石破首相は2020年代に全国平均の時給を1500円に引き上げる目標を掲げた。達成するには、あと5年間で年平均89円の引き上げが必要になってくる。24年は過去最高の51円引き上げを実施したが、これを大きく上回る引上げを継続していかねばならない。果たしてどうやっていくのだろうか。ちなみに2024年度は、過去最高の1055円に引き上げることとなっている。過去最高の引き上げで27県が目安を上回っている。

この政策通り進めるには小売業界は何が必要だろうか?そもそも可能なのだろうか?

大手小売業はどうしていくか?当然のように省人化とシステムの変更をしていくだろう。コンビニ、SMなどでは当たり前になってきた無人レジ、商品の配送システムの整理、複合化している業務を専門化して簡素化していく。現場では、売場の画一化を進め、大きさ、レイアウトも共通化させていく。本部機能もデータ決済を優先させ、商品政策も自社MDを強化し、当然セントラルバイイング中心で商品作りこみが増えてくる。

これが中小小売業になると、そこに耐えうる体力があるかどうか。先日新しく着任した政調会長が「最低賃料を1500円にするだけだ。」と言っていたが、最低賃料を1500円にすることだけではなく、全体の給与を同じくらい上げていかねばならないことを理解していないような口ぶりだった。最低賃料1500円ということは月間160時間勤務で24万の給与になる。当然、それを最低給にして給与形態を見直さざるを得ない。そうしなければ全社員のモチベーションも上がらないし組織が成り立たない。ということは人件費が大きく上がるということだ。人件費だけでなく、他のコストカットするためにシステム導入も援助なくしては厳しいし、商品原価も中小企業ではロットが小さいのでなかなか下げられない。それどころか、取引先も同じ経費増の流れになりなかなか商品原価は下げられる環境にない。

中小小売店のメリットであるべき、接客強化は人件費高騰で利益を圧迫する。差別化すべき個性ある商品を品揃えすることも、ロットが小さくては商品原価も下げられない。当然デベロッパーも賃料アップはあるだろうし、ますます大企業とは戦えなくなっていく。個性ある面白い店が少なくなっていき、標準化された大型店だけが残っていく。

こういう流れだと、ますますインフレ傾向は強まり、その流れについて行けない中小企業は淘汰されていく。

2020年代に最低賃金を時給1500円に引き上げることは、おそらく不可能だとは思う。ただそれを公約にするには、そのために国が何をしてくれるかが問題になる。大企業は掛け声だけで対応できるかもしれないが、ベンダー企業の要請は聞いてくれるのか。さらに間違いなく、中小企業には国からの大きな援助が必要になってくる。企業は国営ではない。中小企業の労働人口は多い。具体的な政策を是非聞いてみたい。

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