カテゴリー: 経営管理 (3ページ目 (8ページ中))

DB(ディストリビューター)には発言力が必要

ディストリビューター(以下DB)を調べると、「MD、バイヤーが発注調達してきた商品を「適正に」「効率よく」配分すること 店頭在庫を整えることが主な業務になる。」とある。自社商品、別注商品が作れるだけの規模になると非常に必要なポジションだ。

昔、イトーヨーカドーのDBは権限が強く、バイヤーが発注しても在庫が多ければ仕入れを許可しなかったらしい。当然商品部内の組織ではなかった。これは大きなポイントになる。商品部内にいるとバイヤーやMDと机を並べているので、強い指摘ができない。以前在籍したビブレも商品部にDBを在籍させていた。ともすればバイヤーの部下、同僚としての扱いになる。仲良く同席していると当然在庫や商品動向への提言機能は弱まる。

店舗数が増えてくるとオリジナル商品の比率が高まり、その商品の管理をDBがする。オリジナル商品の店別動向や在庫管理データをつかみ、情報を開示する。当然動きが悪い商品をどうするかもジャッジする。売れている店に移動させたり、値段を下げてなくす指示もする。つまり商品の司令塔になる。

在庫管理も当然DBの主要業務になる。各店の売上予算、在庫予算を把握し、仕入金額を把握する。売上の予測と仕入金額で在庫予算との乖離は当然わかる。仕入原価も分かるので月末在庫と月末の利益着地も想定できる。在庫が多くなりそうなら、仕入れをストップさせるし、商品が売れてなければ利益予測をして値段を下げる指示もする。

単品情報もデータでわかる。以前の会社では1カ月0.2回転以下の商品(10点仕入れて2点売れると0.2回転)は売れている店へ移動させるか、値段を下げるかのジャッジをしていた。楽なボーダーラインだが早め早めのジャッジは必要だ。ジャッジラインは会社が政策的に決めればよい。小型店は早めに不振商品を他店に移動させて、商品を入れ替えたい。さらに、売れている店があるのならその店の売り方や演出など成功事例として共有させたい。

商品仕入担当は、当然自分で仕入れた商品はかわいい。売れると思って仕入れたのだから、売れないのは売場の責任と思っている。売場は逆に売場の欲しい商品がわかってないと思っている。これはいつも見られる様相だ。どちらかの意見に偏らないため、DBを管理するポジションには、営業系でなく数字で冷静に判断できる管理系の責任者を置くべきだと思う。そしてその責任者は営業の責任者と対等である必要がある。

小売業の数値は「売上」「利益」「在庫」で評価される。とかく「売上」「利益」のみ語られ「在庫」を見落としがちになる。「在庫を整えることがDB」という定義を再認識するべきだと思う。

■今日のBGM

今の商業環境で、商売を始められるか?

昔、叔母と叔父が西宮で、それぞれ豆腐屋をやっていた。忙しくて年末には毎年両親も手伝いに行っていた。大豆から豆腐を作ってそれを売る。焼き豆腐はバーナー?で火を入れる。所謂製造直売で儲かっていたように記憶する。自転車で売りにも行っていた。土日も大変だと思ったが、商売は金になるものだと思っていた。

自宅で商売をする。つまり家賃はかからない。原価も安いので儲かる。うまいので売れる。さらに家族経営なので人件費もかからない。(厳密にはかかっているが・・・)商売の成り立ちだと思う。

今豆腐屋をやっていると、どうなっているか?SCで商売しなければ人は集まって来ないので、入店すると家賃は高い。そうなると家族経営は難しくなり、人を雇う。SMなどとの競合が厳しく値段競争に負けてしまう。この流れで個人経営はどんどん減っていく。さらにずっと味を求めてやっていても、商店街がなくなってきたのと同じタイミングで寂れていく。

現実はどうか?SCの数も過剰になり、乱立し、より集客力のあるSCに入店するには、敷居がどんどん上がってくる。入店するのに敷金や内装管理費やその他多くの経費が掛かる。当然チープな内装では入れない。出店経費は非常に高くなる。SCも集客を上げるために、「売れる店舗」をリーシングする。当然「売れる店舗」の条件は優遇される。そうなれば他の店舗に当然しわ寄せがあり、どんどん出店のハードルが上がる。つまり利益も上げていけるMDが必要になる。

衣料服飾品においても、現状のお客様の流れはボリュームプライス志向が強まっている。ハイエンドは少なく、その購買場所も限られてきている。価格志向に走れば当然商品を企画して大量に作っていかねばならない。国内ではコストが合わず、諸経費が抑えられる海外で生産する。そんな中でも円安が続き、コストも上昇する。売れる商品を作るには大量の購買データも必要になる。つまり大企業シフトはますます強まる。近頃は商品を作って卸していた企業が、自ら出店するケースが増えている。つまり「買い」での商売は厳しくなっている。

単店で戦えるとすれば、そのエリアでは「そこでしかない物」を売るしかない。ただ「そこにしかない物」は仕入なら原価は高い。利益対策も考えなければならない。卸企業の戦略としても1つの店舗(会社)に集中して卸すことはしない。ローカルチェーンでブランド戦略をしている店がこのセグメントに入る。実際そういう店は大型モールにはいくつか入っている。

今の商環境で、個人もしくは小資本で、商売を立ち上げても絶対成功しない。もし成功するビジネスモデルがあるのなら、「人」「物」「金」の回しやすい企業と共同で立ち上げていくしかないように思う。小売業はもう「とりあえずスタートする」スタートアップ事業ではなくなったと思う。

今日のBGM

大企業の社長は中小企業の社長をできない

このごろ、この類の内容が多くなっていて恐縮するが、やはり大企業の社長や新聞各社が他人事のように言う「景気の回復は中小企業次第」というコメントには大変憤りを感じている。今回も同様の内容になっていることをご容赦願いたい。

先日、昔の取引先の社長と飲んでいるとき、その社長がお盆休みの案内を出したら、「長い夏休み、どこか行くのですか?」と取引先の店長に聞かれたという。店長は今年の盆休みは特に長いので何気に聞いたようだ。その社長は、「商品の発送ができないので休みにしただけで、お盆期間も毎日仕事する」と答えたそうだ。実態は間違いなくこういう状況だと思う。従業員は休ませても、社長は仕事を普通にやっている。

以前も書いたが、中小企業の社長にほとんど休みはない。後方各部署に責任者と担当がいて個別にマネジメントしている組織になっている企業は数少ないと思う。私自身、売上1兆円超企業の部長職も経験し、それはそれで忙しかったが、20億を超えたぐらいの中小小売業の社長のほうが間違いなく忙しかった。

小売業は人を雇うにもまず売場が中心になる。売場が売上げを作ってくるので、売場の人員の確保が優先される。現状の時給アップや、土日勤務の労働環境を考えると小売業に容易に人が集まるとは思えない。本部に人を配置するには店の体制が安定した後になる。

小売業の後方業務は、まず経理がある。立ち上げた会社では全店の伝票(仕入、返品、値下げ、移動)の本部控えを送付させていた。本部でも各店の数値管理表(売上、仕入れ、在庫、利益のデータ)を作成しその伝票類と毎日の売上を管理していた。月度が終わるとその仕入データを取引先別に計上して、支払いの基になる帳票を作成する。それをもとに翌々月の支払日に支払っていた。その支払いもパソコンで約70社ある取引会社に振り込む。1回の振込みも1億以上にはなる。その他本部や各店での経費や従業員の経費も集計し振り込む。

人事的な作業もある。給料を確定させなければならない。各店からのタイムカードや人事関係の各種書類をチェックして給与を作成する。出勤簿への記入や有休の確認、残業時間のチェックも当然する。毎月入退社数は5名以上入るので、毎月一度はハローワークに、雇用保険の加入や離職票の提出をしに行っていた。そして給与も明細を作って店に送付し、給料日に振り込んでいた。出勤簿や給与台帳は重要で、コロナ時ややこしい雇用調整助成金の申請にも必要だった。業績評価も当然のようにやっており給料改定も行う。当然人事台帳の更新もする。

仕入と人件費を確定させて各店の数値を確定させ、各店の営業月報や損益月報も作成し、店長にはフィードバックしていた。当然会計ソフトや、給与ソフトは使っていたが、元のデータ作りは労力が必要になる。その他営業系のデータ管理もある。細かい仕事はいくらでもある。最多27店舗の管理業務を本部スタッフ、社長を入れて3名でやっていた。これに加えて月1度は全店巡回していた。もっと楽なシステムを導入することはできるだろうが、全体の仕組みを変えるにはもう少し規模が必要だった。店舗数を増やすには投資が必要になる。損益が安定していなければいい融資を受けられない。ずっと右肩上がりではない。

自画自賛するようだが、よく働いていたと思う。上場企業の社長はこんな仕事はしないと思うが、おそらくできない。では私が上場企業の社長はできるか?企業基盤がしっかりしていれば、おそらくできる。

■今日のBGM

バーゲンでもあまり値段が下がらない

8月はできればお盆までに夏物商品をなくす目途をつけたい。お盆すぎると集客はぐっと落ちるので値段を下げてでも売っていく。商品をなくしていく。盆過ぎには初秋物が投入され、売場の色を秋色に変える。昔の販売計画はこんな感じだった。

8月に入ったが、SCの各店の売場はあまり乱れていない。なぜか年間通して割引している店はあるが、この夏物最終処分時期の売場のイメージはない。「いい買い物をした」のイメージがだんだんなくなっている。

いつ商品をなくしていくのだろう?ユニクロを中心としたSPA型の小売業が増え、大きなセールに比重をかけてない。52週の販売計画の下、在庫状況を見て細かなセールを増やし、商品をなくしていく体制に変化している。それに合わせて取引先の体制も変わっていったのかもしれない。

ただ、そういう企業体質の会社ばかりではない。本当にやるべきことをやっているのかという疑問がある。上場会社の決算を見ると、利益率を上げることを優先していると感じることが多い。回転率は鈍化している。商品動向に基づいて、商品を処分しているのだろうか?「品揃え失敗」で利益を落としている企業はあまり見当たらない。「1月、7月は売上を確保して利益率は落とすが、利益額でカバーし、在庫は減らしていく。2月、8月は減った在庫に先取り商品を入れて利益率を回復させていく。」という昔の商売はなくなってきたというのだろうか?在庫高によって利益率が変動していくような細かな予算を組んでいないのではないかと感じる。季節商材が少なくて、商品回転率が年2回転と低くても、残商品を年2回はなくしてしまわなければならない。商売が攻撃的でなくなったのかもしれない。逆にユニクロのほうが、あれだけ商品を自社で作って利益率51.9%(23年決算数値)は十分攻撃的な結果かもしれない。

売上予算、利益予算、在庫予算、それに伴う仕入予算を細かくボトムアップで作成するべきだと思う。当然修正は会社トップがするが、トップダウンでの予算作成ではひずみは大きい。店に予算責任への比重を上げることによって、店の動き方は変わる。本部主導になればなるほど店の動き方は鈍い。ユニクロのように商品の動向ジャッジを数字で判断できる状況にないのなら、店の判断で数字も変わるようにしたほうがいい。「売り場の意思」が見えたほうが店は勢いづく。

SCの8月の売場を見ていると「欠点を隠した優等生」のようなショップばかりのような気がする。「必死感」もあったほうがいい。そういう感覚が一番お客様に伝わると思う。

■今日のBGM

小売業の本部機能は店のためにある

小売業の後方部隊はできるだけ小さくすべきだというのが持論だ。特に営業系の本部組織はミニマムにすべきだと思う。会社規模が大きくなってくればくるほど、本部要員が増え、本部要員が増えれば増えるほど現場に余計な仕事が増える。これは間違いなく起こる事実だ。規模が大きくなると全体の把握がしにくくなり、その確認として会議が増える。当然会議が増えると資料が増える。小売業の資料は現場の数字が中心になり、その確認作業として現場への資料作成を依頼する。

GMSの店長時代、日曜の夕方になるとスタッフルームに売場の責任者が集まってきて書類作成をしていた。月曜日に本部の商品部の会議に必要なデータを作成し送付していた。売上より必要な書類を優先してしまう風土になっていた。その後、本部へ赴任して本部人員削減を言い続けたがなかなか組織は変えられなかった。

本部は店のためにある。店の要望を聞いて動くべき場所だと思う。本部のスタッフがいてよかったという風土にする必要がある。本部として商品を作るとき、仕入れるとき、店の状況がわかって、店のニーズがわかって仕入れているか?店に行って店と同じ立場で販売をしているかどうか?そこで気づいたことを売場に反映しているかどうか?売り場のレイアウトや演出は的確かどうか?販売体制に問題はないか?店と意見を交わさないといけない。

本部は偉いと思われがちだ。全然偉くない。店が一番偉い。店が動かなければ会社は成り立たない。ただ本部は店がわからない商品動向の変化や、トレンドの変化などはどんどん発信しなければならない。それも本部で発信するのでなく、現場で指導して実践して初めて情報が広がっていくことに気が付くべきだ。余談だがイトーヨーカドーの会社の組織図は最上部に店が並んでいたと思う。組織図の逆三角形の下に社長、取締役会、株主があった。「店=お客様」が最上位の考え方だった。

どうすればよいか。本部は店長を数年経験したぐらいの若いスタッフを配置すべきだと思う。できればジョブローテーションをして3年くらいの間隔で交代させる。店舗数が少なければ店長兼任が最も望ましい。現場の感覚が必要だし、若いスタッフだとベテランからの意見にも耳を傾ける。現実的には企業は安定感が欲しいのでどうしてもベテランを本部スタッフに登用する。そうすることによる弊害が大きい。若手は意見を言いづらいし、仕事の流れに変化が出ない。(従来の流れを踏襲する。)新しい感覚が生まれない。

経営していた会社では、営業面の本部要員は配置しなかった。管理職はあったが店勤務にしていた。できるだけ現場と本部の距離を作らないことが大事だと思っている。管理職が店を巡回するときは店と話し合い、必ず指示できるような体制にした。本当に営業の本部機能が必要になるのは40店舖くらいになるときだと思う。その時は全体で商品の自主MDができるし、営業面での企画もできるようになる。そしてそういう時でも本部よりも店を優先し若手をジョブローテンションの下、本部に配置したい。

本部と店の温度差はできるだけ少なくなるようにするべきだ。

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トマム(星野リゾート)の事例と小売業

トマム(星野リゾート)を持っていた中国企業が不動産投資会社に売却するというニュースが今月初に流れた。どういうことかわからないのか、先日ニュースで説明をしていた。

星野リゾートはコンセプトを明確にしてリゾートでのおもてなしを大事にしたホテルを複数運営している。非常に評判が良く、心地よく過ごせる施設が多い。近年急成長しているイメージが強い。以前、資金はどこから出ているのかと調べたら、「星野リゾート・リート」という投資法人があり、そこから受託を受けて「星野リゾート」が運営をしているという仕組みが分かった。つまり「星野リゾート」は運営会社ということになる。トマムも今回売却した中国企業に以前183億で売却しており、その企業が今回408億で売却したということだ。売却差益が225億ということになる。

去年の7月に商業施設のPM(プロパティマネジメント)について書いたことがあるが、商業施設で起こっていることがホテル業界にも当然のようにある。企業に投資をすることと同様に、ホテルや商業施設に投資をする。そして投資先の収益率を高めてそこから利益を享受するか、再度投資物件を売却して売却益を得る。その投資物件の維持管理や物件価値を高めるための星野リゾートなどの運営会社や商業施設のPM運営会社が必要になる。

商業施設でも「イオンモール」と名前はついていても物件の所有者は別(イオンではない)の施設もある。そこを企画フィー、PMフィーをもらって「イオンモール」がテナントを集め、運営をしているということになる。詳細はわからないが、前回書いた「マリノアシティ福岡」も一部は「福岡リート」が所有しており、三井不動産がアウトレットの企画、運営管理を受託するという図式の可能性もある。

株と同じで不動産として、商業施設やホテルを所有することは近年増えてきている。ただこの状況は必ずしもいいことではないと思っている。小売業はずっと小売業を続けるために努力するし、観光業はお客様を呼び込むために快適な環境やホテルを運営する。その結果、つまりお客様の満足料が利益になってくる。それが小売業や観光業だった。証券化してしまうと「利益を出して売りぬけること」を優先する。商業要因以外(施設の維持管理面など)のわかりやすい投資はするが、よほどの根拠がない限りなかなか大きな投資をしない。そうするとどうなるか?長期的なビジョンはなくなる。証券化された物件はとりあえず物件価値を上げて、高く売り抜けることを目的としかしなくなる。

「そごう西武」の池袋西武も同じ流れのように思う。ヨドバシが土地代を出し、おそらく百貨店以上の収益は稼げると思う。そこで収益を確定して「そごう西武」を売り抜ければそれでいい。将来おこるだろう環境変化や池袋以外の残りの百貨店のことはあまり関知しない。「文化」を担ってきた西武百貨店は完全になくなる。

金融資産としての考え方と商業や観光業の考え方とには大きなギャップがある。商業施設や観光ホテルはお客様を見て商売し、「お客様第一」と考える。持ち主がファンドなど「金融業」になると、決定権は「小売業」や「観光業」になくなり、当然「金融業」になってくる。将来的ビジョンのジャッジも「金融業」になってくる。現状ではなかなか長期的な計画は決済されにくい。

商業施設のPMをしていて感じることが多かった「どこを向いて仕事をしているのか(お客様不在感)」が、観光ホテル業でも表れてくるのではないかと思う。同じ気持ちで同じ方向を向いて仕事をするのが難しくなるのではないかと思う。

■今日のBGM

最低賃金引き上げ

最低賃金の引き上げで、全国加重平均の時給は1054円になるとの報道がある。いよいよ小売業は大企業しか生き残れないかもしれない。

小売業は「立ち仕事」「土日休みづらい」などの理由で人材不足は続いている。過去の経験から、欠員が出るたびに募集をするが、なかなか応募はこない。年々厳しくなっている。今回の引き上げで今まで時給850円が最低賃金だったエリアも時給900円近くにアップする。ただ時給900円で募集しても間違いなく来ない。おそらく募集相場は時給1000円近くになる。受け入れ側の問題も当然あるが、時給を最低賃料に近づければ近づけるほど定着率は低くなる。そのたびに募集経費は発生する。さらに募集時給を上げることで当然既存のスタッフの給与も上げなければならない。さらに賃上げ分は当然賞与にも加算される。

会社は、給与に加えて社会保険の負担分の50%を支払っている。健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料あわせて約30%の個人負担分の半分15%相当(都道府県により変化する)を負担している。さらに今年の10月から51人以上の会社も週20時間以上の従業員にも社会保険を適用することが義務化されることになっている。

会社にとっては、経費負担がどんどん大きくなっている。

新聞の社説などを読むと、中小企業も賃金引き上げに伴ってシステムの導入を進めたり、省力化の努力をするべきとの意見がある。労働集約型の小売業で、さらに接客ウエイトが高い専門店はどう対応すればいいのだろう。後方の人材を減らしていくしか頭に浮かばない。おそらく後方部隊の経費は最低限まで落としている。どうやればいいのか具体的事例の提案が欲しい。こういう他人事のような意見は必要ない。

人件費を吸収するには売上を上げるか、利益率を上げるかになる。コロナ以降、売上が伸び悩んでいる現状を考えると、売上確保より利益率を上げていく流れにはなる。利益率を上げるにはどうするか?オリジナル商品を増やして商品の原価を下げる。つまり企業商品を作ったり、取引先との別注商品を作ったりして、原価率を下げ、それを販売する。その商品を拡販することによって利益率を改善していく。しかし、それを中小企業がやっていけるか?取引先との別注商品を作るにも、商品コストを下げるのだからある程度の数量が必要になる。そして当然全品引き取りになる。店舗数が少ないと当然1店舗あたりの在庫が増える。売れなければ逆に利益ダウンの要因になる。経験上オリジナル商品を作るには最低40店舗くらいの店舗数は必要だと思う。中小企業でオリジナル商品を作るにはリスクは大きい。

「買い」の商売を続けるにも、現状ほとんど海外生産商品で、為替の問題もあり、取引先の利益も考えると商品原価は上がり、従来の値段を維持しづらい。値段を上げると売れなくなるし、値段を維持すると利益が上がらない。

おそらく、賃貸物件で償却もしなければならない店が5店舗以内の小売業は相当厳しくなってくる。いよいよ小売業は大企業しか生き残れない。

■今日のBGM

きれいに見える商売

日経の記事に「ユナイテッドアローズが年初来高値・・・」の記事が出ていた。6月の速報値が既存店前年比19%増で成長を期待されての買いのようだ。

ユナイテッドアローズ(以下UA)はどうしても見え方がきれいな商売に見える。きれいな店やきれいに見える店は、なかなか信用できなくなってきていて、決算の数字も素直に呑み込めない。きれいに見せるのはすごく努力が必要だとは思う。もうすでにセレクトショップという分類ではなくなってはいるが、旧セレクトショップの位置づけを続けるのは大変だと思う。当然商売だからきれいなことばかりは言っていられないとは思う。

ファッション業界は中間層が減り、2極化傾向は続いている。UAは旧セレクトショップで上場した最も大きな企業だが、おそらく立ち位置は厳しくなっていると思う。おそらく洋服好きは減ってきていて、素材感やデザインが本当に受け入れてくれる客数は減っていると思う。昔、原宿界隈にあったUAが運営してきたセレクトショップもだんだんなくなってきている。周辺の知り合いと話していても、「ちょっと金はあるノンポリの30~50代」の受け皿になっているような気がする。

どこで数字を押し上げているかというと、アウトレット業態だと思う。「みんなユニクロだし、このショップのアウトレットなら大丈夫だろう」感覚で集客し、何とか数字を維持していると思っている。決算資料を見てみるとアウトレットは売上構成比17.2%を占めている。ちなみに店舗数の構成比は12.1%となっている。1店舗当たりの年間売上を計算するとUAなどの分類で6.79億、グリーンレーベルなどの分類で4.13億、アウトレットで8.36億となっている。売り場面積の問題はあるが店舗当たりの売上は最も大きい。さらに会社計の売上総利益率は前年差+0.1となっているが、アウトレットの利益率前年差は+3.5%(前年決算では+2.5%)となっている。アウトレットの利益改善で全体の利益率は改善したという数字だ。

さてアウトレットの利益改善はどうやってするのだろう?まず考えられるのは各プロパー店舗で売れ残った商品の値段を大きく下げないようにして売る事。例えば50%オフで売らずに30%オフで売るということになる。それには細かな管理が必要になる。だがおそらく、ほぼお客様は気づいていると思うが、UAのアウトレットはアウトレット用に商品を作っている。そのウエイトを上げて利益改善したと考えるのが普通だと思う。当然値段を下げるより、作ったほうが利益は出る。「ビームス」「シップス」「ベイクルーズ」などのアウトレットもアウトレット用の商品を作っている。セレクト系で作ってなさそうなのは「トゥモローランド」くらいではないか?

この商売をこの屋号(ブランド名)でやっていいのかどうかわからないが、長い目で見れば、お客様も気づいて厳しくなってくるだろうし、アウトレットに比重をかけるのは、会社の構造が変化して会社自体のマイナスになっていくような気がする。

きれいに見える数字も、会社が考えている本来の商売の結果なのだろうかと思う。

■今日のBGM

売れている店が一番正しい

「真実のある所に人は集まり、人が集まるところに真実がある。」

GMSにいた時代、店の売場責任者から商品部に異動になった。その時の部長がよく言っていた言葉だ。本当かどうかわからないがカナダのウエストエドモントンモールの考え方だそうだ。その部長にはいい思い出はないが、その言葉はずっと頭の中にはある。

人が集まる。物が売れる。金が動く。つまり売れているところが一番正しい。百貨店でもSCでも売れている施設が一番正しい。売れている会社が一番正しい。売れている店が一番正しい。そしてそこに真実がある。ただ真実は時代の流れと共に変化する。

GMSがなくなっていく。中流層を意識したMDは間違っているということだ。地方百貨店もなくなっていく。本当の金持ち層は少なく、「憧れ」を持った中流層も大幅に減っているからだ。商圏人口が大きく、本当の金持ち層が少なからず存在する都心しか成り立たなくなっている。その金持ち層に加えて外国人が増えてきて現状は一部の百貨店には真実があるということだ。

専門店も分かりやすい。近年ずっと好調のユニクロやアダストリアなど。それに反してフェイドアウトしていった企業。タイムサービスを連呼していた企業の真実は何だったのか?どこに真実があったのか考えると消えていった企業の理由はよくわかる。

売れている店、売れなくなってきた店には原因がある。それを冷静に分析し続けることが間違いなく成功の秘訣だと思う。

売場は整然としてきれいだし、演出も完璧だけれど売れない。商品がニーズとあってないのかもしれない。逆にもっと値段を打ち出したり、ボリューム感を出したりしたほうがいい場合もある。逆に売場は雑然としていて、細かく手が入っていないけれども、安定して売れている店もある。品揃えよりも、接客体制や、売り場内のチームワークが売場のムードを変えていたりする。いいところと悪いところを両方から見る必要がある。判断基準は多方面にある。いろんな方向に真実はある。余談かもしれないが、今までの経験から、売上の良し悪しは「人」によるところが大きい。繊細に考えて売場を構築する商品志向の店長より、人的マネジメントに優れている店長のほうが数字を作るのはうまい。

「売り場はよくできているのだけど・・」売れてないのは真実がないから。「売り場は雑だけど」売れているのは真実があるから。「MDや売場作りは間違ってないのだが・・」腕を組んで考える前に、一度冷静に逆方向から原因を考えてみたほうがいい。

実は、ここで書きたかったことはそういうことではない。昔デベロッパーに言われた「このMDはどこでもできるMDなので、うちのSCには必要ない。」という言葉への反論だ。愚痴だ。月坪350千以上の売上を計上して、さらにその10%以上の支払いをしているテナントへの評価だった。売れているから少しでも真実はあるはずだ。メインフロアにもなく、近隣のテナントよりも当然効率は高かった。ちなみにGMSの平場は月坪100千も売れてない。

「真実」の尺度も難しい。

■今日のBGM

中小小売業の現状

近年大型モール(RSC)は「大箱化」が進んでいると書いてきた。それにより逆に大型モールの坪当たり賃料も減ってきているのではないかとの推論もある。近年の専門店の出店は「大型化」に対応できる大企業が中心で、大企業以外での新規参入はほとんど見られない。

現状、中小の小売業を取り巻く環境は非常に厳しい。もともと小売業は個人の能力で立ち上げることには限りがある。店を作るのに金がかかるし、出店するにも敷金など必要になってくる。さらには売りたい商品を仕入れるには、スタート時点で高い仕入れ代金(原価)を必要とする。

まず、中小企業の仕入環境がどんどん悪化している。もともとブランドセレクトの店は価格の決定権が取引先にあり、なかなか儲ける商売はできない。着実に店のイメージを固めることによって、儲ける商売にステップを上げることができる。海外で作ったり、ロットを増やしたりして商品の原価を下げていく。周知のことではあるが、円安が進むほど値段の設定が難しくなり、コストの整合できても当然ニーズは集中しており、納期が遅れてくる。会社の規模によって、調達が難しくなってきており、利益を出す商売がしにくくなっている。

次に、出店環境だが、ここまで何度か書いてきているように、コロナ以降SCの収益がダウン傾向にあると思う。その現実の下、当然賃料を融通できるSCはほとんどない。流れが悪く環境が悪化したSCも多いが、そこに大きな改装投資はできない。中小の小売業を育てるリーシングをできる環境ではない。逆にある程度の賃料で空床を埋めることを目的にした改装(通信系などの導入)や、テナントの大型化が進んでおり、スタートアップ企業や出店を検討している中小小売業は参入しづらい。大型モール創成期のように「店を育てる」余裕は全く感じない。

人的環境も厳しい。最低賃金は大幅に上昇しており、全国の加重平均時給は1004円で、東京、神奈川はすでに1100円を超えている。先日の日経新聞の記事では厚労省は、最低賃金「50円上げ議論」を進めていくという。さらに2024年10月からは51名以上の中小企業にも短時間労働者の社会保険加入が義務付けられていくことになっており、当然会社負担も増えていく。立ち仕事であり、さらに土日労働で、不人気業種になりつつある小売業に人材が流れてくるとは考えづらい。おそらく高年齢化が進んでいくと思う。

打開策はあるのか?なかなか現状中小小売業は打つ手がないと思う。もし、今会社を続けていればどうするだろうか?本当に戦える立地で確実に儲かる条件以外には出店しない。商品政策に関しては徹底的な在庫削減と細かな商品動向をチェックできる体制を作る。さらに、内部統制を図るため、現状の規定を見直し、修正する。攻める体制への再整備というところか?

業界としては、デベロッパーが小売店を育てる気概を持つことだと思う。MD面で必要な企業には出店条件を緩和させるとか、好立地に出店させるとかするべきではないかと思う。さらに「売れている」店を、批評をせず素直に評価してほしい。

いずれにしても、中小小売業は我慢の時で、内部に目を向ける時だと思う。

■今日のBGM

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