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定期借家契約 ➁・・・ 撤去工事

前回、退店時のことを書いていて、ちょっと引っかかっていることがあり、そのことを書いてみる。ただ、この問題の正解はわからない。

退店時には契約上、工事区分でいうB.C工事の撤去が出店側の負担区分となっている。現実としては、その工事の負担金額はデベロッパーとの調整によって違っており、同じデベロッパーでも、個別のSCによっても違うことが多い。つまり、後継テナントとの話し合いで残存を希望する什器があればそれは撤去せず残すことができ、その分撤去工事の経費が減らせる。その調整をしてくれるSCのスタッフや内装監理室の担当によって撤去金額は変わる。ただしこれは交渉事であり、あくまで契約上はスケルトン渡しになっている。

いろんなことがあったが、何件かをここに書いてみる。

・後継テナントが決まっていたにもかかわらず、そことの調整はなしで契約書通りほぼスケルトン渡しとなった  

→ 契約書草案で「デベロッパー指定の業者が撤去工事を実施」とあったのを苦労して「他の業者も併せて検討する・・」のような契約に緩和してもらった。ただし、そのためか後継テナントとの話し合いはなかった。オフィスビル中心の不動産系のSCで子会社が施設管理をしており、全く融通が利かなかった。ちなみに後継テナントは1年前にはほぼ出店は決まっていたと後日聞いた。ほぼ敷金は帰ってこず、退店13店舗中最も撤去工事費は高かった。現実的には間違いなく撤去工事の調整はできた。

・B工事撤去の見積もりが異常に高く、添付された詳細図面をみたら自社の区画でなく、売場面積が5倍くらいある他区画の図面での請求書が届いた

→ 日本で一番大きい企業。こちらから確認の電話をして、後日修正の請求書が届いたが、あるべきでない事。C工事の 撤去に関しては後継テナントと細かく調整してくれた。

・使える什器は使い、天井照明もそのままで、足らない什器や環境に手を入れて出店。契約時に引き継ぎ時の売場写真を細かくとり、その状況を現状として契約書の覚書を作り契約した。

 →当然のようにスケルトン渡しでの請求があった。個別面談をして契約書の再確認をしてもらいデベロッパーに納得してもらった。面談するまではかたくなに拒否された。

撤去時にもめることは非常に多い。何よりもお互いに前向きな仕事ではない。デベロッパー側とテナント側とのはざまで、工事に関してはいろんな問題が出てくる。特に退店は営業数値が厳しい状況だった店がほとんどで、退店時に発生する経費が大きくなるとそのまま損益に響く。大企業は別だが中小企業ではできるだけ経費を抑えたい。細かく打ち合わせをすることが間違いなく必要で、後ろ向きの仕事にはなる。後継テナントの声も交えてプラス要素に導ければデベロッパー側にもメリットが出る。そう考えて交渉してもらえればスムーズに進む。ただデベロッパー(オーナー企業)とは違うPM業者が管理していると、さらにワンクッションはいるのでそれも難しくなる。

最後に、少し外れた感想を書く。大手デベロッパーほど中小企業へのケアは薄い。当然一概には言えず、担当者にもよるが、退店時の対応だけでなく営業面の問題も同様に感じた。出店が近隣エリアに固まったり、同じデベロッパーに集中したりすることは、会社の政策だけでなく、友好なリレイションシップがそうさせたことも大きな要因にはなった。

出退店に関しては、契約書を細かく読み込み、疑問点を理解するまで交渉する事、そして営業の担当者(本部、店)とは良好な関係を持っておくことが非常に大切なことだ。

■今日のBGM

定期借家契約とやっておくべきこと

振り返ってみると、以前の会社で12店舖退店している。今になって、そんなに退店していたのかと思う。結構な金と労力を使ったなと思う。

自社の出店の教訓として2つの結論を得た。SCでは3階以上に出店しないということ、最低売場面積を設定すべきということだ。新規で立ち上げるとどうしてもデベロッパーより立場が低くなり、「出店させてもらう」立場になる。そうなるとあまり強い主張はできなくなる。ちなみに退店した12店舗中7店舗がSCの3階以上で、最低設定売場面積より小さかった店は5店舗あった。それでも契約満了までに退店した店は1店舗しかない。

その中で不本意な退店が3店舗あった。すべて契約満了時の話し合いで、デベロッパー側から「定借満了」で再契約しない旨伝えられた。そのうち2店舗は継続の意思が強かったし、もう1店舗も条件交渉次第では残る意思はあった。現状のテナントの出店契約は5年か6年の定期借家契約であり、そうはいっても話し合いにより再度新しく契約を結ぶことが多い。ただ3店舗ともほぼ次のテナントは決まっていたようだ。そして、自店は平均以上の坪売上はあったと思うが、代替場所の提示はなかった。

その3店舗とも後継テナントは大手資本の会社であり、おそらく政治的なもので、条件も自店のほうが高かったと思う。そういうことは今までの慣例や、伝聞でいろいろ聞いてきた。当然、企業は1つのSCの収益より会社のメリットを優先する。例えばそこに出店することで他のSCへの出店を決めたり、複数店出店の1店となったり、双方の政治的メリットが優先される。3店舗のうち1店舗は隣接の大型店舗の拡大で、おそらく歩率要素が高い契約だろうから、固定賃料だった自店のほうが賃料は高かったと思う。それでもSCとしての賃料は減っただろうが、それにより他SCへの出店というメリットがあったようだ。もう1店舗も大量出店の一環で、間違いなくそのSCの賃料もダウンしたと思われるが、他のSCの空床の解決にはつながったと思う。3店舗とも自店の売上はSCの平均点以上だったが、代替区画の提案がなかったことから、そこまで必要なテナントとされていなかったのかもしれない。ここで思うことは、SCの動向を把握できなかったことにある。退店が増えたコロナ期が重なったことも大きい理由にもなる。

課題として挙げられるのは、完全にコミュニケーション不足ということだ。社長として毎月1度は臨店していたが、もう少しデベロッパーとの話し合いをするべきだった。同様のことがエリアの責任者にも言えると思う。

ただ一番大事だったことは、会社として必要な店なら、さらに良くしていこうという考えを持たねばならなかったということだ。定借終了1年前には、再度自店の流れを詳細にデータ化し、どうしていくべきか社内決定すべきだった。そしてそのタイミングで、商品政策も含めて再投資をかけての売場リニュアルも検討すべきだったと思う。退店すれば当然撤去費用がかかる。その分を改装費用にも充てられる。さらに、別区画への移設の提案をしてもよかった。今になって定期借家契約のプラスの意味も考えるべきだったと思う。

大事な店は、そのままにせず、さらにブラッシュアップをすることが必要なことだ。再契約期は、それを考える貴重な時期だととらえるべきだった。

■今日のBGM(追悼 エディ藩)

大手アパレルの行く先は?

前回、「オンワードクローゼット」について簡単にコメントしたが、昔の大手アパレルはこういう残り方をしても、あと十数年で需要がなくなるのではないかとも感じている。ここでいう大手アパレルとは百貨店型アパレルで「ワールド」「オンワード」「イトキン」「三陽商会」を指す。もともとはここに「レナウン」も属していた。「ワールド」「イトキン」は専門店中心からスタートし、「オンワード」「サンヨー」は百貨店主軸というイメージを持っていた。

大型モール(RSC)スタート期から百貨店以外の販路として大型区画を立ち上げてきた。当初は鮮度があり、SCの顔として出店も多かったが、現在は当時のショップのほとんどは見かけなくなった。おそらく過去の顧客ターゲットとの差が大きく、売れる商品や値段も違ってきて、今までの落ち着いた商売ができなかったのではないかと思う。展示会中心のサイクルから短サイクルに変わると商売も当然変わっていく。販売体制の違いも影響していたように感じた。

60代以上の客層には、百貨店メーカーというイメージは強くインプットされている。そういう意味でSCでも「オンワード」「ワールド」などのメーカー名を打ち出して、もう一度ブランドを整理して提案すれば、その世代の客層には響く。ただその客層もどんどん減っていく。

大手アパレル4社の売上だが、ワールドが2010年3141億から2024年は2023億、オンワードが同じく2486億から1896億、三陽商会が1121億から614億、イトキンは非上場で調べた数字では2001年1424億から2024年は321億となっており、すべて大幅ダウンしている。中心販路だった百貨店がどんどん減っていけばこういう数字になってしまう。

逆にRSCの流れから小売専門店大手の数字は大きく伸長している。売上推移でユニクロは2010年8148億が2024年に3兆1038億、無印良品は1643億から6616億、アダストリアは977億から2756億、パルGは699億から1925億になっている。

今後の百貨店の流れを想定しても、都心部くらいしか生き残れそうにない。当然「脱:百貨店」を考えるしかない。その流れで、色の違う企業の買収も進めている。ワールドは子供服の「ナルミヤ」や雑貨の「212キッチン」などを買収し、最近では「ライトオン」も傘下に入れた。古着の「ラグタグ」にも出資している。オンワードも「ウィゴー」や「クリエイティブヨーコ」を買収している。両者とも買収により、企業の色を広げようとしているようにも見える

ただ、新しい風を会社に迎えても、会社の風は変わらないと思う。今まで「小」(被買収企業)が「大」(買収企業)の流れに乗らずに、その個性が変わらなかった例は非常に少ない。今回の買収例で成功しているのは、比較的土俵が近い「ナルミヤ」だけではないだろうか。大手アパレルの社風は絶対に変わらないし、その流れが買収先にも影響する。流れが変わっていたなら、RSCの流れになった時点で変わっている。RSCの流れに乗れなかった現状では、百貨店主導の色は変えられない。おそらく「ライトオン」も「ウィゴー」も、絶対に上向かない。両ブランドの今までのSC戦略での「強み」は消える。今後はRSCからCSC,NSCの時代に変わっていくと思うが、当然その波にも乗れない。

ユニクロに慣れ親しんだ層が、再度百貨店に向かうとは考えられない。大手アパレルに、もうプラス要素はほとんど見えない。百貨店の流れと同じ運命を歩む。

■今日のBGM

近隣の商業事情から見えること

食品の買物には最寄り駅の武蔵浦和駅に行くことが増えた。駅前の新築マンションに併設してヤオコーができたことが大きい。駅前はどんどん高層マンションが建設され、人が大幅に増えた。比較的若い層が多く、よく行っていた市民プールが取り壊され隣接していた小学校を拡大するとのことである。市の広報によると現状の小学校が22000㎡になり生徒数も2000人の規模拡大と発表されている。駅の乗降客数を調べると1日93000人となっている。

駅近辺に「無印」と「ユニクロ」があれば、絶対に大型店並みに売れると常々思っている。ヤオコーオープン時に2階以上に出店していれば相乗効果は大きかったと思う。近隣のさいたま新都心は駅乗降客が1日99000人で、駅直結の商業施設コクーンシティは2023年429億の売上がある。当然駅の役割は違うが、これだけの乗降客数で武蔵浦和駅近郊の商業規模は小さすぎる。完全に、ベッドタウン化が進んでおり、急激な開発により、商業が抜け落ちている。賃料が合わないからかもしれない。

近隣の浦和パルコが好調で、2025年2月期で315億円と11%の伸長だったようだ。パルコの売上高では渋谷、心斎橋、名古屋に次ぐ4番目で、インバウンド比率がほとんどないにも関わらず伸びており、日経新聞にはテナント構成を3つのカテゴリーで組み合わせて成功していると書かれている。1つはデイリー要素、2つ目が先端を走る専門店、3つ目がポップアップストアとなっている。

きれいごとで評すると、新聞の記事通りだが、結局はデイリー要素をうまく取り入れたことに尽きる。「先端を走る専門店」や「ポップアップストア」はパルコの得意とするところで当然ここを中心に2007年にオープンした。食品SMはオープン時「大丸フードマーケット」で高級感を打ち出していた。上記した2つ目、と3つ目の要素で固められておりファッション服飾の売場中心で大型テナントは少なかった。所謂、パルコらしい店で、パルコとしてもあまり好調店ではなかったと思う。10年後食品SMが地元密着の「ヤオコー」に変わったころから1つ目のカテゴリー「デイリー要素」を打ち出し始めた。確認したところ1階~4階までの専門店はオープン当初は161あったが現状は92区画に減っている。ここからデイリー性のある大型区画を増やしていく。2階に「ノジマ」3階に「無印(増床)」「ロフト」「ユザワヤ」「3コインズ」4階に「GU」「島村楽器(増床)」を導入している。

浦和は西口に県庁や役所、銀行などが多く、商業では「伊勢丹」があり、街のイメージは「プライドが高い街」と言われている。その流れでのパルコ中心の東口再開発だったが、足らない「デイリー性」に変えて好調に転じている。ただ、パルコと地権者の契約内容はわからないが、大型テナントの賃料は小型テナントよりは当然低い。売上増分で吸収できているのかしれないが、収益面の構造がどうなっているのかは見えない。ちなみに浦和駅の乗降客数は176000人となっており、浦和駅と武蔵浦和駅はバスでしか直結しておらず、電車では乗り換えが必要になる。

今後「ユニクロ」や「無印良品」の売上は乗降客数が多い大都市近隣駅のほうが大型モールより大きくなっていくと思う。インフラとして食品SMと同じ位置づけになっていくように感じる。極論だがショップの有無がその駅近郊を選ぶポイントになっていくかもしれない。そういう意味では大型モールが「ユニクロ」「無印良品」をメインにリーシングしているということは、もうすでにその商業施設が大型モール(RSC)の位置づけではなくなっておりNSCやCSCになってしまっているということだ。

イオンはイオンモールを子会社化してCSCやNSCの開発に力を入れると発表されている。このブログでも取り上げているが、「ユニクロ」や「無印良品」は、出店に関して大型モール中心ではなく独自の出店を続けている。商業施設の流れも間違いなく変化していく。

■今日のBGM

標準化されると成長は止まる

小売専門店を経営していると、SCに店舗を出していこうとする。わざわざ感を持つ店でない限り、それは当然のことになる。施設数の多さから、RSCではやはりイオンモールへの出店が、企業としての拡大策としては不可欠になる。ただ、それが企業の成長を止めているようにも感じる。

以前経営していた会社は多い時には27店舗あったが、売上ベスト5店舗にイオンモール内の店舗は1店もなかった。その5店舗のうち3店舗はもうない。SCがなくなった店が2店舗、あと1店舗は交渉決裂して退店した。そこには、癖があり粗削りだけれど魅力のあるSCが消えていき、イオンモールやららぽーとなど標準化されたSCばかりになってきたという背景があると思う。売上上位だったSCは、「やれるのならどうぞ」的なリーシングで、比較的賃料も高かったが坪数も大きく、売場をいろんな角度から見せることができたように感じる。

特に、国内ではRSCとして最も施設数が多いイオンモールが標準化され魅力がなくなってきている。これだけモールの出店数が増え、当然収益面でのシミュレーションも現実的になってくるとあまり冒険を冒しづらくなってくる。つまり標準化は進む。大体どこでも同じラインナップで店の規模も変わってこない。SCの個性が出なくなってくる。3層あれば、ほぼフロアのテナント構成は大きくぶれない。出店の際も、商談でだいたいどのフロアでどれくらいの大きさを提案されるかわかってくる。想定外の時は他テナントのキャンセルがあった時くらいだった。(そういう時はいい場所が来る。)つまり大崩れはしないが大化けもしない区画の提案が多かった。

従来のRSCとしての広商圏での出店はそれでよかったが、近年は商圏内に複数のRSCがあることも多い。モールとしての差別化がわからない。結局GMSがなくなっていったのと同じ道を歩んでいるように見える。そして、当然テナントリーシングも標準化されてくる。モールの収益は各テナントの数字の合算なので固い数値が必要になる。より効率を上げるため、リスクあるリーシングもしにくくなる。

一方、出店側もデベロッパーの要請に合わせて店が標準化されていく。それによって店が小さくまとまっていく。出店側からの意見や提案が通りにくくなっている背景もある。

後に、出店側として冷静に考えれば、それは正解でなかったように思う。前述したようにイオンモールでの出店で標準化の流れに乗ってしまった感はある。ただ、店も成長していくし、チャレンジしていきたい方向もある。小さく標準化していけば、小さな安定感しかなくなる。店としての次のステップが見えてこない。規模が大きかった店は、賃料もかさむが、そのプラス分の面積で違う主張もできていた。そこがスタッフのモチベーションアップにつながり、売上も上がっていったようにも感じる。

近年、RSCに多く出店していた会社の規模が小さくなっていくケースも多い。特にイオンモールには新鮮なテナントは現れていない。標準型のRSCが増えるだけの状況化の中、無印良品のRSCへの出店が減って、独自路線の出店になってきているのはそういう背景があるからかもしれない。

■今日のBGM

イオンモールの完全子会社化

先月末、イオンはイオンモールの完全子会社化を発表した。これによりイオンモールは上場廃止となる。イオンは「建設資材の調達などでグループ規模を効率的かつ効果的に活かす」と発表している。さらに子会社の収益をイオン以外の株主に流出することを防ぐとも説明している。 

このブログでもイオンモールの個性化がどんどん薄れていき、当初大型ショッピングモールとして出店した時のインパクトがだんだん弱くなり、魅力がなくなりつつあると書いている。さて今後はどういう方向になっていくのだろうか?以下、私の今までの経験から個人的な見解として記してみたい。

イオンにはイオンの礎でもある、イオンリテールという会社がある。主にはGMSを運営している祖業である小売業の会社である。しかし、イオンリテールはイオングループの中核企業だが上場はしていない。多数あるイオンモールにはイオンモールのモールとイオンリテールのモールがある。何度か書いているが、自宅近隣のイオンモールでも、イオンモールのモールは川口、川口前川、レイクタウン「kaze」があり、リテールのモールは戸田、与野、浦和美園、レイクタウン「mori」がある。一般のお客様にはわかりにくいが、テナントのグレード感やモールスタッフの対応は違っており、ここではダイアモンドシティの歴史も併せ持つイオンモールのほうがやはり安定感はある。イオンリテールのモールもPM(運営管理)はイオンモールがしているが、決定権はなくスムーズな運営ができていると思わなかった。過去、15店舗以上イオン系のモールに出店したが、イオンリテールのモールはすべて退店した経緯がある。

さて今後考えられることは何か?おそらくイオンリテールのモールはすべてイオンモールが管轄していくと思う。これで、イオンリテールの仕事が明確になり、モールへの投資等もイオンモール主体となり、旧イオンリテールのモールの改善は進む。そしてイオンリテールも投資は主たる業務の小売業に向けられる。これが一番の改善ポイントになる。さらに今後、CSC(コミュニティSC)やNSC(ネイバーフッドSC)は間違いなく注目される。従来のGMSを作り出したように、新しいSCの開発に目を向けていける。古いSCに新しいテナントなどの導入で活性化できるし、特に前述した小型物件の開発も他の子会社と連動できる。

ただ、ここからのイオンモールのモール事業はどうなっていくのか?まず、RSC(郊外大型モール)の理想形からはどんどん離れていくような気がする。現状のイオンモールは間違いなく伸び悩んでいる。2024年2月期の営業利益ではコロナ前の2割強ダウンしている。RSCとしての評価も、明らかに「ららぽーと」に負けている。その最たる理由はGMSのイオンをキーテナントにしていることに起因している。もう大きな面積でGMSをゾーニングする必要はない。すべてカテゴリーキラーで賄える。そしてそのほうが集客もできる。SMでさえイオンリテールでは勝てないかもしれない。つまりイオンリテールの売場(特にGMS)を切り捨てていくことができるかどうかが成功の鍵にはなるが、イオンの方向性を考えると、おそらくそれはできない。つまりRSCとしての進化は、まちがいなくなくなる。

今回のイオンモールの子会社化は「脱RSC」へ進むような気がする。そしてGMS事業は今後も続けていくという意思表示なのかもしれない。

■今日のBGM

客層を選ぶのか、客層に合わせるのか?

各社の1月の売上速報を見て、ブログを書き始めて途中でやめた文章が残っていた。それを読んでいて、まとめきれなかったのだが、少し修正をしてみようと、再度書いてみることにした。

タカキューの数字を拾っていて、間違って第3四半期決算資料を開いてしまい、それを見ていた時に感じたことだ。数字に関しては改善を示しており、今期決算でどういう着地になるのかというところだとは思う。ただ、決算概要の中に「再成長に向けた課題解決」という項目があり、理路整然と示されているのだが、現実としてどうなのかと少し引っかかった。きれいな言葉で書かれてはいるが、現場はそう動くかなと思った。ターゲットを明確にしてMDを再設計するということだが、いかにも書類上のことのようにしか思えなかった。

タカキューはイオングループの会社だったし、まだ現在でもイオンは大株主ではある。イオンという会社は、やはり大企業であり、明らかに昔の小売業ではない。短期間だが、仕事をしてきてそれは痛切に感じた。特に従業員教育に関しては驚くほどの内容があり、小売の勉強をしないとついて行けない厳しさもあった。タカキューが、その環境下にいたということは、おそらく政策論は十分やりつくしているのではないかと思う。小さな変化は当然あるが、再成長に向けた今回の実施施策が、どれだけ従業員に響いたのかはわからない。外部から新しい風を入れて変革しようというのはわかるが、従業員はもう疲れているのではないだろうか?

私自身も明確にわからないので、文章がまとまらなかったのだが、一番気になるのは「ブランドを再定義する(ポジショニングを変える)」ことは正しいのかどうかということだ。このブログの標題の「お客様を選ぶのか、お客様に合わせるか?」が明確でなく、そこが一番すっきりしない。長年商売をしてきて、お客様が離れていった。その結果、数字が悪化している。離れていったお客様を再度呼び込むためにお客様に合わせるのか、きちんとした戦略を立てて、再度お客様像を変えるのかということだ。しかし出店場所は大きくは変わらない。従来のお客様がターゲットになる。新しいお客様を引き込めるかどうかのリスクは高い。

そして、再定義したポジショニングが得意な販売チャネルはどこなのか?どこにするのかも明確にする必要がある。ショップ運営で大事なポイントだと思う。ただ、今はもう自社のブランドポリシーを推し続けていくより、お客様に合わせていくしかないような気がする。もし「お客様を選ぶ」方向なら、今の出店政策を根本的に変える必要があるように思う。

この「再成長に向けた課題解決」を見ると、今まで繰り返されてきたことの焼き直しで、きれいごとにしか見えない。現場感が見えてこないこと、具体的な戦略の変化が見えないことを、従業員がどう捉えるのだろうか?そこが、変革のポイントになるだろうと思う。

やっぱり、書き直しても、うまくまとまらなかった。

■今日のBGM

店舗大型化への壁

先日、「グローバルワーク」が増床改装で売上を上げていき、アダストリアのコアブランドにしていくという記事についてコメントした。売場を大きくするということを、簡単に政策に上げるが実は非常に難しい。大型化したためになくなっていったショップは数多くある。

RSC(大型モール)を主な出店場所とするなら、売場は50坪以上で組み立てたほうがいいと思う。40坪くらいまでの小型店と、それ以上の中型店では条件面で差が出てくる。おそらく近年はその傾向が強いのではないだろうか?特にリーシングに苦労しているSCにとっては、空床期間は短くさせたい。さらにある程度の大きさのテナントを導入させたい。そのためには若干の条件面での優遇はある。例えば坪当たりの最低保証の金額を低くしたり、最低保証をなくしたりして歩率のみにする交渉も可能になる。

例えば、40坪が適正だったボリュームゾーンのメンズカジュアルの店で、売場を広げるには何をするか?まずプライスラインの幅を広げる。ブランド商材を投入したり、高感度商材を導入したりする。値段の幅を下に下げるのはなかなか厳しいので、ボリュームゾーンを厚くすることも当然考える。メリットはグレード感が出ることだが、デメリットは「値段が上がる」ということになる。さらに、カジュアルからドレスへの幅を広げることも考えられる。それにより、客層の幅は広がるが、ここでのデメリットは「客層の変化」「商品回転率の悪化」があげられる。雑貨類の拡大もある。ここまでになると、「商品品揃えの得意、不得手」というポイントも出てくる。アウター、カジュアル、雑貨とも仕入れの視点が変わってくる。それだけに品揃えの偏差値は上がる。つまり、現状の店に絶対プラスすべき商材やブランドなど必然性がなければ、大きく売場は広げにくい。

最も安易に考えれば、レディス衣料を加えて世界観を広げることだが、これは一番危険な取り組みだ。まず商品サイクルも違うし、見せ方も違う。同じ目線で品揃えできる人間は数少ない。MD型のショップでは全体のまとめ役が必要になり、その責務は大きい。このやり方で売場を広げて成功した例はブランドショップぐらいで、MD型のショップではあまり見たことがない。

商品だけの問題点も上げたが、当然「人」「金」の問題も出てくる。売場が大きくなってセルフ販売に変えるのならいいが、従来の販売方法を続けるなら、当然人員を増やす必要がある。つまり人件費は増える。さらに拡大することによる内装費や経費負担も増える。それを吸収できるだけの売上増は当然必要にはなる。

さてどうすればいいか?もう一度ゼロベースから店のコンセプトを作り直していく必要がある。例えば、ユニクロのように「シーン」は強調せずに、「商品」「値段」だけを大きな切り口にしたり、無印良品のように「世界観」を決めて、その「世界観」を共有してあらゆる商品群を品揃えしたりする。両者とも目線を揃えるべき「決まり」が必要で、そこをジャッジすべきマーチャンダイザーがいる。つまり最初からショップのブランドを作っていくしかない。

単純に売場を広げたり、客層の幅を広げたりするには、多くの検証が必要で、安易に決定すべきではない。今まで築いてきた店のMDテーマがぼやけていくことが一番の致命傷になることが多い。

売場の大型化には、最初からブランドを作りかえるほどの労力が必要になる。

■今日のBGM

専門店の出店場所 ②

今の商業施設を別の角度で分類してみる。嗜好品の比重によって分けてみたい。

最も比重が高いのは、都心部にある百貨店になる。従来の百貨店はもう都心部にしかなく、地方百貨店はこのくくりには入らない。次に都心の専門店中心のビルで駅ビルもこの中に含まれる。ファッションビルがなくなりそのターゲットも取り込むが、ここも都心部に限られてくる。都心以外の地方百貨店で上位ランクのお客様はもう地方では買わず、都心百貨店を利用する。つまり嗜好品を購入する層は大幅に減っている。

RSC(大型モール)は明らかに「ららぽーと」のテナントリーシングが他のモールより上回っている。「ららぽーと」がなく競合が少ない(所謂タヌキが出るような)エリアでは、大型モールの「イオンモール」などが昔の地方百貨店に近い立ち位置になっている。

その他のRSCは従来のGMSやSMと同様、食品と日用品など買い廻り品のニーズが高い客層になっている。RSCのSMの内容次第では強い個性を持つSMより集客力がなく、RSCの吸引力も弱まってきている。RSC内のGMS(例えばイオンモールのイオン)は差別化の要素もすでになくなっているように感じる。

つまり、嗜好品を求める客層は大幅に減り、デイリーユースの客層が大幅に増えている状況にある。

衣料品や生活雑貨の専門店の中には、近年SCの集客に頼らず自社のMDだけで売上を確保できる自信を持った専門店が多く出てきている。つまり、「ルミネ」でなくてもいいし「ららぽーと」でなくてもいい。その商業施設のターゲットでなくても、自社の商品が好きで来店してくれる顧客だけで商売できる、マイペースで出店を考える専門店が増えてきている。

「ユニクロ」は駅ビルの高層階の出店にメリットを感じなければ、駅周辺の路面店に出していくし、「無印」も近年はRSCの一角で規模感が合わなければ、自分の世界観が出せる場所で出店する。特に近年は両社とも「生活感のある顧客層」へもアプローチしている。もともとターゲットがフル客層だし、嗜好品の比重もない。そしてお客様を選ばない。そうなれば、来店頻度が高くデイリー性の高い商材が多いSMなどと共存することも、立地条件の高い都心部への出店と同様のメリットも出てくる。

RSCは一部の施設を除いては、狭商圏化している。駐車規模などのメリットは当然大きいが、利便性は低い。RSC出現まで中心だったGMSなどは、立地と大きさで再注目されるように感じる。リニュアルコストを抑えて、さらに前述してきたような生活感あるテナントミキシングができれば(必ずしもSCでなくてもいい。フリースタンディングでもいい。)十分に活性化できるように思う。そしてそうなれば、そこは、従来のいろんなSCへの出店より、魅力があるように感じる。

「ユニクロ」や「無印」さらに「ニトリ」などがRSCから消えれば、さらにRSCの魅力は弱くなる。そういった客層の幅が広いデイリーユースのテナントを呼び込めれば、RSCよりCSCのほうが魅力的になる。

専門店の出店場所は変化してくる。専門店は現状の既存店の動向に加えて、新規出店の状況を慎重に見定める必要がある。

■今日のBGM

専門店の出店場所 ①

「小売業はお客様を見て品揃えするのか、コンセプトを貫いて品揃えするのか」という内容でブログを書いていたのだが、出店する場所によってやはりMDも経費率も変わってくるので文章が止まってしまった。少し出店する商業施設の変化についてまとめてみたい。

まず、駅ビルか郊外の商業施設か路面店に分けて考える。

駅ビルは大都市か地方の中心都市しか売上は望めないだろう。2023年の売上データでは梅田ルクア883億、相鉄ジョイナス643億、JR博多598億、ルミネ新宿473億、エスト472億など大都市の駅ビルが上位を占めている。当然乗降客が多く、中心地にあるので賃料は高い。通勤客が多いのでキャリア層狙いとなる。そうなると出店するショップは大手アパレル系の直営出店や大手専門店が中心になる。出店コストも高いのでなかなか中小の専門店の出店は厳しく、出店ができても郊外都市の駅ビルしか想定できない。

路面店は大都市の都市部ではお客様が流れるが、郊外に行けばフリー客は少なくなる。わざわざ来店してもらえるような商品の品揃えでなければ、間違いなく成り立たない。さらに店舗イメージを上げなければならないので、内装や什器には金がかかる。近年は幹線道路沿いに、ユーズド系の大型店舗も見られる。

郊外の商業施設は敷地面積5万坪以上のRSC(リージョナルSC)と1.5万坪~5万坪までのCSC(コミュニティSC)、それ以下のNSC(ネイバーフッドSC)に分類される。近年出店が多いイオンモールやららぽーとがRSCに分類され、昔のGMSがCSC、スーパーマーケットを中心にしたSCをNSCと考えればわかりやすい。イオンモールは公式に売上を発表してないが、ららぽーとの2023年度売上では、ラゾーナ川崎883億、東京ベイ628億、エキスポシティ519億、富士見514億、豊洲488億と大きな売上になっている。イオンモールはレイクタウンを別として近年500億以上の施設はほぼないか、少なくなってきていると思う。現状専門店の主な出店場所はここになる。ただ食品以外のイオンのGMSに魅力がなくなっており、さらにモール出店過多エリアでは2階、3階の空床が多くなっている。ターゲットが合えば出店交渉も進みやすいのではないだろうか?それでもあるレベルの出店費用は必要になる。

現状、イトーヨーカドーや西友の売却などがあるGMSはもう成り立ってはいない。建物も老朽化している。逆にSMは生活必需品であり各社しのぎを削っている。出店も多くなっている。つまり、CSCの衰退とNSCの活性化が現状では進んでいる。ただ数多くのCSCは既存のGMSで残っており、今後どんどん改廃が進んでいくと思われる。

このブログでも書いているが、近年、RSCは出店過多で本来の商圏(車30分圏)内に競合SCが乱立しており、各モールのショップMDも大きな変化がないため、完全に狭商圏化している。所謂RSCのCSC化を感じている。逆に現状のCSCの改廃を進めれば、中途半端なRSC並みの売上は十分可能なのではないかと感じる。さらに活性化してきているNSCはその近辺に大型専門店を呼び込むことで大きな商業集積にもなっていく。

近年少しずつ商業施設の変化が出てきており、今後の小売専門店の出店場所も変わっていきそうな気がする。

■今日のDVD

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