カテゴリー: 経営環境 (1ページ目 (15ページ中))

在庫と利益 ③

小売商売は「売上」「利益」「在庫」が大きなチェックポイントだと何度も書いてきた。小売業を経験してきた経営者なら当然理解している。すべて適正に回っていればいいが、常にこの3項目では「売上」「利益」が優先される。損益計算書が中心になっているように見える。

以前に書いたが、今回企業譲渡された「ライトオン」「マックハウス」、厳しい状況の「ヴィレッジヴァンガード」などが在庫評価損を計上している。その金額が「ライトオン」1564(百万)、「マックハウス」726(百万)、ヴィレヴァンでは前期末2472(百万)と非常に大きな金額になっている。ではなぜここまで金額が大きくなってきたのだろうか?1期だけで計上される金額ではない。毎期の積み重ねの金額に違いない。毎年売れない商品があるにもかかわらず、適正な在庫評価をしていなかったとしか思えない。計上すれば利益が減り、株価に影響するし、それによって資金繰りも厳しくなる。おそらく作為的なもので、企業体制も追求すべきではないだろうか?

適正在庫についても何度も書いてきたので割愛するが、小売業は、決算時に「商品回転率」へのコメントが必要だと思う。商品の「在庫回転日数」(平均的に入荷後何日後に売れて現金に変わっているか)と支払いサイト(入荷何日後に支払いが発生するか)でキャッシュの回り方が、概ねわかる。ただ、おそらく資産が多い会社はあまり気にしていない。以前経営していた会社は20億以上の売上はあったが、出店も重ねていたので、毎月の商品支払い日の前日の残高には気を使っていた。もしものために当座貸越を利用する月もあった。それだけに、仕入れに関しては厳しくチェックしていた。キャッシュフローを考えても、「商品回転率」は小売業のチェックポイントとしなければいけない。

今日、ネットの記事で「ライトオン110店退店で25年8月期は赤字大幅縮小」とあった。当然記事は前向きなことを書いている。「従来は値引きで粗利を痛めていたが、値引き抑制で利益は前期比12,2%増」になったらしい。さらに今期は黒字化と結んでいる。在庫評価損を計上した商品はどうやってなくしているのだろうか?廃棄にはしないと思うので、売価設定次第では、当然大きな利益も計上されることになる。前期評価損を計上した「ヴィレヴァン」も今期は大幅に利益率が改善する指標が出ていた。つまり利益の改善は、前年の評価損による一時的なもののような気がする。「ライトオン」の売場には「ついている値段から・・・円引き」の前年秋冬キャリー商品らしきものが前面を占めていたが・・・

では、企業は適正在庫に対して、どう対応すればいいのか?経営陣の重要さの認識は前提条件だが、売上予算、利益予算、在庫予算は必ず個店別に作成させるべきだ。当然、店長含むマネジメント層に在庫管理の重要性を理解させ、売上の進行管理と共に利益、在庫の進行管理も行い、上長に報告義務を持たせる。そして対策を講じる。さらに在庫管理面も売上、利益と共に業績評価の対象とするべきだと考える。

現実的に一番大きなことは、個店の店長が、店の「キャッシュ」の意識を持つことだと思う。店長は、売れる商品があればあるだけ欲しい。欲しいだけでは売場の在庫が膨らんでくる。つまり好きな商品の「足し算」だけで、売れてなくなる「引き算」も計画しなければ、売場は商品があふれる。そして店長やバイヤーは商品を仕入れるだけで、現実的には支払いはしない。まず、店長が仕入と売上のバランスを考えてみる。そして、経費を含めた支払いも考える。単純なキャッシュフローを作成してチェックさせる。そうすることで必ずキャッシュがショートする月が出てくる。そうすれば、売上、利益とキャッシュの差にやっと気が付く。

「パルグループ」は在庫に関しての意識が高く、決算で発表されている回転率も衣料系の中では高い。「無印良品」は以前の中間決算で、売上は大きく伸長していたが、最終の決算数字予測では、売上の大幅増に反して利益率は在庫処理のため据え置いていた。

在庫に対する姿勢で今後の小売企業の業績や企業評価は大きく上下していく。

■今日のBGM

アンドエスティの少し気になること

アンドエスティ(アダストリア)の中間決算が発表された。売上前年比102.6%、売上総利益率前年同期比-0.5%、営業利益前年同期比-19.4%、期末在庫前年比98.7%となっている。夏商材の在庫処理で値引き額が拡大し利益ダウンになったようだ。春夏商売はプロパー消化ができず、在庫を持ち越さないように処分した結果と会社は発表しており、その結果の数字になっている。

前回のブログにも書いたが、小売業の課題は、ターゲット年齢層の絶対数の減少にあると思っている。ファッション業界では、より一層ターゲット年齢層は減少しており、現実的で、リーゾナブル価格への流れが強くなっていると感じている。そしてその流れにうまくマッチしているのが「ユニクロ」や「無印良品」で、年齢層の幅を広くしている。

今までのファッション業界は、それぞれ細かなベクトルがあり、その細かな客層のシェア率を上げ、客数を拡大していき大きくなっていった。そしてファッション業界に生活感はあまりいらなかった。ただ現状はその層の絶対客数が減っているし、高年齢化が進むことでファッションでも生活感がキーワードになりつつある。

アダストリアに、そういう状況に対応するブランドはあるのだろうか?ジーンズ業界出身でよく似た企業だと思っているパルグループは、「3コインズ」で幅広い年齢層からの支持を得ている。前期「3コインズ」の売上は709億と発表されており、パルグループ売上2078億の34%を占めている。アダストリアでの基幹ブランドは「グローバルワーク」で前期売上は517億でグループ売上2931億の17.6%の売上構成比になっている。ただ「グローバルワーク」が広い年齢層に向けたブランドとは思えない。売場作りや演出を見る限り、高齢者は気安く入店できない。アダストリアで考えると「スタジオクリップ」がそのグルーピングかもしれないが、あまり大型化、多店舗化しているようには見えない。

アダストリアとしての方向性は、むしろ現状のターゲットのさらなるシェアアップに向いているようにも見える。衣料服飾だけでなく「飲食」への進出、アウトドアブランド「カリマー」の株式取得、プレステージブランドの開発など従来の客層のカテゴリーの幅を広げる方向のように見える。年齢層を広くとらえる生活雑貨「ジョージズ」も取り込んだが、本格的な動きは見えず、そのグループのライバルブランドと戦うには相当な努力が必要だと思う。一般的には、新しいカテゴリーに新規参入して成功するのは簡単ではない。

年齢層の幅という意味ではイトーヨーカドーとの「ファウンドグッド」の取り組み中止と「フォーエバー21」の撤退は大きかった。やはり量販店の客層の幅の大きさや、低価格商材の「デザインと品質」には苦労したと思う。そのゾーンが得意な取引先もあるが、企業体質が違うしバイヤーの感性も違うので、うまく取り込めてなかったのではないだろうか。アダストリアの従来のターゲットとは、想定外のニーズがあったのだと思う。そういえば「ユニクロ」の柳井氏はジャスコ(イオン)出身だし、「無印良品」は西友が開発したショップだ。やはり企業の色が違うのかもしれない。

現在のアンドエスティは、昔からよく知っているアダストリアと違ってきているように見える。ここまでブランドを広げていくとは思ってなかった。経営を次の世代にタッチしたのだと思うが、今戦っている年代層はどんどん少なくなっていくと危惧する。企業としては、少なくなりつつある現状の客層のシェアを上げる戦略に見えるが、幅広い年齢層に取り組んでいくことには目を向けないのだろうか?

■今日のBGM

先を見据えた企業戦略

この頃、商売のキャパを考える。人口が減少していき、労働人口は減少し、どんどん高齢化は進んでいる。商売は想定需要のシェアをどれだけ確保していくかにかかっている。例えば食品スーパー(SM)なら商圏人口×食品支出である程度の想定の需要額はでる。衣料や雑貨も結局そのパイの取り合いになってくる。そして全体のキャパはどんどん減少していく。

駅にあったマツキヨが退店していた。近辺に新しくスギ薬局ができて、サンドラッグ、ウェルシア、セイムスと完全にオーバーストアになり、立地面では良かったが規模で劣ったマツキヨが駅前商圏から消えていった。ドラッグの商圏規模からはじき出された結果かもしれない。SMでは、ヤオコーが去年駅前にオープンした。企業として1km圏のシェアは25%が目標で、実績としては18%ということだ。近隣駅の1km圏の人口は54000人で2.5万世帯であり、食品支出額は2人家庭で1070千と発表されている。家族の人数を考慮し、外食を除いて計算して食品支出額1世帯800千と想定すると、商圏内の食品支出額は約200億円の規模になる。駅前にオープンしたヤオコーの初年度売上目標が26億円と発表されており、シェアは13%ということになる。数字から分析すればまだ成長余地はあるということかもしれない。

衣料品の消費支出についての総務省統計局の家計調査データがある。2021年のデータだが1世帯当たりの消費支出のうち「被服、履物」への支出は全体の4.4%しかなく、昭和50年代くらいまで続いていた10%前後から大きく低下している。購入単価も単価指数で見ると平成17年を100として婦人服は55、紳士服は87などすべての品目で消費者物価指数を下回っている。さらにデータを見ると可処分所得は10年前と変わらないのに「衣服、履物」への支出は2割位減っていることがわかる。他のデータを見ても衣料品購買額は2024年平均月額3336円でバブル期から約50%減という数字もある。

つまり、データは調べれば山ほどあり、ある程度データを分析すれば、その企業の方向性や成長性は読めてくるのではないかと思う。企業の拡大を目指すなら、現在のポジションを理解して、客層の幅を広げるかシェアを上げるかなどの対策を立てる必要がある。

2024年の国内人口が1.23億で2040年には1.1億になるという。そのうち65才以上の人口は29.3%から35%になり、15才~65才の人口は現状の7372万人から6300万人前後に落ち込み、約1100万人減少するとされている。労働人口は省力化を進めていけば何とかカバーできるかもしれないが、小売業は両面で明らかに厳しくなる。特に客層の幅を狭くしている業種は厳しくなる。例えばユニクロは客層の幅を広げており、65才以上へも訴求できている。そうなればいかにシェアを上げていくかが企業課題になる。すでにグローバル企業で、国内のマイナスをヘッジすることもできている。逆に客層の幅が狭いセレクトショップの戦略はどうあるべきか?単純に65才以上をターゲットから外すと、2040年にはターゲット人口は85%前後になる。そうなれば、戦略はボリューム層に食い込むか、資産を持つ高齢層を取り組むかしかない。現状の客層のシェア率を上げても分母のマイナスは補えない。企業の維持拡大を考えるなら、M&Aしかないのではないか。

高年齢化、人口減少で小売業はアゲインストが多い。特に必需品でないファッション企業は厳しい道が待っている。いち早く、将来的な事業の立ち位置を考え、どうやってシェア率を上げていくかを早急に検討する必要がある。

■今日のBGM

自民党総裁選挙・・・

新聞、テレビでは総裁選挙の露出がずいぶん増えてきた。過半数割れとは言え、そのまま総理大臣を選ぶ選挙になる。誰も、賛否で盛り上がる公約もなく、おそらく誰がやっても変わらないし、国内の動きにプラスの影響はなさそうな気がする。

国民全体のことではないが、小さな小売の会社を経営してきた経験から、国が中小企業に手を伸ばして欲しいことを少し書いてみる。

このブログでもよく書いているが、国内の企業数の99%は中小企業で、従業員数も70%を占める。売上高を見ると中小企業は全体の59.2%で、全体の経常利益に占める割合は22.7%というデータがある。このデータから見ると国としては「稼ぐ力」が強い大企業中心の政策にならざるをえない。中小企業は国から見て投資対効果は低い。経済同友会や経団連のニュースは多いが、中小企業庁の露出はほとんどない。当然重要度から見れば、大企業中心にならざるを得ない。ただ、小売業で言うとコンビニオーナーも会社化しているところも多く、大手コンビニも中小企業で成り立っている。ローソンの社長だった新浪氏は「時給1500円にできない企業は退出」と言っていたが・・・

まず、政策への訴求を強めてもらいたい。もう少し中小企業に行き渡るようにしてもらいたい。大企業には人がいる。いろんな制度や補助金については担当者がいて対応できる。さらに外部ブレーンを持っている会社も多い。中小企業はそれさえ知らないということが多くある。いろんな投資への補助制度や、賃上げ促進税制などの詳細をいち早く浸透させてほしい。メールでも郵便でもいい、必ず手に届くように対応してほしい。そういう制度があるということを知らなければ、対応さえ取れない。

さらに申請はできるだけ簡潔にできないだろうか?当然各企業の決算書は行き渡っていると思うので、決算書を見れば、会社の状況や姿勢はある程度読み取れるのではないだろうか。各企業の状況を把握して、歩み寄れないものだろうか?税務署と連動すれば会社の状況はすぐわかる。過去、助成金をもらうのに資料が多すぎて大変な労力だったことを思い出す。企業体質によって、提出資料の数を多少変動できないものだろうか?どうも補助金や補償金は「出したくない」が前提になっているように感じる。

最後に、大本命の小泉農林相の「5年後賃金100万増」についてだが、あくまでも国の補助があっての政策だと思う。前回出馬時も「給与が安い企業をやめて高い会社へ」という意見を主張したが、どうも現場感がなさすぎる。民間企業で働いたことのない人の政策だ。具体的な数字は公表できないが、以前経営していた会社に置き換えると、コロナ前で、月給社員に年間200千の給与アップをすることによって約40%の営業利益ダウンになった。そして毎年給与アップを続けることで、3年で赤字の危機がやってくる。赤字になれば補助金やいろんな制度は使えないことが多い。そして、よほどの改善がなければ収益は上がっていかない。仕入先があり、賃料を払って出店するビジネスでは、どうやって経費構造を変えればいいのだろうか?出店経費の削減はデベロッパーがあって難しいし、店舗人件費を減らすわけにはいかない。むしろ増える。出店しなければ店舗数が増えず、店舗が増えなければ、商品の原価も下げにくい。

ますます中小小売業の数は減っていく。それは国の思惑通りかもしれない。

■今日のBGM

在庫の評価は誰がするのか?

今年の3月、5月、7月に「ヴィレッジヴァンガードの在庫内容の悪さ」について書いた。今日、ネットを見ていたら、財務面での専門家がブログでヴィレヴァンの課題をまとめていた。倒産リスクを財務面から細かく分析しており、結論はよく似通ったきびしい結果になっている。前期の決算での滞留商品の処理で在庫内容を改善させ、利益率を改善し、オンラインやポップアップ事業を拡大し利益を確保しようとしていると結んでいた。売場売上とその他事業の売上の大きさに大きな差があることから、言外には相当難しいと匂わせている。

ヴィレヴァンの2026年2月期は利益率が37.5%から43.2%に大幅に改善する計画になっている。過去の決算を見ると、衣料品「チチカカ」を取り扱った時期に43~44%の利益率を計上しているが、その後は40%前後の推移になっている。前期決算では2472(百万)の評価損を計上しているが、過去には2013年にも4692(百万)の評価損を計上している。その時の実績や、評価損計上商品の売上も読み込んでの数字かもしれないが、そこまで利益率が改善できる理由は見えない。売上計画も第一四半期は前年を割っており、特に前年にマイナス要因(台風、曜日巡り)が大きかった8月も前年未達売上であり、状況が上向いているとは思えない。

今回のヴィレヴァンの記事も、決算内容の悪化は在庫に起因していると財務の専門家は指摘している。私も過去のブログでも「課題は在庫」と強調している。商品の幅が広すぎて、各々の商品の管理不足でライフサイクルが見えておらず、適切な在庫運営ができないまま、在庫過多になってしまっている。つまり、商品の足し算(仕入)だけで引き算(在庫処理)がなかったということになる。過去に経営していた店と同じ商品を品揃えしていたが、売り切るべき時期に売り切らず、次年度まで商品をキャリーしていた。在庫への取り組みは全くなされて無いようだった。今年度在庫評価損を除いての在庫金額(11335百万)と、公表された今年度売上原価予測金額(14715百万)で単純計算すると年間商品回転率は1.30回転となる。前年の回転率よりは改善されているが、小売業としての数字としてはあまりにも低すぎる。これでは、ほぼ1年間でやっと売場が変わる状況になる。商品回転率を上げるには、滞留している古い在庫の評価を徹底的に見直すことが必要だ。

近年、企業譲渡されていった「ライトオン」も「マックハウス」も滞留在庫が収益悪化の起因となっている。ジーンズは年間定番で価値は変化しないという商品管理で、いつのまにか回転率が悪化し、経営が悪化していった。そのため「ライトオン」も2023年に在庫評価損1564(百万)を計上しており、「マックハウス」も2019年に在庫評価損726(百万)を計上している。

在庫の評価で、企業の収益は大きく変わる。在庫評価を下げると、資産は減り、利益率は下がる。特に小売業では、在庫評価は非常にあいまいなものだと思う。極端な例だが、夏物商品としてのTシャツは秋までには売り切ってしまうという考えが普通だが、また来年売ればいいという考えもできる。そういうことが積み重なって在庫額は増えていく。在庫が増えると売れている商品が見えにくくなってくる。売れない商品や販売時期のずれた商品をなくして、その金で新しい商品を仕入れ、販売提案していき、売場を常に新鮮に保っていくことが商売の基本だ。「利益を取るか在庫を取るか」で企業の体質が出てくる。パルグループの社長が言う「市場(いちば)に例えたら乾物屋ではなく魚屋でないとあかん」という考えがまっとうだ。

商品の評価は誰がするのか?それは間違いなく、「お客様」がするものだ。つまり「お客様」のニーズがあれば商品は売れてなくなり、ニーズがなければ売れ残る。企業はそのニーズを理解する必要がある。商品在庫が多すぎるということは、商品が「お客様」に必要とされてないということだ。企業に必要なのは「お客様目線」で商品を見て品揃えし、適正な在庫評価をすることだ。

■今日のBGM

商売は現場から

先日飲んでいて、友人が「ちょっと気づいたことがあって、それを確認するために1日歩き回った。」と、言っていた。仕事でのヒントを得て、想定できそうな場所で検証していたようだ。つまり現場感の確認だが、これは非常に大事なことだ。

小売業もずっとやっていると、ルーチンに慣れてしまった日常になってしまう。店にいると毎日することがあり、品出しやレジ対応をしているうちに毎日が終わる。細かい現場の変化に気が付かなくなってくる。売上が上下しても、今までとどこが違うのか、何をすればいいのかを考えるのが後回しになる。

売れているものの変化に一番早く気付くのは、現場である売場のはずだ。商品整理をしていると商品が減っていることに気づくし、レジ対応で売れている商品には気がつく。そこからどうしていくのか?仕入れ量を増やす。売場演出を変える。積極的な接客をする。そんな基本的なことができているのだろうか?店長は、他店で売れているデータを見る。なぜ売れているのか電話して聞く。近隣ならば見に行く。その売り方を真似して売ってみる。これも当たり前のことだ。

各地で、働く場所は増えてないのに最低時給は上がっている。そうなれば、当然労働環境のいいところへ人は流れる。土日勤務もある小売業は、だんだん従業員が集まらなくなる。そうなると規模が小さい小売業にはそのしわ寄せがきて、従業員の仕事はどんどん増える。要員不足が、当たり前の仕事をできなくしているのかもしれない。

店が動けなくなると、商品はどうやって調達していくのか?店に変わって商品部がMD計画を立てて、品揃えしていくのだろうか?では、誰の意見を聞いて仕入するのか?商品部の担当者が毎日店にいて商品をチェックしていればそれは可能だが、一般的には取引先の情報によるところが大きい。取引先からの情報は、当然売場からのまた聞きの情報だし、売るためにプラス要素もつける。取引先は、当然発注ロットが多い商品部との商売を望む。商品部に現場感がないと「気持ち」と「行動」がバラバラになる。現場の情報やニーズを確認しなければ、商品の仕入れはできないはずだ。

商品部は商品動向を細かくチェックしているか?売り方や演出方法の情報を店と共有しているか?利益面優先で商品を仕入れてないか?作ってないか?売れることを最優先で作っているか?そして、そこには現場の声も入っているか?

小売業は、売場がすべて主導で、答えも売場にあると思っている。店長は何が売れているかを確認できるし、売れない商品をどうやって売れるようにするかも考えられる。そして売れる商品がわかれば、その商品を確保できるし、似た商品を仕入れることもできる。それを商品部が共有できれば、商品のロットを増やし、売れている店をモデルに全店に提案できる。頭で考えた商売はできないし、数字(利益)から入る商売も必ず失敗する。それがわかる人間がマネジメントするのが理想の組織だと思う。ただ現実的には、企業規模が小さいほど、売場であるべき動き方をしている店長は少なく、売場の力が弱くなる。

BtoCの小売業では、どんな問題もボトムアップのほうがいいに決まっている。トップダウンで成功するのは、唯一トップに強い現場感があるときのみだと思っている。

■今日のBGM

市場(いちば)に例えたら「乾物屋」ではなく「魚屋」でないとあかん。

ある経済誌でのパルグループ松尾会長の言葉である。仕入れた魚はその日に売る、そうしないと腐ってしまう。だから早く見切って売ってしまう。

パルグループは「4週間MD」を基本にしている。1カ月単位の短いサイクルで在庫を積まずに商品を売り切る。タイムリーに商品を作って新鮮な商品を店頭に置くことを念頭にしている。「鮮度が落ちると売上も落ちる」という基本的な考え方の下、できるだけ消化し、動きが悪いと値段を下げて売り切っていくというMDの基本だ。つまり、「乾物屋」は値段を下げずに商売しているので新鮮さが見えにくく、「魚屋」は毎日鮮度ある商品を提案しているので、「魚屋」になれと言っている。衣料品でも、雑貨でも鮮度感が重要と言っている。

「4週間MD」と言っても、年12回転のアパレル企業は当然出てこない。日本の四季を考えても年間4回転、翌月末払いの支払いサイトからのキャッシュフローを考えても年間6回転がマックスになる。事実パルグループの回転率を簡単に計算すると原価在庫((期首原価在庫+期末原価在庫)÷2)が、16618(百万)で売上原価が91568(百万)なので年間5.5回転になる。「ギャラルダギャランデ」や「ルイス」など昔からあるセレクト店なども含めてのこの回転率は非常に高い。ちなみに単純計算ではあるが、他社の決算時の同じ計算での商品回転率はユニクロ3.1回転、アダストリア4.8回転、ユナイテッドアローズ3.2回転であり、アパレル企業の中では群を抜く。

年間5.5回転の商品回転率ということは、ほぼ2カ月で商品はなくなっており、極端に言うと2か月で売場は変わっているということになる。当然商品のMD力が必要になるが、売れない商品は、迅速になくしていかなければならない。さらに売るための努力工夫も必要になる。売れない商品をなくすために値段を下げると、当然利益率も落ちる。利益率と適正在庫のどちらを優先するかだが、間違いなく適正在庫を優先してきたのだろうと思う。私自身も小売業経営時、商品回転率を一番重要視してきた。このブログでも、くどいほど書いている。近年、経営悪化したアパレル上場企業は、すべて適正在庫より利益率を優先した結果だ。つまり「鮮度が落ちると売上も落ちる」だ。

さらに、パルは上場企業ではあるが「自分で商売がやりたい」人が入社してくれたので事業規模が大きくなったとも言っている。「自分で商売をやる」ということは売上を上げるということだけでなく、仕入れもするが在庫管理もする、人の採用もするし、経費管理もする、つまり「売る」だけでなく売場の経営もするということだ。商売するということは経営をするということで、「売上」「在庫」「利益」「経費」を管理しなければならない。それができる人材は非常に少ない。「在庫」を多く持って「売上」を確保することは難しくないし、「利益」を度外視し「売上」を確保することは簡単なことだ。さらには販促などの「経費」を多く使って「売上」を確保していくこともできる。すべてを管理して商売をできる人材は、本当に少ない。おそらく、そのための教育にも力を入れてきたと思う。

「魚屋」の商売を念頭に、ファッション企業を運営していることが素晴らしい。衣料品でも、服飾雑貨でも、想像以上に商品の鮮度は早く落ちる。それを念頭に商売する社員が多ければ素晴らしい小売業になる。

現役時代に、一度お会いして話しを聞きたかった。

■今日のBGM

GMSをCSCに変革する

セブンアイホールディングスの関連会社になり、ベインキャピタル傘下で完全子会社化されたヨークホールディングスの社長が9月3日戦略説明会を実施し、「GMS(イトーヨーカドー)をCSC(コミュニティショッピングセンター)に変革する」と発表した。

これは常々このブログで主張していたことで、崩壊状況にあるGMSを解体して、GMSの物件を「SM(食品)+必要とされるテナント」化していくことを意味している。この考えには、大きく賛同する。現状は狭商圏下でもRSC(大型モール)が出店を加速しており、40年~50年前のGMS(総合スーパー)の過密期とよく似ている。

すでにGMSは崩壊状態にある。現状でも、GMSでは食品以外の業種は生き残っていない。GMSの衣料品は「ユニクロ」に勝てない。住居品は「ニトリ」に勝てない。雑貨は「ダイソー」「3コインズ」で間に合う。食品以外トータルとしても「無印良品」には勝てない。GMSが優っているなら、なぜ、「ユニクロ」や「無印」に負けないMDや売場ができなかったのか?二番煎じの取り組みへのプライドの高さや、大きい組織でのジョブローテーションが弊害となった。

「GMSのCSCへの変革」でイトーヨーカドーはSM(食品スーパー)として再構築し、その他の業種はほぼなくし、立地に合わせたテナントミックスをしていく方針になる。GMSとしてエリア分析は細かくやってきたと思う。その分析を素直に使えばいい。おそらく、今までは少し目線を上げてチャレンジ要素のある顧客戦略を実施し、それに合わせての商品戦略や販売戦略をしてきたと思う。再度一番多いエリアや客層を分析し、素直にCSCとしての戦略を考えることが最も重要だ。つまり、過去の成功体験は捨て、GMSとしてのプライドも捨てる。もう収益率がトップだったイトーヨーカドーではない。そのプライドを捨てられるかも大きなポイントになる。

CSCに変革するうえで、個店に合わせたテナントリーシングをすることも重要だが、基幹事業のSMとしてどれだけ効率を上げていくかも大きな課題だ。CSCとしてテナント誘致しての賃料収入にはSMの賃料も当然入ってくる。CSCの収益の大部分を占めるSMの賃料次第では理想的なテナントリーシングもできない。SMの賃料の設定がテナントのレベルを変える。SMの賃料を上げれば、リーシングの幅が広がるが、SMの収益が下がる。逆だとリーシングの幅が狭まる。SMの賃料が商業施設を維持するための最低賃料の攻防になる。そのためにはSMの業績を上げることが大前提ではある。

テナント側はいろんな出店事例を持っている。その事例に沿っての条件を見極めることが必要だ。決してSMの賃料ありきで条件を決めない。譲歩できる最低のラインで必要なテナントを導入することを優先すべきだ。例えば「ユニクロ」や「無印良品」の出店条件が低くても、集客力はSMより大きいかもしれない。いろんな販促を実施するより、テナントとして出店するだけで大きな販促効果が出ると思う。さらに個店で販促もしてくれる。その経費を考えれば賃料に加えて大きなプラス効果がある。

今後は、デベロッパーとしての会社が鍵となる。テナント管理する会社は発表されているが、その会社が賃料の決定権を持つのか、食品SMとしての賃料をどう算定するのかなどクリアするべき事が多くある。SM中心のCSCを運営する会社になれば、おそらく社内要員を大幅に減らす必要もある。人事管理面でも大きな問題を抱える。つまり、今までのイトーヨーカドーとは完全に決別しなければならない。

この戦略については、ずっとこのブログでも言っていたことだし、100%賛同する。しかし本当に大きな覚悟が必要になってくる。いつまでも「RSC+GMS」を続けるイオンより早くCSCへの変革、開発を急ぎ、成功させてほしい。

■今日のBGM

生活感ある商品を売る

週1.2回は、買物に行く。ほとんどが食品とデイリー的な雑貨の買物になる。食品の買物を見ていてもやはり値段が大きなポイントになっている。明らかに昔に比べて高い。そしてロスリーダーとしての食品売場ではなくなった。つまり昔は食品でお客様を呼んで、衣料品などで稼ぐという構図だった。もうGMSでは食品で利益を確保しなければ全体の利益構造が崩れるようになっている。それだけ食品の構成比が上がっている。

以前からずっと書いているが、お客様となる年代層の変化も大きくなっている。20年前の高齢者人口(65才以上)構成比20.1%から2025年は29.6%と大幅に増え、20年後には37%まで高まる見込みとなっている。つまり、嗜好品の購入頻度は下がり、食品中心の必需品中心の購買動向になっていく。

そういう中、中小小売業の倒産も増えてきている。2024年には企業倒産件数が、2013年以来の1万件を超えている。小売業の倒産も倒産件数では前年比117%となっており、特に資本金5000万未満の小規模倒産が増大している。需要の変化や、人手不足と人件費の上昇が大きな要因になっている。

衣料や服飾系の店は、いろいろな個性を打ち出して、その個性をMDテーマとして品揃えしてきた。さて、今後も従来の「店の個性」を打ち出した品揃えで戦えるのだろうか?お客様の生活スタイルも変わり、さらにターゲットの客数が大幅に減ってくる。おそらく10年前と同じような感覚で同じような品揃えをしていれば、客数の自然減もあり売上は10%近く落ち込んでいるのではないだろうか?富裕層対象以外のブランドビジネスをしている店は、当然もっと厳しくなってきていると思う。売れるブランドも顧客はだんだん減少していき、新しく出てきたブランドの影響を受ける。ターゲット年齢が若ければ若いほど、その人気は長続きしない。単純に人口構成比でそれはわかる。

今までのMDの基本は「差別化」だったのではないかと思う。いろいろな差別化がある。店の大きさや、演出の仕方。当然、商品のプライスラインやトレンド性もある。しかし、今後は「差別化」すればするほど、客数は減っていくのではないだろうか?今後は、表現が難しいが「生活感」が基本になるような気がする。

「生活感」はいろいろな角度で捉えられるが、「価格志向」もその要素だと思う。生活感には「買いやすい」「手が出しやすい」という意味も含まれている。ちょっとイメージが違うかもしれないが。高級車のレクサスにも「UX」や「NX」もあるし、ベンツにも「A」や「GLA」も出てきて、手が届きやすいイメージも作っている。ファッションで言うと、サイズが大きめなシルエットの服や、シンプルなアイテムの商品が増えてきている。そしてその組み合わせでまとめ買いをさせる。どちらかというと商品の個性よりも「着装提案」のイメージが強くなっている。単品の値段を下げ、買い上げ点数を増やそうとしている。「ユニクロ」を想定してみればわかりやすい。他には「フル感性」への提案が必要になってくる。当然若い客層の商品を見せてはいくが、サイズ感や着装感は年代を意識させない事が必要になってくる。「ユニクロ」もそうだが「無印良品」も非常にうまい。

過去の成功体験での客層はどんどん離れていき、さらにその客層は生活感を増している。お客様の変化に気づかなければ、数字が厳しくなるのは当たり前のことだ。不安定な経済環境もあり、広い意味での「生活感」が小売業のキーワードになってきていると思う。

■今日のBGM

百貨店、専門店、GMSは相容れない

商品担当(バイヤーなど)について書こうと思っていたのだが、いろいろ考えていると、やはり業態によってその仕事も変わり、一概に書けないなと思ってしまった。当然客層によって仕入れる商品は変わってくる。

百貨店には、いたことがないので、その業務はわからない。百貨店は、元呉服商が多く接客力があり、売場は天井が高く、高級感を打ち出し、内外のブランドを売っていくという印象が強い。そういう意味で、百貨店バイヤーは「ブランドを持ってくる」「ブランドを見つけてくる」というイメージがある。例えば、ブランドを日本に初めて紹介した人として百貨店バイヤーを紹介したりする。そして百貨店メーカーにMDをさせて、売場を提供し、売れた分を仕入れるという形態が主流だったと思う。伊勢丹に「スライスオブライフ」という自主の売場があり、よく見に行ったがここでも「ブランドを持ってくる」型の品揃えショップだった。つまり百貨店のバイヤーの仕事は「ブランドを見つける」が主要業務のような気がする。

専門店はその名の通り、特定分野の商品を限定し、専門的に販売する店となる。商品を絞り込むことで品揃えに細かさが出てくる。品種単位まで細かく管理することで、顧客の満足度を高める。商品の値段やテイストなどでいろいろなタイプの専門店はあるが、その専門性に応じたバイヤーの知識や感度が必要になる。さらに主に買取商品が多く、消化率から利益面や商品回転率も考えねばならず、数値意識も必要になる。専門店のバイヤーは「売れる商品(単品)をいかに見つけるか」「いかに利益を稼ぐか」が業務だと思う。

GMSは大きな面積で、衣食住幅広く品揃えし、所謂大衆向けの大きな小売業態ということになる。いろいろなセグメントはあるが、衣料品のバイヤーは特に値段を意識し、少ない在庫で、商品の高回転を求められる。ただ専門店と違い、他業務へのジョブローテーションも多く、専門性は弱い傾向はある。尚、取引先は、量販店対応の取引先が中心になっている。量販店のバイヤーは「価格」「回転率」を中心に考えて動いていたと思う。

つまり、やっていることはほぼ似ているが、各業態によって求められる仕事が全く違うことがわかる。

以前、イトーヨーカドーに伊勢丹のカリスマバイヤーが招かれて、衣料品の立て直しを図ったが失敗に終わった。おそらく今までのそのカリスマバイヤーの知見がGMSでは全く必要なかったからだ。衣料品を売る目的が違うし、お客様が選ぶ目的も違うからだ。おそらくGMSにいた人達は誰も成功すると思っていなかったと思う。

イトーヨーカドーとアダストリアとの「ファウンドドッグ」も、前回の失敗に少し似ていた。アダストリアの本来の出店場所であるアリオのような大型モール(RSC)内のイトーヨーカドーでは、ある程度は戦えてはいたと思う。ただ、アダストリアが未経験のGMS(CSC)では、全く売れなかったのではないだろうか?専門店は当然出店する場所を自店のMDを考えて選ぶ。自店のMDをよく知っている開発担当者が出店計画を立案する。おそらくイトーヨーカドーが個店毎に出店依頼していれば、全店には絶対出店していない。そこが、この結果になった。

商品ターゲットと客層があってなければ、絶対売れない。客層が違う店に同じ商品を品揃えしても当然売れ方に変化が出る。狙っている客層が違う店に、売りたい商品を押し付けても売れない。同じ客層にシフトさせるのも個店の役目かもしれないが、SCの業態が違えばやはり難しい。ファッションで、業態の垣根はなかなか崩せない。

■今日のBGM

«過去の 投稿