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ららテラス川口

見た第一印象は「大丈夫?」だった。

売場区画を作りにくい地形、食品売り場に「?」、テナントのターゲットに「?」。駅前の1等地物件が、空いたままだった理由がよくわかった。

川口市は人口約60万人。隣接駅は東京都赤羽駅。通勤に便利で、駅周辺には大型マンションが多い。クルド人問題で取り上げられ、外国人も多い。昔は駅前にそごうだけでなくマルイもあった。さらに郊外にも大型RSCのイオンモール川口前川、イオンモール川口もある。JR川口駅の1日乗降客は149千人で埼玉県では5番目の多さとなっている。

「ららテラス」の他施設を調べてみると、地域密着型で比較的買いやすいテナントが多く、わざわざ感より、利便性を重視しているように見える。ただ、旧川口そごうの物件であり、デッキで駅と直結しており、何よりも11階建てで3万㎡近い売場面積がある。そごうの売場面積は32621㎡となっていた。床はおそらくそごう時代のままで、「からくり時計」も復活している。所謂、百貨店のハコのままになっている。

沿線の大宮には、百貨店が2つあり、ルミネ、丸井がある。浦和には伊勢丹とパルコがある。百貨店は川口にはもういらないことは実証済み。駅ビルスタイルにするのか、従来の「ららテラス」ターゲットのするのか非常に難しかったのではないだろうか。結局は両方取り組んだという結果のように見える。近隣の浦和パルコがそのモデルになりそうだが、決定的に課題になるのは、各フロアの地形が悪く、各フロアの大きさが小さい事だと思う。

B1Fに食品SMの入店は難しかったのだろう。それでも、フードコートをやめてB1F全部を提案しても導入できなかったのかと感じる。駅近ならマルエツくらいしかないし、なんとか地元の「ヤオコー」か、流行りの「ロピア」など賃料を度外視しても優先的に入れたほうが良かったのではないだろうか?「対面テナント」と「成城石井」は客層とアンマッチのような気がする。メインフロアではない1階の半分を銘店や「西武そごうショップ」にして1Fを食物販にしてもよかった。全部を提案してもSMの導入は無理だったのだろうか。三井不動産の企業力をしても難しかったのだろう。

デッキとつながったメインフロアの3階は何とかして「館の顔」のフロアにしたかったことはよくわかる。ただおそらくあまり食指が動かない物件だったのか、3.4階のテナント揃えは「何とか」のイメージが強い。セレクトも「UAグリーンレーベル」「アーバンリサーチストア」をメインフロアに導入しているものの、都心近郊の駅ビルより厳しいテナント揃えに見える。5階以上はカテゴリー大型区画になり、実需と利便性を考えたフロアになっている。5階は「ユニクロ」「GU」の1フロア構成で、6階はボリューム路線の「パシオス」と「ムラサキスポーツ」「ウィゴー」「コカ」、7階は「ダイソー」「ノジマ」、8階は「西松屋」とアミューズ・カルチャーのフロアとなっている。

全体を見ると、引き継いだ百貨店のグレード感ある内装が、逆にマイナスになっているようにも見える。まだオープンしてから日が浅いからかもしれないが、来店客層は駅ビルの客層に見えた。対面の食品テナントと「成城石井」が「パシオス」「西松屋」と共存して正解なのか?各フロアの客層が違いすぎているようにも思うが、今後回遊性はあるのだろうか?賃料設定も厳しそうに見えるが、SCの採算は取れるのだろうか?

好立地なのに、なかなか借り手がつかなかった理由はわかる。簡単ではない物件だろう。ひょっとしたら賃貸条件も破格なのかもしれない。またしばらくしたら、見に行ってみる。

■今日のBGM

アリオ、イトーヨーカドーとファウンドグッド

飲み会に行く前に、川口そごう跡の「ららテラス川口」でも見ようと、川口駅に立ち寄った。そのついでに「アリオ川口」にも足を運んだ。久々に「アリオ川口」を見て、いろいろ考えさせられた。

まず、イトーヨーカドーの食品売場のレベルは、相変わらず高い。足元のマンション群に囲まれ、その客層への総菜中心のデイリー食品は充実している。値段もいつも買物しているイオンよりは安い。エリア特性があるのか生鮮3品の売場の大きさに変化があるが、相変わらず欠品は少なく、きちんと売場管理がなされている。売場が大きく、持て余している感じはあるが、足元商圏のシェア率は高そうだ。

撤退した衣料売り場だが、アダストリアとの協業の「ファウンドグッド」は、うまくいってないようだ。立ち上げの時に見たが、現状の売場はその時の売場より30%くらい縮小されている。やはり客層とのギャップが大きい。浦和イトーヨーカドーの「ファウンドグッド」をたまに見るが、イトーヨーカドー来店客とのギャップが大きすぎて、全く売れてないように感じていた。逆にモール内のイトーヨーカドーだと受け入れられているのかと思ったが、やはり客層のギャップはここでも大きかった。衣料売り場は「ファウンドグッド」を縮小し、量販店委託ブランドのコーナーを増やしている。所謂、メーカーコーナーで「クロコダイル」「ハッシュパピー」「ケント」「ギャロリア」「アンナルナ」「インスパイア」などのブランドがコーナー展開をしている。取引形態はいろいろあるが、最終商品リスクはヘッジできる取引だろうと思う。浦和店の衣料品売場も同じような展開であり、やはり従来のイトーヨーカドーのお客様中心であり、新しい客層は取り込めてなさそうだ。「ファウンドグッド」も、どのゾーンを狙っているか見えにくく、さらに「ユニクロ」「GU」よりは高い値段では量販店の顧客は取り込めない。アダストリアは今までの出店場所を選んでの出店とは違い、量販店の客層との相違に苦しんでいるようだ。人的課題もあり、どちらがリスクをかぶる契約かわからないが(おそらくイトーヨーカドー)、おそらく全店展開は難しいと思う。

「アリオ川口」だがやはり「イトーヨーカドーと〇〇の専門店」という域を出ていない。売場面積も3万㎡強と大きくもなく、イトーヨーカドー食品とシネマやジョーシンなどの強みしかなく、引き付けるテナントも多くはない。アリオはイトーヨーカドーグループの商業施設の開発運営会社(セブンアンドアイ・クリエイトリンク)のPMだと思うが、独立してのデベロッパー会社ではなくあくまでもグループの不動産管理会社にしか過ぎない。ということは、あくまでも発言力が強いのは「セブン&アイ」であり、独立性はほぼないという位置づけだと思う。そのためイトーヨーカドーの売上をどう上げていくかが主の目的になり、テナントのフォローや、パワーアップさせたテナントの導入がおろそかになってしまっている。イオンの本体のイオンリテールが運営する「イオンモール」が、モールとして完成度が低いのと同様の状況下にある。そのため大きな投資はかけられず、テナントの劣化が進み、モールとしての魅力はどんどんなくなってくる。独立性が強いイオンモールが運営する「イオンモール」との差は大きい。

間違いなく、脱GMSとしてのイトーヨーカドーは方向性が見えていない。SMもあれほどの大型売り場は必要なのだろうか?そして、特に衣料品撤退後の売場が解決できてない。そんな状況下では、モール全体の改善はどんどん後回しになる。発言力もなさそうな子会社では、モールのテナントゾーンのケアもできない。今後も、広域からとるべき客数は恐らくどんどん減っていくと思う。イトーヨーカドーグループ(ヨークホールディングス?)は、完全に迷走していると感じた。

■今日のBGM

商業PM(プロパティマネジメント)のもどかしさ

前回、㈱イオンモールと㈱イオンリテールの関係を書いていて、過去の経験から、商業施設のPMのもどかしさを思い出した。

前回書いたイオンの例で言うと、㈱イオンリテールの所有するイオンモールの名前のSCを、㈱イオンモールが数多くPM(管理運営)しているということになる。わかりやすい事例で言うと、近隣に北戸田イオンモールがあるのだが、ここは恐らく㈱イオンリテールの所有物件で、PM(モールの管理運営)は㈱イオンリテールからフィーをもらって㈱イオンモールが行っている。尚、食品含めたイオンゾーンはGMSとしてイオンリテールがキーテナントとして運営している。賃貸面積は44000㎡あり、RSCの大きさはあるが、テナント揃えは狭商圏型で、現状は大きなCSC(コミュニティSC)の見え方でしかない。もう少し広域からも集客できるテナントを導入することによって、川口や浦和からの集客をとるべきSCだと思う。特にグランドフロアのテナントラインナップが弱い。

この場合PMである㈱イオンモールがテナントの入れ替えなどの改装提案をしても、投資対効果を検討して㈱イオンリテールがジャッジする。半年くらい前に、イオンの直営売場の2階は投資をかけて大きな改装をした。それも、㈱イオンリテールのジャッジでの改装になる。イオンの2階直営平場の改装と1階グランドフロアのテナント入れ替えはどちらが重要か?そしてどちらを優先するか?ここでSCを㈱イオンモールが所有していれば、グランドフロアの改装の内容次第では1階のテナントの入れ替えの改装をするジャッジがあるかもしれない。当然グループ企業なので話し合いはあると思うが、投資内容をジャッジするのは資産を保有する㈱イオンリテールで、㈱イオンモールには権限がない。

ここで商業PMについて考える。仕事の内容は、商業施設の価値を向上させることを目的とした管理運営業務ということになる。ただSCの運営業務での最も大事なことは「お客様に満足してもらうこと」になる。そのために販促活動や演出をしたり、対テナントとの話し合いをしたりしていく。その他の業務もあるが、その業務は「お客様の満足」につながる。その見え方は俗にいう「BtoC」であり、企業が一般消費者へのサービスを提供する、例えば小売業のようなビジネスモデルに見える。ただ、フィーをもらっているのはお客様からではなく請負先になり、つまり企業間取引の「BtoB」になっている。

わかりやすい一例をあげる。SCを活性化するため、有名テナントを誘致して、そのSCのグレード感を上げ、広域から集客しようとする計画を提案する。そのテナントも出店に前向きだが、誘致するために店の一等地を提供する必要がでてくる。そのためには既存のテナントを移設しなければならない。さらに有名テナントの賃料は固定ではなく、低い歩合でのケースもある。その計画を実行するには、現状テナントの移設交渉、さらに移設費用の交渉等も必要になってくる。さらに売上歩率であれば、売上を読み違えると当然今までの賃料を下回るリスクもある。ただ、実行すると商業施設としてのプラス要素は大きい。

どちらのビジネスモデルでも、大きな検討事項であるが、「BtoC」のケースではその改装の影響力を理解してもらいやすく、社内決済までのスピード感もある。「BtoB」の場合は企業風土や業種も違う場合が多く、自由に提案もしにくく、検討にも時間がかかることが多いし、決済は厳しいことが多い。特に商業PMは請負先が不動産業や金融業が多く、商業の話に壁は高い。

今はもう変わったかもしれないが、商売感覚が異なる業種との企業間での交渉は非常に難しかった。いい経験にはなったが、商業PMはもどかしいことが多かった思い出がある。

■今日のショット(万博に行って来た)

イオンリテール(小売業)とイオンモール(デベロッパー)

まだ、流通アナリストの「総合スーパーでイオンだけ生き残った」という文面が頭から離れない。以前ブログに書いた「㈱イオンモール上場廃止」について、再度㈱イオンリテール側からどう見るかを考えてみたい。

㈱イオンモールを上場廃止にしてイオンの子会社化したことは、おそらく、各会社の意思決定を早くすることが一番の要因だと思っている。大きなポイントとして、㈱イオンリテールが資産を持ち、賃料収入を得ているイオンモールを、資産含めてすべて㈱イオンモールに移管することがあげられる。つまり、㈱イオンリテールは所謂「ジャスコ(イオンのGMS)」中心の小売業だけの会社になる。それにより、会社の収益構造が変化するので、企業としての生き残りを明確にできる。

前回も書いたが㈱イオンリテールが資産を所有するイオンモールは数多くある。㈱イオンモールはもともと三菱商事とスタートさせたモール事業(㈱ダイヤモンドシティ)で2007年に㈱イオンモールとして始まった。㈱イオンリテールもモール事業があり、その後2013年に㈱イオンリテールの54モール、15SCの管理運営(PM:プロパティマネジメント)を㈱イオンモールが請け負っている。わかりにくいかもしれないが、㈱イオンモールの主な業務は今までは、資産も保有している㈱イオンモールの物件のPMと資産は㈱イオンリテールのモール(名称はイオンモール)のPMが主な業務だった。今後どういう流れで資産を移管するかは未定だが、これで両社の流れは大きく変わる。単純に、㈱イオンモールの主な業務は商業施設のプランニング含めた運営管理、㈱イオンリテールは小売業(GMS)専業となると考えられる。

私見ではあるが、おそらく㈱イオンリテールでのテナント収益は黒字で、不振のGMSとしての小売業を支えてきたのではないかと思う。詳細はつかめてないが、㈱イオンリテールの営業収益全体におけるテナント収益は約20%と推測されている。当然課題はGMS事業になっていることから、不振のGMS事業への投資を優先させ、安定収益があるモール(テナント)事業への投資を遅らせていたのではないかと思う。㈱イオンモールとしても同じグループ会社の物件とはいえ㈱イオンリテールの物件には強く提案ができず、思い切った施策が打てなかったように思う。PM事業への投資等によって㈱イオンリテールの数字に影響を与えることはリスクが大きいし、㈱イオンリテールもそれを望んでなかったのではないだろうか。そういう環境下でもあり、㈱イオンリテールの物件は、モールとして新鮮さを感じず、テナント各社にとってはあまり魅力を持てないSCだったように思える。

もともとPM業は、オーナーの意思で運営管理の手法は変わってくる。資産を持たないPM会社が、資産保有者に意見を通しづらく、思い通りに動けない状況になることは多い。おそらく今後は㈱イオンモールが資産を持つデベロッパーとして、旧㈱イオンリテールの物件の改良は進んでいくと思う。今まで㈱イオンリテールの物件ではモールの改装提案や、テナント誘致、入れ替えは厳しい状況だったと思う。それが㈱イオンモールに変わればそのテナントの影響力も考え、いろんな方向から検討され、前向きな改良が進んでいくかもしれない。

㈱イオンリテールのテナント収益が欠ければ、いよいよGMS事業の存続がイオングループの課題になってくる。イオングループのSM(スーパーマーケット)事業は好調であり、ヘルス事業も好調を続けている。GMS内で収益が改善できていない衣料品や装飾品、住居品などを続けるべきか、続けるなら持続可能なMDは何かの結論を出す時期に来ている。

赤字状況であるGMS存続のジャッジは急がれていると思う。

■今日のBGM

総合スーパーでイオンだけ生き残った?

先日、ビジネス誌オンラインの「プレジデントオンライン」に「総合スーパーでイオンだけ生き残ったワケ」という記事があった。銀行出身の流通アナリストが執筆していた。モータリゼーションの変化で大型モール(RSC)へ購買客が流れたことでイオンだけ残ったという内容だった。その流れは当然あり、大きな要素ではあるが、そのことは改めて書くほどのことではない。それより「総合スーパーでイオンだけ生き残った」ということを流通アナリストが書いていること自体に驚いた。当然イオンの総合スーパー(GMS)の状況はわかっているとは思うが、決算内容を見てもイオンとしてはGMSが一番の課題になっているはずだ。

2025年2月期の決算資料を見ると、GMS事業の売上は35594(億)あるが営業利益は163億しかない。全体の売上が101348億でGMS事業の売上構成比は35.1%あるが営業利益は6.8%しかない。ちなみに営業利益は金融611億、デベロッパー530億、ヘルス事業360億、SM(スーパーマーケット)329億の順で、小売以外の金融、デベロッパーで全体営業利益の約半分を稼いでいる。ただ、その2事業も当然小売業があってこその数字にはなる。

総合スーパー(GMS)事業は、地域会社も含んでの数字であり、SM事業との区分がつきにくいが、イオンリテール(本体のGMS事業)としては79億円の営業利益で前年を割り込んでいる。ちなみにイオンリテールの詳細は出ていないが、第3四半期決算では売上は13785億、営業損失162、7億と発表されている。

総合スーパー(GMS)事業は食品や衣料品、服飾品、住居関連品などで構成されており、それを総称している。所謂、昔のスーパーの「ジャスコ」業態と考えればわかりやすい。「総合スーパーでイオンだけ生き残った」とあるが、はたして、生き残っているのだろうか?

おそらく、食品やヘルス関連以外は間違いなく赤字だと思う。セグメントを変えて、食品をSM事業にヘルス関連をヘルス事業に分けたほうが効率も利益も改善するのではないかと思う。つまり衣料品や服飾品、住居関連品をなくして、そのスペースを専門店に変えれば全体の数字は改善するのではないかと普通に考える。

イオンモールにGMSとして入店しているので、収益面では厳しくてもグループ全体にはメリットがあるというのだろうか?お客様はGMSがあるから安心してイオンモールに行っているというのだろうか?当然立地は違うが、「ららぽーと」のほうが客数も多いし、SCの売上も大きい。テナント数も「ららぽーと」のほうが多い。「ららぽーと」の多くにはGMSのテナント入店はない。イオンリテールの衣料品のところに「ユニクロ」「GU」や「西松屋」などを入店させ、住居品のところに「ニトリ」や家電など、さらには大型化している「無印良品」を導入させれば、現状のニーズは解消されるし、既にそのテナントがあっても他テナントの導入でバリエーションも増えてくる。SCの資本費以上で賃貸させれば赤字にはならないし、少なくとも月坪100千の売上もない現状のGMS衣料品等の売上効率を簡単に上回る。さらに新しいテナントを入れることでSCの活性化にもつながる。現状のイオンモールには個性がなく、似たようなテナントのラインアップで、完全に「ららぽーと」に負けている。

イオン自体も当然そこは理解していると思う。今期デベロッパー事業のイオンモールと、サービスその他事業のイオンディライトを上場廃止にし、イオンの完全子会社にしている。一義的には、㈱イオンリテールが所有しているSCのイオンモールを㈱イオンモールに移管することかもしれない。しかし、深読みかもしれないが、イオンモール内のGMSの解体も視野にあるのかもしれない。そうなればGMSの売上は減り、会計上ではテナントの賃料だけの売上計上になり、売上は大きくマイナスする。しかし、収益は大きく改善する。

創業者一族の岡田会長の最後にやる仕事は「総合スーパー(GMS)の解体」ではないだろうか。それはなかなか創業家以外のサラリーマンではできない。

そういう状況下で、「総合スーパーでイオンだけ生き残った」と言えるだろうか?

■今日のBGM

定期借家契約 ➁・・・ 撤去工事

前回、退店時のことを書いていて、ちょっと引っかかっていることがあり、そのことを書いてみる。ただ、この問題の正解はわからない。

退店時には契約上、工事区分でいうB.C工事の撤去が出店側の負担区分となっている。現実としては、その工事の負担金額はデベロッパーとの調整によって違っており、同じデベロッパーでも、個別のSCによっても違うことが多い。つまり、後継テナントとの話し合いで残存を希望する什器があればそれは撤去せず残すことができ、その分撤去工事の経費が減らせる。その調整をしてくれるSCのスタッフや内装監理室の担当によって撤去金額は変わる。ただしこれは交渉事であり、あくまで契約上はスケルトン渡しになっている。

いろんなことがあったが、何件かをここに書いてみる。

・後継テナントが決まっていたにもかかわらず、そことの調整はなしで契約書通りほぼスケルトン渡しとなった  

→ 契約書草案で「デベロッパー指定の業者が撤去工事を実施」とあったのを苦労して「他の業者も併せて検討する・・」のような契約に緩和してもらった。ただし、そのためか後継テナントとの話し合いはなかった。オフィスビル中心の不動産系のSCで子会社が施設管理をしており、全く融通が利かなかった。ちなみに後継テナントは1年前にはほぼ出店は決まっていたと後日聞いた。ほぼ敷金は帰ってこず、退店13店舗中最も撤去工事費は高かった。現実的には間違いなく撤去工事の調整はできた。

・B工事撤去の見積もりが異常に高く、添付された詳細図面をみたら自社の区画でなく、売場面積が5倍くらいある他区画の図面での請求書が届いた

→ 日本で一番大きい企業。こちらから確認の電話をして、後日修正の請求書が届いたが、あるべきでない事。C工事の 撤去に関しては後継テナントと細かく調整してくれた。

・使える什器は使い、天井照明もそのままで、足らない什器や環境に手を入れて出店。契約時に引き継ぎ時の売場写真を細かくとり、その状況を現状として契約書の覚書を作り契約した。

 →当然のようにスケルトン渡しでの請求があった。個別面談をして契約書の再確認をしてもらいデベロッパーに納得してもらった。面談するまではかたくなに拒否された。

撤去時にもめることは非常に多い。何よりもお互いに前向きな仕事ではない。デベロッパー側とテナント側とのはざまで、工事に関してはいろんな問題が出てくる。特に退店は営業数値が厳しい状況だった店がほとんどで、退店時に発生する経費が大きくなるとそのまま損益に響く。大企業は別だが中小企業ではできるだけ経費を抑えたい。細かく打ち合わせをすることが間違いなく必要で、後ろ向きの仕事にはなる。後継テナントの声も交えてプラス要素に導ければデベロッパー側にもメリットが出る。そう考えて交渉してもらえればスムーズに進む。ただデベロッパー(オーナー企業)とは違うPM業者が管理していると、さらにワンクッションはいるのでそれも難しくなる。

最後に、少し外れた感想を書く。大手デベロッパーほど中小企業へのケアは薄い。当然一概には言えず、担当者にもよるが、退店時の対応だけでなく営業面の問題も同様に感じた。出店が近隣エリアに固まったり、同じデベロッパーに集中したりすることは、会社の政策だけでなく、友好なリレイションシップがそうさせたことも大きな要因にはなった。

出退店に関しては、契約書を細かく読み込み、疑問点を理解するまで交渉する事、そして営業の担当者(本部、店)とは良好な関係を持っておくことが非常に大切なことだ。

■今日のBGM

定期借家契約とやっておくべきこと

振り返ってみると、以前の会社で12店舖退店している。今になって、そんなに退店していたのかと思う。結構な金と労力を使ったなと思う。

自社の出店の教訓として2つの結論を得た。SCでは3階以上に出店しないということ、最低売場面積を設定すべきということだ。新規で立ち上げるとどうしてもデベロッパーより立場が低くなり、「出店させてもらう」立場になる。そうなるとあまり強い主張はできなくなる。ちなみに退店した12店舗中7店舗がSCの3階以上で、最低設定売場面積より小さかった店は5店舗あった。それでも契約満了までに退店した店は1店舗しかない。

その中で不本意な退店が3店舗あった。すべて契約満了時の話し合いで、デベロッパー側から「定借満了」で再契約しない旨伝えられた。そのうち2店舗は継続の意思が強かったし、もう1店舗も条件交渉次第では残る意思はあった。現状のテナントの出店契約は5年か6年の定期借家契約であり、そうはいっても話し合いにより再度新しく契約を結ぶことが多い。ただ3店舗ともほぼ次のテナントは決まっていたようだ。そして、自店は平均以上の坪売上はあったと思うが、代替場所の提示はなかった。

その3店舗とも後継テナントは大手資本の会社であり、おそらく政治的なもので、条件も自店のほうが高かったと思う。そういうことは今までの慣例や、伝聞でいろいろ聞いてきた。当然、企業は1つのSCの収益より会社のメリットを優先する。例えばそこに出店することで他のSCへの出店を決めたり、複数店出店の1店となったり、双方の政治的メリットが優先される。3店舗のうち1店舗は隣接の大型店舗の拡大で、おそらく歩率要素が高い契約だろうから、固定賃料だった自店のほうが賃料は高かったと思う。それでもSCとしての賃料は減っただろうが、それにより他SCへの出店というメリットがあったようだ。もう1店舗も大量出店の一環で、間違いなくそのSCの賃料もダウンしたと思われるが、他のSCの空床の解決にはつながったと思う。3店舗とも自店の売上はSCの平均点以上だったが、代替区画の提案がなかったことから、そこまで必要なテナントとされていなかったのかもしれない。ここで思うことは、SCの動向を把握できなかったことにある。退店が増えたコロナ期が重なったことも大きい理由にもなる。

課題として挙げられるのは、完全にコミュニケーション不足ということだ。社長として毎月1度は臨店していたが、もう少しデベロッパーとの話し合いをするべきだった。同様のことがエリアの責任者にも言えると思う。

ただ一番大事だったことは、会社として必要な店なら、さらに良くしていこうという考えを持たねばならなかったということだ。定借終了1年前には、再度自店の流れを詳細にデータ化し、どうしていくべきか社内決定すべきだった。そしてそのタイミングで、商品政策も含めて再投資をかけての売場リニュアルも検討すべきだったと思う。退店すれば当然撤去費用がかかる。その分を改装費用にも充てられる。さらに、別区画への移設の提案をしてもよかった。今になって定期借家契約のプラスの意味も考えるべきだったと思う。

大事な店は、そのままにせず、さらにブラッシュアップをすることが必要なことだ。再契約期は、それを考える貴重な時期だととらえるべきだった。

■今日のBGM(追悼 エディ藩)

大手アパレルの行く先は?

前回、「オンワードクローゼット」について簡単にコメントしたが、昔の大手アパレルはこういう残り方をしても、あと十数年で需要がなくなるのではないかとも感じている。ここでいう大手アパレルとは百貨店型アパレルで「ワールド」「オンワード」「イトキン」「三陽商会」を指す。もともとはここに「レナウン」も属していた。「ワールド」「イトキン」は専門店中心からスタートし、「オンワード」「サンヨー」は百貨店主軸というイメージを持っていた。

大型モール(RSC)スタート期から百貨店以外の販路として大型区画を立ち上げてきた。当初は鮮度があり、SCの顔として出店も多かったが、現在は当時のショップのほとんどは見かけなくなった。おそらく過去の顧客ターゲットとの差が大きく、売れる商品や値段も違ってきて、今までの落ち着いた商売ができなかったのではないかと思う。展示会中心のサイクルから短サイクルに変わると商売も当然変わっていく。販売体制の違いも影響していたように感じた。

60代以上の客層には、百貨店メーカーというイメージは強くインプットされている。そういう意味でSCでも「オンワード」「ワールド」などのメーカー名を打ち出して、もう一度ブランドを整理して提案すれば、その世代の客層には響く。ただその客層もどんどん減っていく。

大手アパレル4社の売上だが、ワールドが2010年3141億から2024年は2023億、オンワードが同じく2486億から1896億、三陽商会が1121億から614億、イトキンは非上場で調べた数字では2001年1424億から2024年は321億となっており、すべて大幅ダウンしている。中心販路だった百貨店がどんどん減っていけばこういう数字になってしまう。

逆にRSCの流れから小売専門店大手の数字は大きく伸長している。売上推移でユニクロは2010年8148億が2024年に3兆1038億、無印良品は1643億から6616億、アダストリアは977億から2756億、パルGは699億から1925億になっている。

今後の百貨店の流れを想定しても、都心部くらいしか生き残れそうにない。当然「脱:百貨店」を考えるしかない。その流れで、色の違う企業の買収も進めている。ワールドは子供服の「ナルミヤ」や雑貨の「212キッチン」などを買収し、最近では「ライトオン」も傘下に入れた。古着の「ラグタグ」にも出資している。オンワードも「ウィゴー」や「クリエイティブヨーコ」を買収している。両者とも買収により、企業の色を広げようとしているようにも見える

ただ、新しい風を会社に迎えても、会社の風は変わらないと思う。今まで「小」(被買収企業)が「大」(買収企業)の流れに乗らずに、その個性が変わらなかった例は非常に少ない。今回の買収例で成功しているのは、比較的土俵が近い「ナルミヤ」だけではないだろうか。大手アパレルの社風は絶対に変わらないし、その流れが買収先にも影響する。流れが変わっていたなら、RSCの流れになった時点で変わっている。RSCの流れに乗れなかった現状では、百貨店主導の色は変えられない。おそらく「ライトオン」も「ウィゴー」も、絶対に上向かない。両ブランドの今までのSC戦略での「強み」は消える。今後はRSCからCSC,NSCの時代に変わっていくと思うが、当然その波にも乗れない。

ユニクロに慣れ親しんだ層が、再度百貨店に向かうとは考えられない。大手アパレルに、もうプラス要素はほとんど見えない。百貨店の流れと同じ運命を歩む。

■今日のBGM

近隣の商業事情から見えること

食品の買物には最寄り駅の武蔵浦和駅に行くことが増えた。駅前の新築マンションに併設してヤオコーができたことが大きい。駅前はどんどん高層マンションが建設され、人が大幅に増えた。比較的若い層が多く、よく行っていた市民プールが取り壊され隣接していた小学校を拡大するとのことである。市の広報によると現状の小学校が22000㎡になり生徒数も2000人の規模拡大と発表されている。駅の乗降客数を調べると1日93000人となっている。

駅近辺に「無印」と「ユニクロ」があれば、絶対に大型店並みに売れると常々思っている。ヤオコーオープン時に2階以上に出店していれば相乗効果は大きかったと思う。近隣のさいたま新都心は駅乗降客が1日99000人で、駅直結の商業施設コクーンシティは2023年429億の売上がある。当然駅の役割は違うが、これだけの乗降客数で武蔵浦和駅近郊の商業規模は小さすぎる。完全に、ベッドタウン化が進んでおり、急激な開発により、商業が抜け落ちている。賃料が合わないからかもしれない。

近隣の浦和パルコが好調で、2025年2月期で315億円と11%の伸長だったようだ。パルコの売上高では渋谷、心斎橋、名古屋に次ぐ4番目で、インバウンド比率がほとんどないにも関わらず伸びており、日経新聞にはテナント構成を3つのカテゴリーで組み合わせて成功していると書かれている。1つはデイリー要素、2つ目が先端を走る専門店、3つ目がポップアップストアとなっている。

きれいごとで評すると、新聞の記事通りだが、結局はデイリー要素をうまく取り入れたことに尽きる。「先端を走る専門店」や「ポップアップストア」はパルコの得意とするところで当然ここを中心に2007年にオープンした。食品SMはオープン時「大丸フードマーケット」で高級感を打ち出していた。上記した2つ目、と3つ目の要素で固められておりファッション服飾の売場中心で大型テナントは少なかった。所謂、パルコらしい店で、パルコとしてもあまり好調店ではなかったと思う。10年後食品SMが地元密着の「ヤオコー」に変わったころから1つ目のカテゴリー「デイリー要素」を打ち出し始めた。確認したところ1階~4階までの専門店はオープン当初は161あったが現状は92区画に減っている。ここからデイリー性のある大型区画を増やしていく。2階に「ノジマ」3階に「無印(増床)」「ロフト」「ユザワヤ」「3コインズ」4階に「GU」「島村楽器(増床)」を導入している。

浦和は西口に県庁や役所、銀行などが多く、商業では「伊勢丹」があり、街のイメージは「プライドが高い街」と言われている。その流れでのパルコ中心の東口再開発だったが、足らない「デイリー性」に変えて好調に転じている。ただ、パルコと地権者の契約内容はわからないが、大型テナントの賃料は小型テナントよりは当然低い。売上増分で吸収できているのかしれないが、収益面の構造がどうなっているのかは見えない。ちなみに浦和駅の乗降客数は176000人となっており、浦和駅と武蔵浦和駅はバスでしか直結しておらず、電車では乗り換えが必要になる。

今後「ユニクロ」や「無印良品」の売上は乗降客数が多い大都市近隣駅のほうが大型モールより大きくなっていくと思う。インフラとして食品SMと同じ位置づけになっていくように感じる。極論だがショップの有無がその駅近郊を選ぶポイントになっていくかもしれない。そういう意味では大型モールが「ユニクロ」「無印良品」をメインにリーシングしているということは、もうすでにその商業施設が大型モール(RSC)の位置づけではなくなっておりNSCやCSCになってしまっているということだ。

イオンはイオンモールを子会社化してCSCやNSCの開発に力を入れると発表されている。このブログでも取り上げているが、「ユニクロ」や「無印良品」は、出店に関して大型モール中心ではなく独自の出店を続けている。商業施設の流れも間違いなく変化していく。

■今日のBGM

標準化されると成長は止まる

小売専門店を経営していると、SCに店舗を出していこうとする。わざわざ感を持つ店でない限り、それは当然のことになる。施設数の多さから、RSCではやはりイオンモールへの出店が、企業としての拡大策としては不可欠になる。ただ、それが企業の成長を止めているようにも感じる。

以前経営していた会社は多い時には27店舗あったが、売上ベスト5店舗にイオンモール内の店舗は1店もなかった。その5店舗のうち3店舗はもうない。SCがなくなった店が2店舗、あと1店舗は交渉決裂して退店した。そこには、癖があり粗削りだけれど魅力のあるSCが消えていき、イオンモールやららぽーとなど標準化されたSCばかりになってきたという背景があると思う。売上上位だったSCは、「やれるのならどうぞ」的なリーシングで、比較的賃料も高かったが坪数も大きく、売場をいろんな角度から見せることができたように感じる。

特に、国内ではRSCとして最も施設数が多いイオンモールが標準化され魅力がなくなってきている。これだけモールの出店数が増え、当然収益面でのシミュレーションも現実的になってくるとあまり冒険を冒しづらくなってくる。つまり標準化は進む。大体どこでも同じラインナップで店の規模も変わってこない。SCの個性が出なくなってくる。3層あれば、ほぼフロアのテナント構成は大きくぶれない。出店の際も、商談でだいたいどのフロアでどれくらいの大きさを提案されるかわかってくる。想定外の時は他テナントのキャンセルがあった時くらいだった。(そういう時はいい場所が来る。)つまり大崩れはしないが大化けもしない区画の提案が多かった。

従来のRSCとしての広商圏での出店はそれでよかったが、近年は商圏内に複数のRSCがあることも多い。モールとしての差別化がわからない。結局GMSがなくなっていったのと同じ道を歩んでいるように見える。そして、当然テナントリーシングも標準化されてくる。モールの収益は各テナントの数字の合算なので固い数値が必要になる。より効率を上げるため、リスクあるリーシングもしにくくなる。

一方、出店側もデベロッパーの要請に合わせて店が標準化されていく。それによって店が小さくまとまっていく。出店側からの意見や提案が通りにくくなっている背景もある。

後に、出店側として冷静に考えれば、それは正解でなかったように思う。前述したようにイオンモールでの出店で標準化の流れに乗ってしまった感はある。ただ、店も成長していくし、チャレンジしていきたい方向もある。小さく標準化していけば、小さな安定感しかなくなる。店としての次のステップが見えてこない。規模が大きかった店は、賃料もかさむが、そのプラス分の面積で違う主張もできていた。そこがスタッフのモチベーションアップにつながり、売上も上がっていったようにも感じる。

近年、RSCに多く出店していた会社の規模が小さくなっていくケースも多い。特にイオンモールには新鮮なテナントは現れていない。標準型のRSCが増えるだけの状況化の中、無印良品のRSCへの出店が減って、独自路線の出店になってきているのはそういう背景があるからかもしれない。

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