞄、時計、帽子など多岐にわたり、さらにそれぞれにキャラクターが打ち出されている。それぞれの商品サイクルは違っており、付随するキャラクターのピークタイムも見極めなければならなくなってくる。はたしてどれだけのスタッフでこの商品を管理していたのだろうか?そして、どの程度のデータをどれくらいの頻度で出力し、商品の改廃のジャッジをどういう基準でしていたのだろうか?

何年か商売をやってくると、売場の基本レイアウトや品揃えは想定できる。そして想定売上に対しての在庫量も逆算する。そこから適正な売場面積も導ける。さらに商品の切り上げ期も分かってくる。

例えば50坪程度メンズカジュアルの店を長年やっていたとする。当然商品の流れがあり、従来の品群での売上のアップダウンがあり、その中で在庫の持ち方や売り場のレイアウトを考えて商売をしている。例えば、そこに新しい品種としてカジュアルアクセを導入する。さらに加えてシルバーアクセもコーナー化する。そこの効率次第で、従来の売場を変更していく。服飾雑貨が売れることで時計も導入する。ディスプレイ程度に品揃えした、鞄や、帽子も拡大する。そうなると全く当初のMDとは変わっていく。売場のコンセプトも変化していく。

つまり、衣料品に加えて服飾品という品群が増え、服飾での品目が増える。売上がその導入により上昇しても、売場面積は変わらないので間違いなく各品種の効率は変化する。それをうまくつかんで、売場をアコーディオン化できればいいが、既存品種も従来通りの品揃えでは、在庫は膨らむ。当然処分しないと不良在庫が増え続ける。もし服飾品の売上の比重が上がれば、当初の店のイメージは大きく変わる。そして、不良在庫を処分すると利益が下がる。利益ダウンを後回しにすると、処分が遅れた不良在庫が増えていく。そうなると商品回転率はどんどん下がる。

おそらくヴィレッジバンガードはそういう状況が続いた結果のような気がする。ここ最近買収されたライトオンもマックハウスも同じような状況の結果になっている。好調を続けるユニクロは品群を増やしてないし、商品構成比率も大きくは変動していない。逆に品種品群を増やしている無印良品は、売場を大型化し細かなデータ管理をしている。

売場面積が変わらずに商品の幅が広がれば、当然歪みが出てくる。軌道修正は当然データありきになる。商品の売上分母だけでなく、回転率など消化状況を重視し、品群や品目さらには単品ごとの効率をデータ化し、素早く改廃対応する必要がある。

何度も書いているが、商売は利益率より適正な商品回転率を重視するべきだと思っている。

■今日のBGM

やっぱり、この会社は・・・

このブログの今年3月にヴィレッジバンガードについて書いた。私自身「小売りのキーは在庫」を念頭に仕事をしてきたし、その観点で企業を見る。ヴィレッジバンガードの回転率の低さは業態が複雑であっても、少し異常に見えた。今期決算が発表され、リストラ案も併せて出されているが、おそらく再浮上には大きな改革と多数のヒット商品が必要な気がする。

商売の基本は、「商品を仕入れ」て「商品を売って現金化」して「代金を支払う」ということに尽きる。売れなければ支払えない、支払えなければ仕入れられない、仕入れられなければ商売は続かない。簡単な仕組みだ。いろんな形態はあるが、一般的に現金払いの時は(もうさすがに手形はない?)、末締めの翌末払いが多いように思う。つまり月初に仕入れれば約60日後に、月末に入れれば約30日後に支払う。平均すると45日後には支払いが発生する。その間に売れなければ支払えないということになる。企業の規模や取引年数にもよるし、原価率にもよるが長く見ても4~5か月後には商品は現金に変わってないと商売は続かない。さらに衣料関連では四季があるので、季節外れでは売れない現実もある。つまり商品は最低でも年3~4回転は必要ではないかと思う。

ヴィレッジバンガードの商品回転率を年度別に出してみた。年初売価在庫、期末売価在庫(原価率から逆算)を2で割って平均在庫とし年間売上で割ってみると、2024年は1.13回転となる。つまり1年間でやっと1回商品が入れ替わるということになる。取扱商品が衣料服飾品だけはないので季節指数があてはまりにくく、さらに書籍の一般的な回転率もわからない。ただ、近年は衣料品や雑貨の比率が高まっていたようにも見えるので、あまりにもこの商品回転率は、低すぎるように思う。過去10年の回転率を計算してみたが2016年の1.56回転からほぼダウントレンドになっており、2023年は0.97回転と1回転していない。つまり在庫過多状況が続いているということになる。

当然、経営側はその事実を理解している。毎年の決算短信にはコメントしているし、実際今期は店舗縮小の名目ではあるが2472(百万)の商品の評価損を計上している。さらに2013年にも同様に4692(百万)の商品評価損を計上している。そして今期以降に81店舗、今期39店舗の退店計画を発表している。決算時の店舗数は293店舗となっているので今後約3割の店舗を減らす計画のようである。

尚、今年度の数値予測は売上25921(百万)前年比103.8%、売上総利益率43.2%(前年度差+5.7%)営業利益1048(百万)(前年差+1984百万)と発表している。今期は出店1退店39となっていて期末の店舗数は-38であり、計算すると次年度1店舗当たり売上は101650(千)で今年度の85195(千)に対して119.3%となっている。この状況下で店舗当たり売上が119%伸長し、利益率が5.7%も上がる計画はどう考えてもあり得ない。当然39店舗の閉店セールは実施するのだろうし(それが売上の上昇予測要因?)、この在庫状況ならもっと値段を下げなければ商品はなくならない。利益はどうやって上げていくのだろうか?ネット売上にそこまでプラス効果は期待できないのではないか。

個性が強く、「宝物探し」的なMDで大きくなっていったが、郊外モールなどへの出店も増え、標準化された売れ筋の品揃えも増えていった。商品量が少ないから、マニアは探して買う喜びがあるが、ありすぎるとどこにでもある品揃えになり、「わざわざ感」がなくなってしまう。前回も書いたが、昔経営していた店の商品品揃えとも重なることがあったので、定期的に見ていたが、間違いなく「切り上げ期」が遅すぎた。ひどいときは次年度まで商品が寝てしまっていた。本や雑貨と同じように衣料品や服飾品も年間商品と捉えているように感じていた。当然売れずに在庫は増える。アイテムが広いので店長や本部スタッフの得意分野でのみ商売をしていたのではないだろうか?売場の個々の商品サイクルがわかってないように見えた。

そういえば、昔も商品の評価損を出していたなと思って調べると前述した2013年だった。結局10年以上たっても同じことをやっている。そして時代は、その時分よりもヴィレバンに迎合していない。このカテゴリーに手を差し伸べる企業はあるのだろうか?

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ららぽーととイオンモール ➁

前回、セレクト系のショップのRSC(大型モール)への出店傾向についてコメントした。そしてその出店先は「ららぽーとに限られているように見える」と書いた。RSCのアッパー層をターゲットにするセレクト系ショップのリーシングが、イオンモールとららぽーとの立ち位置の違いに現れてくると思うので、再度まとめてみる。

まず、ユナイテッドアローズの出店について調べてみる。主な出店ブランドは「UAグリーンレーベル」であるが、このブランドのターゲットはRSCや地方ターミナル客層を想定している。そのため、当然出店店舗が各地のRSCには多くなる。ららぽーとへの出店は11店舗(ラゾーナ含む)、イオンモールへの出店は3店(レイクタウンとモゾ、京都)となっている。その他の店舗もテラスモールやマークイズ横浜など大型物件中心になる。イオン系ではモゾや京都はもともとの開発運営母体からイオンモールが引き継いでおり、実際は規模感の大きいレイクタウンのみへの出店とみてもいいような気がする。「ビューティー&ユース」もららぽーと2店、イオンモールはなし、「シテン」もららぽーと9店、イオンモールは前述したモゾのみ。やはりユナイテッドアローズのRSC出店はららぽーと中心であり、他は各地の大型モールへの出店(テラスモールなど)という流れになっている。

ビームスの出店については、ビーミングでららぽーと9店、ビームスで1店。イオンモールは前述したモゾのみ。その他西宮ガーデンズ、コクーンなど。シップスについてはららぽーと2店、その他テラスモールや西宮ガーデンズ。ベイクルーズはレリュームを中心にららぽーとに20店舗弱。ららぽーと福岡にはベイクルーズストアがあり、エキスポシティにはスピック&スパンも出店している。イオンモールはレイクタウン1店のみで、その他テラスモールや西宮ガーデンズには出店している。

上記データを見ると、やはりセレクト系の出店は大手SCではららぽーと中心であり、その他テラスモールや、西宮ガーデンズのような大型化され立地にも恵まれた都市型物件への出店がほとんどとなっている。そして、イオンモールへの出店はほぼレイクタウンだけという結果となった。

セレクトショップへの客層は、都市型の客層が多い。都市部の路面店やターミナルの駅ビルで買い物するお客様が中心となっている。その流れで見ると、ららぽーとのほうが、比較的都市部に近い場所に立地し、イメージも大型モールではあるが駅ビルに近いかもしれない。

イオンモールは、もともと「狸が出るところに店を出せ」からスタートしており、地方郊外の大型モールの位置づけになっている。さらにキーテナントがGMSのイオンというSCでは、ターゲット客層が量販店寄りになりつつある。SC売場面積の四分の一くらいを占めるイオンで中心客層が絞られてしまっている。ららぽーとにはその見え方はなく、SCに「小売企業の色」が強くない。現状一番減少している業態であるGMSの客層がメインターゲットでは、SC内でもアッパーゾーンを取り込みたいセレクト企業には魅力は小さい。レイクタウンへの出店は、他のイオンモールと違いモールにバラエティ感があり、GMSとしてのイオンの匂いが薄いからだと思う。

ずっと書いてきているが、イオンモールから量販店イオン(ジャスコ?)の匂いが小さくならないと、何年後かには、イオンモールも今のGMSと同じような状況になってしまいかねない。

■今日のBGM

若干アッパーゾーンの客層

近頃は、このブログで「ユニクロ」や「無印良品」の商品戦略や売場を持ち上げてばかりいる。5年位前までは「ユニクロ」を真剣に見たことがなかったし、「無印良品」も近年やっと無印創業時以来の頻度で通っている。10年くらい前は、店舗巡回の折にセレクトショップのアウトレットを見て回り、掘り出し物を見つけては喜んでいた。生活環境の変化で「衣食住」の買い方は変わる。そして、コロナ以降、小売業界も2極化が進んでいる。

百貨店やセレクトショップ等でプロパー価格での買物をする層は、どれくらい減っているのだろうか?ネットで調べると、百貨店売上は1991年9兆7130億がピークでそこから大きく落ち込み、近年はインバウンド効果で昨年は5兆7722億まで持ち直しているようだ。この現象はいろんなデータが発表されているので周知のことだと思う。ただ地方は現状、百貨店は淘汰され、購買層も大きく減少している。

衣料関連の専門店の動向をチェックする。コロナ前の売上と近年の売上を比較してみる。前述したユニクロはコロナで落ち込む前の売上比で135.5%(2020年比)、無印良品は150.8%(2019年比)。その他企業でもアダストリア123.9%、パルG145.7%、ABCマート126.4%、ニトリ147.3%、西松屋134.6%とコロナの不振をばねに大きく伸長している。逆にタカキュー43.1%、ライトオン52.5%、マックハウス55.0%とコロナを乗り越えられず、会社の方向性が変わった企業もある。そういう中で比較的アッパーゾーンがターゲットだった企業も、まだ元の数字に戻っていない。ワールド81.0%、オンワード76.4%、ユナイテッドアローズ84.5%、TSI91.4%とまだまだ顧客を取り戻していない。つまり悪い流れだった企業は淘汰され、さらに値頃価格志向の企業が上向いているように見える。

百貨店が中心の販路だった企業は当然のように厳しい。そしてユナイテッドアローズのようなセレクト業態も、前年数値をクリアしては来ているもののコロナ以前の数字にはまだ届いていない。課題は、百貨店等値段が通る販路のマイナスをどこでカバーするかになっているようだ。当然EC戦略が大きい流れではある。EC売上高はオンワード431億、TSI430億、ワールド356億と非常に大きい。しかしまだまだ過去の全体数字をカバーできてはいない。そしてここにきて大型モールへの取り組みも増えてきている。

近年、大型モールにセレクト系の店舗が急増している。ユナイテッドアローズは「グリーンレーベル」というそのゾーンのターゲットのブランドを作り広げてはいるが、ビームスやベイクルーズも「ビーミング」や「レリューム」などのブランドで広がってきている。「グリーンレーベル」の店舗は現在91店舗もある。ただし、他のセレクトショップは出店場所を見極めているようで、現状は大型モールの中でも出店は「ららぽーと」に限られているように見える。(ここに量販系イオンモールとららぽーとのモールの格差が出ている気がする。)旧百貨店対応メーカーもメーカー名を打ち出して出店が増えている。さらにオンワードが「ウィゴー」をグループ化しワールドも「ナルミヤ」や「ライトオン」を傘下に入れており、従来の販路とは違う企業を積極的に取り込んでいるようにも見える。

アッパーゾーンを取り組むより、ボリュームに流れるミドルゾーンを、どうやって引き留めるかが今後の小売業の大きな戦略になってきそうだ。

※日曜日、駅前のヤオコーに朝10時前に買い物に行った。入口近辺に備蓄米が2160円で山積みされていたが、販売員だけでお客様はいなかった。その後売れないので米コーナーや、特売品のエンドで販売していた。加熱した報道にあった混乱は、もう終了したのだろうか?

■今日のBGM(ネットで映画を再度見直したので・・・)

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