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売れている店が一番正しい

「真実のある所に人は集まり、人が集まるところに真実がある。」

GMSにいた時代、店の売場責任者から商品部に異動になった。その時の部長がよく言っていた言葉だ。本当かどうかわからないがカナダのウエストエドモントンモールの考え方だそうだ。その部長にはいい思い出はないが、その言葉はずっと頭の中にはある。

人が集まる。物が売れる。金が動く。つまり売れているところが一番正しい。百貨店でもSCでも売れている施設が一番正しい。売れている会社が一番正しい。売れている店が一番正しい。そしてそこに真実がある。ただ真実は時代の流れと共に変化する。

GMSがなくなっていく。中流層を意識したMDは間違っているということだ。地方百貨店もなくなっていく。本当の金持ち層は少なく、「憧れ」を持った中流層も大幅に減っているからだ。商圏人口が大きく、本当の金持ち層が少なからず存在する都心しか成り立たなくなっている。その金持ち層に加えて外国人が増えてきて現状は一部の百貨店には真実があるということだ。

専門店も分かりやすい。近年ずっと好調のユニクロやアダストリアなど。それに反してフェイドアウトしていった企業。タイムサービスを連呼していた企業の真実は何だったのか?どこに真実があったのか考えると消えていった企業の理由はよくわかる。

売れている店、売れなくなってきた店には原因がある。それを冷静に分析し続けることが間違いなく成功の秘訣だと思う。

売場は整然としてきれいだし、演出も完璧だけれど売れない。商品がニーズとあってないのかもしれない。逆にもっと値段を打ち出したり、ボリューム感を出したりしたほうがいい場合もある。逆に売場は雑然としていて、細かく手が入っていないけれども、安定して売れている店もある。品揃えよりも、接客体制や、売り場内のチームワークが売場のムードを変えていたりする。いいところと悪いところを両方から見る必要がある。判断基準は多方面にある。いろんな方向に真実はある。余談かもしれないが、今までの経験から、売上の良し悪しは「人」によるところが大きい。繊細に考えて売場を構築する商品志向の店長より、人的マネジメントに優れている店長のほうが数字を作るのはうまい。

「売り場はよくできているのだけど・・」売れてないのは真実がないから。「売り場は雑だけど」売れているのは真実があるから。「MDや売場作りは間違ってないのだが・・」腕を組んで考える前に、一度冷静に逆方向から原因を考えてみたほうがいい。

実は、ここで書きたかったことはそういうことではない。昔デベロッパーに言われた「このMDはどこでもできるMDなので、うちのSCには必要ない。」という言葉への反論だ。愚痴だ。月坪350千以上の売上を計上して、さらにその10%以上の支払いをしているテナントへの評価だった。売れているから少しでも真実はあるはずだ。メインフロアにもなく、近隣のテナントよりも当然効率は高かった。ちなみにGMSの平場は月坪100千も売れてない。

「真実」の尺度も難しい。

■今日のBGM

中小小売業の現状

近年大型モール(RSC)は「大箱化」が進んでいると書いてきた。それにより逆に大型モールの坪当たり賃料も減ってきているのではないかとの推論もある。近年の専門店の出店は「大型化」に対応できる大企業が中心で、大企業以外での新規参入はほとんど見られない。

現状、中小の小売業を取り巻く環境は非常に厳しい。もともと小売業は個人の能力で立ち上げることには限りがある。店を作るのに金がかかるし、出店するにも敷金など必要になってくる。さらには売りたい商品を仕入れるには、スタート時点で高い仕入れ代金(原価)を必要とする。

まず、中小企業の仕入環境がどんどん悪化している。もともとブランドセレクトの店は価格の決定権が取引先にあり、なかなか儲ける商売はできない。着実に店のイメージを固めることによって、儲ける商売にステップを上げることができる。海外で作ったり、ロットを増やしたりして商品の原価を下げていく。周知のことではあるが、円安が進むほど値段の設定が難しくなり、コストの整合できても当然ニーズは集中しており、納期が遅れてくる。会社の規模によって、調達が難しくなってきており、利益を出す商売がしにくくなっている。

次に、出店環境だが、ここまで何度か書いてきているように、コロナ以降SCの収益がダウン傾向にあると思う。その現実の下、当然賃料を融通できるSCはほとんどない。流れが悪く環境が悪化したSCも多いが、そこに大きな改装投資はできない。中小の小売業を育てるリーシングをできる環境ではない。逆にある程度の賃料で空床を埋めることを目的にした改装(通信系などの導入)や、テナントの大型化が進んでおり、スタートアップ企業や出店を検討している中小小売業は参入しづらい。大型モール創成期のように「店を育てる」余裕は全く感じない。

人的環境も厳しい。最低賃金は大幅に上昇しており、全国の加重平均時給は1004円で、東京、神奈川はすでに1100円を超えている。先日の日経新聞の記事では厚労省は、最低賃金「50円上げ議論」を進めていくという。さらに2024年10月からは51名以上の中小企業にも短時間労働者の社会保険加入が義務付けられていくことになっており、当然会社負担も増えていく。立ち仕事であり、さらに土日労働で、不人気業種になりつつある小売業に人材が流れてくるとは考えづらい。おそらく高年齢化が進んでいくと思う。

打開策はあるのか?なかなか現状中小小売業は打つ手がないと思う。もし、今会社を続けていればどうするだろうか?本当に戦える立地で確実に儲かる条件以外には出店しない。商品政策に関しては徹底的な在庫削減と細かな商品動向をチェックできる体制を作る。さらに、内部統制を図るため、現状の規定を見直し、修正する。攻める体制への再整備というところか?

業界としては、デベロッパーが小売店を育てる気概を持つことだと思う。MD面で必要な企業には出店条件を緩和させるとか、好立地に出店させるとかするべきではないかと思う。さらに「売れている」店を、批評をせず素直に評価してほしい。

いずれにしても、中小小売業は我慢の時で、内部に目を向ける時だと思う。

■今日のBGM

商品回転率が低い企業はリスクが隠れている

商品回転率を上げることが商売の基本だと、常々言っているし、当然だと思っている。何度も書いてきたが、「商品を仕入れて、それを売って、その金で支払う」が商売の基本だからだ。企業が大きくなってくると、その基本が見えなくなる。商品回転率が低い企業はリスクが隠れていると思っている。

ライトオンの上期の決算短信を見ていて、やはり何かが隠れていたと思った。くれぐれも今回はライトオンの業績に意見する物でなく、こういうことがあったのではないかという個人的な推測を記す物であり、個人の感想と思ってほしい。売価還元法で原価を算出している旨あったので簡単な計算方法で数字を出してみた。

前期末、原価在庫10479(百万)で、今上期末は原価在庫8326となっており、原価在庫の前年比は79.5%、売価在庫は原価率から逆算すると前年差は-5243と大幅の削減をしている。ちなみに上期の売上は21298(百万)で売上前年比は86.6%となっている。回転率は在庫が減ったことで前年が半期で1.12回転、今年が1.26回転と改善している。これでも回転率は年間3回転しない。年3回転することは4カ月で商品が売れてなくなるということなのだが、そこまで回っていない。付け加えるとおそらく支払いは4か月以内だと思う。

今期首の売価在庫は(単純に原価率で計算する)20191(百万)となり、同様に上期末の売価在庫は14948となる。売上は21298なので、値段を下げなければ、計算式でいうと期首在庫(20191)-売上(21298)+仕入売価=14948となり仕入売価は16055となる。これを所謂5掛けで入れたとすると仕入原価は8027となり、そのまま計算すると利益率は48.9%になる。ただ実際には上期利益率は44.3%になっている。概算してみたが仕入れを原価50%でして(所謂5掛け)、さらに約3400(百万)の商品がなくなることで、公表されている利益率44.3%になる。簡単にいうと6800(百万)の商品評価を半額処分すれば公表数字が導き出される。

どうしたかはわからない。ただ34億円の金額分だけ商品の評価を落としたとは考えられる。その他の原因もあるかもしれない。評価を落として販売したとしても売上前年比は86.6という数字だ。評価ダウンした商品が売れたとしても、既存の商品は売れてない。逆に評価を落とした商品が売れてないのかもしれない。

再度言うが、今回はライトオンの業績について言及する物ではない。あくまでも私自身の主観での数字で、現実とは違っているかもしれない。ただこの数字から、商品回転率の悪い企業は何だかの負の要素があるのではないかと考えられるということだ。悪く考えれば、在庫高で決算数字を変えることができる。昔は決算セールという名の下で売上を稼ぎ、在庫も減らしてきた。決算が終わって在庫を減らすということは正確な決算だったのかとも考えられる。管理体制も疑われる。回転率の悪化は、営業面だけでのキャッシュフローは悪化すると思われるし、利益率を優先した在庫評価と言われても仕方ない。

商品の価値はお客様が評価し、売る側が決める商品評価(売価)ではない。お客様、つまり市場が決めるものだ。そして商品回転率が悪いということは、商品がお客様に評価されていないと認識するべきだと思う。

■今日のBGM(まだトノバンがあった。)

ライトオンは立て直せるか? 2

前回、ライトオンの状況を書いたのだが、あまりに傍観者的な内容だったかなと感じていた。「どうするべきか?」「立て直すには?」が欠けているとは思っていた。ただ現状では非常に難しい問題になっているのではと思う。

もう、所謂全国チェーンのジーンズ専門店(?)はライトオンとマックハウスぐらいだが年々ダウントレンドで、現状のMDも昔のジーンズ専門店ではない。アダストリアもアーバンリサーチも、もともとはジーンズ専門店からのスタートだが、方向転換して今があるのは、「先を見る力」があったと言わざるを得ない。ジーンズメイトも一時株主変更時、攻勢をかけたが失敗した。いろいろ考えても、いろんなハードルが高すぎて難しいという結論になる。

まだまだ地方では頑張っているジーンズ専門店もあるが、どうしてもブランドのエリア分断があり、ナショナルチェーンにはなれない。高知の「ジーンズファクトリー」や岡山、徳島の「ビックアメリカンショップ」、旧三信衣料系のジーンズショップなどエリアに根付いて頑張ってはいる。多くはデニムラインと「ダントン」「オーシバル」などBshop系の品揃え、SCなどのインショップでは「ノースフェイス」や「チャムス」などわかりやすいブランドのミックスで確実に運営されている。ブランドを卸している会社が、エリアを考えて専門店を選んでおり、なかなか全国チェーンには品揃えの壁がある。

厳しくなった会社が抜け出すには、管理主導で動くしかない。おそらく過去営業主導で動いて内容が悪化してきたと思う。そういう意味では、各数値の適正化を急ぐ必要がある。ライトオンの前年度実績では1店舗あたり年間売上は1.26億、月度売上約10.5百万、売価在庫は平均54百万となっている。今の売上を維持して回転率を年間3回転まで上げるとして売価在庫は42百万となる。その在庫で運営するとすれば、坪在庫を最大500千として80~100坪を適正坪数にするべきだと思う。現状の坪数は決算書でもわからないのだが、明らかに大型化が進んでいる。大型化により売り上げ効率が悪化し、さらに販売員の守備範囲が広くなっている。ジーニングカジュアルを続けるなら、接客の要素を上げるためにも販売員の密度は高いほうがいい。坪数の削減はデベロッパーとの交渉が難しいし、再度売場投資も発生するのでハードルは高いが、間違いなく最優先で整理すべき事項だと思う。

MDについては、頑張っている地方の専門店と同じMDは全国チェーンではできないだろうし、どうすればいいか言及できないが、テイストをジーニングカジュアルで進めるなら、もう一度デニムの品揃えや集積可能なトレンドとなるブランドを整理して、そのコーナーを確立させるべきだと思う。20~30坪で例えば重厚なウッディベースの内装でショップインショップ化を図ればどうだろう。その他の面積でキッズ含めた衣料品を買いやすい値段で品揃えする。坪数縮小でボリュームも出るし、イメージも固まる。売場内にインパクトある1角を作ることで売り場も締まってくる。

他人事で書いたが、言うだけならだれでもできる。金をかけて軌道修正するにはリスクも大きい。ただ現状の数字を見ていると、小売りとしての商売の基本と大きく乖離しているように思う。繰り返すようだが、営業面から対策を考えずに、管理面(数値面)からあるべき売場を考えたほうがいい。営業面から考えると失敗を重ねるだけのような気がする。売上計画より在庫計画、利益計画を重視して対策を立ててみてほしい。

今後も数字の流れは厳しいと思う。変革に注目している。

■今日のBGM

ライトオンは立て直せるか?

5月の小売業上場各社の既存店売上前年比を見ていたら、約半数の企業は100%超で堅調な数字だったが、メンズ色の強い企業が少し悪かったようだ。景気が悪い時に出る傾向で「お父さんのものは後回し」的な流れのようにも見える。中でも落ち込みが最も大きかったのはライトオンで既存前年比75.1%となっている。

ここ3カ月で見ると3月78.9%、4月82.7%、5月75.1%と低迷を続けている。ここ数年の業績悪化で、証券市場区分も去年の10月にプライムからスタンダードへ移行されている。

もともとはジーニングカジュアルを打ち出して大きくなってきた会社だ。ジーンズの追い風の中、売場も増え、売場面積も大きくなっていった。ジーンズ中心の売場は在庫金額が大きくなる。パンツのサイズもメンズでも27~34インチまで揃えなければならないし、中心サイズのストックを入れると1品番1色で10本以上の在庫が必要になる。近年はボトムのサイズ分類はアジャスターや脇ゴムでトップスと同じサイズで展開しているが、ナショナルブランドは依然インチ表示のままだ。一世を風靡したジーンズのボリューム感を持った店から、ファッションの流れの変化もあり、ライトオンも現状はジーニングテイストを持ったフル客層へのカジュアルショップに変わっていった。その環境下で商品量や値段で「ユニクロ」「GU」には太刀打ちできず低迷を続けている。

数字が厳しいので、買い物ついでで近隣のいくつかのSCで売場を見たのだが、迷走感が出ている。定番のジーンズもリーバイスも含めて割引商材が多く、特にメンズはセール品もアソートで取引先から借りているような商材が目立つ。ボトムに関して言えば基本デニムのリーバイス501が17000円の時代に売上を考えると品揃えもボリュームアップできない。レディス、キッズも在庫を抑えているのか、中途半端になっておりお客様は競合店に流れているように見える。

前期の決算書では売上前年比97.3%、売上総利益率48.1%(前年49.3%)経常利益-1046(百万)純損失-2545(百万)(前年-1166)、在庫回転率2.2回転(年)となっている。今年度上期は売上前年比86.6%、売上総利益率44.3%(前年50.1%)経常利益―1353(百万)(前年191)上期純損失―1617(百万)(前年―95)在庫回転率1.26(半期)前年1.12(半期)と発表されている。おそらく在庫過多を続けていたため、今期在庫縮小のための値下げを強行したが、在庫整理では売り上げアップに結び付かず、利益率を下げただけの状況だったようだ。この数字を見ると、現状の売場の状況は納得できる。

小売業の決算数字にはいろんなことが隠されている。ライトオンのように在庫整理をしたが売り上げに結び付いてないように、適正金額で商品在庫が計上されていないケースが多い。決算数字をよくするために在庫評価を市場評価と乖離させれば、悪い決算にならない。ライトオンも今上期に利益率を前年差-5.8%落として在庫処理を断行したが、売上前年比86.6%と大きく落としている。売上につながる評価にすればさらに利益率は落ち込んでいくと予想される。さらに不振店舗を削減するための除却損や、返却されるべき敷金と相殺される経費も大きく、数字が悪化すれば実数値は急激に落ち込む。まだ余力がありそうな決算数字だが、隠れているリスクも大きい。

再浮上させる策はあるのだろうか?

■今日のBGM

イオンモール浦和美園

見たい映画があり近隣では浦和美園のイオンシネマしか上映してなかったので行って来た。車で30分かかるので映画のタイミングでしか行く物件ではないのだが、またまた表題の物件について書くことを、ご容赦願いたい。

本当に潜在能力を感じるモールで、前回記したように交通の便もよく、行くたびに都市化が進んでいるように感じる。微妙な問題だが旧浦和市民をうまく取り込めれば、レイクタウンやコクーン、大宮駅前とは一線を画すことができるのではないかと思う。

今春、大改装を実施したようだが、収益が合わなかったのか、投資金額が抑えられていたのか、中途半端な改装になっている。物件のポテンシャルを誰も認識してないのかなと思う。この物件は都市型のRSCとして意識すべきだと思う。

まず、モールのグランドフロアのテナントの棚卸ができてない。契約期間の問題もあり移設はできにくかったのかもしれないが、誰かが腹をくくればできるはずだ。2階以上で展開すべきショップがそのままになっている。逆にその移設ができてないから上層階にまだ空床があり、上層階の魅力が上がってこない。ここでは具体的に記さないが、都市型のららぽーとなら間違いなく1階にはないテナントが多数あり、そのテナントがそのままになっている。

さらにユニクロ、GUを外部棟にするなら、ユニクロではなく外部棟のグレード感を上げてみることもできたはずだ(セレクトショップなどの誘致)。極論でいうと、モール棟での出店がユニクロと合意できないなら、イオンGMSの2階を渡せばよかったのではないか。(駐車棟とつながっているので出店メリットは大きい。)

イオン(GMS)の2階、3階だが、果たして合格点なのだろうか?前回改装した時(?)、感じたのだが、坪売りや効率がイオン内基準で想定されており、専門店や他の競合との基準とかなりかけ離れている気がした。つまりイオンではクリアされていても一般の土俵では全く戦えないのではないかということだ。「トップバリュコレクション」として改装されていたが、平場感をなくし立体感を見せただけで、商品のセグメントは変わっていない。以前より取引先との協業スペース(量販店販売員付きブランド)を大きめにとって自主MDの売場を小さくして効率を上げようとしているが、おそらく大きな変化はないように思う。イオンの平場から、次の「ユニクロ」「GU」「無印良品」を作るべきステップとして改装するべきだと考えるのだが、そういう話し合いの結果がこの改装なのだろうかと思う。この売場ならやはりGMSの非食品(特に衣料服飾品)はいらない。

店舗数が多くなると、個店、個のSCの位置づけが見えにくくなる。特にイオンのように上場企業になればコンプライアンスの問題もあり、責任者は同じ部署(SC)に長く駐在できない。そのSCを一番わかっているのはSCの責任者であり、本部のスタッフではない。 SCに思い入れをどれだけ持てるかで、物件の価値は変化する。SCの数も多く、責任者も在籍時の数字しか考えないと 、思い切った店舗戦略をとれないのかなと思う。

どこでも一緒のイオンモールと「ららぽーと」の差はそこにあるのかもしれない。

■今日のBGM・・・「トノバン」見てきた。このアルバムは学生時代大きなインパクトがあった。

ファイブフォックス

ファイブフォックスの会長だった上田稔夫氏が亡くなられた。ファッション業界に一時代を築き上げた人物だ。ファイブフォックスはDCブランド全盛期の「コムサデモード」「ペイトンプレイス」などを展開していたファッション業界の大企業で、2000億超の売上で経常利益率もピークは13%あったとのことだ。

ファイブフォックスは黒を基調にしたモードファッション「コムサデモード」がメインブランドで、少し宗教染みた会社というイメージが強い。開店前に大きな声でスタッフ全員声を合わせて挨拶をしていたのを何度も見た記憶がある。商品の中に台紙を入れて同じ大きさに合わせて商品整理を徹底し、VP(演出)はモノトーン基調で固めており、さらに店内音楽はビートルズで統一していた。上田氏はファッションビジネスで大事なのは「商品」「店舗」「在庫コントロール」だと言っていたそうだ。全くその通りだと思う。

DCブームの後、 「野菜売り場の近くに大きな店を出せ。」との大号令で、「コムサイズム」を立ち上げ、脱ファッションビルで大型モール(GMS)に参入したのもファイブフォックスだった。「野菜売り場」はお客様が必ず通る。つまりデイリーのお客様の目につく一番の場所にファミリー市場の店を出した。この業態はファッション業界の常識を覆した。これが今のモールのファッション大型区画のスタートだったと思う。

昔の仕事柄、各ブランドの開発担当者と打ち合わせをしていたが、ファイブフォックスは冷たいイメージが強く、特に弱いデベロッパーには強気だったような気がする。売れているブランドはえてしてその傾向が強いが、大手だった「ビギ」や「ニコル」よりその印象は強い。それだけブランドの位置づけを大事にしていたのかもしれない。

コムサブランドはモードテイストの黒を基調としたMDブランドで、他の黒基調だった「ギャルソン」や「ワイズ」などデザイナーブランドよりクリエイティブさはなく、店舗イメージや演出、売り方を差別化させて、そこを武器にお客様を引き付けていたと思う。ただ、やはりモノトーンのMDブランドとして感じられてしまうと、ブームが去ると厳しい状態になっていった。現在年商が200億くらいということだが、それでもすごいと思ってしまう。売り上げの中心は「コムサフィユ」(子供服)ではないかなと思う。

商売哲学の「商品」「店舗」「在庫コントロール」については記事を読んで初めて知ったが、「商品」は小売業では共通だが、「店舗」「在庫」を意識していたことには共感する。あのレベルまで売場のイメージを固めてしまうと逆にマイナス要素になるかもしれないが、「おたたみ」のマニュアルや演出は驚かせた。コムサ憲法と言われるマニュアルがあると聞いたこともある。環境面を含めた店舗マニュアルは必要だと思う。「在庫」に関しては常々私自身も商売の基本だと思っているので、このブログでも一番ページを割いている。ファッションビジネスで大事なことと言っていたことには強く共感する。

改めて、デザイナーブランドでなくMDブランドで年商2000億まで育て上げた力量には時代背景もあったが、「すごみ」を感じる。

ただ、私はファイブフォックスの服を自分用には買ったことはない。

■今日のBGM

売場環境の維持…売場開発

売場環境を整える第一の問題は、出店場所を間違わないことになる。どこに、いくらの賃料で、どういう売場にするかを適正にジャッジする必要がある。

まず、自店をよく知っていること。自店の成功例、失敗例を列挙していると自ずとどこに出店すればいいか、やめたほうがいい区画かが、わかってくる。さらにその店舗環境(近隣テナントとの相性、フロアやエリア、区画の形状、大きさなど)でおおよその売上は読めてくる。

以前の会社ではモールの3階はほぼ失敗したし、小型店での失敗例も多く、小型店で開発した新ショップの既存店はほぼすべて退店し、新ショップでの出店は取りやめた。

さらに自店を知る上では、現状の既存店毎の数値状況も当然理解していかねばならない。自店の売上、収益予測は状況を理解した上作成し、それは当然賃料交渉時に必要になる。つまり提示賃料が収益上どう影響するのか計算する必要がある。売上と利益は当然ながら人件費や家賃、その他経費を考えればどれくらいの営業利益が出るかを計算する。過去そのエリアの責任者には契約内容を加味した損益計算書を契約年数分時系列で作成させた。さらにそこに当然投資が入ってくる。簡易的に予測損益を計算していたが、投資に対しての経費率は10~20%で初年度経費計上し、資産計上分は概略で残投資額の35%を減価償却費として毎年の収益予測に計上した。その計算で契約期間の収益を計算していた。SCからの条件で当然収益基準に満たなければ条件交渉するし、合わなければいい物件でも出店はしない。おそらくこの数字が一番の出店根拠になる。

もう1点必要なことは、開発担当者はいろんなSCをどれくらい見ているか、そこに出店しているテナントのMDや状況をどれだけ知っているかは絶対必要だと思う。SCを多く見れば見るほどそのSCの状況がわかってくる。リーシングに対しての優位性はSCにあるかテナントにあるかもわかってくる。出店要請された場所の隣接するテナントやゾーニングされたエリアは、どういうメンバーなのかで当然売り上げは変わってくる。SCを多く見てくると相性のいいテナントや相性のいい場所がわかってくる。さらにはデベロッパーも知る必要がある。デベロッパーとの相性もある。以前書いたが、同じイオンのモールでもイオンモールとイオンリテールでは窓口の対応が全く違う。さらに近年多い証券化されたSCとの交渉は、商売の話ではなく完全に不動産契約の話になり、土俵が違うため会話が全くかみ合わないことが多い。私自身SC側にいてリーシングもした経験もあるので、SCとの相性の違いも理解できる。

出店はきちんとした数字を見たうえで検討すべきであり、独断的にやるものではない。当然結果的にそうなっても、反省としてきちんと履歴を残すべきだと思う。

・・・実家に寄ったついでに大阪と福岡に行った。非常に楽しかったが、結局飲みに行っただけだった。

■今日のBGM

利益率は商売の結果であるべきだ

前回書いた研修のプログラム「基本的数値の教材」の最後は「商品の回転率、回転日数の意味すること」で終わっている。「商品回転率が高く、回転日数が短いと不良在庫の発生が少なく、仕入れ活動がしやすく、新商品の導入や気候変化に柔軟な対応ができ、売場が新鮮になる」とまとめている。これが私自身の商売の基本にもなっている。

商売は現状COD(キャッシュオンデリバリー:金を支払ってから商品を納入すること)はほとんどなく、支払いサイトは現金払いでは一般的に月末締め月末払いでスタートが多く、最長2か月後最短1か月後の支払いになり、平均すると45日後の支払いになる。伸ばしても2か月後には支払いになる。(近頃手形払いはあまりないのでは?)つまり商売の理屈では商品を2か月で現金にして代金を払い、その差額が利益になるということになる。資金がなければその流れを繰り返して手持ち資金を蓄えていく。資金が回ってくれば銀行から融資もあるし、規模を広げていける。

PB商品や取引先との別注商品などが増え、「買い」の商品が減ってきているので原価率も下がり、回転日数が増えても利益には響かなくなってきているが、やはり回転日数が増えれば売場の鮮度感がなくなってしまう。つまり売場に変化が見えてこず、売場のイメージが変わってこなくなる。

回転日数の悪い商品をなくすために、商品の値引きをして販売する。値引き販売をすると利益は当然下がる。値引き販売をしなければ不良在庫が減らないし売上金が入ってこないので、新しい商品を仕入れられない。規模が大きくなってくると、利益を落とせなくなって、その状態で仕入れを続けてしまう。回転日数が増え、悪循環の始まりになる。どうしても利益率優先になってくる。しかし、ここで計上された利益率は実態とはかけ離れている。

イオングループから離れてファンドのもと再生を図るタカキューの2024年2月期決算の数字を見てみる。営業状況はわからず、あくまでも数字だけだが、利益率は61.4%(前年差;+1.5%)回転率3.00(前年3.36回転)売上高100.3億(前年比83,7%)となっている。前年の純損失は10,5億で、今年は店舗大幅減で人件費と家賃の削減で10億以上改善して約1億の損失になっている。現金は11億(しかない?)で債務超過は続き、危険な状況には変わりない。

回転率年3.0であれば1カ月0.25回転になる。4000万の商品で月1000万の売上を作っていることになる。支払いサイトを長く見て90日後支払いで設定しても、回転率は月度0.33回転しなければキャッシュは回っていかない。リストラにより規模縮小があり売上は減っているが、回転率は悪化しているので商品は売上に合わせて減っている状況ではない。商品が売れなければ商売にならない。利益率61.4%あっても売れなければ利益にならない。最近の専門店決算でも利益率はユニクロ51.9%、アダストリア55.3%、スーツ業界では青山51.1%、コナカ58.0%となっている。つまり売上は上がってないのに在庫は多く、利益率は高いままという構図が見えてくる。なぜ値段を下げて、売れてない商品を減らそうとしないのだろうか?

利益率を上げていくのは当然企業としての大命題だし、そこを目指していくことは当たり前のことだ。ただ売上を上げていくことがさらに優先されるべきであって、そのための手段として値段を下げて売っていくことも当然ある。商品が売れて消化されることによって、新しい商品を入れるキャパができる。そうすることがあって売場が変化し新鮮になっていく。

利益率は当然高みを目指していくべきだが、努力した商売の結果で算出された利益率こそが本来のあるべき姿だと思う。

■今日のBGM

従業員教育

以前立ち上げた会社での従業員教育のファイルがある。「仕事の基本とは」「販売について」、「基本的数値の教材」、「受講した社員からのフィードバック」の書類などが入っている。

「仕事の基本とは」は①仕事の姿勢、➁仕事の進め方、③前もって備える、④仕事の質を上げる、の4項目で仕事の基本的な心構えについて整理されている。

「販売について」は、①店に立つ前のちょっとしたアクション、➁お客様にアプローチするときのちょっとしたアクション、③ニーズをつかむには、④商品説明のコツ、⑤クロージングテクニック、⑥店内にお客様がいない時、⑦店のおすすめは何?⑧さらに生かすには?の項目で、販売に必要なことをまとめてある。

「基本的数値の教材」は、①売価・原価と値入率、②粗利益高と粗利益率、③値入額と粗利益高、④仕入・売価と在庫、⑤仕入、売上、在庫と値入、荒利、⑥仕入、売上、在庫と売価変更、ロス、⑦回転日数と回転率の7項目で基本的数字をわかりやすく説明している。尚、コメントとして「①~③までで1時間かかる。2.3回は必要。」と付箋が貼ってあった。

その他、受講者の事前アンケートや事後の感想などがファイルされていた。2日間の研修プログラムで、特に数値については、もう何度か研修の場が必要のようだった。

こういうことが必要だなとは改めて思う。賃金が上がり、従業員確保が大命題になっている小売業で、現状スタッフ教育には手が回ってない状況ではないだろうか?そんな中で、各店舗で差がつくのはちょっとした販売の仕方だったり、スタッフの力量に左右されていると思う。スタッフ教育は組織力のある大手企業が先んじているのかもしれないが、個店でもやるべきことは多い。店長がスタッフとのコミュニケーションをとって、売場の販売体制ができているだけで売上は大きく上がってくる。

「基本的数値」についての教材は、マイカル時代の教育教材だった。新入社員には少し難しく、売場に慣れてきた段階で随時行っていくほうがいいかもしれない。ただこれが商売の基本でもある。昔売場の部門責任者は、この数値は完全に頭に入っていたと思う。その上で、仕入れ活動もしてきた。今の小売業でどれくらいの店長が理解しているのだろうか?セントラルバイイングになったり、店長の職務ではなくなったりしているかもしれないが、この「基本的数値」を理解して商売をしているようには思えない企業は多い。これが理解できて、売上と結びついてくれば小売業が楽しくなってくる。

「仕入」「販売」「営業」「管理」と分業になっていても、販売現場からいろんなことは発信される。従業員全員が同じ方向を向いて、同じ言葉で話せなければ数値は上がってこない。

■今日のBGM

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