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「コーエン」売却 ➁

前回、㈱ユナイテッドアローズ(UA)の「コーエン売却」について書いたが、解せないことが多い。企業の思いは、当然第三者にはわからない。

近隣のSCで「コーエン」と売却先のショップ「マックハウス」を見てきた。コーエンは変わらずジーニングテイストのあるカジュアルを展開しており、明るいムードはあった。少し商品過多気味なのか「2点で~引き」を展開していた。さすがUA傘下ということもあり内装も手が入っているし、スタッフも充実しているように見えた。「マックハウス」は広い売場で、スタッフも少なくあまり元気なムードは見えなかった。以前はキャリー商品も多かったが、グループ傘下企業の「ジャバ」や「シティヒル」の商品が入りテイストの問題はあるが、ボリューム感は出ていた。従来のジーニングカジュアルのイメージは薄くなっている。

コーエンについてネットで少し調べてみた。会社設立は2008年でUAの100%子会社で1号店はレイクタウン。さらに商品企画、生産、物流は三菱商事にアウトソーシングとなっており、三菱商事主体でスタートしている。2022年にUAの社長が「ブランド改革し立て直し」と言及し、社長はUAの専務が兼任している。その時のコメントは「在庫効率を追求し品番数を減らしすぎた」と苦戦要因を語っている。ただその後、在庫過多とその在庫評価損の計上で利益率を大幅に落としてしまっている。

暴論になるかもしれないが、敢えて気になる点を書く。

プライム上場で1500億企業のファッションアパレルであるUAが、なぜ、ファンド系企業に会社を譲渡したのだろうか?おそらく譲渡金額もそこまで高くないと思う。赤字事業を切り離すのは経営として正しいのかもしれないが、他に改善策はなかったのだろうか?そんなに赤字は大きかったのだろうか?おそらくセレクト業態は今後縮小市場になっていくだろうと思われる中、別ターゲットの市場開発も必要ではないだろうか?そしてこれだけの企業でその開発もできなかったのだろうか?

UAの売上はコロナ期以降順調に伸長しているが、まだコロナ前の数字には未達だ。さらにアウトレット業態の拡大で数字をカバーしてきたが、アウトレット店舗の商品は、本来のアウトレットではなく自社MD商品だということが認知されてきて、今後の伸びは期待できない。従来のこだわり系のショップをなくしていった数字をSC系の「グリーンレーベル」でカバーしようとしているが、UAとしてのブランド価値の位置づけは下がってきているように見える。数字面では今後のSC系のカジュアルゾーンの開発は必須だったはずだ。その中で「コーエン」の売却は後ろ向きの感はぬぐえない。

さらになぜ、譲渡企業がアパレルでは「シティヒル」「ジャバG」「テットオム」などマイナストレンドの企業を抱えるファンド系企業だったのだろうか?そして「マックハウス」のMDと同様の傘下ブランドの品揃えになった場合、従来のお客様は受け入れてくれるのか?さらに今後の雇用問題になるが、UAグループの雇用条件の継続など従業員のモチベーションは保たれるのだろうか?

逆に、譲渡金額はわからないが、大型モールを主戦場にしている「コーエン」を受け入れるジーイエットのメリットは大きい。「マックハウス」はイオン系など大型モールの店舗は少なく、企業として今後の店舗拡大には大きなプラスになる。「コーエン」のスタッフを受け入れることで販売力の向上にもつながる。さらに上述したように、関連アパレル企業も活性化する。

今回の売却は、UAという会社が洋服と同様に上品でスマートな企業に見えていただけに驚いた。詳細を知らない者が勝手なことを書くが、UAが赤字をなくしたという事実以上に、UAの企業力に疑念を持ってしまった。

■今日のBGM

赤字の中小小売業に前向きな策はない

数日前の日経新聞の社説に「実質賃金の上昇へ労組は意欲的な要求を」という提言があった。当然、大企業に向けての提言ではあるが、赤字の中小企業にも以下のコメントがある。「赤字の中小企業には賃上げ原資を補填するような支援を検討しているが、それでは生産性は向上しない。経営者を前向きな投資に向かわせてこそ、強い日本経済の実現につながる。」

2024年の「国税庁法人統計法人税表」から赤字法人率は64.8%で約189万社あるようだ。その企業にどうやって前向きな投資をさせるのだろうか?

コロナ禍におけるゼロゼロ融資返却や人件費高騰で中小企業の倒産件数は、2023年には9年ぶりに9000件を超え前年比では32%増となっている。コロナ前から倒産件数は増えていたがコロナ禍で大きく増えた状態になっている。国も借り換えや経営改善のサポートを行っているが厳しい状況は続いている。そして小売業も企業数は31.6万社あり、22.6万社が赤字で赤字法人率は71.4%となっている。

小売業の「前向きな投資」とは何だろう?小規模な店舗にPOSシステムなどの 導入は必要だろうか?導入したとしても効率化は図られるが、営業数値にどれだけプラス効果があるのだろうか?一番前向きな投資は出店だろうが、好物件は当然賃料も高いし内装経費なども高くなる。何よりも投資金額は非常に大きくなる。その資金はどこから捻出するのだろうか?新たに借金をするのだろうか?

30坪程度の店を商業施設に出店するには、内装投資で最低1000万、共用工事負担金などで150万程度、損金にはならないが敷金500万程度は必要になる。支払い時期は少しずれるが、オープン商品の仕入原価分で最低500万の支払いも発生する。その他、備品や採用費なども含めると2500万くらいの資金がなければ出店できない。近年はさらに内装コストが上昇している。商業施設もテナント誘致に苦しんでおり、テナントの大型化が進んでいる。テナントの大型化が進むと、大型テナントの出店ありきの条件から、その皺寄せで小型区画の出店条件は上昇する。

投資をして出店するからには成功することが必須となってくる。近年の商業施設の成功物件は規模の大型化や、エリアでの寡占化で、当然出店へのハードルも上がってくる。さらにテナント構成も類似してきており、新規テナントの参入も既存大手企業の開発ショップ中心になってきている。つまり新規参入の余地も少なくなってきている。

そんな中で、コロナ禍で経営資源が枯渇し、コロナ融資で何とかやりくりしている中小小売業がどうやって前向きな出店投資ができるのだろうか?そして出店投資に対してどういう支援があるのだろうか?

この社説は大きな意図はなく、第三者として文字を埋めたのだろうが、やはりきれいごとの文章で、全く響かない。22万社強の赤字小売企業は、自然淘汰されるか、M&Aで大企業の傘下に入るしかない策は見えない。

■今日のBGM

無印良品の決算

大変恐れ多いのだが、無印良品の決算が発表されたので、感想を書いてみる。

無印良品については、今年1月と4月に主に四半期決算数字についてこのブログで書いている。1月には在庫が課題ではないかと記したが、中間決算のコメントで在庫処理をするので総利益率は据え置かれており、4月のブログには「ちゃんとした会社」と評価した。その時、無印良品の株でも買おうかと思ったのだが、買っておけば当時2500円前後の株が、今は株式分割し(1株が2株に)先週は3000円まで上がっている。つまり株価は、倍以上になっていることと同様の状況になっている。

前期の無印良品の決算数字だが、売上は7846億 前年比118.6%、営業利益738億 前年比131.5%、経常利益723億 前年比129.6%と過去最高数値となっている。売上総利益率も前年50.8%から51.4%と上昇している。 

このブログにも頻繁に書いているが、小売企業の健全度は、常に「在庫」で図っている。いろんな商品があるが、生鮮食品は賞味期限があり、当然早く売り切ってしまわなければならない。衣料も年間定番的なものはあるが、四季での着装感もある。さらに素材やスタイルの変化も早い。つまりなくしていくタイミングで利益率は変化する。そしてそのタイミングは企業がジャッジする。売れない商品をそのままにしていれば利益率は下がらないが、在庫は増えていくし回転率は悪化する。値段を下げてなくしていけば利益率は下がるが不良在庫は減る。つまり在庫で利益操作は簡単にできる。

無印良品の回転率については、どの数字が適正か見えない。今決算では2.36回転で前期2.27回転よりは改善しているが、前々期と同じ数字になっている。衣料品は定番志向が強いが、単価設定を考えれば年間3回転はしなければならないと思う。ちなみに、競合他社のパルグループの年間回転率は5.3で、アダストリアは4.8回転となっている。住まい関連でもニトリは4.3回転しており、一般的には2回転後半くらいのようだ。食品で菓子類をネットで調べると年間5回転くらいだし、レトルト商材も年間5回転くらいと出てくる。以前も書いたがスキンケア中心の企業である「ハウスオブローゼ」の回転率が2.2回転と低く利益率が71%と高いので、おそらくスキンケア商材の在庫が回転率を引き下げ、衣料品と共に利益率アップにも寄与しているのではないかと思う。

近年の無印良品の出店傾向は、他社の大型モール中心の戦略とは大きく変化しているように見える。路面の大型店や、地方のCSC(コミュニティSC)に隣接しての出店など独自性を見せている。特に大型化を進めており、イオンモール橿原に今春2500坪弱の店舗を出店している。決算ごとに発表されるデータブックで数字を見ると、2025年の売場面積は2021年比で191.4%とほぼ倍増している。ちなみに売上の2021年比は173.5%で売場拡大に追い付いていない。㎡当たり売上は2021年が54.7(千)に対して2025年度は43.7(千)であり、㎡あたり在庫は2021年の47.9(千)に対して129(千)となっている。この数字を見ると、売場の大型化に順応した適正な在庫をつかめてないようにも見える。売場の大型化コンセプトや出店戦略が先行し、動向を見ながら売場の効率を探っている状況ではないだろうか。

諸事情があったのだろうが、関東最大級と言われていた東京板橋の路面店が3年で閉店というニュースもある。まだまだ出店戦略は試行錯誤を繰り返していくだろうと思う。現状の大型モールへ大型店舗を出店できないなら、イトーヨーカドーが狙っているCSCへの出店やその近辺への路面戦略は正解だと思っている。

企業としては、適正な売場面積と適正な在庫の指針を明確に示してもらいたい。その上で「これがいいより、これでいい」のコンセプトを明確に伝えられる商品政策や売場の構築を、早急に目指して欲しい。

■今日のBGM

イオンへの疑問点

イオンの第二四半期の決算発表があった。日経新聞も「純利益9%増」「売上高と営業益は過去最高」を見出しにしている。さらに「PB好調、節約志向映す」とのコメントがある。イオン主要5事業の営業損益もある。記載されている25年上期の営業損益グラフを見ると、5事業はなく、4事業で構成されていることがすぐわかる。総合スーパー(GMS)事業の営業損益は前年の赤字から改善したしたが、実績はほぼ±0になっている。過去5年間も2年前を除くとすべて赤字で上期は終わっている。そしてGMS事業はイオンの売上構成比35%を占めている。つまり売上の屋台骨であるGMS事業は、ほとんど営業損益面では貢献していないことになる。

このイオンのGMSについての追求は非常に弱い。イトーヨーカドーがGMSをやめていくことに関しては大きな話題になった。では、イオンのGMSはこの収益で続けていけるのか?他事業のプラットホームになっているからということだろうか?過去にも同様の指摘をしてきたが、イオンはなぜGMSを続けていくか全く腑に落ちない。あれだけイトーヨーカドーのGMSを酷評した論者たちも口を閉ざしている。

数字を拾ってみたが、なかなかイオンのGMS事業であるイオンリテール単体の数字(地方イオン子会社などを除いた数字)が捉えられなかったが、2024年の決算数字が見つかった。ただしこれが比較対象になるのかはわからない。その数字を、イトーヨーカドーの同年の決算数字と比べてみる。売上はイオンリテールが売上1兆8419億、売上総利益4760億、総利益率25.8%、営業利益82億、イトーヨーカドーが売上8150億、売上総利益2006億、総利益率24.6%、営業利益-12億という数字だった。他にも人件費率はイオンリテールが15.1%、イトーヨーカドー11.4%と計算上は算出されたが、イオンリテールが高すぎるので正確には比較しにくい。この数字を見る限りではイオンリテールの営業利益率も0.5%程度しかなく、イトーヨーカドーと大きな違いはない。イオンリテールの利益率が上回っているのはおそらくイオンリテールのモール賃料分のプラスではないかと思うのだが、詳細は未確定ではある。(この時期はイオンリテール物件のモールも多い) つまり、イオンのGMS事業もイトーヨーカドーと似たような状況ではないだろうか。

GMS事業がグループとして必要な理由は何だろう。まず金融事業のプラットホームになっている事があげられる。キャッシュレスやカード事業の拡大には欠かせない。逆に、ポイント戦略などでのGMSの食品への売上貢献度も高い。ただポイント戦略の影響度が高い業種は食品であり、必ずしもGMS非食品との連動は必要とも思えない。逆に食品以外では売り上げ規模の大きいテナントと組む方が金融事業としてのプラス効果は大きいと思う。さらにデベロッパー事業のキーテナントとしての位置づけはあるが、「ららぽーと」のテナント構成を見ればGMSは必要なく、SMだけで充分なことが実証されている。今後ニーズがあるとすれば、開発を続ける「そよら」などのCSC(コミュニティSC)への出店ニーズくらいかもしれない。それでも大きな規模はいらないし、非食品業種はテナントでも補える。

簡単に考えると、GMS事業で黒字だと思われる食品業種をSM事業で賄い、赤字だろう衣料品や服飾品、住居関連などはテナントに任せれば賃料さえ間違わなければ、営業損失は発生しないのではないだろうか?逆にGMSを核テナントにしているから、若干アッパーなテナントが目を向けてないとも思える。SM事業もGMSの食品業種と合算すればさらに効率化するし、収益が出てないであろうGMSの非食品業種も、テナント化することで損切りできる。

そんなことは誰でもわかっていると思うが、祖業でもあり、なかなか意見が出しにくいとしか思えない。企業の風通しはきっと悪い。

■昨日の日経折込 アルパチーノ+デ・ニーロ=モンクレール

在庫と利益 ③

小売商売は「売上」「利益」「在庫」が大きなチェックポイントだと何度も書いてきた。小売業を経験してきた経営者なら当然理解している。すべて適正に回っていればいいが、常にこの3項目では「売上」「利益」が優先される。損益計算書が中心になっているように見える。

以前に書いたが、今回企業譲渡された「ライトオン」「マックハウス」、厳しい状況の「ヴィレッジヴァンガード」などが在庫評価損を計上している。その金額が「ライトオン」1564(百万)、「マックハウス」726(百万)、ヴィレヴァンでは前期末2472(百万)と非常に大きな金額になっている。ではなぜここまで金額が大きくなってきたのだろうか?1期だけで計上される金額ではない。毎期の積み重ねの金額に違いない。毎年売れない商品があるにもかかわらず、適正な在庫評価をしていなかったとしか思えない。計上すれば利益が減り、株価に影響するし、それによって資金繰りも厳しくなる。おそらく作為的なもので、企業体制も追求すべきではないだろうか?

適正在庫についても何度も書いてきたので割愛するが、小売業は、決算時に「商品回転率」へのコメントが必要だと思う。商品の「在庫回転日数」(平均的に入荷後何日後に売れて現金に変わっているか)と支払いサイト(入荷何日後に支払いが発生するか)でキャッシュの回り方が、概ねわかる。ただ、おそらく資産が多い会社はあまり気にしていない。以前経営していた会社は20億以上の売上はあったが、出店も重ねていたので、毎月の商品支払い日の前日の残高には気を使っていた。もしものために当座貸越を利用する月もあった。それだけに、仕入れに関しては厳しくチェックしていた。キャッシュフローを考えても、「商品回転率」は小売業のチェックポイントとしなければいけない。

今日、ネットの記事で「ライトオン110店退店で25年8月期は赤字大幅縮小」とあった。当然記事は前向きなことを書いている。「従来は値引きで粗利を痛めていたが、値引き抑制で利益は前期比12,2%増」になったらしい。さらに今期は黒字化と結んでいる。在庫評価損を計上した商品はどうやってなくしているのだろうか?廃棄にはしないと思うので、売価設定次第では、当然大きな利益も計上されることになる。前期評価損を計上した「ヴィレヴァン」も今期は大幅に利益率が改善する指標が出ていた。つまり利益の改善は、前年の評価損による一時的なもののような気がする。「ライトオン」の売場には「ついている値段から・・・円引き」の前年秋冬キャリー商品らしきものが前面を占めていたが・・・

では、企業は適正在庫に対して、どう対応すればいいのか?経営陣の重要さの認識は前提条件だが、売上予算、利益予算、在庫予算は必ず個店別に作成させるべきだ。当然、店長含むマネジメント層に在庫管理の重要性を理解させ、売上の進行管理と共に利益、在庫の進行管理も行い、上長に報告義務を持たせる。そして対策を講じる。さらに在庫管理面も売上、利益と共に業績評価の対象とするべきだと考える。

現実的に一番大きなことは、個店の店長が、店の「キャッシュ」の意識を持つことだと思う。店長は、売れる商品があればあるだけ欲しい。欲しいだけでは売場の在庫が膨らんでくる。つまり好きな商品の「足し算」だけで、売れてなくなる「引き算」も計画しなければ、売場は商品があふれる。そして店長やバイヤーは商品を仕入れるだけで、現実的には支払いはしない。まず、店長が仕入と売上のバランスを考えてみる。そして、経費を含めた支払いも考える。単純なキャッシュフローを作成してチェックさせる。そうすることで必ずキャッシュがショートする月が出てくる。そうすれば、売上、利益とキャッシュの差にやっと気が付く。

「パルグループ」は在庫に関しての意識が高く、決算で発表されている回転率も衣料系の中では高い。「無印良品」は以前の中間決算で、売上は大きく伸長していたが、最終の決算数字予測では、売上の大幅増に反して利益率は在庫処理のため据え置いていた。

在庫に対する姿勢で今後の小売企業の業績や企業評価は大きく上下していく。

■今日のBGM

先を見据えた企業戦略

この頃、商売のキャパを考える。人口が減少していき、労働人口は減少し、どんどん高齢化は進んでいる。商売は想定需要のシェアをどれだけ確保していくかにかかっている。例えば食品スーパー(SM)なら商圏人口×食品支出である程度の想定の需要額はでる。衣料や雑貨も結局そのパイの取り合いになってくる。そして全体のキャパはどんどん減少していく。

駅にあったマツキヨが退店していた。近辺に新しくスギ薬局ができて、サンドラッグ、ウェルシア、セイムスと完全にオーバーストアになり、立地面では良かったが規模で劣ったマツキヨが駅前商圏から消えていった。ドラッグの商圏規模からはじき出された結果かもしれない。SMでは、ヤオコーが去年駅前にオープンした。企業として1km圏のシェアは25%が目標で、実績としては18%ということだ。近隣駅の1km圏の人口は54000人で2.5万世帯であり、食品支出額は2人家庭で1070千と発表されている。家族の人数を考慮し、外食を除いて計算して食品支出額1世帯800千と想定すると、商圏内の食品支出額は約200億円の規模になる。駅前にオープンしたヤオコーの初年度売上目標が26億円と発表されており、シェアは13%ということになる。数字から分析すればまだ成長余地はあるということかもしれない。

衣料品の消費支出についての総務省統計局の家計調査データがある。2021年のデータだが1世帯当たりの消費支出のうち「被服、履物」への支出は全体の4.4%しかなく、昭和50年代くらいまで続いていた10%前後から大きく低下している。購入単価も単価指数で見ると平成17年を100として婦人服は55、紳士服は87などすべての品目で消費者物価指数を下回っている。さらにデータを見ると可処分所得は10年前と変わらないのに「衣服、履物」への支出は2割位減っていることがわかる。他のデータを見ても衣料品購買額は2024年平均月額3336円でバブル期から約50%減という数字もある。

つまり、データは調べれば山ほどあり、ある程度データを分析すれば、その企業の方向性や成長性は読めてくるのではないかと思う。企業の拡大を目指すなら、現在のポジションを理解して、客層の幅を広げるかシェアを上げるかなどの対策を立てる必要がある。

2024年の国内人口が1.23億で2040年には1.1億になるという。そのうち65才以上の人口は29.3%から35%になり、15才~65才の人口は現状の7372万人から6300万人前後に落ち込み、約1100万人減少するとされている。労働人口は省力化を進めていけば何とかカバーできるかもしれないが、小売業は両面で明らかに厳しくなる。特に客層の幅を狭くしている業種は厳しくなる。例えばユニクロは客層の幅を広げており、65才以上へも訴求できている。そうなればいかにシェアを上げていくかが企業課題になる。すでにグローバル企業で、国内のマイナスをヘッジすることもできている。逆に客層の幅が狭いセレクトショップの戦略はどうあるべきか?単純に65才以上をターゲットから外すと、2040年にはターゲット人口は85%前後になる。そうなれば、戦略はボリューム層に食い込むか、資産を持つ高齢層を取り組むかしかない。現状の客層のシェア率を上げても分母のマイナスは補えない。企業の維持拡大を考えるなら、M&Aしかないのではないか。

高年齢化、人口減少で小売業はアゲインストが多い。特に必需品でないファッション企業は厳しい道が待っている。いち早く、将来的な事業の立ち位置を考え、どうやってシェア率を上げていくかを早急に検討する必要がある。

■今日のBGM

自民党総裁選挙・・・

新聞、テレビでは総裁選挙の露出がずいぶん増えてきた。過半数割れとは言え、そのまま総理大臣を選ぶ選挙になる。誰も、賛否で盛り上がる公約もなく、おそらく誰がやっても変わらないし、国内の動きにプラスの影響はなさそうな気がする。

国民全体のことではないが、小さな小売の会社を経営してきた経験から、国が中小企業に手を伸ばして欲しいことを少し書いてみる。

このブログでもよく書いているが、国内の企業数の99%は中小企業で、従業員数も70%を占める。売上高を見ると中小企業は全体の59.2%で、全体の経常利益に占める割合は22.7%というデータがある。このデータから見ると国としては「稼ぐ力」が強い大企業中心の政策にならざるをえない。中小企業は国から見て投資対効果は低い。経済同友会や経団連のニュースは多いが、中小企業庁の露出はほとんどない。当然重要度から見れば、大企業中心にならざるを得ない。ただ、小売業で言うとコンビニオーナーも会社化しているところも多く、大手コンビニも中小企業で成り立っている。ローソンの社長だった新浪氏は「時給1500円にできない企業は退出」と言っていたが・・・

まず、政策への訴求を強めてもらいたい。もう少し中小企業に行き渡るようにしてもらいたい。大企業には人がいる。いろんな制度や補助金については担当者がいて対応できる。さらに外部ブレーンを持っている会社も多い。中小企業はそれさえ知らないということが多くある。いろんな投資への補助制度や、賃上げ促進税制などの詳細をいち早く浸透させてほしい。メールでも郵便でもいい、必ず手に届くように対応してほしい。そういう制度があるということを知らなければ、対応さえ取れない。

さらに申請はできるだけ簡潔にできないだろうか?当然各企業の決算書は行き渡っていると思うので、決算書を見れば、会社の状況や姿勢はある程度読み取れるのではないだろうか。各企業の状況を把握して、歩み寄れないものだろうか?税務署と連動すれば会社の状況はすぐわかる。過去、助成金をもらうのに資料が多すぎて大変な労力だったことを思い出す。企業体質によって、提出資料の数を多少変動できないものだろうか?どうも補助金や補償金は「出したくない」が前提になっているように感じる。

最後に、大本命の小泉農林相の「5年後賃金100万増」についてだが、あくまでも国の補助があっての政策だと思う。前回出馬時も「給与が安い企業をやめて高い会社へ」という意見を主張したが、どうも現場感がなさすぎる。民間企業で働いたことのない人の政策だ。具体的な数字は公表できないが、以前経営していた会社に置き換えると、コロナ前で、月給社員に年間200千の給与アップをすることによって約40%の営業利益ダウンになった。そして毎年給与アップを続けることで、3年で赤字の危機がやってくる。赤字になれば補助金やいろんな制度は使えないことが多い。そして、よほどの改善がなければ収益は上がっていかない。仕入先があり、賃料を払って出店するビジネスでは、どうやって経費構造を変えればいいのだろうか?出店経費の削減はデベロッパーがあって難しいし、店舗人件費を減らすわけにはいかない。むしろ増える。出店しなければ店舗数が増えず、店舗が増えなければ、商品の原価も下げにくい。

ますます中小小売業の数は減っていく。それは国の思惑通りかもしれない。

■今日のBGM

在庫の評価は誰がするのか?

今年の3月、5月、7月に「ヴィレッジヴァンガードの在庫内容の悪さ」について書いた。今日、ネットを見ていたら、財務面での専門家がブログでヴィレヴァンの課題をまとめていた。倒産リスクを財務面から細かく分析しており、結論はよく似通ったきびしい結果になっている。前期の決算での滞留商品の処理で在庫内容を改善させ、利益率を改善し、オンラインやポップアップ事業を拡大し利益を確保しようとしていると結んでいた。売場売上とその他事業の売上の大きさに大きな差があることから、言外には相当難しいと匂わせている。

ヴィレヴァンの2026年2月期は利益率が37.5%から43.2%に大幅に改善する計画になっている。過去の決算を見ると、衣料品「チチカカ」を取り扱った時期に43~44%の利益率を計上しているが、その後は40%前後の推移になっている。前期決算では2472(百万)の評価損を計上しているが、過去には2013年にも4692(百万)の評価損を計上している。その時の実績や、評価損計上商品の売上も読み込んでの数字かもしれないが、そこまで利益率が改善できる理由は見えない。売上計画も第一四半期は前年を割っており、特に前年にマイナス要因(台風、曜日巡り)が大きかった8月も前年未達売上であり、状況が上向いているとは思えない。

今回のヴィレヴァンの記事も、決算内容の悪化は在庫に起因していると財務の専門家は指摘している。私も過去のブログでも「課題は在庫」と強調している。商品の幅が広すぎて、各々の商品の管理不足でライフサイクルが見えておらず、適切な在庫運営ができないまま、在庫過多になってしまっている。つまり、商品の足し算(仕入)だけで引き算(在庫処理)がなかったということになる。過去に経営していた店と同じ商品を品揃えしていたが、売り切るべき時期に売り切らず、次年度まで商品をキャリーしていた。在庫への取り組みは全くなされて無いようだった。今年度在庫評価損を除いての在庫金額(11335百万)と、公表された今年度売上原価予測金額(14715百万)で単純計算すると年間商品回転率は1.30回転となる。前年の回転率よりは改善されているが、小売業としての数字としてはあまりにも低すぎる。これでは、ほぼ1年間でやっと売場が変わる状況になる。商品回転率を上げるには、滞留している古い在庫の評価を徹底的に見直すことが必要だ。

近年、企業譲渡されていった「ライトオン」も「マックハウス」も滞留在庫が収益悪化の起因となっている。ジーンズは年間定番で価値は変化しないという商品管理で、いつのまにか回転率が悪化し、経営が悪化していった。そのため「ライトオン」も2023年に在庫評価損1564(百万)を計上しており、「マックハウス」も2019年に在庫評価損726(百万)を計上している。

在庫の評価で、企業の収益は大きく変わる。在庫評価を下げると、資産は減り、利益率は下がる。特に小売業では、在庫評価は非常にあいまいなものだと思う。極端な例だが、夏物商品としてのTシャツは秋までには売り切ってしまうという考えが普通だが、また来年売ればいいという考えもできる。そういうことが積み重なって在庫額は増えていく。在庫が増えると売れている商品が見えにくくなってくる。売れない商品や販売時期のずれた商品をなくして、その金で新しい商品を仕入れ、販売提案していき、売場を常に新鮮に保っていくことが商売の基本だ。「利益を取るか在庫を取るか」で企業の体質が出てくる。パルグループの社長が言う「市場(いちば)に例えたら乾物屋ではなく魚屋でないとあかん」という考えがまっとうだ。

商品の評価は誰がするのか?それは間違いなく、「お客様」がするものだ。つまり「お客様」のニーズがあれば商品は売れてなくなり、ニーズがなければ売れ残る。企業はそのニーズを理解する必要がある。商品在庫が多すぎるということは、商品が「お客様」に必要とされてないということだ。企業に必要なのは「お客様目線」で商品を見て品揃えし、適正な在庫評価をすることだ。

■今日のBGM

専門店の「店」と「商品部」

店でずっと販売の仕事をしてきて、小売業に慣れてくると、商品を売るだけでなく、こういう商品を売ればいいのに、こういう商品を仕入れたい、という気持ちになってくる。それは当然のことで、「売りたい商品を売る」ことが理想の姿ではある。思い入れのある商品は商品をよく理解しているために売りやすい。やはり、個店で「仕入れる人=売る人」のケースはうまくいくケースが多い。ただ、本部でバイヤーとして「仕入れる人」は売場との連動がなかなかうまくいかない。

過去の経験から、本部バイヤーと店の売場責任者との温度差は大きかった。当然のように仕入れて売るので、売ることと仕入れることはリンクしてなければならない。つまりその役割を複数人で実行するならば、同じ気持ち、同じ考えでなければ成功しないし売れない。店はそれぞれ商環境が違う。具体的には、立地環境も違うし、売場面積も違う。さらに客層も違ってくる。それを理解していたとしても、絶対に商品の動きは違ってくる。

売場にいると当然商品の動き方を肌で感じる。売れている商品は商品量を確保するし、演出も強化する。バイヤーが本部にいると、そういう情報を集めるのが遅れる。バイヤーとしての本部での仕事もある。各店の単品状況の確認や、店別の動向確認、さらに受け持ち数値の確認もしなければならない。店は個店の数値確認になるが、本部はトータルでの数値対策が必要になる。細かくは商品の店舗間移動の指示や、利益を考えての不稼働商材のプライスダウン、さらには利益や在庫数値への取り組みもしなければならない。さらに本部にいると当然幹部職と話すことになり、指摘事項も多くなる。違う部署との連携ができるというプラス要素もある。商品を売るための販促や演出への取り組みも可能になる。ただ、私見ではあるが、商品部の本部機能は経営側が確認しやすいように本部に置いているとしか思えない。

商品政策はあくまでも店とリンクする必要がある。それが当然、専門店の一番大事なことになる。そこで商品部バイヤーを店長が兼務することが最も望ましい。その下に店を仕切る若手をサブでつけておけばいい。これは以前も書いたと思う。バイヤーは現場感がなければならない。素直に商品の流れを実感する必要がある。売り方も提案できる。現場感があるほうが、仕入れや売場作りへの提案もしやすい。それができないなら、本部でのバイヤーは思い切って若手を登用する。そうすれば、他店店長が自由に意見を言えるようになる。そして若手バイヤーには徹底的に数値教育やストアメイキング手法などを教育する。特に「売上と仕入と在庫のバランス」は徹底教育する。さらにバイヤー期間は短くして、次の世代との交代を頻繁に行う。

「本部=えらい」の構造はないほうがいい。上記したどちらの提案も現場志向で、「小売は売場」の認識を強く持ち、後方要員(本部要員)を減らすことが一番の企業戦略になる。企業の仕組みが整ってくれば、本部や店の役割は明確になってくる。このブログでは何度も書いているが「イトーヨーカドー、セブンイレブンの組織図」は、当たり前のことだけどそれを一番気づかされる。

■今日のBGM

商売は現場から

先日飲んでいて、友人が「ちょっと気づいたことがあって、それを確認するために1日歩き回った。」と、言っていた。仕事でのヒントを得て、想定できそうな場所で検証していたようだ。つまり現場感の確認だが、これは非常に大事なことだ。

小売業もずっとやっていると、ルーチンに慣れてしまった日常になってしまう。店にいると毎日することがあり、品出しやレジ対応をしているうちに毎日が終わる。細かい現場の変化に気が付かなくなってくる。売上が上下しても、今までとどこが違うのか、何をすればいいのかを考えるのが後回しになる。

売れているものの変化に一番早く気付くのは、現場である売場のはずだ。商品整理をしていると商品が減っていることに気づくし、レジ対応で売れている商品には気がつく。そこからどうしていくのか?仕入れ量を増やす。売場演出を変える。積極的な接客をする。そんな基本的なことができているのだろうか?店長は、他店で売れているデータを見る。なぜ売れているのか電話して聞く。近隣ならば見に行く。その売り方を真似して売ってみる。これも当たり前のことだ。

各地で、働く場所は増えてないのに最低時給は上がっている。そうなれば、当然労働環境のいいところへ人は流れる。土日勤務もある小売業は、だんだん従業員が集まらなくなる。そうなると規模が小さい小売業にはそのしわ寄せがきて、従業員の仕事はどんどん増える。要員不足が、当たり前の仕事をできなくしているのかもしれない。

店が動けなくなると、商品はどうやって調達していくのか?店に変わって商品部がMD計画を立てて、品揃えしていくのだろうか?では、誰の意見を聞いて仕入するのか?商品部の担当者が毎日店にいて商品をチェックしていればそれは可能だが、一般的には取引先の情報によるところが大きい。取引先からの情報は、当然売場からのまた聞きの情報だし、売るためにプラス要素もつける。取引先は、当然発注ロットが多い商品部との商売を望む。商品部に現場感がないと「気持ち」と「行動」がバラバラになる。現場の情報やニーズを確認しなければ、商品の仕入れはできないはずだ。

商品部は商品動向を細かくチェックしているか?売り方や演出方法の情報を店と共有しているか?利益面優先で商品を仕入れてないか?作ってないか?売れることを最優先で作っているか?そして、そこには現場の声も入っているか?

小売業は、売場がすべて主導で、答えも売場にあると思っている。店長は何が売れているかを確認できるし、売れない商品をどうやって売れるようにするかも考えられる。そして売れる商品がわかれば、その商品を確保できるし、似た商品を仕入れることもできる。それを商品部が共有できれば、商品のロットを増やし、売れている店をモデルに全店に提案できる。頭で考えた商売はできないし、数字(利益)から入る商売も必ず失敗する。それがわかる人間がマネジメントするのが理想の組織だと思う。ただ現実的には、企業規模が小さいほど、売場であるべき動き方をしている店長は少なく、売場の力が弱くなる。

BtoCの小売業では、どんな問題もボトムアップのほうがいいに決まっている。トップダウンで成功するのは、唯一トップに強い現場感があるときのみだと思っている。

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