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小売業は「在庫」で損益は隠れる

コロナ以降、経営が躓いた企業が増えている。何度も指摘していたジーンズカジュアル業界のライトオンもマックハウスもTOBで経営を譲渡する。今年1月には債務超過になっていたタカキューも第三者割当増資でファンドから金融支援を受けた。それによりイオン傘下ではなくなった。マックハウスも同様にチヨダ傘下ではなくなっている。

常々、小売商売は在庫で損益が隠れると言ってきた。在庫評価で利益はいくらでも変えられる。PL(損益計算書)は良好な数字もBS(貸借対照表)で見るとリスクが隠れていることが多い。順調な企業では看過されるが、厳しい企業は在庫でひずみが出てくる。つまり在庫評価を甘くすると利益は出るが資金繰りは厳しい。在庫を現実的な数値で評価すると大きな損失が出る。

ライトオンもマックハウスもジーンズカジュアル業態で、サイズが細かいので在庫が増える。タカキューもスーツが中心であり現在はサイズが変わっているが、まだまだサイズが細かい。つまり、もともと在庫を抱える業種になっている。デニムに季節やファッション変動はあまりないので、商品が回転しなくても(売れなくても)在庫評価を落とさない。スーツも同様で若干のトレンドは変わるものの、大きく変更がなければ評価を落とさないので、在庫金額は大きく減ってはいかない。ちなみにライトオンの年間商品回転率は前々期(2023)2.2回転、前期(2024)は3.0回転、マックハウスは前々期2.3回転、前期1.98回転、タカキューは前々期2.5回転、前期2.8回転となっている。ライトオンは前回ブログに書いたが、前期に売価90億近く在庫評価を落としているし、タカキューも前期に在庫を40%以上減らしている。

在庫評価を落とせば、原価在庫はそのままで売価在庫のみ減るので、原価率が悪化し利益は落ちる。商品の賞味期限は明確ではなく、企業が設定している。ただビンテージと呼ばれるもの以外は商品が回転していなければ、当然評価は落とさなければならない。季節商品はその晩期にセールで商品をなくす。ファッション企業であれば最低年3回転はしなければ、売れない在庫は不良在庫になる。(四季なので4回転は必要だが・・・)さらに商品の支払いサイトは手形でない限り最長でも90日後になり、3か月後には支払いが生ずる。つまり入荷して90日で売れれば支払いが滞らないことになる。財務的に問題があっても年4回転だと何とかキャッシュは回っていくということになる。

ライトオン、マックハウス、タカキューはいずれも厳しくなって5~6年後に、企業を譲渡している。上場企業で資金的に猶予があったかもしれない。今回の企業譲渡に関して言えば、このブログでもずっと警鐘を鳴らしていた。

ワールドはライトオンの事業を継続するが、ファッション企業だけあって、在庫を前期末に大きく処理をさせている。営業面は規模やMDの方向性が見えてないが、比較的スムーズにスタートするかもしれない。マックハウスは買いたたかれたというイメージがあるが、今後の営業面では在庫面での負の遺産が大きく出る気がする。タカキューは承継前に在庫の処理はしたものの、ファンド傘下ではやはり数字重視になっていかざるを得ず、今(2025)第二四半期決算では、在庫を増やして利益を確保しているように見える。投資ファンドが継承すれば、次に売り抜くことを考えるので、長期的な考えは少なく、再建には相当の覚悟が必要だと思う。

売上傾向が悪くなり、在庫回転率の低い企業は、いち早く在庫の適正化を急ぐ必要がある。

小売業の損益は在庫で大きく左右される。

■今日のBGM

マックハウスもTOB

先日、ライトオンに続きマックハウスもTOBが発表された。TOBの価格は1株当たり32円で、チヨダが全株売却する。ジーエフホールディングスが投資会社を通じてその株を取得する。10月11日時点の終値は334円なので90%安の価格になる。

ジーンズ業界は厳しいと書いてきたが、ライトオンに続いてマックハウスも売却される。マックハウスに関しては親会社が靴業界の大手チヨダだったので、まだ猶予はあると思っていたが、ライトオンとほぼ同時期に発表された。

チヨダも靴業界ではABCマートに大きく水をあけられ、本業重視する方向かもしれない。赤字の子会社には構っていられないということだろうか?チヨダはもともとテナントとしてはダイエー寄りであり、イオン系には出店が少なかった。その流れで郊外モール(RSC)の流れに乗れず伸び悩んでいるように感じる。マックハウスも同様の戦略もあり270店舗の規模の割には、売上面ではライトオンと大きな差がある。店舗の大きさにも差があるが、1店舗当たりの売上がライトオンの半分ぐらいの数字になっている。

これでジーンズ業界は大きく変わる。マックハウスはワールドの「ハッシュアッシュ」との取り組みで少し上向きかなと感じていたが、このTOBでワールドとの取り組みはほぼ終わるだろう。今後株を取得するジーエフホールディングスは、ファッション系では、ジャバグループやテットオムをグループ会社にしているが、現状のMDとの相乗効果は弱い。ただ、今後の方向性は、ライトオンと同様に、ターゲットをファミリー層に変更し、ジーンズのイメージを弱め、オリジナル比率を上げていくことは間違いない。

ジーンズ業界については、ジーンズの原点と言われるリーバイス501が2万近くするようになり、完全に客層は変わっている。値段や履きやすさを求めれば当然ユニクロやGUに流れていく。昔からのコアな客層はジーンズテイストを持ったセレクトショップに流れていっている。そしてその客層は大きく減っている。わずかにBshop系ブランドとセレクトされている地方専門店は新鮮なにおいもあり、客数を伸ばしているように見える。ただ客層を選ぶのと、商品のバッティング問題が大きく、店舗数は広げにくい。

一昔前のNBジーンズ全盛時代は完全に終わっている。ビジネスモデルも市場に合わない。サイズが細かく、そのため在庫回転率は悪く、キャッシュが回らない。ライトオンもマックハウスも年間2回転前後の回転率になっている。売上が落ちてくると当然仕入れられないし、品揃えもできなくなる。さらに、売上の補完として、回転率が高い商品を仕入れることで、店のイメージが変わり、従来の客層は逃げる。そうはいっても、ジーンズカジュアルは見せていかねばならない。その繰り返しで品揃えが崩れていく。ジーンズ専門店からスタートした、アダストリアやパルグループはさすがに先が読めていたのかもしれない。

チェーン展開するジーンズ専門店、ジーンズカジュアル専門店の時代は完全に終わった。

■今日のBGM

ワールド傘下になったライトオンの今後

9月にこのブログで、「ライトオンは自力以外での再生を模索しているのではないか」と書いたが、やはりワールド傘下での再生を、決算と同時に発表した。ここ数カ月、売場を見ていて、「数字が厳しくて何とかしなければいけない」ムードはなく、委託っぽいセール商品と秋色の商品を打ち出していた。全く商売に前向きさがなく、どこかがデューデリをしている雰囲気があった。

格安でもワールド傘下にならざるを得ないのは、数字上しょうがない状況にあったと思う。私は、常々「商売は在庫」と言っていて、いくらジーンズ中心でも回転率が悪すぎ、商品価値を高く計上しすぎだと感じていた。このブログの6月に書いたが、ライトオンも価格を見直し、上期決算で概算34億分の値段を下げて利益を大きく落としていた。当然ワールドもそこを指摘していて、今決算で店舗閉鎖の在庫分と併せてさらに大きく在庫評価を落としている。

簡単に計算してみる。決算短信によると、期末原価在庫が5111(百万)で決算売上総利益が39.9%なら、単純計算で期末売価在庫は8504(百万)になる。期首原価在庫+仕入原価―売上原価=期末原価在庫で計算すると10479+(x)+23343=5111となり仕入原価は17975となる。同様に売価も期首売価在庫+仕入売価―売価売上=期末売価在庫で計算する。(原価率から逆算する。)20190+(x)―30808=8504となり仕入売価は27122となる。仕入売価27122で仕入原価17975では商品値入率は33.7しかない。商品値入率を仮に50%で計算すると商品仕入売価は35950となる。つまり原価50%ですべて仕入れたとすると35950―27122=8828(百万)の値段を下げた計算になる。計算上は期首の売価在庫の40%強の評価を落としたことになる。(今後のことを考えて大きく評価を落としたかもしれない。)在庫評価をこれだけ落とせば今後の運営はずいぶん楽になる。

ワールドと組むことに関してはどうなのだろうか?ワールドしかなかったということだったと思う。ワールドとも私自身は長い付き合いだが、オンワードやイトキンと同様のサラリーマンの会社というイメージが強い。他のアパレルとは違い「会社」らしい雰囲気がある。もともとは専門店商売が中心で「コルディア」「ルイシャンタン」などを取り扱っていたが、DCブームから「タケオキクチ」「オゾック」「アクアガール」「アンタイトル」でヤング層を拡大し、SCが広がっていくと「TK」「ハッシュアッシュ」「シューラルー」でファミリー層への販路が広がっていった。当然百貨店ミセスゾーンは得意ゾーンだ。DCブームもファミリー層へのマーケットの取り組みも、現状を考えればうまくいったというイメージはない。

さて、どう取り組んでいくのだろうか?単純に考えるとマックハウスと取り組んでいる「ハッシュアッシュ」を投入しジーンズテイストを弱めていくのだろうと思う。ここ数カ月のマックハウスの数字も改善してきており、一番手堅いコラボになるのではないだろうか。ジーンズテイストを弱めてファミリー層ターゲットを打ち出していく方向だろうと思う。ただこれだけでは、ライトオンのいいロケーションの売場を手に入れるだけの事業構築になる。長く培ってきたライトンのジーンズカジュアルを、伊藤忠との関係でワールドがつながりのあるエドウィンとのコラボなどで、再構築を図ることも考えられる。ただジーンズカジュアルは完全にアゲインストの流れで、これはあくまでも可能性に過ぎないかもしれない。

ワールドとしては、格安で、340店舗という多くの売場を手に入れたので、現状ではあまり大きなことをせず、ファミリーターゲットに変更と事業の棚卸をして、売場と在庫の整理を急ぐと思う。ただ、ライトオンの源流であるジーンズカジュアルを見つめなおし、小さくてもいいので本質がわかる少しこだわった店も是非見せてもらいたい。

■今日のBGM

どんどん2極化と寡占化は進んでいる

先月末にチェーンストアの売上分析をして、現状の流れは単純に値上げ分の売上増で買上点数は減っていると書いた。その他の小売業も中間決算や四半期決算を発表していて、売上は増加しているが、為替の影響や、人件費高騰、物流経費の増加などの要因で利益を圧迫してきている。

順調な売上を続ける企業の中間決算の発表がいくつかあった。西松屋の上期決算は売上高については過去最高を更新したが、税引き利益は前年同期を割っている。為替差損が原因のようだ。仕入れコストの上昇もあり総利益率も前年差-0.2%となっている。ニトリの第一四半期決算も純利益は前年6.3%増だったが、賃金改定など販管費増加で通期予測は据え置かれている。アダストリアの上期決算も売上は9%増も人件費中心に経費増で純利益は2%減と発表されている。

9月の売上も発表されているが、8月に続いて曜日廻りが良く、全体的に売上数字は好調に推移している。既存昨対でユニクロが8月125.3、9月122.1と大きく伸長している。ハニーズも117、118.3と好調。この2社の好調な流れが目立つ。客層が変わるがユナイテッドアローズも107.8、115.0と好調を維持している。他の主要企業も売上の流れは悪くない。流れが悪い企業はライトオン(8月89.0、9月87.0)シーズメン(8月90.1、9月88.0)Tベース(8月94.8、9月96.1)。数字が戻ってこないジーンズカジュアルはマックハウス(8月106.3、9月115.5)の回復に比べて、ライトオンは回復基調にない。

全体的な流れを見ると、ボリューム(値頃)路線の企業は安定しており、特に短サイクルで商品を提案するユニクロやハニーズの流れが特にいい。逆に中間層で戦ってきた会社(アダストリアなど)の伸びが弱い。さらに、ある程度個性を持ったブランドが多いTSIやバロックなども少しアゲインストのような気がする。

都市部に集中してはいるが、百貨店の状況は、プレステージの高いブランドが高所得者やインバウンド需要などで好調のようだ。上場企業の中ではアッパーゾーンのユナイテッドアローズも好調な数字が続いている。ユナイテッドアローズはある程度の所得のノンポリ層が買っているのではないかと思っていて、その層が旧セレクト系の売上を作っていると思っている。そうやって数字を見るとやはり中間層が減少し、さらに2極化は進んでいると感じる。

さらに、企業力の差が今後大きくなることは想定される。このブログでずっと書いてきたが、新規企業が出てくる環境ではなくなっており、寡占化が進んでいきそうな気がする。売上規模は小さくはなったがワールドやサンヨーも好調と記事にある。ウィゴーをオンワードが傘下に入れたし、旧大手アパレルも新しいゾーンに取り組みつつある。寡占化の中でも、会社の方向性を考えるとアダストリアやパルグループなどが中心になってどんどん何か新しい風を入れないと、小売業の硬直化が進んでいきそうな気がする。それがなければ多彩なショップ揃えはできず、商業施設も硬直化する。

■今日のBGM

ジーンズカジュアル業界

小売業の数字を毎月見ていて、気になるのは「ライトオン」や「マックハウス」というようなジーンズを核としたカジュアルショップの数字の低迷だ。もともとはジーンズカジュアルを中心に販売してきたが、近年はレディスやキッズに幅を広げており、呼称としてジーンズカジュアル業界が正しいのかどうかわからない。

上記上場2社の数字だが、ライトオンは8月決算期で売上は389億前後、前年比82.8%、既存前年比87.0%、マックハウスは8月上期で売上前年比80.6%、既存前年比91.8%、第一四半期の予測では通期売上135億、前年比は87.6%と発表している。ちなみに公表売上のピークがライトオンは2007年度1067億、マックハウス2009年567億となっている。ともにピーク期の40%に届いていない。当期の営業利益予測もライトオン-24億(第3四半期時点の会社予測)、マックハウス-8.9億(第一四半期での会社予測)となっており、現状の数字状況から見ると、さらに赤字幅は広がっていくと思われる。ライトオンは2019年から、マックハウスは2018年から、コロナの影響もあり営業赤字は続いている。

数字を見て気になっているので、SCに行くときは必ず売場は見ている。ライトオンはあまり動きがなく、積極的な商売をしてないような気がする。先週見た時も、売場は、ほぼ秋の体制になっていて、残暑厳しい中、なかなかお客様を呼び込めないような状況だった。前回ライトオンについてのブログコメントで、利益のダウンが大きかったので、大幅な在庫処理をしたと書いたのだが、その商品はどこで売っているのだろうか?8月、9月と完全に「売り」の体制は見えない。会社として何かあるのかもしれない。マックハウスはしばらく見てないが以前見た時は、メンズ、ジーンズの見え方を弱めて、提携したワールドのハッシュアッシュの打ち出しを強めていた。カジュアルショップへの移行を早めたいように感じた。

もうジーンズカジュアルは1つのカテゴリーではなく、カジュアルウェアに飲み込まれている。ユニクロやGUで、機能的で買いやすい値段のジーンズが、カジュアルアイテムの1つとして完全に浸透している。アメカジブームやインポートデニムブームなどを経て従来のコア客層は、よりマスから離れていっている。少しこだわりを持つ客層が「Bshop」系のセレクト店に流れているような状況だと思う。

ライトオンやマックハウスの失敗は何か?同一業態を拡大し続けたことにあるかもしれない。パルもアダストリアも、もとはジーンズカジュアルの店でスタートしている。その将来性をどう読むかだが、スタート段階で客層の幅を広げていくべきだった。客層の幅に応じてジーンズ以外の提案もすべきだった。さらにライトオンはイオンモールとともに拡大し、売場も大きくなり、売場の焦点がぼやけてきた。ジーンズの特性だけでは競争が激しいカジュアル路線では戦えなかった。今はその売り場の大きさが一番のネックになっている。マックハウスは、逆にイオンモールに乗らなかったことが拡大できなかった大きな要因だと思う。

今の流れを引き戻すのは非常に厳しい。マックハウスは親会社がチヨダであり、まだ延命方法は十分考えられる。(チヨダもイオンモールに乗らなかったのでABCマートと大きく差がついたが・・・)ライトオンの今期の10月の決算発表には注目したいが、自力以外での再生する方法も模索する必要がありそうな気がする。もうしているか・・・

■今日のBGM

ティーンズヤングショップの寿命は短いが・・・

キャラクターを打ち出したティーンズヤングのブランドを多数見てきた。時代の流れに合わせて、大きく伸びて光輝いた時期があったブランドも数多くあったが、今も続いているブランドは本当に少ない。顧客が年を重ねて、離れていくか、その客層と同じようにターゲット年齢を上げていくかしかない。実際残っているブランドは百貨店に出店場所を変えており、客層も当然上がっている。品揃えショップもインパクトが強かったショップは特に続きにくい。ボリュームプライスで値頃を打ち出したショップでも、往年の流れはない。堅調なショップは思いつく中ではハニーズくらいかもしれない。ショップにインパクトを持たせず、売れ筋を細かくチェックし海外の工場でコストを落として作り量販するスタイルを続けている。ティーンズヤングのトレンドは短サイクルで、一挙に盛り上がる反面冷え込むのも早い。

ANAPの社長交代の記事が新聞にあった。20代の女性のようだ。ANAPとはある商業施設のリーシングで、地元FCを介して出店してもらったことがある。何度か創業社長と話した程度で、その社長独自の個性ある商品戦略だったと記憶する。「109」ブームの後半ぐらいだった。その後販売代行をしていた時、イオンモール泉南のオープンでANAPも出店しており、すごい人気で大きな売上と聞いて驚いた。このゾーンがイオンモールに出店するのかと驚いた記憶がある。その後上場したのは数年前に知った。数字を見てみると業績のピークは売上が2010年91億で営業利益は2012年5.7億となっている。コロナ以降赤字に転落し、前年決算は債務超過となっている。出店店舗を見るとイオンモールが多く、アンテナショップはあるが、郊外モールを主戦場にしている。近年は少し気にしてみていたが、営業面ではタイムサービスが多く、それでも販売員が一生懸命売っていたので、ある意味すごさを感じていた。

少し詳しくデータを見ると2016年くらいから、インターネットでの売上が店舗売上よりも大きい。その流れが今回のネット会社のファイナンス契約と社長交代につながっているようだ。しかし「109」ブームからここまで残っていることがすごいし、上場したのもすごい。個性的な社長だったし、そのあとをよく上場し経営してきたと思う。モールに出店した戦略がすごかったのか、仕入れ政策を含むMD能力が高かったのか、スタッフへのマネジメントが優れていたのか。さらには、上場にはどういうビジョンがあったのか。債務超過になった経営よりも、若い社長に変わったことよりも、続いてきた理由のほうに興味がある。ネットの影響の大きさにはびっくりしたが、ネットでもこの客層にこれだけ売れた根拠は何だろうか?

今後は新体制になって、戦略を変えていくのだろう。決してターゲットゾーンのトップブランドでもなく、ブームが下火になっても生き残り、上場までした会社の大きな強みは何だったのかを十分検討してほしい。短命と言われるティーンズヤングショップの次のステップは何かを示してほしい気がする。

■今日のBGM

GMSの終焉 ➁

前回イトーヨーカドーのことを書いたが、ここでは以前も記したが、イオンのGMSについても触れたい。企業の動き方や方向性の違いがあるが、イオンもGMSはもう終わりに近いと感じる。

イオングループの決算説明会の資料を見ると、2024年度はGMS事業で3.4兆円(関連会社込み)の売上で企業での構成比35.4%、で営業利益は283億円で構成比は11.2%となっている。グループの営業利益は金融、デベロッパー、ヘルスウェルスの順で、その3事業でグループの56.3%を占めている。近年は合併を重ねてSM(スーパーマーケット)事業が大きく伸長しており、営業利益ではGMS事業を大きく上回っている。尚、GMS事業のうちSM(食品)の構成比は2023年で63%であり、物販は食品に負うところが大きい。多少の計算方法の違いはあるかとは思うが、ヨーカドーの2021年度の食品構成比は67.1%となっている。以下に述べるテナント賃料の計上次第だがヨーカドーの状況とほぼ変わらない。

決算数値の詳細は、各社違ってくるので一概にジャッジはできない。イオンの大型モール(RSC)にはイオンモールが運営している物件と、GMSであるイオンリテールが運営している物件がある。この営業利益はどう分けているのかわからないが、おそらくそれぞれに計上されていると思われる。この営業収益は大きい。2013年にイオンリテール物件の管理運営をイオンモールが受託しているが、あくまでもイオンモールの収益はPMフィーということと発表されている。この時点でイオンリテールのモール型物件は54モールと記述されており、モール物件自体はイオンモールに移管されていない。とすればイオンリテールのテナント収益は大きく、衣料品売上構成比はヨーカドーより低いかもしれない。

おそらくGMS事業の非食品の構成比はどんどん下がっているだろうし、赤字状況だと思う。イオンリテールの衣料月坪売上は100千以下だと聞く。普通に考えれば商売になっていない。もともとGMSの衣料の儲けの大半は、インナーウェアだった。肌着からスタートしたGMS企業も多かった。利益も取れるし、商品の回転も早い。呉服からのスタートが多い百貨店との違いが現代の商売の違いにつながる。得意なインナーを「ヒートテック」や「エアリズム」のユニクロや他の専門店に奪われ、中心客層の高年齢層までが専門店に目を向け始めたことが、GMSの衣料品からの客離れの要因の1つだと思う。

衣料品は、もともとEDLP(エブリデイロープライス)と言い続けていたのが、どう間違ったのか「イオンスタイル」で付加価値を求め始め、失敗した。ヨーカドーが伊勢丹からカリスマバイヤー?を招聘して失敗したのと同じ道をたどった。

GMSはもう完全に終わっている。イオンはデベロッパー業態のイオンモールも安易なショップMDで頭打ちになってきている。イオンモールの成功のポイントは当初三菱商事と合同で開発運営しており(ダイヤモンドシティ)、流通業以外からのポジションで開発したSC(営利よりあるべき姿を求めた)でスタートしたことが非常に大きかった。近年はその魅力が薄れてきておりテナントMDはららぽーとに後れを取っている。小売業としてのイオングループの課題は、GMSを解体して思い切った収益の構造変革をすることが必要になっている。逆にそれがデベロッパー業であるイオンモール自体の活性化にもつながるかもしれない。さらにSM事業やヘルスウェルス事業の活性化にもつながる。

鈴木敏文氏がいなくなったヨーカドーは、株主である外資が決断を迫った。イオンは誰が創業者一族の首に鈴をつけに行くのだろう?

■今日のBGM

最低賃金引き上げ

最低賃金の引き上げで、全国加重平均の時給は1054円になるとの報道がある。いよいよ小売業は大企業しか生き残れないかもしれない。

小売業は「立ち仕事」「土日休みづらい」などの理由で人材不足は続いている。過去の経験から、欠員が出るたびに募集をするが、なかなか応募はこない。年々厳しくなっている。今回の引き上げで今まで時給850円が最低賃金だったエリアも時給900円近くにアップする。ただ時給900円で募集しても間違いなく来ない。おそらく募集相場は時給1000円近くになる。受け入れ側の問題も当然あるが、時給を最低賃料に近づければ近づけるほど定着率は低くなる。そのたびに募集経費は発生する。さらに募集時給を上げることで当然既存のスタッフの給与も上げなければならない。さらに賃上げ分は当然賞与にも加算される。

会社は、給与に加えて社会保険の負担分の50%を支払っている。健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料あわせて約30%の個人負担分の半分15%相当(都道府県により変化する)を負担している。さらに今年の10月から51人以上の会社も週20時間以上の従業員にも社会保険を適用することが義務化されることになっている。

会社にとっては、経費負担がどんどん大きくなっている。

新聞の社説などを読むと、中小企業も賃金引き上げに伴ってシステムの導入を進めたり、省力化の努力をするべきとの意見がある。労働集約型の小売業で、さらに接客ウエイトが高い専門店はどう対応すればいいのだろう。後方の人材を減らしていくしか頭に浮かばない。おそらく後方部隊の経費は最低限まで落としている。どうやればいいのか具体的事例の提案が欲しい。こういう他人事のような意見は必要ない。

人件費を吸収するには売上を上げるか、利益率を上げるかになる。コロナ以降、売上が伸び悩んでいる現状を考えると、売上確保より利益率を上げていく流れにはなる。利益率を上げるにはどうするか?オリジナル商品を増やして商品の原価を下げる。つまり企業商品を作ったり、取引先との別注商品を作ったりして、原価率を下げ、それを販売する。その商品を拡販することによって利益率を改善していく。しかし、それを中小企業がやっていけるか?取引先との別注商品を作るにも、商品コストを下げるのだからある程度の数量が必要になる。そして当然全品引き取りになる。店舗数が少ないと当然1店舗あたりの在庫が増える。売れなければ逆に利益ダウンの要因になる。経験上オリジナル商品を作るには最低40店舗くらいの店舗数は必要だと思う。中小企業でオリジナル商品を作るにはリスクは大きい。

「買い」の商売を続けるにも、現状ほとんど海外生産商品で、為替の問題もあり、取引先の利益も考えると商品原価は上がり、従来の値段を維持しづらい。値段を上げると売れなくなるし、値段を維持すると利益が上がらない。

おそらく、賃貸物件で償却もしなければならない店が5店舗以内の小売業は相当厳しくなってくる。いよいよ小売業は大企業しか生き残れない。

■今日のBGM

月度指数の変化

35度以上の暑さはいつからだろうか?季節が完全に変わってきた感がある。

商売をやっていくと、予算は必ず作成する。土日の増減はあるものの月度指数を想定して売上予算は作成していた。20年~30年以上前は売上構成比が高い月は12月、1月、7月、3月、4月の順だったように思う。逆に厳しかった月は2月、8月、10月、6月だった。バーゲンが早まったことにより6月が上がってきて、夏休みの8月も5~6位の構成比の高い月に変わってきている。逆に秋の立ち上がり期の9月、冬の立ち上がり期11月の落ち込みが大きい。

やはり、季節の変化が一番大きな要因ではないだろうか?昔は四季がはっきりしており、春夏秋冬毎に商品が変わり、その時期に合わせた演出もしていた。春色、秋色があり色の変化で季節も感じた。ジャケットも背抜き、総裏で季節感が変わった。その流れが季節変化で、春、秋が短くなり、若干の色の変化はあるが2シーズンになった感が強い。ファッションに細かな変化を気にしなくなってきた。

さらに、バーゲンの在り方も大きく変化している。過去年2回のバーゲンでは春物、秋物は50%オフスタート、夏物、冬物は30%オフスタートだった。ブランド全盛期には人気ブランドはバーゲン初日の午前中に商品はなくなっていた。その他のブランドも2週間くらいで、売場の季節は変わっていた。当然7月、1月のバーゲンパワーは大きかった。あれだけバーゲンのスタート日を小売各社横並びでチェックしていたのに、7月、1月以降のスタート日を、いつの間にか6月、12月に前倒ししてしまった。伊勢丹でさえ今年の夏は6月スタートになっている。これだけ温暖化が進んでいるのだから、夏のバーゲンの前倒しは不思議な現象だ。賞与も7月なのだから、6月バーゲンの根拠が見えない。売上競争になっているとしか思えない。もうバーゲンに根拠はない。

ファッションからデイリー性のある実用着に変わってきた。それに呼応してユニクロのように「いつでもお買い得」なショップが増えていったように思う。さらに「いつも割引」しているショップも多くなってきた。逆にプレミアムブランドはセールのウエイトを下げてきている。アウトレットの増加でイメージが下がってきているブランドが多いとの指摘もあった。事実、そのせいで厳しくなってきているブランドもあるとのニュースもある。2極化はどんどん進んでいる。

「ファッションが好きで買いに行く」お客様への商売は減ってきており、ファッションの流れでの商売は、形骸化している。バーゲンも本来の意図から外れてきており、単純に販促の1つになっている。さらにアウトレットの増加や、インバウンド需要の拡大もあり、季節指数もどんどん変化していく。数字の先を読むのも難しくなってくる。

それにしても、この暑さでは、買い物に行く気力もなくなると思うが・・・

■今日のBGM

量販店衣料ブランドはどうなるのか

アダストリアがイトーヨーカドーで展開している「ファウンドグッド」がどうなっているのかをたまに見に行くが、現状は大きな進展はないような気がする。売場は基本レイアウトに沿ってきれいに整理されており、立ち上げ時に比べてすっきりしていて買いやすくなってはいる。ただ運営体制がまだまだ厳しく、おそらくイトーヨーカドースタッフが少なく、うまく連動されていないのだろうなと感じる。アダストリアが単独で出店したら考えるだろうスタッフ数や業務内容とは開きが大きいと思う。さらにアダストリアなら出店をしないだろう店も多いと思う。ターゲット客層とギャップのある店も多いのではないだろうか?以前から述べていたように、合同で別会社化しないと厳しいような気がする。

イトーヨーカドーは「ファウンドグッド」が売場を固めたことにより、従来衣料売場で展開していた取引先展開型のコーナー売場が逆に引き締まり、さらに従来のGMSのお客様を集めているような気がする。イオンスタイルで売場を変えたイオンでも同様に感じた。イトーヨーカドーは従来隣接していた衣料服飾品がなくなり、取引先展開型の売場を集約しており、ボリューム感が出たように感じられ、肌着等の売場に隣接して客数も増えているのではないだろうか?イオンは、衣料服飾品の効率改善するために商品区分ごとにコーナー化し、セグメントすることで在庫を抑えている。そのため直営の売場が小さくなったことで取引先展開型のブランドを同様にコーナー化している。

ここでいう量販店ブランドとはコーナーショップ化しているものを指している。イトーヨーカドーはオリジナルで「KENT」などをやっているし、イオンでは「ジュンコシマダパート2」「インスパイア」(ヤングDCブランドがいつのまにかミドル世代のブランドに・・・)、フォーマルの「イギン」「ソアール」などをコーナー化している。他にも昔からある「アーノルドパーマー」や「ニクラウス」「クロコダイル」などのスポーツ系のブランドなどもある。

イトーヨーカドーは衣料品をなくしていくとのことだが、売場を見ていて直営売り場がなくなることにより、過渡期の売場ではまだ量販店ブランドのニーズはありそうに感じる。イオンもGMSの衣料品を続けるなら、直営の効率アップのために、間違いなくこういうブランドのニーズは大きい。特に販売員を派遣しているブランドの売上は固いのではないだろうか。

GMSの量販店ブランドは今後なくなっていくのだろうか?ユニクロやGUに流れていくのだろうか?体型が変わり、さらに消費動向も変わらないアダルトシニア層のニーズをどこが受け持つのだろうか?

現状、GMSの売場は「ユニクロ化」を目指しているために活性化しないのではないだろうか?現状の顧客は、ちょっとしたお出かけ用の服をどこで買うのだろうか?ショップチャンネルやネットに流れているのかもしれない。そういう中で、逆に取引先展開型の売場をもっと打ち出すのも一つの方法かもしれない。販売は取引先スタッフのケースが多いと思うが、客層と同年齢くらいのスタッフを配置すれば、売れていくことは間違いない。このターゲットのスタッフは時間的に余裕があり、集めやすいと思う。そして何より一番販売力はある。

将来的にどうなるか断定はできないが、量販店ブランドはGMS衣料品の過渡期には必要な売場かもしれない。

■今日の日経見開き広告(ヴィトン フェデラーとナダル)

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