投稿者: retailjam (1ページ目 (21ページ中))

定期借家契約 ➁・・・ 撤去工事

前回、退店時のことを書いていて、ちょっと引っかかっていることがあり、そのことを書いてみる。ただ、この問題の正解はわからない。

退店時には契約上、工事区分でいうB.C工事の撤去が出店側の負担区分となっている。現実としては、その工事の負担金額はデベロッパーとの調整によって違っており、同じデベロッパーでも、個別のSCによっても違うことが多い。つまり、後継テナントとの話し合いで残存を希望する什器があればそれは撤去せず残すことができ、その分撤去工事の経費が減らせる。その調整をしてくれるSCのスタッフや内装監理室の担当によって撤去金額は変わる。ただしこれは交渉事であり、あくまで契約上はスケルトン渡しになっている。

いろんなことがあったが、何件かをここに書いてみる。

・後継テナントが決まっていたにもかかわらず、そことの調整はなしで契約書通りほぼスケルトン渡しとなった  

→ 契約書草案で「デベロッパー指定の業者が撤去工事を実施」とあったのを苦労して「他の業者も併せて検討する・・」のような契約に緩和してもらった。ただし、そのためか後継テナントとの話し合いはなかった。オフィスビル中心の不動産系のSCで子会社が施設管理をしており、全く融通が利かなかった。ちなみに後継テナントは1年前にはほぼ出店は決まっていたと後日聞いた。ほぼ敷金は帰ってこず、退店13店舗中最も撤去工事費は高かった。現実的には間違いなく撤去工事の調整はできた。

・B工事撤去の見積もりが異常に高く、添付された詳細図面をみたら自社の区画でなく、売場面積が5倍くらいある他区画の図面での請求書が届いた

→ 日本で一番大きい企業。こちらから確認の電話をして、後日修正の請求書が届いたが、あるべきでない事。C工事の 撤去に関しては後継テナントと細かく調整してくれた。

・使える什器は使い、天井照明もそのままで、足らない什器や環境に手を入れて出店。契約時に引き継ぎ時の売場写真を細かくとり、その状況を現状として契約書の覚書を作り契約した。

 →当然のようにスケルトン渡しでの請求があった。個別面談をして契約書の再確認をしてもらいデベロッパーに納得してもらった。面談するまではかたくなに拒否された。

撤去時にもめることは非常に多い。何よりもお互いに前向きな仕事ではない。デベロッパー側とテナント側とのはざまで、工事に関してはいろんな問題が出てくる。特に退店は営業数値が厳しい状況だった店がほとんどで、退店時に発生する経費が大きくなるとそのまま損益に響く。大企業は別だが中小企業ではできるだけ経費を抑えたい。細かく打ち合わせをすることが間違いなく必要で、後ろ向きの仕事にはなる。後継テナントの声も交えてプラス要素に導ければデベロッパー側にもメリットが出る。そう考えて交渉してもらえればスムーズに進む。ただデベロッパー(オーナー企業)とは違うPM業者が管理していると、さらにワンクッションはいるのでそれも難しくなる。

最後に、少し外れた感想を書く。大手デベロッパーほど中小企業へのケアは薄い。当然一概には言えず、担当者にもよるが、退店時の対応だけでなく営業面の問題も同様に感じた。出店が近隣エリアに固まったり、同じデベロッパーに集中したりすることは、会社の政策だけでなく、友好なリレイションシップがそうさせたことも大きな要因にはなった。

出退店に関しては、契約書を細かく読み込み、疑問点を理解するまで交渉する事、そして営業の担当者(本部、店)とは良好な関係を持っておくことが非常に大切なことだ。

■今日のBGM

定期借家契約とやっておくべきこと

振り返ってみると、以前の会社で12店舖退店している。今になって、そんなに退店していたのかと思う。結構な金と労力を使ったなと思う。

自社の出店の教訓として2つの結論を得た。SCでは3階以上に出店しないということ、最低売場面積を設定すべきということだ。新規で立ち上げるとどうしてもデベロッパーより立場が低くなり、「出店させてもらう」立場になる。そうなるとあまり強い主張はできなくなる。ちなみに退店した12店舗中7店舗がSCの3階以上で、最低設定売場面積より小さかった店は5店舗あった。それでも契約満了までに退店した店は1店舗しかない。

その中で不本意な退店が3店舗あった。すべて契約満了時の話し合いで、デベロッパー側から「定借満了」で再契約しない旨伝えられた。そのうち2店舗は継続の意思が強かったし、もう1店舗も条件交渉次第では残る意思はあった。現状のテナントの出店契約は5年か6年の定期借家契約であり、そうはいっても話し合いにより再度新しく契約を結ぶことが多い。ただ3店舗ともほぼ次のテナントは決まっていたようだ。そして、自店は平均以上の坪売上はあったと思うが、代替場所の提示はなかった。

その3店舗とも後継テナントは大手資本の会社であり、おそらく政治的なもので、条件も自店のほうが高かったと思う。そういうことは今までの慣例や、伝聞でいろいろ聞いてきた。当然、企業は1つのSCの収益より会社のメリットを優先する。例えばそこに出店することで他のSCへの出店を決めたり、複数店出店の1店となったり、双方の政治的メリットが優先される。3店舗のうち1店舗は隣接の大型店舗の拡大で、おそらく歩率要素が高い契約だろうから、固定賃料だった自店のほうが賃料は高かったと思う。それでもSCとしての賃料は減っただろうが、それにより他SCへの出店というメリットがあったようだ。もう1店舗も大量出店の一環で、間違いなくそのSCの賃料もダウンしたと思われるが、他のSCの空床の解決にはつながったと思う。3店舗とも自店の売上はSCの平均点以上だったが、代替区画の提案がなかったことから、そこまで必要なテナントとされていなかったのかもしれない。ここで思うことは、SCの動向を把握できなかったことにある。退店が増えたコロナ期が重なったことも大きい理由にもなる。

課題として挙げられるのは、完全にコミュニケーション不足ということだ。社長として毎月1度は臨店していたが、もう少しデベロッパーとの話し合いをするべきだった。同様のことがエリアの責任者にも言えると思う。

ただ一番大事だったことは、会社として必要な店なら、さらに良くしていこうという考えを持たねばならなかったということだ。定借終了1年前には、再度自店の流れを詳細にデータ化し、どうしていくべきか社内決定すべきだった。そしてそのタイミングで、商品政策も含めて再投資をかけての売場リニュアルも検討すべきだったと思う。退店すれば当然撤去費用がかかる。その分を改装費用にも充てられる。さらに、別区画への移設の提案をしてもよかった。今になって定期借家契約のプラスの意味も考えるべきだったと思う。

大事な店は、そのままにせず、さらにブラッシュアップをすることが必要なことだ。再契約期は、それを考える貴重な時期だととらえるべきだった。

■今日のBGM(追悼 エディ藩)

大手アパレルの行く先は?

前回、「オンワードクローゼット」について簡単にコメントしたが、昔の大手アパレルはこういう残り方をしても、あと十数年で需要がなくなるのではないかとも感じている。ここでいう大手アパレルとは百貨店型アパレルで「ワールド」「オンワード」「イトキン」「三陽商会」を指す。もともとはここに「レナウン」も属していた。「ワールド」「イトキン」は専門店中心からスタートし、「オンワード」「サンヨー」は百貨店主軸というイメージを持っていた。

大型モール(RSC)スタート期から百貨店以外の販路として大型区画を立ち上げてきた。当初は鮮度があり、SCの顔として出店も多かったが、現在は当時のショップのほとんどは見かけなくなった。おそらく過去の顧客ターゲットとの差が大きく、売れる商品や値段も違ってきて、今までの落ち着いた商売ができなかったのではないかと思う。展示会中心のサイクルから短サイクルに変わると商売も当然変わっていく。販売体制の違いも影響していたように感じた。

60代以上の客層には、百貨店メーカーというイメージは強くインプットされている。そういう意味でSCでも「オンワード」「ワールド」などのメーカー名を打ち出して、もう一度ブランドを整理して提案すれば、その世代の客層には響く。ただその客層もどんどん減っていく。

大手アパレル4社の売上だが、ワールドが2010年3141億から2024年は2023億、オンワードが同じく2486億から1896億、三陽商会が1121億から614億、イトキンは非上場で調べた数字では2001年1424億から2024年は321億となっており、すべて大幅ダウンしている。中心販路だった百貨店がどんどん減っていけばこういう数字になってしまう。

逆にRSCの流れから小売専門店大手の数字は大きく伸長している。売上推移でユニクロは2010年8148億が2024年に3兆1038億、無印良品は1643億から6616億、アダストリアは977億から2756億、パルGは699億から1925億になっている。

今後の百貨店の流れを想定しても、都心部くらいしか生き残れそうにない。当然「脱:百貨店」を考えるしかない。その流れで、色の違う企業の買収も進めている。ワールドは子供服の「ナルミヤ」や雑貨の「212キッチン」などを買収し、最近では「ライトオン」も傘下に入れた。古着の「ラグタグ」にも出資している。オンワードも「ウィゴー」や「クリエイティブヨーコ」を買収している。両者とも買収により、企業の色を広げようとしているようにも見える

ただ、新しい風を会社に迎えても、会社の風は変わらないと思う。今まで「小」(被買収企業)が「大」(買収企業)の流れに乗らずに、その個性が変わらなかった例は非常に少ない。今回の買収例で成功しているのは、比較的土俵が近い「ナルミヤ」だけではないだろうか。大手アパレルの社風は絶対に変わらないし、その流れが買収先にも影響する。流れが変わっていたなら、RSCの流れになった時点で変わっている。RSCの流れに乗れなかった現状では、百貨店主導の色は変えられない。おそらく「ライトオン」も「ウィゴー」も、絶対に上向かない。両ブランドの今までのSC戦略での「強み」は消える。今後はRSCからCSC,NSCの時代に変わっていくと思うが、当然その波にも乗れない。

ユニクロに慣れ親しんだ層が、再度百貨店に向かうとは考えられない。大手アパレルに、もうプラス要素はほとんど見えない。百貨店の流れと同じ運命を歩む。

■今日のBGM

チラシ販促の意味

GWに入ってユニクロのチラシが2回新聞に折り込まれた。GWの割引訴求と定番の紹介の内容だった。チラシはかさばるのでチラシ折り込みの少ない日経新聞しかとってない。ただそれでも、近頃はチラシが増えてきている。

2023年のデータで、新聞を取っている家庭の割合は58.1%となっており、2013年度81.2%から10年で大きく減少している。さらにその年代別にみると、購買人数は2016年比で70代以上は82.7%になっており、60代68.2%、50代56.7%で20~40代は30%代まで落ち込んでいる。当然の現象ではあるが、ネットに情報はあふれ、新聞の購読者は減少している。ただ、まだまだ高齢者層は新聞を宅配しているというデータになる。

ユニクロのチラシは見る人も多いと思うが、今回はB3サイズでエリア店舗の合同版だった。大きなセールではさらに大きなサイズで折り込まれることもある。昔は販促の仕事もやっていたので少しはわかるが、製作コストは削減できても、折込料を含めると大きな経費になる。

ファッション企業は、チラシ媒体などの販促手法を当然したがらない。値段に訴えたくないのと、当然のように効果が出ないと考えている。ユニクロがそこまでの経費を使っても、チラシ媒体を使う理由は何だろうか?それは間違いなく客層の幅を広げたいからだ。上記したように60代以上のニーズも取り込みたいと思っているからだと思う。今の60代以上はそんなに老人ではない。60代はDCブランドを経験し、70代以上は「VAN,JUN」時代を経験している。ワンポイントファッションに頼った世代ではない。ユニクロのチラシ戦略は、その世代をよく知る経営者の考えもあると思う。

ターゲット年齢層を上げていかねば、売上確保が難しくなる。以前書いたが2024年の人口は30年前比で98.1%と減っているが60才以上は181.5%と増えており、人口構成比も19.3%から35.4%と大幅に上がっている。ファッショントレンドは20才前後から動き始めるが、趣味の多様化に加え、絶対的人口の減少もありトレンド志向の客層を追いかけると、商売にはなりにくくなっている。

無印良品の出店傾向も、客層の幅を意識しているように見える。RSCへの出店より、CSC,NSC及びその隣接地への出店を加速させているように見える。そして地方、郊外への出店が増えている。さらに「無印500」でコンビニエンス化を図り、さらに店舗の大型化で600坪の路面への単独出店も進めている。出店場所の変化に伴い、商品の幅も広がり客層の幅も広がっている。

話は変わるが、先日ららぽーとに行って店をぶらぶらしていたが、オンワードの「オンワードクローゼット」に50代以上のお客様が多く、にぎわっていた。オンワードの社長が積極的に出店していく旨を話していたが、おそらく「オンワード」の名前に反応する客層狙いなのだろうと感じた。「ワールド」も「イトキン」もこの手法で出店すれば、50代以上の客層は取り込めるかもしれない。

「企業を大きくする」ことを成長戦略と考えるなら、客層の幅を広げることは必須事項になる。狭い客層の中でパイを取り合っていても、大きな成長はない。「無印良品」もファッション業界と呼ぶのなら、現状ではファッション業界では「ユニクロ」と「無印良品」しか成長しないのではないかと思う。

■今日のBGM

近隣の商業事情から見えること

食品の買物には最寄り駅の武蔵浦和駅に行くことが増えた。駅前の新築マンションに併設してヤオコーができたことが大きい。駅前はどんどん高層マンションが建設され、人が大幅に増えた。比較的若い層が多く、よく行っていた市民プールが取り壊され隣接していた小学校を拡大するとのことである。市の広報によると現状の小学校が22000㎡になり生徒数も2000人の規模拡大と発表されている。駅の乗降客数を調べると1日93000人となっている。

駅近辺に「無印」と「ユニクロ」があれば、絶対に大型店並みに売れると常々思っている。ヤオコーオープン時に2階以上に出店していれば相乗効果は大きかったと思う。近隣のさいたま新都心は駅乗降客が1日99000人で、駅直結の商業施設コクーンシティは2023年429億の売上がある。当然駅の役割は違うが、これだけの乗降客数で武蔵浦和駅近郊の商業規模は小さすぎる。完全に、ベッドタウン化が進んでおり、急激な開発により、商業が抜け落ちている。賃料が合わないからかもしれない。

近隣の浦和パルコが好調で、2025年2月期で315億円と11%の伸長だったようだ。パルコの売上高では渋谷、心斎橋、名古屋に次ぐ4番目で、インバウンド比率がほとんどないにも関わらず伸びており、日経新聞にはテナント構成を3つのカテゴリーで組み合わせて成功していると書かれている。1つはデイリー要素、2つ目が先端を走る専門店、3つ目がポップアップストアとなっている。

きれいごとで評すると、新聞の記事通りだが、結局はデイリー要素をうまく取り入れたことに尽きる。「先端を走る専門店」や「ポップアップストア」はパルコの得意とするところで当然ここを中心に2007年にオープンした。食品SMはオープン時「大丸フードマーケット」で高級感を打ち出していた。上記した2つ目、と3つ目の要素で固められておりファッション服飾の売場中心で大型テナントは少なかった。所謂、パルコらしい店で、パルコとしてもあまり好調店ではなかったと思う。10年後食品SMが地元密着の「ヤオコー」に変わったころから1つ目のカテゴリー「デイリー要素」を打ち出し始めた。確認したところ1階~4階までの専門店はオープン当初は161あったが現状は92区画に減っている。ここからデイリー性のある大型区画を増やしていく。2階に「ノジマ」3階に「無印(増床)」「ロフト」「ユザワヤ」「3コインズ」4階に「GU」「島村楽器(増床)」を導入している。

浦和は西口に県庁や役所、銀行などが多く、商業では「伊勢丹」があり、街のイメージは「プライドが高い街」と言われている。その流れでのパルコ中心の東口再開発だったが、足らない「デイリー性」に変えて好調に転じている。ただ、パルコと地権者の契約内容はわからないが、大型テナントの賃料は小型テナントよりは当然低い。売上増分で吸収できているのかしれないが、収益面の構造がどうなっているのかは見えない。ちなみに浦和駅の乗降客数は176000人となっており、浦和駅と武蔵浦和駅はバスでしか直結しておらず、電車では乗り換えが必要になる。

今後「ユニクロ」や「無印良品」の売上は乗降客数が多い大都市近隣駅のほうが大型モールより大きくなっていくと思う。インフラとして食品SMと同じ位置づけになっていくように感じる。極論だがショップの有無がその駅近郊を選ぶポイントになっていくかもしれない。そういう意味では大型モールが「ユニクロ」「無印良品」をメインにリーシングしているということは、もうすでにその商業施設が大型モール(RSC)の位置づけではなくなっておりNSCやCSCになってしまっているということだ。

イオンはイオンモールを子会社化してCSCやNSCの開発に力を入れると発表されている。このブログでも取り上げているが、「ユニクロ」や「無印良品」は、出店に関して大型モール中心ではなく独自の出店を続けている。商業施設の流れも間違いなく変化していく。

■今日のBGM

「金(カネ)」の意識を持つ

学生時代からギャンブルはよくやっていた。パチンコは負けが多かったが、麻雀は強かったと自負している。今考えると、単に負けてないぐらいだったかもしれない。社会人になってからは、公営ギャンブルが加わった。最初の赴任先が群馬だったこともあり、競馬、競艇、競輪、オートとすべて揃っていた。勤務スケジュールは、開催日に合わせて作っていた時期もあった。麻雀も引き続きやっていて、雀荘のおばさんに「ここにタイムカード置こうか?」と言われたこともあった。ギャンブルに勝った思い出はインパクトが強いので残っているが、間違いなくトータルすると負けているのだろうとは思う。

会社を経営し始めて、ギャンブルは一切しなくなった。自分の金で商売をし始めたからだと思う。商売で動く金はギャンブルの金とは桁が違う。店舗数が増えていって、一回の支払いで1億以上になることもあった。本部は金を産まないので、本部スタッフは極力少なくして、できることは自分でやってきた。当然金の支払いも自分で振り込みをしていた。ギャンブルをやっている暇もないが、もっと大きな金のリスクを持ったギャンブルをしているのと同じ状態だった。

小売の仕組みがわかってくると、店長は店の損益について追及されるし、利益を出すことを追求される。利益を出すことは、売上がある程度安定してくればそんなに難しくない。売上を安定させることが第一ハードルにはなる。ただ極論すると、可能かどうかは別にして、催事を連発してセール商品を売り続ければ、売上は確保できる。実際若いころはそうやって売上予算を達成させ続けていた。そして、それを続けているうちに売上を確保するコツはわかってきた。でもそれは売上達成ゲームであり、商売ではない。利益率も原価を抑えた商品を多く品揃えしていれば確保できる。在庫のリスクを考えなければ、これもクリアできる。

ここで考えなければならないのは、金が残っているかということだ。一度、店長は家計簿をつけてみたらいい。(店なので家計簿ではないが・・・)単純に店のキャッシュイン、キャッシュアウトをチェックしてみてほしい。当然、店長は店の契約条件を知っていると思う。月度の締めが違ってくるが、単純に考えてみればいい。自分で決めごとを作ってもいい、経理に支払い日を確認してもいい。そうすれば単純に、「売上―経費(給与も含む)―仕入金額」でいくら金が残ったかがわかる。

経費には決められたもの(契約上のもの)や変更しにくいもの(人件費)もある。抑えられる経費は本当に少ない。とすれば現金を残すには仕入金額をマネジメントするしかなくなってくる。つまり仕入金額は好きに使っていいのではなく、財布の中身を考えて使っていく必要があるということになる。

企業は経営尺度をPL(損益計算書)とBS(貸借対照表)で見る。ただどうしても営業側にいるとPLで話しがちになる。せめて店長は、自分の店の資金繰りの状況くらいはわかって商売してほしい。

なかなか経営者の気持ちにはなれないが、商売は「売上達成ゲーム」ではないことも分かってほしい。

■今日のBGM

商売をやってきて今だから思えること・・・商品調達

年齢を重ねると運動不足を指摘される。暇を見て歩いているのだが、その時間がいろいろ考える時間にはなっている。そういう時、過去自分で立ち上げた小売りの会社で、引っかかっていることを考えることが多い。

小売業では、まず売上を上げていくことだが、それは数店舗やってみて、立ち上げた時の考え方は間違ってなかったと思った。順調に推移した。そこから店舗を拡大していくのだが、20店舗くらいまでは勢いで何とかなったように思う。その次のステップで考えていった1つが、利益率アップへの体質改善についてだった。つまり自主商品を作っていき、利益率を上げていくということだった。今考えると時期尚早だったのかもしれないと思ってきている。

成功している小売業の大手は、自社で商品を作って販売している。そのスタート段階では、当然生産工場とのパイプ等もあるので、まずは取引先と相乗りしたりして取引先を通すことになる。その時の商品原価は個別商品によって違うが、以前の商売だと上代の40%台くらいだったと思う。ロットによっては40%後半になる。企業が大きくなると直接工場との商談になるので諸経費込みで30%前後になるかもしれない。以前やっていた業界では、取引開始時の卸原価は50%台が多く、取引先によっては60%を超えることもあった。商売が大きくなると原価は下げていけるが、それでも利益率を改善するには取引先との商品開発は必須事項だった。

個店仕入れから商売はスタートした。店長は昔から一緒にやってきたメンバーが多く、取引先を設定すれば、数値計画を考えて仕入をしていた。店舗数が増えても商品部は作らず、リーダー的なマネージャーや店長が取引先を開発し、窓口として全店に広げていった。ただあくまでも店長の責任のもと仕入をしていた。店長は、会社の指標に基づいて、売上、利益、在庫の予算を作成し、月度の仕入れ額をもそこから算出していた。「商売は在庫」が常に根底にあり、在庫管理は徹底していた。ピーク期は年間7回転前後の回転率だったと思う。

店舗数が増え、売上が上がってきて、利益率に目を向けるようになった。その流れの中、取引先から、相乗り商品や別注商品の話が増えていった。営業との兼任ではあるが商品部を作り、あくまでも店主導の仕入れではあるが商品部の別注開発商品も品揃えするようになっていった。

結果としては、5年後くらいに利益率はその当時から5%位上昇する。ただ売上はほぼ変わらなかった。店舗数は増えていたので、店舗当たりの売上は落ちた。それが商品のせいなのか、環境のせいなのか検証はできていない。そこからコロナ禍に入った。

昔在籍したビブレも、店仕入れ主導から本部仕入れ商品の増加でMDが崩れていった。そこまでひどくはないが「私作る人」「あなた売る人」の意識がなかったかとも考えてしまう。商品部との力関係が出てきて、ビブレも20店舗くらいからおかしくなっていった。

商品部の開発商品を管理する分類コードを作って、データ化しきちんと検証すべきだったと思う。商品検討会議や売場作りや販売方法を考えるミーティングも増やすべきだったかもしれない。そして、「店の声」をもっと聴くべきだった。問題点や対策を急ぐことなく検証を続け、仕入れ形態はどうあるべきか、組織をどうするべきかをもっと時間をかけて話し合うべきだったと思う。

「人の力」から「組織の力」への転換期だったのかもしれない。

■今日のBGM

地方都市の駅前はどんどん元気がなくなる

高崎で飲み会があったので、久しぶりに高崎の駅前を歩いてみた。約30年位前に高崎で約7年仕事をしていた。その当時の面影は全くない。ずいぶん元気がなくなった印象を受けた。当時はブランドの路面店が軒を並べ、若い客層でにぎわっていた。

当時、サティ、ビブレで店長をしていたので、記憶をたどると、地元のスズラン百貨店、高島屋が約200億強、ビブレが100億、ダイエーや駅ビルを含めると中心部の大型物件だけで600億以上の売上があった。現状は、スズラン百貨店が2022年の数字だと106億(高崎、前橋計)と発表されており、場所を移動して4層に大幅縮小された今の数字は50~60億くらいまで落ちているように見える。お客様はほとんどいなかった。高島屋は2024年度売上が167億と発表されており、固定客をつかんで堅調な数字のようだ。駅とオーパを経てデッキでつながれた効果は大きかったと思う。ビブレはオーパに変わり、食品併設になり食品は堅調そうだが60億くらいの売上のように見えた。ダイエーはなくなっており、駅ビルを含めると駅前西口の売上は半分以下になったのではないだろうか?東口が開発されてヤマダ電機が駅と直結している。それでも路面店のパワーを考えると、30年で駅前の商業としての魅力は半減してそうだ。ただその間に300億超売り上げのイオンモール高崎、太田、200億前後のスマーク伊勢崎というRSCができた。車社会の群馬なので、30代~50代の中心層はそこに大きく流出した結果とも考えられる。その図式で言えば、駅前はヤング層と高齢者層が中心層になり、売り上げ規模が激減している。

ヤング層で言うと、当時のファッションビルと呼ばれた商業施設で地方都市に残っているのは少ない。パルコは地方都市すべて撤退しており政令都市だけ、ファッションビルとは呼べないがマルイも大都市圏のみになっている。最近では柏マルイが撤退との報道もあった。ファッショントレンドを追いかける層は大都市志向が強くなる。そういう意味で地方駅前はティーンズ層が中心になる。ただ、高校生の人口を見ると、2000年に全国で400万人強いたのに対して、2024年には290万人になっている。ということは特に地方の高校生は減ってきているということになる。もうすでに、地方都市ではそのターゲットでは商売にならないのかもしれない。

高齢者層は、高島屋の数字の落ち込みが小さいこともあり、駅前の利便性と安心感でそのまま利用を続けている。駅から離れたスズラン百貨店の売上も吸収して数字に歯止めをかけている。とはいえ、地方の百貨店はどんどん百貨店らしさがなくなり、廃業や閉鎖が相次いでいる。

地方都市の活性化の文献も調べてみたが、さすがにありきたりのことしか書いてない。商業で起爆剤になるようなことはもう考えつかない。群馬県のような車社会では、今後もRSC中心の商業になっていく。今後は、昔駅前に買い物に来てくれた層の満足度を充足させるべく、RSCのグレード感が問われるようになってくる。

高崎など交通の要所は、単純に駅近辺の人口を増やし、新幹線の通勤補助を民間と共同して行うなどしか思い浮かばない。つまり土地整理をして高層マンションを乱立させ、新幹線通勤を補助するようにすれば駅前居住者は増えていき、活性化するとは思う。古い街だからそんなことはできないと思うが・・・

■今日のBGM

 

ちゃんとした会社

この時期は、決算や中間決算の数字や経営計画の資料がでてくる時期で、暇に任せてみている。本当に大きな会社は大変だなとは感じる。当然上場している責任はあるので、きちんとした分析と対策は発表する必要はある。

先日、無印良品の中間決算数値が決算説明会資料等と発表された。全体の数字は大幅な増収増益、各段階の利益も大幅な増収増益で過去最高の数字だったようだ。

今年の1月にこのブログで無印良品のことを書いた。無印良品の企業の意思は感じたが、「在庫」に若干危惧している旨を記した。今回の資料でも国内の棚卸資産は1716億と前同時期より320億増となっている。決算説明資料にも160億過剰と報告されており、今期末の営業利益に関しては「発注抑制と不動向商品の在庫消化」のため、第一四半期予測を据え置かれている。売上は第一四半期より大きく伸びたが、営業利益率の予測は第一四半期予測より-0.3%となっている。通期の見通しは「国内は営業収益を引き上げも、在庫適正化に向けた対応強化により営業利益は据え置き」と第一四半期の予測から若干利益面で修正されている。企業として無印良品は好調に数字を伸ばしているが、「棚卸資産の増加とその適正化」が会社として改善するポイントということと発表されている。

在庫をどのように適正化するかには、いろんな方法はあるが、売上上昇に対して営業利益を据え置くということは、利益を落としても処分することだと想定する。詳細はわからないが、「在庫過多」が企業の問題ということを理解して発表している。好調企業だからこれができるのかもしれないが、資料に記すことによっての覚悟は感じる。ちゃんとした会社だと思う。

イオンも決算発表されている。売上は前年106.1%も営業利益は前年94.8となっている。金融とデベロッパー事業で営業利益の約半分を占めていて、小売業と呼べるのかどうかわからない。課題のGMS事業は売上前年比102.6%も営業利益は前年-115億となっている。ライン別には細かく発表はされていないが、食品とHBCが伸長しており、衣料は前年割れのようだ。これだけ大きいと詳細は全く伝わらない。

気になる会社のビレッジバンガードが、第3四半期決算発表と同時に278百万の減損損失を計上する業績予想修正についての発表があった。そのため今期の営業利益も赤字となり、これで3期連続の赤字になる。おそらく期末はさらに赤字幅が増大すると予想する。商品回転率が年1回転前後では、腐らない商品も腐ってしまう。前回指摘した在庫について簡単に計算してみた。第3四半期まで原価で13億弱在庫を削減させている。利益率のダウンと期末在庫から計算して、商品の値入率を43%(2期前の利益率が41%だったので)と想定すると、売価で約23億円の商品価格を下げている計算になった。全体の在庫の9%に過ぎず、これではまだまだ回転率は改善できてないので、今後も細かく実施していくと思われる。商品は資産なので、商品評価を下げると会計上さらに厳しい数字になっていく。

具体的に「在庫過多」を問題点と発表する無印良品は、つくづく「ちゃんとした会社」だと思う。

■今日のBGM

高齢層のノンポリメンズをどう取り込むか?

自分で商売を立ち上げる時、「ノンポリの男性」をターゲットにしようと思った。詳細はいつか書こうと思うが、現状の小売業を見ていると、さらにそこが狙い目になっていると思う。

30年前の話になるが、DCブランド時代にビブレで店長をしていた。ビブレはブランド集積のように見えるが、オリジナルの自主MDの売場を多く展開していて、その直営売り場の収益が館全体の収益を底上げしていた。そこがマルイやパルコなどのデベロッパー的なSCと大きく違うところだった。その中での儲け頭はメンズだった。特にブランドには手が出ないが何か買いたい男性客に人気があった。それは衣料品だけでなく服飾まで広範囲に及んだ。当然DCブランドのパワーによるところは大きいが高層階でも収益は大きかった。その当時はノンポリのティーンズヤングメンズ層で稼いでいた。

30年前の20代はもう60才の手前まで来ている。人口統計を見ると2024年の人口推計では60才以上の男性は19457千人で1993年の10381千人の187.4%と大幅に増えている。ちなみに女性は24346千人で1993年は13747千人で177.1%増となっている。人口合計は98.1%となっているので、30年で60才以上人口がいかに増えたかがわかる。このブログでも何度も書いているが、高齢者(ここでは60才以上)を狙わなければ商売は成功しない。

ここ数年、メンズ目線にあった会社の数字が厳しくなってきている。スーツ、ジーンズ系の企業が顕著な例となっており、メンズ目線だったカジュアルショップもユニセックスからレディスの見え方にうまく変わってきている。広義で言うとアダストリアやパルもその流れになる。

この層を取り組むにはやはり「奥さんが夫に買える」がキーワードになる。「無印良品」や「ユニクロ」は買いやすい。SCに行くと「ユニクロ」には夫婦客も非常に多い。ちなみに「ユニクロ」も始まりはメンズ目線の会社だった。大きな特徴は「アイテム集積」の売場だということ。ファッション型店舗は着装感をとかく打ち出しているが、高齢者は「足らなくなったもの」、「必要なもの」を買いに来る。ある程度の素材感と値頃感があればすぐジャッジできる。売場に関しては、マネキンも顔の表情がなくノンエイジだし、決して年齢を意識させていない。さらに売場の照度は高く、照明も天井埋め込みで清潔感を感じる。

例えば、アダストリアは「グローバルワーク」を幹になるブランドにしていくと発表しているが、やはり今の売場はある程度ファッション感度を持った客層をターゲットにしているように見える。高齢者層を取り組むという観点で見れば、イメージキャラクターのポスターや着装提案を前面に打ち出す売場から変わる必要がある。そして、もう少し売場の照度を上げ、値頃感を感じさせる単品集積をメインに変更したほうが望ましいと感じる。トレンドを打ち出した着装提案は当然必要なことだが、わかりやすく売りたい単品を打ち出していく見え方の比重を上げたほうがいいと思う。

昔、丸井やパルコ、ビブレに買い物に行っていたノンポリの人たちが、高齢者層になっている。その大きな割合を占める客層をもっと理解することが、まちがいなく成功要因になる。

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